住む場所を選ぶ時に、あなたはどんな「条件」を重視しますか?

子育て世帯であれば、「子どもにとって恵まれた教育環境であるか」という点を挙げる方が多いでしょう。同時に「子育て」はご両親もありきの話ですから、お子様にとってはもちろん、ご自身やパートナー、ご家族が「子育てしやすい」条件が整っていることも重要です。

東京都では、2023年から高校生まで医療費が無償化されるなど、少子化に対応すべく子育て支援策が整えられてきています。一方で、23区内でも各区の方針によって支援制度内容はバラバラ。また、その土地が持つ地域性によっても、「子育てしやすさ」は大きく変わってきます。

そこで今回は、東京23区の子育て・教育環境について、3つの視点からそれぞれ「子育てのしやすさ」をランキング形式で出してみました。後半には、3指標の総合順位も算出しています。

※記事内容は2024年2月時点のものです。最新情報は各自治体の公式サイト等でご確認ください。また、各区の施策について優劣を決めることを意図したものではございません。

  • 子育て支援策は各区バラバラ、地域性によっても「子育てしやすさ」は大きく変わる

    画像はイメージ / PIXTA

■東京23区の「子育て環境を左右する」3つの指標

ご家庭によって求める条件やお子様に与えたいと思う環境は人それぞれ。そこで、なるべくいろいろな角度から、「子育てのしやすさ」を考えていきたいと思います。今回見るのは、以下の3つの指標です。

1.子育て支援制度額
2.公園の充実度
3.治安の良さ

今回のデータを元に、家族やパートナーと引っ越し先やエリア選び、育児の方針を話し合うきっかけや参考にしてみていただければと思います。それでは早速順番に見ていきましょう。

【1】東京23区「子育て支援制度額」をデータで比較

出産や育児、教育は大きな出費となります。出産や子育てにかかる費用が少しでも補助されるのは、家計にとって大きなメリットであり、居住エリアを選ぶ時の一つの基準としても有効です。

どのような支援制度が実施されているかは、エリアの検討時によく確かめておきたい・・ところですが、実際には最新情報で一覧化・比較されているサイトはなかなかありません。ネットで検索すればたくさんの情報が出てくるものの、各区においてどれくらいの補助や助成が用意されているのかわかりづらいのが現状です。

ここでは、出産や子育てに際して区から給付される一時金、商品券、助成といった経済的な支援制度を集計して、金額でランキング化しました。

  • 資料提供: ハウスマート

※2024年2月調査時点における、単一年度の合計金額とする
※子どもの人数など家庭条件によって額面が代わる制度の場合は、最高金額とする
※多胎児(双子や三つ子など)に対する支援制度(タクシー代補助など)は含まない
※住宅支援策に関わる補助・助成制度は含まない
※カタログやポイント、物品提供等による支援策は、換算金額の掲示があったもののみ含める

<東京23区「子育て支援制度額」ランキング>
1位: 世田谷区(支援金額67万円)
2位: 港区(支援金額50万円)
3位: 足立区(支援金額29万円)
4位: 練馬区(支援金額27万円)
5位: 渋谷区(支援金額26万円)

現在、東京都では妊娠期から子育て期にわたって切れ目なく支援を行うことを推奨しており、区市町村は国や東京都から支援を受けています(東京都福祉局「とうきょうママパパ応援事業」)。そのため、23区ではベースの支援策と金額は大差なく、世田谷区の第3子以降の出産費の一部助成や港区の出産費用の助成など、区が独自で打ち出している「プラスα」の施策が大きく響いてきます。 ここでは額面による比較を行いましたが、上記に換算されていない施策例として、金額換算できない育児グッズのプレゼントや交通機関の無料乗車券配布などがあります。また、育児関連講座の開催や相談サポートなどソフト面の支援制度に力を入れている区もあるので、ぜひご家庭の状況に合わせて、比較検討してみてください。

【2】東京23区「公園の充実度」をデータで比較

子育て世帯にとって、お子様が遊ぶ場所として公園が身近な環境であることは大きなメリットです。

のびのび遊べてイベントが行われるような広い公園が居住区内にあれば、休日のお出かけや散歩が充実します。一方で、広さはなくても数が多ければ、それだけ子どもが遊べる場所が近場に用意されているといえます。ここでは、「暮らしにおいて公園がどれだけ身近にあるか」を「子育てしやすさ」ととらえて、区における公園の占める割合を「公園の充実度」として見てみました。

