サマーソニックに出演が決まったブリング・ミー・ザ・ホライズンの「AmEN! (feat. Lil Uzi Vert and Daryl Palumbo of Glassjaw)」「DArkSide」「Kool-Aid」、リル・ウージー・ヴァートの「The End (feat. BABYMETAL)」を手がけたことで、2023年、いきなり世界の音楽の最先端から注目を集めることとなったDAIDAI。音楽活動のメインであるバンドのPaleduskでは、コンポーザーとギタリストを務めているが、Paleduskからして、今のロック・シーンにおいて最も革新的な音楽をやっている新世代の最重要バンドなのだ。
2月21日には約3年ぶりのEP『PALEHELL』をリリース。その根底にはハードロック、メタルコア、ハードコアをひっくるめたロックがありつつも、ヒップホップ、エレクトロニック、ハイパーポップなどなど、ジャンル名を出すのが無意味なほど、ボーダーレスで限界を知らない自由な音楽を、最先端のサウンドで表現している。Paleduskはインディペンデントのまま海外に飛び出して、リリースもツアー、フェス出演も行うなど、快進撃が始まっているが、DAIDAI個人の方も、水面化の動きも含めて、様々なプロジェクトで多様なプロデュース業が進んでいる。DAIDAIにクローズアップをしてみた。
ーバックグラウンドから聞きたいのですが、元々はピアノをやっていて、ロックに興味を持ったのは、中学の担任の先生がきっかけだったんですよね。
DAIDAI そうです。担任の先生が昼は中高の教師をやってて、夜はハードロック・バンドでギターをやってる人だったんですよ。先生から「ロックもいいぞ」って言われて。ある時、「ライブがあるから来いよ」って言われて観に行ったら、中1の時なんですけど、衝撃を受けて、鬼刺さりしちゃって。「先生、これヤバい」って言ったら、放課後に「これを聴きなさい」という課外授業をやってもらうことになって。それ目的に学校に行ってました(笑)。最初は聴くのが楽しかったんですけど、自分でもギターを弾きたいなって気持ちになって。中3の時に親にギターをねだって、誕生日に買ってもらって。高1からギターを始めました。
ー最初はどういう曲をコピーしました?
DAIDAI 一番最初にコピーした曲は、ボン・ジョヴィの「Livin' On A Prayer」です。その後、自分で耳コピしようと思って弾いたのは木村カエラさんの曲でした。先生はMr.BIGが好きな人だったので、ポール・ギルバートにハマって。そこから、エクストリームとかヌーノ・ベッテンコートがヤバいってなったんですけど、難しすぎて弾けませんでしたね。いろいろ聴きあさってみたし、好きだからひたすらやってたんですけど、途中から気づいたのは、好きなギタリストたちが上手すぎて、コピーしても弾けないってことで。だったら自分で曲を作っちゃえばいいと思ったんですよ。それで、ギターを始めて半年ぐらいの時に、もろパクリの曲の、難しいパート排除版みたいな曲をいっぱい作ったんです。そこからどんどん作曲をするのが好きになっていきました。
ー大学はアメリカに行ったんですよね。
DAIDAI それも先生の影響なんです。先生がアメリカのLAMA(現・LACM/Los Angeles College of Music)に、英語の勉強とギターで留学してたんです。それはポール・ギルバートの先生でフランク・ギャンバレというギタリストの下で勉強したかったからで。自分もLAMAに行こうと思ったんですけど、入学する年にフランク・ギャンバレは先生を辞めてしまって。それで、ポール・ギルバートが昔先生をやってた、MI(Musicians Institute)の本校に4年間通うことになりました。
ーアメリカから帰国してから、すぐにPaleduskに加入しましたよね。その何年も前に、Paleduskのボーカル、Kaitoとの出会いがあるんですよね。
DAIDAI 自分が高3の時で、Kaitoが中3の時です。高校でギターを始めて、バンドをしたいってなって。留学のことを調べたら、金がめちゃかかるというのがわかって。うちの親は出してくれないだろうとは思ったんですけど、働きながら通うのは違うと思ったので。親の心をどうやって動かせるだろうと考えて、とりあえずバンドを組んで、親に本気度を見せようと思ったんです。当時、福岡で人気のバンドで、彼女 IN THE DISPLAYというのがいて。ライブハウスのフライヤーに「結成1年でワンマン、150人動員」って書いてあったんですよ。これを高校生が半年でやれば、福岡で目立てるだろうなと思って。曲もないのに半年後にBEAT STATIONというライブハウスを押さえたんですよ。mixiとかライブハウスでメンバーをかき集めて、同じ吹奏楽部でコントラバスを弾いてる先輩にエレキベースを持たせて。バンドを組んで、半年でMVも3本作って、友達を山ほど呼んで、300人集めたんです。その時のお客さんの一人にKaitoがいたんですよ。
ー最初にKaitoと出会った時の印象は?
