象印マホービンのステンレスボトル「シームレスせん」シリーズは、水筒のせん(栓)とパッキンが一体になった構造が特徴。お手入れのしやすさでも人気です。シームレスせんステンレスマグ新製品の発売にあわせて開催された、メディア向けの「マイボトル生活体験説明会」からお届けします。

  • 2月21日発売の「シームレスせん」シリーズ

    2月21日発売の「シームレスせん」シリーズ

  • ステンレスキャリータンブラーの新製品(SX-JS型)。サイズは0.3L、0.4L

  • ステンレスマグ ワンタッチオープンタイプの新製品(SM-VB型)。サイズは0.6L、0.72L、0.95L

  • ステンレスマグ ハンドルタイプの新製品(SM-RS型)。サイズは0.5L、0.65L

実際にハンドルタイプのステンレスマグ「SM-RS50」でお茶を飲みながら説明を聞きました。

SM-RS50を分解すると、パーツはふたと本体のみ。最初に冷たいお茶を注ぎましたが、説明会が終わっても冷たくて美味しいままでした(この日はちょうど汗ばむ陽気)。飲み口はなめらかな曲線で口当たりがやさしく、飲みやすい印象です。今回はお茶を入れましたが、内側にはフッ素コート(ラクリアコート+)を施しているため、汚れが付きにくく、スポーツドリンクを入れてもOKだそうです。

渡された「SM-RS50」のふたを開けてみると、見慣れたパッキンがありません。ふたの裏側についているグレーの部分がパッキンで、一体化しています。

  • 2月21日に発売したハンドルタイプのステンレスマグ(SM-RS型)を使いながら説明会に参加。SM-RS型のパーツは本体とフタだけ

そもそもパッキンとは隙間をふさぐための部品。水筒などでよく見かけるのは、一輪ゴムが太くなったようなパッキンではないでしょうか。パッキンがあることで中に入れた液体が漏れずにすみますが、お手入れのときには外して洗ってまた戻す手間があります。

  • こんな感じで、お手入れ時にはパッキンを着脱する手間があります

象印によると、ステンレスボトルが使われるおもな理由は「保冷と保温」。ペットボトル飲料と異なり、温度を比較的長くキープできるほか、何度も繰り返し使えるというメリットもあります。とはいえ、繰り返し使うにはお手入れが欠かせません。いつでも気持ちよく使えるステンレスボトルを作るために、象印は過去からさまざまな製品を発売してきました。

象印マホービン 商品企画部 企画グループの森嶋孝祐さんが言うには、ステンレスボトルの普及が進んだのは2005年ごろから。普及とともに洗いづらさや、きちんと洗えているか不安に感じるという声が聞かれたといいます。

そうした声に応えた製品が、2010年に発売したステンレスボトル。せん部分を簡単に分解できる「パカッと分解せん」を備え、洗いやすさに配慮しました。

  • フタの奥や溝の部分をしっかり洗える点が特徴。年間100万本を超える大ヒットアイテムに!

「パカッと分解せん」を備えたシリーズが大ヒットしたことで、さらにステンレスボトルの普及が促進されました。すると今度は、使用時にパッキンを付け忘れて「カバンの中に飲みものをこぼしてしまった」「カバンが濡れて携帯電話が壊れた」といった声が増えてきたそう。

  • パッキンの付け忘れによるアクシデントを防ぐ製品の開発が求められました

そこで解決策として象印が発売したのは2016年のステンレスマグ。パッキンを付けないと組み立てられない「パッキンつけ忘れ防止設計」を導入しました。2018年には、分解せんも採用した製品を発売。ちょうど象印マホービンの100周年イヤーだったこともあって力を入れたそうですが、森嶋さんいわく「全然売れなかった……(苦笑)」とのこと。

  • パッキンを付けないとフタを閉められない仕組みにしました

  • 分解できて、パッキンの付け忘れ防止も備えた集大成のようなマイボトル

パーツ構成が複雑になるほど、パーツ点数が増えて分解と組み立てに手間がかかるようになるもの。マイボトルが定着したことで、自宅には家族の人数分、または1人で複数のボトルを使い分けているケースもあるでしょう。お手入れのしやすさ(洗いやすさ、組み立てやすさ)は重要なんです。