公園の充実度は、東京都建設局が公表している「公園調書」(令和5年4月1日版)をもとに、区の総面積において都市公園(国営公園および地方公共団体が設置する公園および緑地)がどれくらいを占めるのかを元にランキング化しました。(※)

  • 資料提供: ハウスマート

※区における都市公園の総面積を、各区の総面積で割って算出

<東京23区「公園の充実度」ランキング>
1位: 台東区(上野恩賜公園、隅田公園など)
2位: 江戸川区(篠崎公園、宇喜多公園など)
3位: 足立区(舎人公園、東綾瀬公園など)
4位: 板橋区(赤塚公園、浮間公園など)
5位: 中央区(浜町公園、佃公園など)

実際に住むことになる物件の近くにも公園があるのか、それはどんな公園か(遊具があるのか、庭園風の公園なのか、グラウンドなのかなど)によっても、生活環境は変わってきます。子育ての観点はもちろん、家族でどのようなライフスタイルを送りたいかを考えてみると、自分にふさわしい緑地環境のバランスが見えてくるでしょう。

(以前の私の記事「東京で「公園の近くに住む」なら何区がいい? 3強エリアをタイプ別に解説」で、公園が身近になる区を様々な軸でランキング形式で紹介しています。公園や緑地を重視する方は、そちらも参考にしてみてください)

【3】東京23区「治安の良さ」をデータで比較

お子様にとってより良い環境を考えた時に、外せない項目の一つが、治安の良さでしょう。治安の良し悪しは、繁華街なのか学生街なのか、はたまた住宅街なのかによっても変わってきます。内覧など現地を訪れて自分の目でも確認できる要素なので、可能な限りチェックしておきましょう。

ここでは、警視庁が公表している「区市町村の町丁別、罪種別及び手口別認知件数」をもとに治安の良さを定量化。目で見えない「治安の良し悪し」を見てみました。独自指標として「人口あたりの犯罪発生スコア」(※)を出し、ランキングにしています。数値が低いほど犯罪に遭遇する確率が低い、つまり治安が良い傾向にあると評価できます。

  • 資料提供: ハウスマート

※2021年度の犯罪発生総数を凶悪犯罪=5ポイント/件、それ以外の犯罪=1ポイント/件 として計算し、「犯罪発生ポイント指数」を算出。「犯罪発生ポイント指数」を人口(令和6年1月時点)で割った。

<東京23区「治安の良さ」ランキング>
1位: 杉並区(0.44%)
2位: 世田谷区(0.45%)
3位: 文京区(0.47%)
4位: 練馬区(0.48%)
5位: 目黒区(0.49%)

上位に並ぶのは、第1種低層住居専用地域が全体面積の6割以上を占める杉並区をはじめ、閑静な住宅地としての人気の高い区。3位の文京区は、東大をはじめ名門校とされる教育機関が多く文教エリアとして知られています。居住者しか入ってこないような落ち着いた住環境が守られており、犯罪も起こりづらいことが数値にも表れています。なお、最下位の千代田区のスコアは3.57%。次に新宿区(1.64%)、渋谷区(1.47%)、台東区(1.34%)と続きます。街がどんな構成となっているか、わかりやすい結果となっているのではないでしょうか。なお、下位の区の中でも、高級住宅地として知られるブランドアドレスがある場所は多いですし、最寄り駅や、住所によっても治安は変わってきます。参考にしつつ、希望エリアについてはご自分やご家族自身で確かめてみてください。夕方以降の時間帯に行ってみるのもおすすめです。

■東京23区「子育てしやすさ」ランキング

さて、ここまで【1】子育て支援制度額、【2】公園の充実度、【3】治安の良さ の3つの軸で見てきました。

最後に総合得点として、「子育てしやすい区」を見てみると・・TOP10の結果がこちらです。(※)

  • 資料提供: ハウスマート

<ランキング算出方法>
・上記3つの各指標を23区で比較し、1位を23点、23位を1点として点数化
・それぞれの区における各指標の点数を合計
・高い順に10区をピックアップ

【第1位】世田谷区 - 東京 23区「子育てしやすさ」ランキング

堂々1位を飾ったのは、世田谷区。公園の充実度では12位とちょうど真ん中の順位でしたが、治安の良さで2位、子育て支援制度額では先に述べたように断トツの1位。特に費用面では、「第3子以降の出産費に対する一部助成」(最大助成額48万円)の比重が大きく、将来的に3人以上のお子様を持つ可能性があるご家庭には安心です。「第3子以降の出産費に対する一部助成」を除いても、世田谷区の子育て支援制度額は23区全体平均より高額なので、できるだけ経済的な子育て支援が手厚い区に住みたい方は一度検討してみても良いでしょう。

