ThinkPadシリーズとして、初めて折りたたみディスプレイを採用する「ThinkPad X1 Fold」シリーズ。その最新モデルとなる「ThinkPad X1 Fold 16」は、今から1年以上前の2022年10月に日本での発売が発表されたものの、出荷が始まったのはつい数カ月前の2023年末になってから。そして今回、ようやく筆者も本格的に試用機を手にできたので、その魅力に迫ってみたいと思う。
ディスプレイが大きくなり、ほぼ隙間なく折りたためるよう進化
ThinkPad X1 Fold 16は、2020年に登場した13.3型折りたたみディスプレイを採用する初代ThinkPad X1 Foldの後継モデルだ。初代は世界初の折りたたみディスプレイ搭載ノートPCとして大いに注目されたが、後継モデルのThinkPad X1 Fold 16では、初代へのフィードバックをもとに、さらなる進化を遂げている。
特に大きなポイントとなるのがディスプレイで、初代の13.3型から16.3型(2,560×2,024ドット、アスペクト比4:3)へ大型化されている。
折りたたみディスプレイということで、開いて大画面で利用するのはもちろん、折った状態で本のように持って使ったり、クラムシェル型で利用したりと、様々な形態で利用できる。そして持ち運ぶ時には折りたたんでコンパクトに、というように、誰もが考える理想のノートPC的な使い方を実現するものだ。
そのうえで、初代からディスプレイが大型化したことで、利便性が大きく向上していると感じる。まず、ディスプレイを開いて16.3型のフルサイズで利用する場合、映像などを扱う場面でも迫力が増すのはもちろん、Officeなどのビジネスアプリも文字の視認性が高まり、快適に利用できるようになっている。
同様に、画面を折った状態で付属のワイヤレスキーボードを画面上に置き、クラムシェルPC同等として利用する場合でも、10型クラスの画面サイズを確保できるため、本格的なモバイルノートPCとして十分活用できる印象。従来モデルはクラムシェルPCスタイルではかなり画面が小さく感じていたことを考えると、この進化は非常に嬉しく感じる。
そして、もうひとつの大きな進化が、本体をほぼ隙間なく折りたためるようになった点だ。
初代は、折りたためるとは言っても、折った状態では本体に大きな隙間ができていた。その隙間には専用のキーボードを挟んで持ち運べるようになっていたが、隙間があることで堅牢性や埃の侵入など(実際には問題がないとしても)不安を感じるのも事実だった。
しかしThinkPad X1 Fold 16ではほぼ隙間なく本体をたためるようになったことで、そういった不安を一掃。堅牢性などは初代と変わらないとしても、隙間がほとんどないだけで、安心感が大きく増していることを強く実感できる。
この他にも、折りたたんだ状態での厚さが17.4mmと、初代の27.8mmから10mm以上の薄型化や、ディスプレイベゼルの狭額縁化を実現するなど、様々な進化を実現。実際に本体を手にしても、より洗練された製品へ進化していることを実感できた。
ただ、付属キーボードをディスプレイに挟んで持ち運べなくなったことで、携帯性はやや後退した印象だ。これはほぼ隙間なく本体を折りたためるようになったことから仕方のない点ではある。
キーボードは本体の背面にマグネットで貼り付けて持ち運べるようになっているため、そこまで携帯性が損なわれているわけではない。ただ、PCとして快適に利用するには、スクリーンキーボードではなく物理キーボードが不可欠で、この点は折りたたみ型PCの課題と言えそうだ。
どういった形態でもUSB Typ-Cを2ポート以上利用可能
ThinkPad X1 Fold 16では、ディスプレイを開いて縦または横で利用したり、折った状態で手に持って利用したり、折った状態でデスク上に置き、画面にキーボードを置いて使うなど、様々な形態での利用が可能となっている。そのうえで、そのどの状態でも快適利用を想定した特徴がある。
まず、付属のキーボードにはマグネットでカバーを装着できるが、そのカバーにはキックスタンドを内蔵するとともに、本体背面にマグネットで固定でき、本体を自立させて利用できるようになっている。
このスタンドはかなりしっかりとした構造で、本体を開いた状態でも安定して自立できる。本体の向きが縦、横どちらであっても安定しているので、安心して利用できると感じる。キックスタンドの角度は、調節の幅自体はそれほど大きくはないものの、その範囲内であれば任意に角度を調節できるため、利便性もまずまずだ。
