私はこの車を好きになりたいと思っていた。これは、1965年型のフォード・マスタングをEVに改造したものだ。正直に言うと、私は電気モーターの貧弱なうなり声よりも、V8エンジンの直感的なうなり声の方が好きだ。とはいえ、頭ごなしにこのような車を否定するわけではない。今時、マスタングは決して珍しい車というわけではないし、EVコンバージョンが未来的だと感じる人がいるのも理解できる。個人的にはそう思わないが(合成燃料の方がクラシックには理にかなっていると私は思う)、まあ人それぞれだろう。
【画像】EV化されたレストモッド・マスタングに試乗!(写真3点)
しかし、自分の偏見が覆されるのは決して悪いことではない。過去に1966年型マスタング289ノッチバックのオーナーだった私は、実を言えばこの新しい電動バージョンがどんな感じなのか興味があった。赤と金のレーシングコルチナやエスコートをはじめ、ファルコンやGT40など、さまざまなレーシングカーで知られるアラン・マン・レーシングが手掛けたということもあり、良い車であるという確信はあったのだ。アランの息子であるヘンリーとトムが経営するAMRは、ヒストリックレースカーのスペシャリストとしてこの界隈では有名だ。
この車はマンコープというアメリカの会社と共同で製造されたもので、『Octane』での試乗の後、すぐにアメリカへ送られることになっていた。偶然にも、マンコープはAMRのマン一族とはまた別のマン一族が所有しており、このプロトタイプを依頼したCEOの名前は偶然にもヘンリー・マンという名前でAMRのヘンリーと同じ名前だ。マンコープは精密電子工学の分野で長い歴史を持ち、英国外でマスタングを販売するために子会社マン・イーパワー・カーズを設立した。
ヘンリー(イギリス人の方)は、EVマスタングがAMRにとって革新的であったと考えている。
「多くのレーシングカーを手掛けてきたこともあり、長い間レストモッド・マスタングを作りたいと思っていたんです。電動プロジェクトに足を踏み入れたかったのですが、シカゴのオートショーで私の名前の由来となる人物に出会ったことが、それを実現するきっかけとなりました」
この車は、錆ひとつないオリジナルのボディをベースにしているのだが、ボルトで固定されているものはほぼすべて新品だ。サブフレームは3つあり、フロントとリアにそれぞれ1つずつ、特注のコイル&ウィッシュボーン式独立サスペンションを搭載している。
AMRはEVコンバージョンの世界ではビギナーであるため、技術的な面ではエセックスを拠点とするスペシャリストであるEcoClassicsに協力を仰いだ。その結果、マスタングは、バッテリーパックをボンネットの下に搭載し、さらにガソリンタンクがあった場所にもバッテリーパックを搭載している。これにより、50:50に近い重量配分を実現し、分割プロペラシャフトを介して後輪を駆動する電気モーターに電力を供給している。
「電気モーターとリダクション・ボックスは、フォードのギアボックスがあった場所にきちんと収まっています」とヘンリーは付け加える。ステアリングはラック&ピニオン式だ。
結果として、重量はベースモデルよりわずかに重くなったが、300馬力に相当するパワーを発揮し、航続距離はおよそ220マイルに達した。私が覚えている限りでは、後者の数値は当時のV8に匹敵する。
室内は、モダンなフロントシートを除けば、すべてノーマルと変わらない。マスタングのメーターは巧みに再利用され、バッテリーとその充電状態に関する情報が表示される。伝統的なキーも健在で、右にワンクリック回すと「イグニッション」(エレクトロニクスを制御する別の12Vバッテリー)が作動し、点滅するライトが完全に点灯するのを待ち、さらにもう少し回すとモーターが起動する。ドライブ/ニュートラル/リバースの「ギア」はレバーを引くだけで選択でき、将来のカスタムカーにはエコ/スポーツ/ローンチコントロールのドライブモードが搭載される予定だ。このプロトタイプは現在、デフォルトでスポーツモードになっている。
ヘンリーを助手席に乗せ、私はマスタングをファイロークス空港の敷地からサリー州の道路へと走らせた。そして、ここから少しハードになる。アシストなしのステアリングは、ラック&ピニオンだが、走り出すと腕が疲れてしまうほど重い。パワーアシストは必要だろう。
しかし、その重いステアリングが、この車のトーンを決めていると言っても過言ではない。信じられないかもしれないが、オリジナルの289マスタングは、実は非常に繊細に操ることのできる車だ。コンディションが良ければ、初期のマスタングはシャープにハンドリングし、コーナーでも寸分の狂いもなく思い通りのラインを走ることができる。
一方でこのEVマスタングはそのキャラクターという点では対極にある。ステアリングは正確でコーナリングもフラットだが、車の重さを感じるし、荒めな乗り心地は、路面の整ったサーキットであれば許容できるかもしれないが、公道ではそうもいかない。今回ばかりは、重さを純粋にバッテリー重量だけのせいにはできない。ノンアシスト・ステアリング、幅広のロープロファイル・タイヤ、サスペンション・トラベルの制限という不幸なコンボが原因だ。このePowerマスタングを、ノーマルの289ではなく、GT350のような1960年代のホットなオリジナルと比較したとしても、繊細さは感じられない。
もちろん、0-60mphは5.7秒と速いが、電気モーターの回転数によって最高速度は97mphに制限される。性能に不満はなく、加速時には心地よいタービンのようなヒューヒューという音が響くが、これがなければこの車のドライビングエクスペリエンスはそれほど際立たないかもしれない。ヘンリーの名誉のために言っておくが、彼はこのフィードバックを素直に受け止め、特にリアサスペンションが現状ではまだ厳しいと認めている。現状、最高速度は控えめだが、より高いファイナルドライブ比(デフは最新のマスタング・ユニット)に交換すれば簡単に上げることができる。
これがタイトなスケジュールで作られたプロトタイプであることを念頭に置けば、ePowerマスタングには賞賛すべき点もたくさんある。ディテール、仕上げの質、そして性能と航続距離のバランス。
しかし、私は2つの大きな欠点があると感じた。ひとつは、もはやマスタングという感じがしないこと。市販車のNASCARシルエットレーサー版のようだ。もうひとつは価格だ。ターゲット市場であるアメリカでは、ePowerの小売価格は約30万ドルで、それだけあればオリジナルのV8と大量のガソリンを買うことができる。というわけで、結論としては、あなたが「アーリーアダプター」になりたいのであれば是非といったところだろう。
文:Mark Dixon