中でも不満が大きかったのは、パッキン。小さい部品なので洗いにくいうえに、紛失したり誤ってシンクの排水口に流してしまったり……といったトラブルが多発しました。そこで開発されたのが「シームレスせん」というわけです。

  • ユーザー調査によって、パッキンへの不満が高いことがわかりました

  • 左から2番目が2010年モデル、3番目が2016年モデル、4番目が2018年モデル。そして、1番右がシームレスせんモデル。洗う点数が格段に減っていることがわかりますね

こうして誕生したシームレスせんシリーズは、利便性と安全性を向上させたことでユーザーの満足度が急上昇。2020年の発売以来。シリーズの累計出荷数(国内)が600万本を超えるヒットにつながりました。

筆者も家族のマイボトルを毎晩洗いますが、パッキンの管理は本当にストレス。これを機にシームレスせん製品に替えようと思います。

もっと使いやすくするため「マイボトル洗浄機」の実証実験を実施中

マイボトルの普及を進めるめ、象印はさまざまな取り組みを行っています。例えば、ユーザーのマイボトルを預かって洗浄・保管し、注文時に飲料を入れて渡す「象印マイボトルクローク」の実証実験や、セットしてボタンを押せばボトルを1本ずつ約20秒でオゾン水洗浄・除菌する「マイボトル洗浄機」の開発などが挙げられます。今後、マイボトル洗浄機はEXPO2025大阪・関西万博の会場内に設置を予定(10台)しているそうです。

  • マイボトル洗浄機、本当に本当の試作機。ボトルを1本ずつ洗います。操作は手動

【動画】音声が流れます。ご注意ください
(前半)洗浄。ボタンを押している間、オゾン水が下から勢いよく出て、ボトル内部を洗います。見た目の仕組みは食器洗い機ですね。「すすぎ」ボタンを押しっぱなしにすると、普通の水が出てボトル内部に残ったオゾン水を洗い流します。オゾン水は害ではありませんが、独特のニオイが気になることもあるため、すすぎ機能を加えたとのこと
(後半)庫内洗浄。ボトルを洗い終わったあと(もしくは自分のボトルを洗う前)、マイボトル洗浄機の内部を洗います。他人のボトルを洗ったあとで、そのまま自分のボトルを洗うのは気分的によくないという声に応えたそうです

象印マホービンは1918年から「まほうびん」を販売

ステンレスマグのポイントである「まほうびん構造」は、ステンレスとステンレスが二重になった構造。二重の隙間を真空にすることによって、熱の移動を抑える仕組みです。

さらに、隙間に銅箔やアルミ箔を巻き込み、熱を反射させてボトルの内側に閉じ込めています。今ではステンレスを使って作られていますが、昔はガラスを使っていました。このため、まほうびんを扱う会社の多くは、ガラス産業が栄えていた大阪で創業しているのです。

余談ですが、ガラス素材だった昔のまほうびんは、ぶつけたりすると内側のガラスが割れてしまうことがありました。携帯用の水筒が出先で割れると目も当てられません。中の飲料はもちろん飲めず、水筒から飲料が漏れてきます(編集林、経験者談)。

象印マホービンも大阪創業の1つ。1918年に大阪に「市川兄弟商会」として始まりました。以降、多彩ななまほうびんを世に送り出しています。1981年にはステンレスを使った「タフボーイSTA900」を発売し、以降、携帯用のまほうびんがステンレスに置き替わっていきました。

  • 会場には歴代の人気機種が展示されていました。左端が「タフボーイ STA900」

その後はスリムタイプやコンパクトタイプを続々とリリース。2000年代に入ると、これまでのコップを使って飲むタイプから(ボトルのフタがコップになります)、ステンレスボトルから直接飲むスタイルが定着しました。ここ十数年は、コロナ禍での落ち込みはあったものの、インバウンド需要やマイボトル需要などによって成長が加速しています。

象印マホービンは2008年、創業90周年の記念事業として、まほうびんの歴史を紹介する「まほうびん記念館」を大阪市北区にオープン。まほうびんの進化に関わる歴史などを紹介した常設展示のほか、期間限定の企画展も開催しています。事前予約制となっており、見学希望の場合は来館の前日までに受付が必要です。

  • まほうびん記念館では、まほうびんの構造や象印マホービンの歩みを知ることができます(写真は2018年取材時のもの)