DAIDAI イモくさかったですね。そのまま畑から出てきたみたいで(笑)。それで、ライブをした次の日に、BEAT STATIONにcoldrain、SiM、FAKE FACEが来てたんですよ。BEAT STATIONに観に行って、荷物をロッカーに入れてたら、ポンポンって肩を叩かれて。後ろを見たらイモが立ってたんですよ。「昨日ライブに行きました。ファンです。長井海人と申します」って。「若いね、何歳?」って聞いたら、「中3」って答えて。「ライブ一緒に観ようよ」って言って。そこから仲良くなりました。
ー10月に出した曲「RUMBLE feat. Masato from coldrain」では、coldrainのMasatoをフィーチャーしていますが、今の話を聞くと感慨深いものがありますね。
DAIDAI そういうストーリーがあったので、Masatoさんを入れました。coldrainがいたから今のPaleduskはあるので。2023年は、自分がこの10何年間、音楽を始めてからの人生のいろんな伏線を回収した1年だったので。今の感情は今しか書けない曲があると思って作った曲なんです。メンバーにもちょっと無理を言って、「自分のことを思いっきりぶつけてもいい?」って言って。だからフィーチャリングも、絶対Masatoさんにしたくて。Masatoさんもその話を知ってくれてたので、快諾してくれて出来た作品ですね。
ーアメリカにいた間も、Kaitoとはけっこう話をしていたんですか?
DAIDAI アメリカに行ってる4年間はずっと連絡を取り合ってました。その頃からKaitoが一緒にバンドをやりたいって誘ってくれてたんですよ。でも自分は普通に世界で活動したいと思ってたので、日本に戻るのは違うなと思ってたんです。それがKaitoといろいろ話をしていくうちに、いろいろ自分でも世界でやるビジョンが明確化されてきて。日本に帰ってやった方が世界にすぐ行けるんだというのに途中から気がついて。日本は小さい国だし、音楽をやってる人も少ないですけど、各々が個性的で、オンリーワンが多いなと思って。ガラパゴス的な面白さもあるし、ライバルが少ないから日本代表になりやすいなと思ったんです。逆に世界に出るなら、アメリカにいるよりも日本で活動した方が、ユニークなインプットもありつつ、すぐに日本代表として世界に行けるかもと思って。日本に帰ってすぐにKaitoと一緒にバンドをやろうと思って、帰ってきましたね。
ーもうその時からビジョンはちゃんとあったんですね。
DAIDAI ありました。
他のバンドが行けないラインまで行ける
ー帰国した時はすでに日本でもラウドロック、メタルコアは流行っていたと思いますが、音楽的にはどう打ち出していこうと思いました?
DAIDAI 売れてるバンドもいたし、ハードコアの渋い先輩たちもいて。その中で、自分は他にはない曲を書けるなという、根拠のない自信が謎にあったんですよ。宣戦布告してるつもりはないですけど、先輩たちが行けないラインまで自分なら行けるなというのはあったんです。でもその時、一つだけ自分に足りないなと思ってたのが、パソコンで曲を作るDTMで。あれを僕はやったことがなかったんですよ。DTMの習得が自分のバンド人生の鍵になると思ったので、遅かったけど23歳から始めて。自分の中では良い音楽の設計図がいっぱいあったので、それをちゃんと扱えるようになったら、世界は驚いてくれるだろうなと思ってました。
ーDTMはツールですが、頭の中のアイデアという部分では、音楽的な引き出しがかなり豊富にないと、あの音楽は生まれないと思うのですが。ロック以外の音楽もかなり頭の中に入っていますよね。
DAIDAI ギターの入りはハードロックですけど、その前にクラシックピアノをずっとやってて、ピアノの先生からはジャズも教えてもらいました。家の中でもいろんなジャンルの音楽が流れてて。両親が画家なんですけど、ずっと音楽をかけて絵を描いてるんです。ジャンルも多種多様で、ヒップホップ、クラシック、中国の音楽といろいろ流れてたんです。いろんなジャンルがずっと小さい時からあって、それが自分の中で幅を広げてくれたんだと思います。
ーエレクトロニック・ミュージックやヒップホップは?
