楽天グループは2月14日、2023年度通期および同第4四半期の決算を発表した。同日開催されたオンラインの決算説明会では三木谷浩史代表取締役会長兼社長が登壇し、決算内容の発表に加えて今後の楽天モバイルの戦略についてもくわしく説明した。
通期連結業績は27期連続の増収を達成、2023年12月には単月黒字
2023年度通期(2023年1月~12月)では連結売上収益が前年比7.8%増の2.07兆円となり、27期連続の増収を達成。第4四半期の連結業績は、売上収益が前年同期比3.3%増の5,801億円。Non-GAAP営業利益(損失)は36億円のマイナスとなったが、前年比では690億円の改善。2023年12月にはNon-GAAP営業利益で単月黒字を達成しており、2024年度は通期での黒字化達成を目指すとしている。
モバイルセグメントは赤字が続くも大幅に改善
モバイルセグメントでは、通期の売上収益が前期比3.9%増の3,646億円となった。Non-GAAP営業利益/Non-GAAP EBITDAはいずれも損失が続いているが、Non-GAAP営業利益はマイナス3,375億円、Non-GAAP EBITDAがマイナス1,791億円で、それぞれ前期から1,417億円/1,599億円の大幅な改善となった。
楽天モバイル株式会社の業績としては、売上収益/Non-GAAP営業利益/Non-GAAP EBITDAの3指標ともに全四半期で前年同期の業績を上回った。とくにNon-GAAP営業利益/Non-GAAP EBITDAは引き続き損失が出てはいるものの、期を通じて前四半期からの改善を続けており、2024年12月までに月次EBITDAの黒字化、2025年度は通期のEBITDA黒字化を目指すとしている。
モバイル事業はフェーズ3へ、2024年中に800~1,000回線を目指す
決算説明会で三木谷氏が長い時間を割いたのが今後の楽天モバイルの戦略についてだった。まず2024年度からは、事業基盤を確立するフェーズ1、リーンな経営を確立するフェーズ2を経て、事業を黒字化して国内No.1携帯キャリアを目指すフェーズ3に入るという。
2024年中のNon-GAAP EBITDA単月黒字化に向けての施策は、大きく3つの軸になるという。それが「契約回線数の伸長」「ARPUの伸長」「コストの抑制」だ。
契約回線数の伸長については、2023年12月時点で609万の契約回線数を2024年12月に800万~1,000万まで伸ばすことを目指していくという。この数字はなかなか厳しい目標のようにも思えるが、三木谷氏は2022年春ごろ~2023年夏ごろの停滞を無料プラン廃止の影響を受けたものであり、直近数カ月はその影響前の増加ペースを回復しているとみる。
回線契約獲得に向けては、「低価格なら楽天モバイル」というイメージがユーザーの間に形成されていること、通信品質の改善が進んでいることをポジティブな材料として挙げた。とくに通信品質は、これまでの解約者の多くが解約の理由として挙げていた項目だそうで、通信品質の改善が進んだことで現在は解約率を引き下げられており、ポイント目当ての短期利用者を除く調整後月次解約率が2023年12月には1.13%まで下がっているという。
KDDIとの新ローミング契約によるネットワーク最適化も計画どおりに進捗しており、繁華街は2月までにおおむね作業が完了。その他のエリアでも作業を進めている。引き続き通信品質の改善を進めるとともに、情報公開などでユーザー側にある楽天モバイルの通信品質についての懸念を解消していく構えだ。
回線数慎重はB2C/B2Bの2軸で
通信品質の懸念が解消され、B2B向けのプランも整備されたことで、目標の800万~1,000万回線獲得に向け、B2C/B2B双方に積極的な施策を獲得していく方針だ。そのひとつのキーは、楽天エコシステム内にいるユーザーへの回線契約獲得強化。これまで何度も強調されてきたとおり、楽天モバイルユーザーは楽天のさまざまなサービスを積極的に利用する傾向が強く、楽天モバイルへの加入促進が楽天グループ全体のユーザー活性化につながることから、引き続きこの点には力を入れていく。
具体的な獲得促進施策としては、まず紹介キャンペーン第3弾を挙げた。紹介キャンペーンはB2Cのユーザー獲得において大きな効果を上げているそうで、累計では25万人がこのプログラムを利用して加入しているという。2月1日には内容をアップデートして強化を図っている。
そしてこの決算発表の前日に発表されたのがファミリー向けの割引プログラム「最強家族プログラム」だ。これまで、三木谷氏が知人に楽天モバイルへの加入を勧めても家族割を理由に断られることが少なくなかったそうで、前述の紹介キャンペーンと合わせてB2Cのユーザー獲得の後押しとなることを強く期待しているようだ。
B2B領域では、これまでパートナーへの導入やトップセールスで成果をあげてきたが、リセラー/代理店も活用して営業ルートでの獲得にも力を入れ、とくに大企業獲得を加速したいと語った。
ARPUは2,500円~3,000円を目指す
ARPUは2024年度終わりに2,500円~3,000円を目指すという。2023年度はARPUの伸びが止まっており、2023年第4四半期時点では1,986円と前四半期から若干のダウンとなっているが、B2B/B2CそれぞれのARPUは上昇しており、B2CとB2Bの比率の変化とB2B加入者の加入初月の課金額が日割り計算で行われることの影響が大きいという。加入月の料金が日割り計算となることを考慮に入れた計算では2023年度第4四半期のARPUは2,046円となり、前四半期からほぼ横ばいという水準を維持しているようだ。
とはいえ、目標としている2,500円~3,000円との間にそれなりのギャップがあるというのも事実。無料プランから有料プランへの転換というような契機もなく、引き続きB2Bでの回線獲得を進めていく中で、どのようにしてARPUを引き上げていくかには注目したいところだ。質疑応答でもどのようにしてARPU2,500円を達成するのかという質問があったが、三木谷氏は「手の内は言えませんが、さらにサービスを追加していくなど、いくつかの施策は必要かなと思っています」とし、具体的な収入源としては広告やiPhoneのRCSオープン化を挙げたほか、他にも新たなオプションの追加で増収を図っていく考えも示した。
なお前述の「最強家族プログラム」がARPUに与える影響については、値引きによってARPUを下押しする影響があるかもしれないとしながらも、「家族全員で入ってくれればひとりくらいは無制限で使ってくれる人がいるかなと」と、影響は限定的だと考えているようだ。
コスト削減については2023年に「劇的」という削減を行い、削減額は期初目標の150億円を上回る160億円となった。設備投資もKDDIとの新ローミング契約もあり、投資額は順調に下がってきているとのこと。獲得となった700MHz帯のプラチナバンド関連の設備投資は生じるものの、仮想化の活用で低費用で実現できるとした。
最後に三木谷氏はNTT法の廃止について言及。楽天モバイルの参入により価格競争が生まれている現状において、現在の競争環境を定義しているNTT法の廃止は競争環境に悪影響であり、慎重な議論のうえで対応すべきだと、あらためて同法の廃止に反対を表明した。