国内で7年ぶりに開催されたパラアルペンスキーのワールドカップ(W杯)。回転種目3戦連続4位だった、座位のトップレーサー鈴木猛史は、2023年10月から日本チームに合流したイタリア人コーチ、アレッサンドロ・インティリア(愛称サシャ)と、ゴールエリアでこんな言葉を交わしていた。

「(手を合わせるしぐさをしながら)表彰台に届かず、ごめんなさい」(鈴木)
「Don't be sorry」(サシャ)

鈴木は言う。
「自国開催の応援が力になったし、応援してくれている人たちにメダルを見せたかった。それに、成績を残せるように情熱的に指導してくれているコーチにも、メダル獲得をかなえられずごめんねと言いたい。僕も悔しいけど、コーチも悔しいと思うんです」

鈴木のモチベーションは、パラリンピックのメダルを持ち帰り、それを手にした人たちの笑顔をもう一度見ることだ

2026年のミラノ・コルティナ冬季パラリンピックで3大会ぶりの金メダルを目指す鈴木。大会前の記者会見では、今シーズンのW杯前半戦を振り返り「厳しい戦いが続いているが、調子が悪いわけではない。滑りを変化させていて形ができてきたところ」と話していた。会場となったのは、サッポロテイネの山頂に近い1972年札幌オリンピック女子大回転コース。得意の急斜面で行われることもあり、今シーズン初の技術系種目の表彰台へと気勢をあげた。

海外勢の牙城を崩せ

大回転は7位。回転第1、2戦は4位。そして最終日の第3戦は1本目を終えた時点で3位と好位置につけた。ライバルの一人イェスペル・ペデルセン(ノルウェー)は大会中盤から柔らかくなった雪質に苦戦し、この日は1本目で姿を消す。だが、オランダとイタリアの若手の勢いは止まらない。ニールス・デ・ランゲン(オランダ)が2本目で鈴木を抜き、鈴木は4位に。2本の合計タイムでメダルまで2秒44差だった。

最終日も1本目はリラックスして挑むことができたという。しかし、2本目は「みんなにメダルを見せたい気持ちが強すぎてスキーを楽しめなかった」と唇を噛んだ。

最初から全力で攻めなければ海外勢に差をつけられる。そんな意識が強かったのだろう。力が入りすぎたせいで、2本目は序盤でスピードに乗れなかった。

「スタートしてすぐにリズムを取らなくてはならなかったんですけど、うまく取れませんでした」

新コーチとともにW杯に参戦する日本チームの選手とスタッフ

そう反省点を口にする鈴木だが、収穫もあった。ひとつは、2本目を3番手でスタートしたことで「久しぶりにいい緊張感を味わえた」こと。もうひとつは、自身が想定していたよりもトップ3とタイム差が開かず、失いかけていた自信を取り戻せたことだ。メダルを目指すと公言しながらも、内心は大敗すると思っていたのかもしれない。

回転2戦目を終えた日に、「思ったよりも若い選手たちと戦えているというのは、自信にもつながっている」と前を向いていたのが印象的だった。

現在35歳。「悔しいという気持ちがあるので、まだまだ成長できる」「僕たちもまだまだやれるんだという姿を見せたい」と気持ちを新たにした元世界王者。

今後は基本である大回転の練習を増やしたい、と鈴木は話す。
「(海外勢と比べて日本勢は)きれいに滑りすぎているのかなと思う。もっと攻撃的な滑りができるようにしたい。どんどんスキーの板を下に落としていく滑りを、2年後(のパラリンピック)までに習得したいと思います」

サシャの指導を受けながら、改造中の滑りを磨いていく。

イタリアのパラアルペンスキーコーチ経験もあるアレッサンドロ・インティリア氏

2年後を見据える日本選手たち

今大会の主役候補だったベテラン森井大輝も、初めて滑るテイネのコースを攻略することは難しかった。大回転は転倒し、回転でも表彰台に上がれなかった。それでも「2年後に向けての今なので。今しっかりと悔しい思いをして(2026年のパラリンピックに向けて)悔いのないように過ごしたい」と表情は明るい。

脊髄損傷による下半身まひで体を支えることが難しい森井。状態のいい選手に有利な環境下で上位をうかがった

世界10都市で開催されるW杯も、後半に入り、徐々に調子を上げている。札幌大会の回転種目を振り返り「納得のいくターンは数える程度。荒れた雪(の攻略)も、ライン取りももっとうまくなりたい」と力強くコメントした。

今シーズンは高速系のほか、技術系にも力を注力している本堂杏実は、大回転で5位。回転は個人でヨーロッパカップにエントリーするなどしたが、雪不足による大会中止もあってW杯の出場条件を得ることができなかった。

「本当は出たかったですけど……。前走とはいえ回転種目のコースを滑ることができ、タイムもまずまずだった。骨盤や足元の動きなど、課題はたくさんあるけれど、得られるものがたくさんありました」

前走を務めた立位の本堂。エース村岡桃佳が夏季競技に専念する中、唯一の女子日本選手として今大会に花を添えた

その本堂と共に次の世代を担う若手として期待される髙橋幸平は、大回転で15位。回転では1戦目に出場し、「急斜面ではインを突くと意識をしていたが、それをさせてくれない難しい雪だった」と課題を挙げつつ、「ゴールできたのはうれしかった」と振り返った。

男子立位のホープ髙橋はコルティナのコースも経験してモチベーションが高まっているという

回転3戦に出場した青木大和もテイネのコースに苦戦。そのうち2戦はゴールできず「片斜面になっていて動きが難しかった。直前に行っていた(次回パラリンピック会場の)コルティナよりも難易度が高いと思う」と話した。

「もっとレースを積まないといけない」と課題を口にした青木

世界のトップ選手が集結した札幌大会。大会最終日の電光掲示板には、名残惜しくも「Sapporo-thankyou and goodbye」のメッセージが流れていた。

「ブラインド選手の滑りは何度観ても胸が熱くなる。ぜひ生で観て欲しいと思うので、近いうちにまた日本で国際大会ができたらいいなと思います」

そう森井が語るように、世界のトップ選手たちの滑りを楽しむことができるW杯をまた国内で開催してもらえたらと願っている。

日本には選手がいないため、国内ではなかなか観ることができない視覚障がい選手の滑り

text by Asuka Senaga
photo by Takamitsu Mifune