DAIDAI 小さい時からよく遅刻してたんですけど、朝みんなが学校に行ってる時間に、TVで木村カエラさんが司会をしてた『saku saku』を観てたんです。それで木村カエラさんが音楽を始めるって言って、アルバム『+1』が出たんですけど、石野卓球さんと曲をやってるんですよ。パンクもあればテクノもあって。そこから電子系の音にハマっていきましたね。一回、雷が落ちたのはスクリレックスを聴いた時で。From First to Lastで歌ってた人が新しいのを始めたぞというのが、スクリレックスだったんです。ちょうどその頃、ヘヴィ系のバンドもけっこうピコピコした音を入れるようになってて。その中でも自分はIssuesの前身バンド、Woe, Is Meに衝撃を受けて。そこからいろいろ入っていきました。
ーWoe, Is Me、Issuesのボーカルだったタイラー・カーターとは交流がありますよね。
DAIDAI よく一緒に曲を作ったりしてますね。
ーこの前ブリング・ミー・ザ・ホライズンのオリー(オリヴァー・サイクス)と話した時、DAIDAIのアイデアはエンドレスだと言ってましたよね。本当にエンドレスなのですか?
DAIDAI 今のところはそうですね。いつか枯渇する感覚が来るとは思うんですけど、まだその感覚はないです。常にやりたいことがいっぱいあるし、毎日、いろんな曲を聴くたびにひらめきがあると言うか。人の曲を聴いてると、余計なお世話なんですけど、「俺だったらこうするのに」というのが山ほど出てくるんです。それを自分の曲にぶつけてますね。分析するのが好きなので、以前は頑張って楽譜に書いてたんですけど、今はパソコンにアイデアを貯めてます。高校の時は担任が顧問をやってた吹奏楽部に入ったんですけど、その時もオーケストラのフルスコアを見るのが大好きで。チューバがこういうベースを弾いてるから、こういうメロディなんだとか、見てなるほどと思うのが好きだったんです。ポップスや電子音楽を聴いてる時も、一回自分なりに理解できるように、楽譜に書き起こす癖がついてたんですよ。
ーギタリストって作曲する時に、リフやコードから考えることが多いですが、もっと全体のレイヤーで考えるわけですね。
DAIDAI 根本から考える癖がついてるので。曲を作る時は、自分のネタ帳から引っ張り出したり、混ぜて実験したりして、レイヤーでつなげるようにはしてますね。
どれだけカオスにしてもハッピーエンドに
ーあと、どんなにクレイジーでカオティックなサウンドになっても、頭に残ってクセになるような要素、キャッチーな要素を入れますよね。
DAIDAI それは絶対に入れるようにしてます。カオスな音楽も大好きだし、超ミュージシャンズ・ミュージックみたいな音楽も、インストでプログレの変な音楽も大好きなんですけど、やっぱりみんなに聴いて楽しんでもらいたいというのは根底にありますね。普通のポップスも好きなので、キャッチーなひとフレーズは入れたいんです。あと、スネアの位置は必ず2拍目か4拍目あたりの、みんなが乗りやすい位置に入れるようにしてますね。どれだけカオスな展開にしても、それだけ入れておけばキャッチーに人に届くかなと思うので。どれだけめちゃくちゃにしても、とりあえずリズムとメロディさえブレなければと思って作ってます。
ー多くのカオティックな音楽と違って、Paleduskの場合、聴くとハッピーになれるし、上がるんですよね。そこは大きな違いかもしれない。
DAIDAI そこは意識してます。ダークでカオスなものも大好きなんですけど、自分がやる時は、どれだけダークでカオスなものでも、ちょっとしたハッピーエンドにするのが自分のスタイルの鍵かなと思ってるので。
ー他にも曲作りにおいて大切にしていることはあります?
