東京・六本木の国立新美術館で、「マティス 自由なフォルム」が始まりました。20世紀最大の巨匠の一人であるアンリ・マティスが、新たな芸術表現を切り拓いた「切り紙絵」に焦点を当てた日本初の展覧会として、代表作例《ブルー・ヌードⅣ》や日本初公開の大作《花と果実》をはじめ、後半生を過ごした南フランス・ニースのニース市マティス美術館の所蔵作品を中心に約150点を紹介。晩年の彼が心血を注いで取り組んだ、ヴァンスのロザリオ礼拝堂内部を原寸大で再現した展示空間も見どころです。
誰も見たことがないような鮮やかな色や光を探求し、モダンアートの誕生にも決定的な役割を果たした画家、アンリ・マティス。本展は彼の後半生であるニース時代の作品を中心に構成されていますが、法曹家を目指していた彼が初めて描いた油彩画や、「フォーヴィズム(野獣派)」時代の重要な作品、さらに彫刻やデッサン、舞台衣装やテキスタイルといったデザイン領域にいたる幅広い仕事と、彼がアトリエに収集していたオブジェなどが、ゆるやかな時系列で構成されています。
1917年に南仏ニースに滞在したマティスはこの地の光に魅せられ、やがてパリには夏を過ごしに戻るだけになり、完全にニースに居を移します。彼は骨董屋で買い求めたオブジェでアパルトマン兼アトリエを小芝居じみた劇場風にしつらえて、モデルにポーズをとらせたそうで、展示には絵画の中に登場する東洋風の絨毯や、「骨董屋でこれに出会ったときには完全に取り乱してしまいました」と語るほどに魅了されたという、実際の肘掛け椅子も登場します。
晩年に大病を患ってから、マティスは筆とカンヴァスを紙とハサミに持ち替えて、80歳で新たな表現手法「切り紙絵」に情熱を注ぎました。アシスタントに色を塗ってもらった紙をハサミで切り抜き、それらを組み合わせて構図に仕立てあげるこの技法によって、色と形を自在に生み出したマティスは、晩年においてなお精力的にアトリエの壁面に図案の大きな構想を施し、切り紙絵の大作《花と果実》や《波》、「ブルー・ヌード」の連作などを生み出していきます。
そして1948年からの4年間にマティスが専心したのが、ヴァンスにあるドミニコ会の修道女のためのロザリオ礼拝堂の建築。彼は礼拝堂の室内装飾はもちろん、典礼用の調度品や祭服といった儀式のアイテム一式もデザインし、総合芸術として最後のプロジェクトを完成させました。
最後の部屋では、ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部を原寸大で再現。実際に礼拝堂を撮影し、教会の内側に映り込む光を参考に、その形状に基づいたステンドグラスの色彩を壁や床に投影し、光の移ろいを体感できる仕掛けとなっています。
マティスの後半生の「切り紙絵」にフォーカスした日本初の展覧会。本邦初公開作品をはじめとする、芸術家人生の集大成といえる作品を目撃できる貴重な展覧会は、5月27日まで開催です。
■information
「マティス 自由なフォルム」
国立新美術館 企画展示室 2E
期間:2月14日~5月27日(火曜休館、ただし4月30日は開館)
時間:10:00~18:00(金土は20:00まで) 最終入場は閉館30分前まで
料金:当日券一般2,200円、大学生1,400円、高校生1,000円、中学生以下および障害者手帳持参の方(付添の方1名含む)は無料