【第2位】足立区 - 東京 23区「子育てしやすさ」ランキング

2位となった足立区は、公園の充実度が3位、治安の良さが13位、子育て支援制度額が3位。特筆したいのは2024年4月開始予定の、子ども1人につき10万円が助成される出産費助成事業。現時点(2024年2月)で詳細は公表されていないため、今後の動向に注目したいところです。また足立区といえば、荒川と隅田川が通る水辺エリア。23区で3番目に面積の広い舎人公園や、農業体験ができる足立区都市農業公園など、豊かな自然と触れ合う機会を持ちたいご家庭にぴったりです。

【第3位】練馬区 - 東京 23区「子育てしやすさ」ランキング

3位の練馬区は、治安の良さと子育て支援制度額の高さがどちらも4位。また、ランキングの算出には含まれていない部分でのソフト面での支援策が手厚いのも特徴。区内のカフェで育児のプロに相談したり保護者同士で交流できる「練馬こどもカフェ」、子どもたちがいない時間に子育て中の親同士の交流のために学童クラブ室を開放する「にこにこ」など、子どもも親も孤立せずに繋がるための場づくりも積極的です。お子様の生まれたご家庭に配布され、育児支援ヘルパーや乳幼児一時預かりなどの関連サービスに利用できる「子育てスタート応援券」など、地域との交流を大事にしながら子育てをしたいファミリーにおすすめです。

【第4位】杉並区 - 東京 23区「子育てしやすさ」ランキング

4位の杉並区も練馬区と同様、地域での交流を重視している区。特徴的なのは「杉並子育て応援券」の制度。平成19年から続く伝統ある育児支援策で、他の区と異なるのは「商品券」ではない点。地域みんなで子育てをする空気を醸成することを意図されており、買い物用途ではなく地域での体験やコミュニティサービスにおいて使えるものとなっています。利用対象となるのは、産後ケアサービスや講座などの育児関連サポートのほか、観劇や人形劇、コンサートなどのイベントも。カルチャー要素の強い杉並区ならではともいえそうです。治安の良さは前述の通り堂々の1位。ご近所の大人を含めた対人コミュニケーションや、東京に住んでいるからこその多様な文化に触れて好奇心旺盛に育って欲しいと願う親御さんにぴったりといえます。

■自分たちにとっての「子育て環境」を見極めて、場所選びを

数年に渡って住み続けていくのであれば、お子様にとってはその土地が自分の「ふるさと」になります。住まい選びが彼・彼女の未来を左右するといっても過言ではありません。

そう考えると、ついお子様ファーストで選んでしまいそうですが、ご自分やご家族が無理なく子育てができることも大切にしてもらいたいと思います。特に、共働き世帯であれば、仕事と出産、育児を両立していくことは、資金的にも時間的にも大きな負担にもなります。お子様やご家族とより良い生活を送るためには、自分たちに必要な要素をサポートしてくれる自治体、必要な要素を備えた環境を選べば、それだけ日々の暮らしに余裕ができるでしょう。

住まい選びに、正解はありません。一つ目の指標で見ただけでは判断できないことはもちろん、ご家族によっても適切なエリア、物件は変わります。例えば、子育て支援制度額ランキングを見直してみると、支援額トップを飾る2区は物件平均価格も高額なエリアです。それだけ住まいにかかる支出が上がるわけですが、世帯によっては、毎月の育児負担が軽くなる方が家計にとってのコストメリットが大きくなる可能性があります。住宅ローン負担や、物件購入することでの資産形成とのバランスなども考えながら、長期的なシミュレーションをしてみることが大事です。

今回の結果はあくまでも一つの参考値です。決して区の優劣をつけるものではありません。ぜひこれを入口として、今まで検討してこなかったエリアも候補として考えてみたり、具体的な施策内容を調べてみてください。加えて、施策については頻繁に変わったり終了することがあります。不動産会社に聞くのも一つの手ですが、必ず事前にご自身でも再確認するようにしましょう。

データ的な裏付けも参考にしながら、ご自身やご家族、自分たちで現地に足を運び、「ここなら気持ちよく暮らせそうだ」と納得できる運命の場所を見つけてみてください。

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