DAIDAI いつも絶対根底にあるのは、他の人がやってないことをなるべくやりたいということですね。日本だけではなく、世界で見ても誰もやってないようなことです。あと、物心ついた時から曲作りをやって意識してるのは、友達を喜ばせたいということですね。自分の好きなアーティストとか友達が聴いて、「この曲ヤバい」、「おまえヤバいじゃん」と思われる曲。それは今も意識してますね。
Paledusk 手前左から、Kaito(Vo)、DAIDAI(Gt)、奥左から、Tsubasa(Gt)、Bob(Dr)
ーそれ、オリーも同じことを言っていましたね。
DAIDAI だからうれしかったです。オリーとは似てるところが多かったので、グッと来ましたね。
ーPaleduskに入ってから今に至るまで、自分の中で曲作りの変化はありますか?
DAIDAI 根底は変わってないですけど、逆に一つ、自分の中でこれから変えたいなと思うことはあります。今までカオスな曲を作ってきて、今ではブリング・ミー・ザ・ホライズンを始め、いろんなところから一緒に楽曲をやろうと言われるんですけど、そこで使ってるアイデアは2年前から自分の中にある古いアイデアなんです。先輩方は「これは新しい」って飛びついてくれてるんですけど、自分の中ではもう古いもので。「RUMBLE feat. Masato from coldrain」でも、ザ・Paleduskという感じのカオスな曲をやってるんですけど、自分の中ではあのサウンドに一回おさらばしたいというのもあって、作りきった感じなんです。次からは新しくやりたいことがいっぱいあるから、もう塗り替えていきたいなというのはありますね。って言いながら、意外とまた同じような曲になる可能性はあるんですけど(笑)。
ーリル・ウージー・ヴァートの「The End (feat. BABYMETAL)」の作曲・編曲も手がけていますが、この曲は元々は未完成だったんですよね。
DAIDAI そうです。あるタイミングで、リル・ウージー・ヴァートからBABYMETALのチームに、一緒に曲をやりたいって言ってきて。BABYMETALのチームには何人か作家さんがいるんですけど、向こうに提出した中で自分がピックされて、それで決まった話なんです。一発目の曲の注文で、「こういう感じの雰囲気で楽しい曲をちょうだい」というのが来て。あれを送ったらそのままそこに歌を入れてきたんです。手直しはないのかな?と思ってたら、なくて。まだデモの状態でそのままリリースしたという感じですね。
ー一発で採用されたんですね。
DAIDAI 3日で作った曲なんですけど。
ー3日で世界に行ったわけですか。
DAIDAI 3日で新代田で作った曲なんです(笑)。新代田はこれからロックの中心になるかもしれないですよ。リル・ウージー・ヴァートのアルバム『Pink Tape』がビルボードで1位を獲った時、「新代田からでも、そういうことができるんや?!」という感動はありましたね。
ーオリーと一緒に制作をやることになった経緯も聞きたいのですが。最初はオリーがDEATHNYANNをチェックしたんですよね。
DAIDAI 僕が星熊南巫と一緒にやってるDEATHNYANNは、サブスクでは2曲しか出してないんですけど、オリーはチェックしてくれて。インスタのDEATHNYANNのアカウントにメッセージが来たんです。後日、Paleduskも聴いてくれたみたいで。自分は去年の12月にオーストラリアにツアーで行ったんですけど、Good Things Festivalという3日間のフェスに出演した時、ヘッドラインがブリング・ミー・ザ・ホライズンだったんです。普通にファンだったので、歩いてるオリヴァーを見つけて、写真を撮ってもらって。「僕がDEATHNYANNの曲を書いてますよ」って話しかけたんですけど、その時オリヴァーは忙しそうで、「ああ、そうなんだ。いい曲書いてるじゃん」ぐらいな感じで、けっこう塩対応されちゃったんですよ(笑)。それで、その2~3カ月後の今年の1月終わりになって、急にDMが来て。「Paleduskを今聴いて脳が溶けたんだけど」って来て。「そう言えば、オーストラリアでも会ったよね」って来たので、一緒に撮った写真を送ったんです。そしたら、「本当だ。撮ったね」ってなって。そこから、「じゃあ一緒に曲やらない?」ってなったんです。オリーは最初にDEATHNYANNにハマって、Paleduskも聴いたみたいで、蓋を開けてみたら、「あれ、同じヤツが曲を書いてるし。会ったぞ」、「あのオーストラリアで写真を撮ってって言った子じゃん」ってなったらしいんです。
ブリング・ミー・ザ・ホライズンとの制作
ーそこから一緒に曲作りをするために、イギリスに行ったんですよね。
DAIDAI 8月末から9月中旬ぐらいまで、3週間イギリスに行ってました。
ーその前からオリーとはやり取りをしていたんですか?