また、本体には8つのセンサーを搭載し、本体の向きや利用形態の変化を認識。画面の向きを最適に切り替えるだけでなく、再生するサウンドや集音音声が常に正しいステレオになるようにスピーカーやマイクを切り替えるようになっている。
なかなか目立たない部分ではあるが、動画を再生しながら本体の向きを変えてみても、常に正しいステレオでサウンドが再生されるのは、実際に使ってみるとありがたさを実感できる。
そして、もうひとつ便利と感じるのが、本体の3つの側面にUSB Type-Cを備えている点だ。3方向にUSB Type-Cを備えることにより、開いて縦、横、クラムシェルスタイルなど、想定される全ての利用形態で2個以上のUSB Type-C端子が利用できる。USB Type-C端子のうち2つはThunderbolt 4、もう1つはUSB 3.2 Gen2対応とはなるが、いずれもUSB PD対応でACアダプタを接続でき、映像出力もサポートする(DisplayPort Alt Mode対応)。
もちろん、HDMI出力やUSB Type-Aが備わっていれば、より利便性は高まるかもしれないが、少なくとも、どういった形態でもUSB Type-C端子で申し分ない拡張性を確保できる点は、よく考えられていると強く感じる。
ディスプレイの品質やキーボードの利便性も申し分なし
ディスプレイには、先にも書いたように折りたたみ式の有機ELディスプレイを採用している。この有機ELはシャープディスプレイテクノロジー製で、サイズは16.3型、2,560×2,024ドット、アスペクト比4:3。従来モデル同様に、タッチやスタイラスペンを利用したペン入力にも対応している。
DCI-P3カバー率100%の発色性能と、HDR600準拠のHDR表示、Dolby Visionをサポートするなど、表示性能はさすが有機ELといったもの。実際に映像や写真を表示しても、その発色の鮮やかさや明暗のメリハリはさすがのひと言。これなら映像クリエイターも全く不満がないはずだ。
キーボードは、Bluetooth接続のワイヤレスキーボードが付属。こちらは従来モデルの付属キーボードから進化しており、ThinkPadシリーズでもおなじみのスティック型ポインティングデバイスのTrack Pointを搭載。
物理クリックボタンが省かれている点は少々残念だが、手前のタッチパッドと合わせて、軽快なカーソル操作が可能となった。この他、キーボードバックライトやWindows Hello対応の指紋認証センサーも搭載している。
タッチパッドは、クリック操作を行うと振動がフィードバックされる感圧センサー型を採用。物理ボタンには負けるが、ある程度確実なクリック操作が可能だ。
主要キーのキーピッチは、Enterキー付近の一部キーはややピッチが狭くなっているが、主要キーは約18.5mmを確保。ストロークは約1.3mm。フルピッチではないが、キー配列がThinkPadシリーズおなじみのものということもあって、扱いやすさはなかなかだ。
キーボード自体の剛性も十分優れており、タブレットPCのカバー型キーボードのようにタイピング時に全体がしなるといったこともほとんどない。
そして、先にも紹介しているように、キーボードは本体と分離して利用するだけでなく、本体を折った状態でディスプレイ上に置き、クラムシェルスタイルでの利用もサポート。クラムシェルスタイルではキーボードと本体がマグネットで固定されるとともに、ディスプレイ表示もクラムシェルモードへと動的に切り替わる。クラムシェルスタイルでの使い勝手はモバイルノートPCとほとんど変わらず、膝の上でも問題なく利用できる。
この他、キーボードには本体背面のスタンドをマグネットで装着し、カバーとして利用可能だ。
第12世代Coreプロセッサ搭載。性能面に大きな不満はない
ThinkPad X1 Fold 16の主な仕様は、以下にまとめたとおりだ。
- プロセッサ:Core i7-1260U
- メモリ:LPDDR5 32GB
- ストレージ:512GB PCIe SSD
- OS:Windows 11 Pro 64bit
- ディスプレイ:16.3有機EL 2,560×2,024ドット、HDR600、Dolby Vision、10点マルチタッチ、ペン入力対応
