いま、日本ボクシング界においてもっとも熱い階級は「バンタム」だろう。昨年1月に井上尚弥(現世界スーパーバンタム級4団体統一王者/大橋)がバンタム級4本のベルトを返上して以降、4つの世界王座を巡っての熾烈な闘いが繰り広げられているのだ。

  • 初防衛戦に挑むWBA世界バンタム級王者・井上拓真(写真:藤村ノゾミ)

井上尚弥の弟・井上拓真(大橋)は現WBA世界バンタム級王者。さらに今後、WBC、IBF、WBOのベルトに続々と日本人ファイターが挑む状況にある。日本人選手によるバンタム級「4団体世界王座独占」の可能性も出てきた。

■主役は井上拓真と中谷潤人

2018年から一昨年にかけての5年間、世界バンタム級戦線において突出した実力を有した「ひとり」を除いては日本人ボクサーに出番はなかった。その「ひとり」とは、言うまでもなく“モンスター”井上尚弥である。

コロナ禍でマッチメイクも思うように進まぬ状況下で、ファンは井上の「4団体世界王座統一」へのストーリーを注視し続けた。そして彼は、WBO世界スーパーフライ級王座返上から約5年の歳月をかけて日本人初の快挙を成し遂げる。
井上はその後、階級アップに伴いコレクトした4本のベルトを手放すのだが、そこから世界バンタム級の新たなストーリーが始まった。
WBA、WBC、IBF、WBO各団体の新王者は昨年に決定。そして今日(2月24日)、東京・両国国技館で開催の『Prime Video Presents Live Boxing 7』で2人のバンタム級世界王者の初防衛戦が行われる。

▶WBA世界バンタム級タイトルマッチ
井上拓真(王者/大橋)vs. ジェルウィン・アンカハス(7位/フィリピン)
▶WBC世界バンタム級タイトルマッチ
アルハンドロ・サンティアゴ(王者/メキシコ)vs.中谷潤人(1位/MT)

井上の相手アンカハスは、ランキングこそ7位だが、IBF世界スーパーフライ級王者時に9度の防衛を果たした強者。34勝(23KO)3敗2分けの戦績を誇り乱打戦にも強いタイプで井上にとって、キャリア最強の相手となる。
それでも王者は強気だ。
「過去イチ(これまでで最高の)の仕上がり。目標は『4団体(世界王座)統一』なので、ここで負けるわけにはいかない。まずは自分のボクシングをしっかりやること。最後は気持ちの勝負になると思うが、絶対に勝ちます!」
本人の言葉通りコンディション良好で、さらに勢いもある。
私の予想は「拓真の判定勝ち」だ。

  • 2月22日、東京ドームホテルでの記者会見後に健闘を誓い合った王者・井上拓真(左)とジェルウィン・アンカハス(写真:SLAM JAM)

中谷潤人は、バンタム級転向初戦でいきなりタイトル挑戦のチャンスを得た。
これまでにWBO世界フライ級、WBO世界スーパーフライ級のベルトを獲得しており、今回の試合に勝てば無敗での「3階級制覇」達成となる。
対峙するサンティアゴは、昨年7月にノニト・ドネア(元5階級制覇王者/フィリピン)を破り王者となった男だが、28勝(14KO)3敗5分けの戦績が示す通り一撃で相手を倒すタイプではない。ディフェンスは巧いが、それでも中谷とは総合的に見て実力に開きがあるように思う。
精度の高い攻防ができる中谷が徐々にペースを摑み、5~8ラウンドでKO勝利を収めると見ている。

  • 26戦全勝(19KO)の戦績を引っ提げ「3階級制覇」に挑む中谷潤人。右が王者アルハンドロ・サンティアゴ。2・24両国決戦の模様は「プライムビデオ」で独占生配信される(写真:SLAM JAM)

■西田凌佑がIBF王座に挑戦

井上が王座初防衛に成功し中谷の「3階級制覇」が達成されたなら、日本人がバンタム級世界王座の2つ(WBA&WBC)を占めることになる。
そして5月4日には大阪で、IBF王座に日本人ファイターが挑むことになりそうだ。

▶IBF世界バンタム級タイトルマッチ エマニュエル・ロドリゲス(王者/プエルトリコ)vs. 西田凌佑(1位/六島)

これはIBFが公式サイトで報じているもの。
ロドリゲスは、2019年5月・英国グラスゴーで井上尚弥に2ラウンドKOで敗れIBF王座を失った。だが、昨年8月に米国メリーランド州でメルビン・ロペス(ニカラグア)を判定で下しベルトを腰に戻している。
西田は、これまで8戦(全勝)とプロキャリアは浅いが近畿大学ボクシング部出身でアマチュア実績は豊富。KOパンチャーではないものの卓越したテクニックを有し試合を支配することに長けたボクサー、ロドリゲスとの技術戦は見応えがありそうだ。

最後の一つ、WBO王者はジェイソン・モロニー(オーストラリア)。ロドリゲス同様、井上尚弥に敗れベルトを失うも、その後に王座返り咲きを果たしている。
現在、日本人のWBO(15位以内)ランカーは5人いる。
西田凌佑(2位/六島)、石田 匠(3位/井岡)、比嘉大吾(5位/志成)、武居由樹(10位/大橋)、そして那須川天心(14位/帝拳)。

西田はIBF王座挑戦が決まっている。石田も、2・24両国での井上vs.アンカハスの勝者に挑むことが内定。那須川のマッチメイクには帝拳ジムが慎重であることを考えると、モロニーとの対戦を求めるのは比嘉か武居となる。

おそらく、コネクションがあり交渉力に長ける大橋ジムは、すでに動いていることだろう。今年後半にWBO世界バンタム級タイトルマッチ「モロニーvs.武居」が実現するのではないか。キャリア以外の部分で武居がモロニーに劣っているとは思えない。日本のリングで試合が行われる可能性が高いことも考え合わせれば勝算ありだ。

簡単ではないが、日本人選手によるバンタム級「4団体世界王座独占」は夢ではない。その先に日本人世界王者4人による王座統一トーナメントが実現すれば、さらにバンタム級戦線を堪能できる。
まずは今日(2月24日)だ、井上拓真と中谷潤人の闘いに注目したい。

文/近藤隆夫