根本悠楓、今シーズン大注目の理由。活路を見出した投球フォーム変更【え…

野球ファンを驚かせた左腕の好投

 3月6、7日の侍ジャパン強化試合(欧州代表戦、京セラドーム大阪)のメンバーが発表になり、大学生の代表入り、巨人からの選出ゼロetc、話題になっている。ファイターズからは昨年のアジアプロ野球チャンピオンシップ同様、万波中正、根本悠楓の2選手が選ばれた。いつの間にか「井端ジャパンの顔」である。僕は今回、根本を語りたいのだ。とても面白い存在だと思う。

 

 万波はとにかく昨シーズン、.265、25本、74打点の数字を残した。二塁打33はリーグ最多であり、もちろん守備ではゴールデン・グラブ賞だ。今季のファイターズで唯一、新庄監督がレギュラーを確約している選手である。一方の根本は昨年、5試合登板、3勝1敗、防御率2.88の投手だ。投球イニングはわずか25.0に過ぎない。金村尚真と並んで期待値は大きいが、決して主力の働きではなかった。ちなみに5試合登板はすべて先発なので、投球イニングを考えると全試合、5回までなのだ。数字だけを見ると「そこそこ頑張ったが、中盤でつかまる投手」というイメージじゃないだろうか。

 

 それが11月のアジチャンでは井端ジャパンに欠かせない存在になる。中継ぎ起用だったが、どの試合も相手打線を寄せ付けない。僕は代表入りと聞いて内心、大丈夫かなぁと心配していたのだ。特段、優れた成績を残したわけじゃない。左なら例えば加藤貴之の方が信頼感がある。そうしたらアジチャン本番の活躍がすごかった。「ピシャリと抑える」とはこういうもんだという見本みたいな投球。僕が忘れられないのは日韓対決になった決勝戦、根本がリリーフに出て来たとき、後ろに座った阪神ファンの親子連れがこんなやりとりをしたのだ。

 

 「ピッチャー、誰?」「日本ハムの根本だよ」「根本?」「これは素晴らしいピッチャー。絶対打たれない」

 

 えー、AREで盛り上がった阪神ファンにそう見えますか、とニマニマしてしまう。アジチャンの短期間で根本はセ・リーグのファンに「絶対打たれない」とまで認識してもらっていた。そして実際、圧倒的な働きだ。僕は阪神ファン親子に向かって、心の中で「でも、これシーズン中よりいいんですよ」と言っていた。一年通して見たファイターズファンならわかるだろう。アジチャンの根本は「2023年いちばん」の出来だった。

 

 それは何故か? 投球がビタビタに決まったからだ。ムダ球がほとんどなかった。どんどん追い込んで、攻めのピッチングが出来ていた。僕はさすが中学時代から大舞台を踏んできただけあるなと、主にマウンド度胸の点に感心していた。で、よしよし2023年は最高の形で締めくくれた、こりゃ新シーズンが楽しみだぞと思っていたのだ。

今年は2ケタ勝利を

 が、「投球ビタビタ」には理由があった。単に大舞台に強いのではなかった。何と根本悠楓はシーズン終了後の10月、投球フォームを変えていたのだ。11月のアジチャンで「投球ビタビタ」をもたらした変更点とはショートアームだった。

 

 ショートアームというのは投球の際、テイクバックを大きく取らず、ヒジを曲げて、あらかじめトップの位置をつくる方法だ。それまで根本はテイクバックが大きくて、勢いがつく代わりにリリースポイントが定まらないきらいがあった。感覚的に一定を心掛けていても、身体の疲れなどでズレが生じる。それを微調整しながら投げるからどうしても球数が増え、カウントが悪くなった。ショートアームの利点は腕の使い方がコンパクトになり、コントロールが良くなることだ。根本は加藤貴之ら先輩の投球を見て、ショートアームを取り入れようと考えたのだという。誰かにアドバイスされて従ったのではなく、あくまで根本個人の研究心のたまものらしい。

 

 それが(シーズン後の)たったひと月で身について、アジチャンの大舞台の活躍につながった。「投球ビタビタ」が阪神ファン親子の賛辞を呼んだ。もちろん「絶対打たれない」根本は今季、パの各球団の脅威となるだろう。飛躍のときだ。先発ローテに食い込んでほしい。「絶対打たれない」で2ケタ勝ってほしい。

 

 昔、ファイターズのエースだった木田勇氏を取材したとき、「後ろが小さく、前が大きい左腕エースを育ててみたい」という話をされてたのを思い出す。木田さんはその頃、ユニフォームを脱いで、解説の仕事をされていた。デビューイヤーに投手タイトルを総ナメにしたサウスポーは理想のフォームを「後ろが小さく、前が大きい」と表現したのだ。この「後ろが小さく」のところが今でいうショートアームだ。腕がピュッと出てくるから打者はタイミングが取りづらい。武田勝のようにトップを作ったとき、身体の後ろに隠してしまう芸達者もいる。そして「前が大きい」というのは、リリースポイントが前ということ。なかなかボールを離さないのだ。下半身が粘れている。

 

 思えば木田勇氏も根本同様、そう大柄なタイプじゃなかった。まぁ、木田氏のキャリアハイは22勝8敗4セーブ(19完投、253.0イニング)、勝率.733、防御率2.28と驚異的だが、根本悠楓にも1年ローテに食い込み、それを守って、2ケタ勝利&150イニングを達成してほしい。ていうかいけるんじゃないかな。今、懸念材料はスタミナだけだ。3月の侍ジャパンでもまた大いに名を売ってもらいたい。自分のスタイルを見つけた根本悠楓に大注目なのだ。