- 無線機能:Wi-Fi 6E(IEEE 802.11ax)、Bluetooth 5.1
- 生体認証:顔認証カメラ、指紋認証センサー(キーボード搭載)
- インターフェイス:Thunderbolt 4×2、USB 3.2 Gen2 Type-C×1
- サイズ/重量:約276.2×176.2×17.4mm(折りたたみ時)、約345.7×276.2×8.6mm(展開時)/約1.31kg(本体のみ)
発表が2022年だったこともあり、搭載プロセッサは第12世代Core Uプロセッサを採用。試用機ではCore i7-1260Uを搭載していた。また、メモリは標準16GB、試用機では32GBとこちらも余裕の容量。実際に利用してみても、動作は十分軽快だった。ゲームをプレイしたり、動画編集を行うといった高負荷な作業でなければ、大きな不満を感じることなく利用できそうだ。なお、プロセッサやメモリ、内蔵ストレージ容量は購入時にカスタマイズ可能だ。
以下にいくつかベンチマークテストの結果も掲載する。結果としては順当に第12世代Coreらしいものとなっている。確かに、Core Ultraなど最新世代のプロセッサには劣るかもしれないが、ビジネス用途など主に想定される利用場面で不満なく利用できる性能を備えていると言っていいだろう。
そして、ファンレス仕様のため高負荷時でも静かに利用できる点も大きな魅力。高負荷時には本体背面がやや熱くなるが、持てないほど熱くなることはない。しかも高負荷が多少継続してもそこまで性能が大きく落ちることもなかった。静かな場所で利用する場合など、この静かさは大きな魅力となるだろう。
さすがに3D描画能力はやや弱い印象も、搭載プロセッサを考えるとスコア自体はまずまず。ゲーム以外の実使用シーンにおいて、グラフィックス性能が足を引っ張ることはないだろう。
バッテリーには、容量64Whのリチウムイオンポリマーバッテリを搭載。駆動時間は公称で約13.3時間。PCMark 10に用意されているバッテリーテスト「PCMark 10 Battery Profile」の「Modern Office」を利用し、ディスプレイ輝度50%、全画面利用で駆動時間を計測すると、7時間17分を記録した。特別駆動時間が長いというわけではないが、大画面の有機EL搭載ということを考えると、まずまずの駆動時間を確保できているという印象。
もっとも、画面輝度は50%でも十分明るく、もっと暗くしても問題なく利用できるだろう。そのため、画面輝度を落として駆動時間を延ばすことも可能で、モバイル用途へも十分対応できると言える。
重量と価格面が大きな課題
今回、ThinkPad X1 Fold 16を試用してみて感じたのは、やはり折りたたみディスプレイの優位性が非常に大きいというものだった。使う時には開いて大画面、持ち運ぶ時には畳んで小さくという特徴は他の一般的なPCには真似のできない部分。2画面ディスプレイ搭載PCのように、画面に切れ目ができない点も、利便性を大きく高めてくれていると強く感じる。
ただ、気になる部分も少なからずある。そのひとつが、キーボードを別に持ち運ぶ必要があるという点。本体にマグネットで装着し一体で持ち運べる配慮はあるが、やはり一般的なノートPCと比べると携帯性で劣る。
また、重量がやや重い点も気になる。試用機の実測の重量は、本体が1,317gで、キーボードとスタンドカバーも含めると1,939gにもなる。実際に手に持ってもかなりずっしり重い。せっかくコンパクトに持ち運べるのに、この重さはかなり気になってしまう。
そして、最大の懸念が価格だ。直販価格は、割引込みで595,595円から(2月19日時点、編集部調べ)、試用機のような強力な構成では70万円近い価格となってしまう。ノートPCとして考えると、この金額は非常に高価と言わざるを得ない。
もちろんそこには、大型の折りたたみ有機ELディスプレイを搭載するという他にはない大きな価値があるわけで、価格的にもしかたのない部分もあるだろう。なにより、実際に使ってみると、その優位性や魅力は非常に大きく、手放したくないと感じるほどだ。
おそらく、今後世代を重ねるごとに価格は下がり、誰でも手が届く価格帯になっていくだろう。現時点では、コスト度外視で手に入れたいという一部のユーザーだけがターゲットになるかもしれないが、将来ある程度価格がこなれてきてからが、ThinkPad X1 Foldシリーズの本領発揮となるのではないだろうか。