STIパフォーマンスパーツで車両をうまく調律。「運転が上手くなる」妙を味わう|2023ワークスチューニンググループ合同試乗会_STI編|

自動車メーカー直系チューニングブランドであるTRD(トヨタ)、NISMO(日産)、STI(スバル)、無限(ホンダ)の4社で構成される「ワークスチューニンググループ」。主戦場のモータースポーツではしのぎを削るライバルだが、“サーキットの外”での活動=アフターマーケットでは、それぞれが各自動車メーカーの車両をベースにさまざまなカスタマイズ&チューニングパーツなどを扱うことから互いに競合しない立場にある。そこで、各社が情報交換をしながらそれぞれのブランドのレベルアップと商品開発の効率化を目指している。

 

また、モータースポーツやスポーツドライビングの振興を目的に、毎年各地でサーキット試乗会などの活動を合同で行っている。その活動の一環としてメディア向けの合同試乗会を実施。各社こだわりのアイテムを装着したマシンを一気に試せる機会を設けている。2023年は11月にモビリティリゾートもてぎで開催されたワークスチューニンググループ合同試乗会をブランド別に紹介する。

 

クロストレックとインプレッサでSTIパーツを体感

 

BRZのような車高の低いスポーティカーでも、フォレスターのような背の高いSUVでも、「運転が上手くなる」というコンセプトの下、ドライバーとクルマが一体化する動きを求めてボディの補剛パーツや空力パーツを設計・開発・商品化しているSTI(スバルテクニカインターナショナル)。

 

【画像】運転がうまくなる“フレキシブル”パーツが車両を調律

毎年恒例のワークスチューニンググループ合同試乗会にSTIが用意した試乗車は、クロストレックのリミテッドと、インプレッサ ST-HのSTIパーツ装着車。ともにパワートレーンは直噴2LのFB20型エンジンにモーターを組み合わせたeボクサーで、駆動方式は4WDだ。

 

「運転がうまくなるクルマ」とは

 

STIが目指す「運転が上手くなるクルマ」とは、操舵、制動、加速といったドライバーの意思が的確に伝わり「意のままに操れる」クルマのこと。その肝になるのが、角度が1度に満たない「微小舵角」でのステアリングレスポンス。この領域では内輪の働きがとても重要になるという。

 

「ステアリングを切り始めたときに、内輪をより正確に動かすことで操舵初期の応答遅れを小さくしていく。車高の高いSUV系のほうが、より顕著に効果を体感できます」と語る、開発副本部長の高津益夫氏。クルマがコーナーに入り旋回を始めるとタイヤの外向きに力が掛かる。サスペンションに対しては、少しバンプ(縮む)方向に力が働くので、グラッと車体が傾くようなロールを、内輪を使うことによって抑えられるという理屈だ。

 

操舵初期に応答遅れがあると、ドライバー側は反応がないので「もうちょっと切らなくちゃ」ということでステアリングを切り足していく。そのときに遅れて反応が返ってくると、ステアリングを戻すことになるが、戻す際にも遅れのあるクルマだと戻し過ぎてしまい、クルマの走行ラインがピシッと決まらずに、場面によって左右にクルマが泳ぐような動きになる。そこでSTIはゲイン(操作に対する反応の大きさ)を上げるのではなく「応答遅れ」を小さくするところに徹底的にこだわってクルマ作りを行っている。

 

「特にステアリングの切り初め、まだ横Gが出る前の段階。直進状態からステアリングを切った直後の動きに注力しています。フロントサスペンションにはキャスター角が付いているので、内輪は地面に潜り込むほうに動いて、外輪は接地点が少し浮き上がる方向に動きます。そこで内輪の力を上手く活用してあげることで『内輪主導での旋回』に持っていける。内輪で旋回を主導してあげて、穏やかにロールをさせるという思想でパーツを開発しています(高津)」

 

初期の内輪の動きを正確に動かすための部品が、フレキシブルタワーバー。旋回する=回転の「軸」ができなければならないので、素早くリヤタイヤのグリップを立ち上がらせてコーナリングの「軸足」を形成し、より正確にドライバーがコントロールできるようになる。リヤタイヤのグリップを立ち上げるための部材として「フレキシブドロースティフナー リヤ」をバンパーの中に仕込んでいる。

 

「基準車のプラットフォームはモデルチェンジのたびに進化していますが、やはり鉄板をプレスして、溶接で組み立てる構造を採っている以上、ほんのわずかですけれど、力の伝達を阻害する部分が存在するので、こういう補剛系のパーツを付けてあげると、微小舵の領域の応答性は確実によくなりますね。一瞬の力をすべてのタイヤに伝えるためには車体剛性の均一化、力の伝達を阻害するような要素をパーツで補完してあげることが有効だと考えております(高津)」

 

悪天候下の試乗で効果を実感

 

試乗時は横殴りの雨が降るヘビーウエットで、濡れた落ち葉でとても滑りやすい路面コンディション。こういう場面ではインプレッサよりも車高の高いクロストレックのほうが不利なイメージを抱くが、フレキシブルタワーバーとフレキシブルドロースティフナー リヤの効果を試すにはうってつけ。少しスピードを上げてコーナーに侵入してみても、例の「内輪主導の旋回」によって4輪すべてが路面をしっかり捉えながらオンザレール感覚でトレースできる。もちろんハンドリングも正確そのもので、一度舵を決めれば切り足し/戻しは不要。レーンチェンジも同様で、気持ちいいぐらいに操舵が一発で決まる。4輪の接地感が高いからこそ、タイヤのポテンシャルを存分に発揮できることをウエット路面で体感できた。

 

良音質なボクサーサウンドを奏でるパフォーマンスマフラー

 

筆者が強く印象に残ったのがパフォーマンスマフラー。センター出しデュアルテールのインパクトもさることながら、低振動でスムーズに吹き上がるFB 20型エンジンの回転数上昇に比例して澄んだ高周波のエキゾーストノートが高まる。タイコ部分には不快要素の「こもり成分」を取り除くための仕切りが設けられ、ドライバーや同乗者に耳触りのいいボクサーサウンドを届けてくれる。

 

アルミホイールセットもSTIならではのこだわりが。1本あたりの重量はインプレッサの17インチが純正品に比べて約0.6kg、クロストレックの18インチは純正品に対し約1.9kgの軽量化を実現。単に軽くするだけでなく剛性のバランスにも配慮した作りで、タイヤの性能を引き出す。

 

コンプリート車もパーツもレースカーも、すべて同じベクトルを向いて開発しているのがSTIの流儀。今回試乗したパフォーマンスパーツ装着車においても「意のままに操れて、運転が上手くなる」ことを体感でき、その結果として疲れにくく、安心・安全につながることは、スーパーGTやニュルブルクリンク24時間レースなどのモータースポーツでも実証済みだ。

 

〈文=湯目由明 写真=山内潤也〉