日本テレビは、“多様性”に触れる週末キャンペーン『Colorful Weekend(カラフルウィークエンド)』を、23~25日の3連休に初めて実施する。「一人ひとり違う私たちがお互いを知り、誰もが自分らしく生きられるヒントを届ける」というテーマに沿い、土曜の夜と日曜の昼に2つの特番を放送するほか、レギュラー放送の12番組が参加して関連企画を展開するものだ。

企画・提案者の1人である日本テレビ報道局プロデューサーの白川大介氏は、ゲイを公表した性的マイノリティの当事者。社長室サステナビリティ推進事務局を兼務し、多様な人材の活躍と共生というテーマのもと、多様性についての研修や、日本最大規模のLGBTQイベント「東京レインボープライド」へのブース出展などの活動を行っている。

今回のキャンペーンを通してどんなことを期待しているのか。日テレの社員として、このテーマにどのように取り組んできたのか。そして、テレビは“多様性”とどう向き合っていけばいいのか。白川氏に話を聞いた――。

  • 『Colorful Weekend』企画・提案者の1人である日本テレビ報道局プロデューサーの白川大介氏

    『Colorful Weekend』企画・提案者の1人である日本テレビ報道局プロデューサーの白川大介氏

『おネエ★MANS』がもたらした影響

今回のキャンペーンを通して期待することは、“多様性”というワードを聞いたときに「気をつけなきゃ」と身構えてしまう感覚から、視聴者だけでなく、制作者側も脱却することだ。

「『ちがうって、どきどきするね。』というコピーを作ったのですが、これには、例えば相手の人に対する第一印象が想定と違っていたら一瞬ドキッとして、それは最初には必ずしもポジティブなものではないかもしれないけど、話してお互いを知っていくことによってワクワクになっていくという意味が込められています。コンプライアンスという観点で“ディフェンスの多様性”というのも絶対必要ですが、それだけだと言葉を選ばずに言うと“面倒なもの”になってしまう。一方で、“オフェンスの多様性”という部分を生かすことによって、今までにないタイプのコンテンツや楽しさが生まれるということが、皆さんに伝わればいいなと思います」(白川氏、以下同)

そもそもエンタテインメントは多様なものであり、多様な人々が活躍してきた場であったことから、「そこを改めて捉え直してもらいたいという気持ちがあります」と強調。日本テレビでその一例を挙げると、いわゆる“おネエタレント”と呼ばれる出演者たちが一堂に会する『おネエ★MANS』(2006~09年)というバラエティ番組があった。

この番組の存在によって、その生き方が世の中に広く認知され、楽しい人たちだとポジティブに受け入れられたことで、白川氏は「私を含めた性的マイノリティの当事者で、いわゆる“おネエタレント”の皆さんの活躍によって救われたり、エンパワーメントされたりした方もいらっしゃいます」と認める。

ただ、テレビ番組によって、“ステレオタイプ化”という側面も併せ持っていたと指摘。

「当時“おネエタレント”と呼ばれたの人たちの影響で、性的マイノリティの人は派手な格好をして、奔放な言葉遣いで、テンションの高い振る舞いをするんだという固定観念を強化してしまい、一般社会に暮らす当事者にまでそのイメージが投影されてしまう問題もありました。ポジティブな面だけではなかったことは、意識を向けたほうがいいと思います」

今回の特番『Colorfulライフラリー ~人生ってみんな違ってスバラシイ~』(25日15:00~ ※関東ほか)では、KABA.ちゃんを取材。ダンスユニット・dosの男性メンバーとして芸能界デビューした後、“おネエキャラ”として活躍し、性同一性障害を公表、性別適合手術を受けて女性として暮らし、今ではLGBTQに関する講演活動も行っている。番組では、現在に至るまでの各場面でどのような思いがあったのかを振り返ってもらうことで、「テレビの世界で活躍してきたKABA.ちゃんが、どんな人生を送り、どんな思いで自分らしい生き方を実現してきたのかを通して、性的マイノリティについて知ってもらえる企画にすべく、鋭意制作中です」とのことだ。

  • (左から)『Colorful Weekend』キャンペーンの特番に出演する小泉孝太郎、黒柳徹子、SHELLY (C)日テレ

テレビと“多様性”をめぐり最近では、沖縄出身の俳優が「方言禁止記者会見」企画に挑んだことで「方言札を想起させる」という批判やそれに対する反発が起こったり、いわゆる「ハゲ漫才」がBPOで議論されて賛否の声があがったりすることもあった。

また、吃音のある芸人・インタレスティングたけしが出演した『水曜日のダウンタウン』(TBS)に、日本吃音協会が「馬鹿にしているように受け取れかねない」と抗議したことで議論になったが、同番組はそこから逃げず、1年半が経った2月14日の放送で再びインたけの出演企画を放送。ゲストの伊集院光が吃音協会の立場を尊重しながら、吃音を持つ自身の兄とのエピソードを交えて「理想論だけど、“もう細かいこと全部忘れて、腹抱えて笑っちゃったから、あいつの勝ちだよ”ってなってほしい」とインたけの活躍を願ったコメントを引き出したのは、テレビから“多様性”について考える一つの機会になったとも言えるだろう。

誰もが“多様性”は他人事ではない

今回のキャンペーンでもう一つ期待することは、多くの人に当事者意識を持ってもらうこと。

「番組の中で様々なキーワードを見て、自分自身のことじゃなくても、身近な家族や友人たちに該当する方がいらっしゃることがあると思うんです。だから、<“配慮すべき一部の人”と“そうじゃない普通の私たち”>という構造ではなくて、みんなそれぞれに何かしらのマイノリティ性がある、もしくはそうなる可能性があるから、どんな人にとっても“多様性”は他人事ではないんだと感じてほしいと思っています。このキャンペーンを説明するときに“一人ひとり違う私たちが”と“私たち”を主語にしているのは、このテーマに関係ない人はいないということ。“多様性”という言葉に遠いイメージを持っている方がいたら、このキャンペーンを通して少しでも変わってくれたらと思います」

そして、ほかのキャンペーンと同様に、毎年の恒例にしていくことを強く希望しながら、「キャンペーンの期間でなくても、“オフェンスの多様性”の楽しさが、いろんな番組で反映されるようになったらいいなと思います」と期待。

現在放送中のドラマ『厨房のありす』の主人公(門脇麦)は自閉スペクトラム症で、その父親(大森南朋)はゲイという設定だ。同作でLGBTQ監修を務める白川氏は「“多様な人物を登場させなきゃ”と無理矢理入れた設定ではなくて、登場人物たちと物語を魅力的に描くために、キャラクターの個性が表現されていると感じます。そういう作品が増えて、楽しく多様性に触れることができる機会が広がっていけばいいなと思います」と話した。