日産自動車で初のFF(フロントエンジン・フロントドライブ)モデルとして1970年にデビューしたのが「チェリー」だ。「Nostalgic 2days」(ノスタルジック2デイズ、2024年2月17日~2月18日にパシフィコ横浜で開催)の会場で発見したのは、懐かしい「日産チェリー取次店」の看板とともに展示してあったシンプルなチェリーの2ドアセダン。どんなクルマなのかオーナーに話を聞いてみた。

  • 日産「チェリー」の2ドアセダン

    いろいろと手が加えられていそうな日産「チェリー」を発見!(本稿の写真は撮影:原アキラ)

日産チェリーとはどんなクルマ?

チェリーの中で最も人気があったのは、特徴的なプレーンバックのリアハッチバックスタイルとオーバーフェンダーを備えた2ドアクーペの「X-1R」だ。しかし、今回の会場内で筆者の目に止まったのは、シンプルな「X-1・2ドアセダン」だった。

チェリー2ドアセダンのボディサイズは全長3,610mm、全幅1,470mm、全高1,310mm。現代のクルマと比べると超コンパクトだ。当時の日産の主力車種「サニー」の車格がアップしたことにより、同社のエントリーカーとして登場したのがチェリーだった。同じクラスのライバルだったトヨタ自動車「パブリカ」に対抗するために開発されたモデルでもある。

  • 日産「チェリー」の2ドアセダン

    今のクルマと比べるとかなり小さい日産「チェリー」

「X-1」グレードはチェリーの高性能版。わずか655kgの軽量ボディにSUツインキャブを装着した1.2L直列4気筒のA12型エンジン(最高出力90PS、最大トルク9.8kgm)を搭載し、4速MTを介して最高速度160km/h、0-400m加速(0-100km/hではない)17.3秒を実現した俊足モデルである。

50年前にチェリーを入手? オーナーに聞く

オーナーである竹口自動車の竹口英三さんに話を聞くと、「このクルマの販売のため、日産が新たに立ち上げた『日産チェリー店』の広島販売で働いていた18歳の時、昭和46年(1971年)式で3年落ちの下取り車として入ってきたこのクルマを手に入れて、それからずっと乗っているんです。今年で68歳なので、もう50年も乗ってます」と広島弁混じりで楽しそうに語ってくれた。

「子供が生まれた時、やっぱりクーラー付きのクルマが欲しくなって、ブタケツのローレル(C130型、ケンメリスカイラインの姉妹車)に乗るため一度抹消したんですが、平成5年(1993年)に再登録し、そこからかなり手を入れてきました」とのことだ。

レストアの内容を聞いてみると、まずはペイントを総剥離し、元のカラーである「トロピカルオレンジ」に全塗装。ボンネットをカーボン製に、フロントフェンダーをFRP製にすることで軽量化を図った。さらにエンジンはA14型に換装してボアアップするとともに、ケイヒンの強制開閉式FCRキャブを装着してパワーアップ(現在はノーマルのSUツインキャブに戻している)。マフラーや足回りを特注品や自作のものに取り替えるとともに、高性能化に伴ってラジエターなどの熱対策も完璧に行なってきたのだという。スピードメーターは200km/hまで、タコメーターは10,000回転(!)まで目盛られている。

  • 日産「チェリー」の2ドアセダン
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  • 日産「チェリー」の2ドアセダン
  • カーボンボンネットとFRP製フェンダーで軽量化したトロピカルオレンジの「チェリーX-1・2ドアセダン」(昭和46年製)

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  • 日産「チェリー」の2ドアセダン
  • X1-Rクーペは丸型テールライトが特徴だが、セダンはシンプルな縦型だ。高性能モデルであることを示す赤バッジのX-1プレートを装着している

  • 日産「チェリー」の2ドアセダン
  • 日産「チェリー」の2ドアセダン
  • ただでさえ高性能なA12エンジンをA14に換装。キャプはSUツインに戻してある

運転席にダットサンのバケットシート

時間と費用をかけながらコツコツと仕上げられたチェリーがサーキットやロングドライブなどさまざまなシーンで活躍したのはいうまでもない。運転席にはコンパクトなダットサンのバケットシートを入れ、ドライバーズシートを助手席側に移植している。レバーが右側にあるので、運転席側からリクライニングが簡単にできるというメリットがあるのだとか。

  • 日産「チェリー」の2ドアセダン
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  • 日産「チェリー」の2ドアセダン
  • 運転席はダットサンのバケット、助手席はノーマルのドライバーズシートを移植。室内はブラックでスパルタンな仕上がりだ。スピードメーターは200km/h、タコメーターは10,000回転まで表示する

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    長い歴史を物語る木製シフトノブがシブい

その助手席に座る奥様に「さぞや乗り心地は悪いんでしょうね?」と話を振ると、「いいえ、オトーサンは運転が上手なので、全然そんなことないんですよ」と全否定。こんなご夫婦に長く愛され続けるチェリー。なかなか素敵だ。

  • 日産「チェリー」の2ドアセダン

    オーナーの竹口さんご夫婦

  • 日産「チェリー」の2ドアセダン

    竹口さんが勤めていた日産チェリー店の懐かしい看板も展示してあった