DAIDAI すでにリモートで何曲も作ってました。何曲もやり取りしていくうちに、オリヴァーが、「直接、横で一緒に曲作らない?」ってなって。
ー「AmEN! (feat. リル・ウージー・ヴァート and Daryl Palumbo of Glassjaw)」は6月のリリースですから、この曲はリモートで作ったんですよね。
DAIDAI 新代田で作りました(笑)。「DArkSide」の方は、イギリスに行った時に作りました。向こうではデモをいっぱい作ったんですよ。元々の主旨は、いろんな曲の種を一緒に作って、後は持ち帰ってリモートでやろうということだったので。「DArkSide」はその一つでしたね。
ーオリーは、DAIDAIがバンドメンバー全員の前に現れて、怖気づかずにギターを手にして、すぐに100通りぐらいのことをトライして見せたから、めちゃくちゃヤバかったと言ってましたね。
DAIDAI そう思われてるんだ?!と思いましたね。初日、初めて行った時に、オリヴァーのブランドのDROP DEADの事務所で曲作りをするってなって。メンバーがバーッと全員来たんです。みんなは座ってて、自分はパソコンを開いて。「じゃあ、曲をやろうか」ってなって。自分はデモを何個か持ってきてたし、アイデアは山ほどあったので、みんなを見てるうちに興奮してきて、「うわあ、本物や!」ってなったんです。
ー怖気づかなかったんですね(笑)。
DAIDAI 「これもどう?」、「これもどう?」、これも? これも? これも?って弾きまくりましたね。
ーメンバーのみんなの反応はどうでした?
DAIDAI 「面白い! 面白い!」って言うから、変なビースト・モードに入ってしまいましたね(笑)。自分も「楽しい! 楽しい!」ってなって。それで、初日が終わって、自分のベッドルームに戻った時に、オリヴァーからメッセージが来たんです。「今日作った曲が頭から離れないんだ。おまえと曲を作ったら自由になれる気がする。おまえとなら何でも作れると思う。一緒にマジックを起こそう」って来て。うれしかったですね。良いスタートになりました。
ーオリーとはどのようにアイデアを出し合って、形にしていったんですか?
DAIDAI オリヴァーもアイデアが止まらない人で、けっこう不思議な例え方で注文してくるんですよ。「ビートルズみたいな曲だけど、宇宙のスラッシュ・メタルみたいな曲」とか。でも自分の中でその言葉にピキン!となったので。それでバーッと弾いてたら、オリヴァーが「それ、面白いね」ってなって。そういうのをずっと続けてやっていくんです。オリヴァーも自分でデモを作るんですけど、別にスゴいクオリティのオケでもないのに、どのデモも全部光るものがめちゃめちゃあるんですよ。その時にやっぱりこの人は天才だと思いましたね。
ー1曲に対して何バージョンも作ったんですよね。
DAIDAI 1曲で20バージョンとか作りましたね。納品してからまた戻して作り直したのもあります。「これをもっとこうしよう」って、完全に終わったはずの音源をもう一回解体して、やり直しましたね。
ーやり直しになった時はどう思いました?
