自動車メーカー直系チューニングブランドであるTRD(トヨタ)、NISMO(日産)、STI(スバル)、無限(ホンダ)の4社で構成される「ワークスチューニンググループ」。主戦場のモータースポーツではしのぎを削るライバルだが、“サーキットの外”での活動=アフターマーケットでは、それぞれが各自動車メーカーの車両をベースにさまざまなカスタマイズ&チューニングパーツなどを扱うことから互いに競合しない立場にある。そこで、各社が情報交換をしながらそれぞれのブランドのレベルアップと商品開発の効率化を目指している。
また、モータースポーツやスポーツドライビングの振興を目的に、毎年各地でサーキット試乗会などの活動を合同で行っている。その活動の一環としてメディア向けの合同試乗会を実施。各社こだわりのアイテムを装着したマシンを一気に試せる機会を設けている。2023年は11月にモビリティリゾートもてぎで開催されたワークスチューニンググループ合同試乗会をブランド別に紹介する。
■スカイラインNISMOをさらに好みの味付けに
「スカイラインの父」である櫻井眞一郎氏が初代社長を務めたオーテックジャパンと、1958年に豪州ラリーに初出場し、日本人として国産車で初優勝を飾った難波靖治氏が初代社長を務めたニッサン・モータースポーツ・インナーナショナル。両社を統合して2022年4月に発足したのが、日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)。そのルーツを知る者にとって、1000台限定で販売された「スカイラインNISMO」はとても感慨深い存在だろう。
【画像】スカイラインNISMOのパフォーマンスを高みへ押し上げるNISMOパーツ
今や希少な存在になりつつある、マルチシリンダーの内燃機に伝統のFRプラットフォームを組み合わせたV37型スカイライン。基準車におけるイメージリーダーは最高出力298kW(405馬力)の「400R」だが、コンプリートカーのスカイラインNISMOは同じV6・3LツインターボのVR30DDTT型エンジンを搭載しながら、スーパーGT・GT500レース用エンジンに携わった開発者が、同じ開発設備を使ってチューニングを施すことによって309kW(420馬力)までパワーアップ。最大トルクも475Nm(48.4kgm)から550Nm(56.1kgm)に引き上げられている。
伝統の「赤GTエンブレム」を冠した、グランドツーリングセダンのパフォーマンスをさらなる頂きへと導くのが、スカイラインNISMO/400R用のNISMOパーツ。
「スカイラインのパーツは、R34以降、V35やV36にも設定はありましたが、R34ほどの積極展開はしていませんでした。それがV37に400Rが設定されたタイミングでパーツをリリースすると、思いのほか反応がよく『やはりスカイラインというクルマには走りにこだわるコアなお客様な存在するんだな』ということを確信しました。400Rのパーツを作り込む過程で、いずれスカイラインNISMOが出ることも分かっていたので、400R/NISMO双方に使えるよう開発を進めました」と語る、NMCニスモ事業所・モータースポーツ・マーケティング&セールス部企画・営業グループ主管の碓氷公樹氏。
筆者は以前ワークスチューニングの試乗会で「スポーツリセッティングTYPE-2」を施工した400Rに試乗している。低速~中速域のブースト圧アップと高速領域での点火時期の変更を行い、エンジン出力特性の向上と全回転域でのフラットトルク化を実現。さらに、スポーツモードとスポーツ+モードでは中低速域でのアクセルレスポンスが向上するというもの。
実際にスポーツリセッティングTYPE-2による伸びやかな加速感や、大トルクを右足の踏み加減に応じて即座に引き出せるレスポンスのよさを確認できた。高純度チタン合金を使用することで純正マフラーの重量に比べて約50%という大幅な軽量化を実現したスポーツチタンマフラーのおかげで、エンジン回転数の上昇に比例して盛り上がるエキゾーストノートは雑味がなく、マルチシリンダー特有の重厚かつ耳触りのいい快音を奏でるのが印象的だった。
今回は400Rにも装着できる、スポーツ走行に必須の機械式LSDと全長調整式スポーツサスペンションキット、スポーツチタンマフラー、NISMO向けにスピードリミッターのみを変更した「NISMOスポーツリセッティングTYPE-1」、アルミロードホイール「LM GT4」を装着したスカイランNISMOのデモカーが用意された。
■機械式LSDの効果はてきめん
かつて400Rを試乗したときに強く感じたのが、左右のタイヤに同じ量のトルクを伝えるディファレンシャルギヤの差動を制限してタイヤの空転を抑えるLSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャル)の必要性。その効果はてきめんで、LSD非装着車ではコーナー脱出時にトラクションが伝わりにくく、やむを得ずアクセルを緩めたり、空転を察知してTCS(トラクションコントロールシステム)付きのVDC(ビークルダイナミクスコントロール)が作動して出力を抑えたり…といった具合で、せっかくのエンジンパフォーマンスを解き放てないというフラストレーションを感じたが、2ウェイの機械式LSDを装着したスカイラインNISMOは、コーナーの立ち上がりでトラクションを損なうことなく、左右のリヤタイヤが路面をしっかり捉えてクルマを前に押し出してくれる。
この機械式LSDは4ドアセダンというクルマの性格や街乗りの快適性などを考慮し、イニシャルトルクを低めに設定しているので、唐突なロックや異音、振動の発生を抑えている。
■日常の快適性と走りの楽しさを考慮した足まわりのセットアップ
LSDと同じくサーキットでのスポーツ走行を楽しめるポテンシャルを備えながら、街乗りでの乗り心地を考慮したセッティングの全長調整式スポーツサスペンションも設定。オーリンズ製をベースとし、日産純正ラバーマウントの採用やリヤのストローク延長、スプリングレートの変更により、コントロールのしやすさやコンフォート性能にもこだわった。この足まわりに合わせてセットアップを行ったのが、アルミ鍛造1ピースの19インチホイール「LM GT4」。重量はスカイラインNISMOのエンケイ製鋳造19インチに対し、1台分で約15kg軽量化。これにミシュランパイロットスポーツ4S(フロント245/40ZR19、リヤ265/35ZR19)を組み合わせている。路面のきれいなサーキットコースだけでなく、わだちや凸凹のある一般公道に近い外周路でもフラットライド感をキープし、乗り心地はいったって快適。効きの穏やかなLSDと相まって、FRスポーツセダンを意のままに操る醍醐味を堪能できる。
ファクトリーカスタムの極みであるNISMOロードカー、基準車のどちらにも自分好みのスタイリングや乗り味に「調律」できる楽しみを提案し続けるNISMOスポーツパーツ。電動車が幅を利かせるなか「純内燃機を積むスカイライン」にこだわるオーナーの琴線に触れるアイテムの、さらなる充実に期待したい。
〈文=湯目由明 写真=山内潤也〉