かつて絶滅の危機、保護対象だったツキノワグマ
ツキノワグマは日本の本州と四国に生息するクマだ。胸に三日月のような白い模様があり、その名の由来となっている。北海道に生息するヒグマに比べれば小さいものの、大きい個体では体重が100キロを超えることもあり、力も強い。
日本では高度経済成長期に森林伐採が進んだことでツキノワグマの生息域が狭まり、数を急速に減らしたため絶滅危惧種とされ、捕獲が禁止されていた。四国山地では現在も個体数が少なく、保護活動が行われている。
しかし近年、ツキノワグマによる農作物や人への加害が増えている。農作物を食害する例は多数報告されているが、中には家屋や倉庫に侵入した例もある。背景には2023年に森林でクマがエサとしているドングリなどの堅果類の不作があったとされるが、理由はそれだけではない。
クマが生息するエリアと人里の距離は近くなっていて、しかも高齢化や過疎でクマなどの害獣の対策をする人手がないところも多い。その上、人が暮らす地域には果樹や野菜など多くのエサがある。その魅力に取りつかれれば、何度もやってきて食べようとし、いずれ人とも遭遇する。そんな中でさまざまな事故が起こっていると考えられている。
このような被害が数多く発生した秋田県や北海道などが2023年11月、クマを指定管理鳥獣に指定してほしいと要望。このほど専門家による特定鳥獣保護管理検討会が「クマを指定管理鳥獣に追加して国が捕獲や調査などの管理を支援する必要がある」という提言をした。
モニタリングで個体数を把握
兵庫県では1992年に県内に生息するツキノワグマの推定生息数が100頭未満となり、猟友会が狩猟を自粛。1996年には県が狩猟禁止を告示し、保護施策を行うようになった。
2011年からは、シカ・イノシシ用のわなに誤ってかかった錯誤捕獲のクマにマイクロチップを装着して放獣しモニタリングをすることで、クマの生息個体数を推定できるようになった。この推定は、安定的な生息数を維持しながら適切なクマの管理を行うことに役立っている。
ゾーニングでクマの生息域と人のエリアを分けて管理
保護施策が功を奏すと数が増え、クマの目撃や人身への被害も発生するようになった。2016年、県内での推定生息数が800頭を超えたため、ツキノワグマの狩猟を再開した。
翌2017年、兵庫県では絶滅危機の状態は解消したと判断し、これまでの保護施策から管理施策へ転換。クマの生息域である「森林ゾーン」、里山などの「集落周辺ゾーン」、農地や住宅など人の活動が盛んな「集落ゾーン」の3つにゾーニングして管理を始めた。
森林ゾーンでは突発的に人とクマが遭遇してしまう可能性があるため、森林に入る人に十分な注意喚起や情報提供を行う。
集落周辺ゾーンでは森林との境にあたるバッファーゾーンとなる場所をきれいに整備してクマの隠れ場所をなくしたりして、クマが人里に近づきにくい環境を作った。
集落ゾーンでは、クマを誘引する放置果樹などの除去が有効だ。さらに電気柵の設置や爆竹などによる追い払いなど、地域でできることを徹底した。さらに、市町村主催の住民に対するクマ対策についての学習会を通じて、「有害個体の駆除と被害対策は、クマ対策の両輪である」という意識付けを行っている。
有害個体の捕獲の強化
それまでも、主に集落ゾーンにクマが出没していて人身被害の発生の危険性がある場合のみ、「クマ用ドラム缶オリ」と誘引用のエサを使って有害個体を捕獲していた。
2017年からは集落に出没する可能性のある集落周辺ゾーンでの有害個体の捕獲を強化している。
こうした対策を通じて、兵庫県での人身への被害はここ5年間で6件にとどまり、被害が起こっていない年もある。全国で被害が頻発した2023年は、兵庫県内でもブナやミズナラの実などの堅果類が不作だったが、一件も人身被害が起こっていない。
これからも対策は続く
こうした兵庫県の取り組みは各地の注目を集めている。
これまでの取り組みについて、2024年2月17日にはツキノワグマに関するシンポジウムが行われ、具体的な事例が紹介される予定だ。クマと人間が適切な距離を保って共存するためのヒントがあるかもしれない。
2023年度森林動物研究センターシンポジウムを令和6年2月17日(土)13:00~16:10 オンラインにて開催いたします📢参加費無料、事前申込制です。以下のURLからお申込みください☟
— 兵庫県森林動物研究センター (@hyogowildlife)
取材協力:兵庫県森林動物研究センター