DAIDAI それが毎回、そのアイデアが素晴らしいんですよ。最初は、「エッ、あれを変えちゃうの? もうすでにカッコいいのに。どうなるんだろう?」ってなるんですけど、オリヴァーが新しく持ってきたメロディとかアイデアを聴くと、「いや、そっちの方がいいよ」って、毎回驚かされるんです。
ーでもDAIDAI自身も、自分の作ったデモについて、「最初に聴いた時は誰にも理解できないだろうけど、3回目に聴けばわかるはずだ」って言ったんですよね。
DAIDAI 自分の中で、他の人がやっていないことをやってる自覚はスゴくあるので。一発目で理解されるわけはないと思ってるから、「3回は聴いてくれ」とはずっと言ってたんです。
ー理解されるわけのないアイデアでも、自分の中ですでに着地点は見えているんですか?
DAIDAI 毎回、ある程度は見えてます。でも、今の自分にはもっと勉強していきたい領域があって。それは、突拍子もないけど一発目で人の心をつかめるようにするということです。ちゃんと音楽のアンテナを張ってる人は、一発目からつかんでくれるんですけど、一般の方が聴いて、ポップスの概念が完全に壊れてるのに、何か楽しい、何かカッコいいってなる、そういう領域に行きたいなとは思いますね。そこに関しては、ブリング・ミー・ザ・ホライズンと一緒に曲を作ったことで、スゴく勉強になったところはあります。
ーブリング・ミー・ザ・ホライズンはロック、メタルの世界にいて、まだまだ先に行けると思ってやっていますが、Paleduskもそうですよね。
DAIDAI そこは一緒です。やっぱりバンドをやってるのが自分は一番楽しいので。
ーインスタでも「ギター弾くほどの快感知らん!」って書いていますよね。
DAIDAI ギターが大好きなので(笑)。休みがあったら、半年ぐらいギターだけを練習する時間が欲しいぐらい、ギターが好きですね。
ーオリーとやってみて、自分の中で得たもの、刺激になったものはありますか?
DAIDAI いっぱいあるんですけど、まず一番は集中力ですね。朝9時に起きて、そこからスタジオに入って、夜の12時ぐらいまでぶっ続けで作業をするんですよ。その期間は二人とも1日に1食しか食べませんでしたね。自分はたばこ休憩とかをちょいちょい挟むんですけど、オリヴァーは全く休まないんです。ずっと曲のアイデアをかき集めたり、メロディを考えたりというのを一生やってて。だからこのぐらいの集中力でこのぐらい音楽に打ち込めたら、オリヴァーじゃなくても、誰でもあの域に行けたんじゃないかって思うぐらいで。もちろん音楽的なアイデアも毎回ユニークだし、キャッチーなところもあって、いろいろ面白いなとは思うんですけど、この人の根幹のスゴさは集中力だなと思いましたね。かなり良い経験でした。
Photo by cherry chill will., Styling by Yudai Murakoshi (blackmeans/non mèrci) , Hair & Make-up by RIN. (from MEYTOKYO), MADDY
ヒップホップ・シーンとのつながり
ーPaleduskはヒップホップ・シーンとのつながりも強いですが、今年8月に行われたヒップホップ・フェスのTHE HOPE 2023にもXansei with Friendsの一員として、Kaitoとともに出演しましたよね。
DAIDAI Xanseiは最初SNSでつながったんですよ。自分が日本に帰ってきた時にXanseiも日本に帰ってきて。そこから普通にリンクアップして、一緒に曲を作ろうってなりました。彼も元々メタルが好きな人で、アメリカに行ったのも、ギターで行ってるんですよね。向こうでいろいろな音楽に出会って、ヒップホップの方に行って、ビートメーカーになったと思うんですよ。自分はメタルもいろんなジャンルも、どっちも好きだったので、Xanseiとは気が合ったんです。彼がTHE HOPEに出るってなった時に、彼とKaito、JUBEEくん、Leon Fanourakisで作った曲があったので、それをXanseiがやりたいって言ってきたんです。
ーあれはマイアミのヒップホップ・フェスのRolling LoudにTurnstileが唯一バンドで出演したのを彷彿とさせましたね。
DAIDAI 面白かったですね。自分はあのイベントに出れると思ってなかったので。人もたくさんいたし、気持ち良かったですね。
ーヒップホップ・アーティストとの交流はどこから始まったのですか?
DAIDAI 初めてヒップホップ・アーティストとつながったのはHideyoshiですね。Hideyoshiのマネージャーのナツキが最初Kaitoと仲良くなって。ナツキはTokyo Young Visionのメンバーで、VIGORMANともスゴく関係があるので、そこがきっかけで一気に広がりましたね。DALUとも一緒に曲を書こうってなったし、Fouxともいっぱい曲を作りだしました。
日本を盛り上げて世界を巻き込んでいけたら
ー今年はPaleduskとして、ヨーロッパ、アメリカとツアーを回りましたが、特に手応えのあったところはありますか?
DAIDAI どこも最高だったんですけど、手応えで言ったらアメリカはスゴく感じましたね。アメリカは20カ所ぐらい、どこも平均1000人キャパで、全部ソールドで行ったんですけど、客の反応を見ると、全員が豆鉄砲を食らったような顔をしてくれたんです(笑)。一緒に回ったのが、オーソドックスなメタルコアなバンドばかりだったので、自分たちだけがちょっと見た目もスタイルも違う感じで。お客さんはスゴい食らってくれて、それでTシャツも売れたので、そこは数字でもスゴく実感できましたね。
ーすでに海外のレーベル、ブッキング・エージェントもついていて、サポート体制が出来ていますよね。
DAIDAI レーベルはオーストラリアはGreyscale Records、アメリカはSharptone Records、ブッキングを組んでくれるのがイギリスのAvocado Booking。この3つで海外のいろんなフェスとかツアーを組んでくれてます。
ーずっとインディペンデントで活動してきましたが、そこのこだわりは何かありますか?
DAIDAI その理由の一つとして、自分たちのやってるジャンルはニッチなものなので、そこへの愛がある人とじゃないと一緒にやりたくないというのがあります。この3つの会社はスゴく愛をぶつけてくれる人たちなので、そういう人たちと海外で一緒にやれてるのがスゴくうれしいんです。
ー2024年はどのような活動を考えていますか?
DAIDAI いっぱい爆弾を仕掛けてきたので、その導火線をつけるのはPaleduskだと思ってます。その爆風でどこまでも登れたらなという1年にしたいです。自分が一番大事にしてるのはPaleduskだし、自分はバンドマンなので。もちろんプロデュース業も大事なんですけど。
ー自分のことをプロデューサーだとは謳っていないですよね。
DAIDAI そうです。それはすべてPaleduskのためと、自分の勉強のためなので。でもその勉強もPaleduskの曲がより良くなるためにやってることなので。その集大成として、来年はもう2~3段階フェーズを上げられるかなと思ってますね。そこでPaleduskが中心となって爆発してくれたらなと思ってます。あと、世界中のいろんなトップ・アーティストの方たちと、これからも曲をいっぱい書けるだけ書きたいし、そこに自分の色をもっと出していけば、自ずと世界に自分たちの音楽が受け入れられやすくなるのかなと思ってます。他のジャンルのフィールドに呼ばれても、自分のスタイルは変えず、いつも通りのものを世界中でやろうと思ってます。ヒップホップに呼ばれたからと言って、普通にヒップホップのビートを作るんじゃなくて、自分が普段やってることをそのままやって、受け入れてもらえるようにはしていきたいですね。
ー長い目で見て考えていることは?
DAIDAI 自分はまだその立場じゃないですけど、最終的にはオリヴァーを始め、いろんな人たちが僕をピックしてくれたように、才能のある子がいたらバトンタッチできる立場になれるように、今のうちに固められるものを固めていきたいです。あと、日本はスゴく音楽が面白い国だと思ってるので、日本がより注目されて、日本がめちゃイケてるというのを、すでに今の世界が日本に注目してるところに、さらにブーストさせられたらなと思ってます。そしたらもっと面白くなって、自分ももっと良いアイデアをもらえるので、結果として、自分ももっと楽しく良い音楽を書けるんじゃないかなと思いますね。だから、日本を盛り上げて世界を巻き込んでいけたらなと思ってます。Paleduskが今のスタイルのまま、お茶の間にまで届くクラスになったら、けっこう事件になると思うんですよ。人生は一回だから、そこにチャレンジするのは、失敗、成功に関係なく、やる価値があるなと思うので、やってみようかなという感じですね。
◆オリヴァー・サイクス(ブリング・ミー・ザ・ホライズン)のコメント
「DAIDAIは何だってトライするし、恐れなんてない」
最初は確か、DEATHNYANNがSpotifyで出てきたんだよ。DEATHNYANNを聴いた時に、それを作ったのが誰であれ、一緒に曲作りをやりたいと思ってたんだ。スゴく狂ってるし、めちゃくちゃエクスペリメンタルだったから。そしたらオーストラリアのGood Things Festivalの時、DAIDAIから話しかけてきて、DEATHNYANNは全部自分が作曲してるし、自分のバンドのPaleduskもチェックしてくれって言うんだ。Paleduskもチェックしたら、スゴくクレイジーでね。それでDAIDAIに一緒に曲作りをやらないかって誘ったんだ。
その時点で『POST HUMAN』用の新曲を作ることは決めてたんだ。『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』ではミック・ゴードンをプロデューサーに迎えた経験があったから、『POST HUMAN』シリーズでは、プロデューサーとのコラボレーションで制作をしたいと思うようになったんだ。しかも新しいミュージシャンを探したかった。新たな生命を吹き込んでもらいたかったし、僕たちが自然にはできないようなことをやってもらいたかったから。
僕とDAIDAIが一緒に曲作りをすると面白いことが起こるんだ。まずDAIDAIからいろんなアイデアが送られてくるんだけど、僕にはトゥーマッチだと思うところもあって(笑)。そこから、「ここを変えて」、「ここは変えられる?」って言って。それでDAIDAIは変えてくるんだけど、2ndミックスが送られてくる頃には、僕は最初のミックスの方が大好きになってて。最初のアイデアに戻したりもするんだ。最初のアイデアを聴く時って、初めは「わからないな。どうなんだろう」ってなって、それで再び聴くんだけど、5回目ぐらいになると「最高だ」って思えてしまう。素晴らしいのは、音の方が僕たちにチャレンジしてくるところなんだ。例えば、曲の途中で突然ジャズっぽい感じになったりすると、最初は違和感しかないんだけど、結局はそこが曲の中でも大好きなパートになったりする。音楽を聴く耳にとってはチャレンジなんだけど、そのパートのおかげでその曲が忘れられないものになったりもするんだ。
DAIDAIのクレイジーなところは、制作のやり方だね。僕は完全にブットばされてしまうんだ。例えば、DAIDAIがバンドメンバー全員の前に現れる時も、きっとブリング・ミー・ザ・ホライズンのことは大好きだろうから、怖気づいてしまう部分もあると思うんだ。だけどDAIDAIはギターを手にして、すぐに100通りぐらいのことをトライして見せるんだ。このアイデアが良いとか、このアイデアが良くないとか、関係ないんだ。それをメンバー全員の前でやって見せるわけだから、めちゃくちゃクールだと思ったね。僕自身、シンガーとしてメンバー全員の前でいろいろトライして見せるのは気後れするものなんだ。でもそれって、エゴが強すぎるからなんだよ。DAIDAIは何だってトライするし、恐れなんてない。2日目に、DAIDAIからPaleduskの新曲を聴かせてもらった時は、まさに狂気の4分間だと感じたね。どうやって作るの? どうやって1曲の中にそれだけのアイデアを入れられるの?ってなったよ。普通のメタル・バンドだったら、全キャリアを通じて出てくるようなアイデアが1曲の中に入ってるんだから。完全にブットばされたね。DAIDAIのやってることは、正直、自分が一生をかけてもできないことだと思うんだ。それに、DAIDAIのように、本当にユニークで重要な才能を持った人に出会うことって、僕の人生の中でもめったにないことなんだ。本当、DAIDAIは僕に多大なインスピレーションをくれたよ。
左から、オリー、DAIDAI
<INFORMATION>
『PALEHELL』
Paledusk
BIG M RECORDS
発売中
『PALEHELL』 特設サイト
https://www.paledusk.com/new-ep-palehell-special
1. PALEHELL
2. SUPER PALE HORSE feat. CVLTE
3. TRANQUILO!
4. RUMBLE feat. Masato from coldrain
5. Iʼm ready to die for my friends feat. VIGORMAN 6NO!
7. Q2 feat. Kenta Koie from Crossfaith
【Blu-ray収録内容】※完全生産限定盤 PH COFFIN BOXのみ
海外TOURドキュメンタリー&メンバーインタビュー映像