軽自動車で荷物の配送を行う現役ドライバーの声から生まれたクルマ「ASF2.0」に試乗した。電気で走る商用軽バンはラストワンマイル配送の担い手として活躍が期待される乗り物だが、ASF2.0にはどんな工夫が盛り込まれているのか。詳しく見ていきたい。

  • 軽商用EV「ASF2.0」

    「ASF2.0」は電気で走る「はたらくクルマ」だ

佐川急便のプロドライバー7,200人に聞きました

「ASF2.0」はASFという会社が企画・設計を担当し、中国の五菱(ウーリン)が生産を手掛ける軽商用EV。ASFの営業担当によると、同社は日本国内初の商用EVベンチャーとして2020年に設立した会社だという。

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    「ASF2.0」は容量30kWhのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを搭載。フル充電で243km(第三者機関による測定)の走行が可能だ。同社によれば一充電走行距離は国内軽車両EVで最長とのこと。ちなみに、三菱自動車工業の軽EV「ミニキャブEV」は20kWh(180km)となっている

このクルマの開発にあたりASFは、軽自動車で配送業務を行う佐川急便のドライバー7,200人にアンケートを実施し、クルマへの要望や不満を聞き取ったうえで、さまざまな機能や装備を盛り込んだ。

  • 軽商用EV「ASF2.0」
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  • ボディサイズは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,950mm、荷室寸法は長さ1,690mm、幅1,340mm、高さ1,230mm。最大積載量は350kg

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  • 「ASF2.0」は2シーター(前の2席しかない)のクルマ。軽自動車を使った小口配送業務はドライバー1人で行うことが多いので、運転席側のシートの幅を広くしてある。座ると暖かいシートヒーターも運転席に標準装備。前席の後ろについているカーテンを併用して暖房の使用を抑えればクルマの電力の節約につながり、結果として走行可能距離が伸びる

  • 軽商用EV「ASF2.0」
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  • 荷室は床がフラットでタイヤの部分に出っ張りがなく、荷物を効率的に積載できる

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    荷室の下の部分(4シーターのクルマであれば、折りたたんだシートを格納する部分)も有効活用。右側には台車を入れておけるスペースがある

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    左側にはクルマの充電用ケーブルなどの小物をしまえる引き出しが付いている

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    荷室の天井には大型のLEDを搭載。バックドアを開くと自動的に点灯する。夜間の配達で伝票を書く際などに便利な装備だ。前席にもルームランプとは別にLEDが付いている

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    前席の頭上に収納スペース。こういう収納は他のクルマでも見かけるが、「ブレーキをかけた際に中のものが滑り落ちることがある」との声を受けてフタをつけた。ティッシュ箱をさかさまにして格納しておけば、下のスリットから簡単に引き出せる

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    ドリンクホルダーは通常の丸形のペットボトルも入るし、四角いパックに入った飲み物も立てておける。パック飲料を飲むドライバーさんがけっこう多いという調査結果を踏まえた工夫だ

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  • 標準装備で10.1インチのディスプレイを搭載。USBケーブルあるいはBluetoothでスマートフォンと接続すれば、画面をそのままミラーリングすることができる。スマホに地図を表示させてミラーリングすればナビ代わりになる。運送業者が使っている独自のアプリを画面に投影することも可能だ。ASFではアプリ開発の相談も有償で受け付けているとのこと。このクルマにはSIMが入っているので、いわゆる「コネクティッドサービス」を活用することも可能だ

  • 軽商用EV「ASF2.0」
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  • 100V(1,500W)のコンセント付き。車内でのPC作業や災害時の電源供給などに使える。災害対策での使用も視野に入れた地方自治体からの問い合わせも増えているとのこと

はたらくEVって乗るとどうなの?

もともと軽自動車はそんなにパワーがないし、配送業務だと荷物を積んで重くなるので、ガソリンエンジン車ではアクセルペダルを踏みこんでもなかなか進まなかったり、特に上り坂などでは大きな音がしたりするという弱点があった。そのあたりについてASFの営業担当は、「EVだとトルクが約2倍ですから、軽く踏んでも進んでいきます」と説明する。200kgくらいあるバッテリーを車体中央の床下に積んでいるため、荷物を載せていない軽い状態でもふらつかないそうだ。

実際に運転してみると、確かにガソリンエンジンの軽自動車よりもパワフルな走りであることが実感できた。ただ、テスラなどに比べるとペダルを踏みこんだ際の加速はかなりマイルド。このあたりは「ガソリン車と同じ感じで踏んでも違和感がないように」という現役ドライバーからの要望を踏まえた味付けにしてあるという。急加速すると積んだ荷物が崩れかねないわけだし、よく配慮された乗り味だと思った。自動ブレーキなどの安全装備についても基本的なものは押さえてあるとのことだ。

EVといえば静かな走りが特徴だが、ASF2.0の場合は車内にモーター音がけっこう聞こえる。遮音はコストをかければできたはずだが、商用車は価格を抑えて作ることも大事なので、そのあたりは割り切ったのかもしれない。ただ、エンジンのようにうなりを上げるような音ではないので、気分的にはEVのほうが楽ではあると思う。

  • 軽商用EV「ASF2.0」
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  • 「ASF2.0」は出発の際、シートベルトを装着しないとシフトが操作できない。クルマを止めた後は、シートベルトを外した状態でドアを開けると、シフトが「D」に入っていたとしても自動的に「P」に切り替わる。どちらもドライバーさんの安全を考えた仕組みだ

商用EVの競争は激化する?

ASF2.0はすでに日本の公道を走り始めている。佐川急便では実証実験用として6台ほどを運用していたが、2024年3月からは車両を増やしていく予定。マツキヨココカラではECの個別配送用として約100台が稼働している。

軽商用EVの世界には2024年にホンダ「N-VAN e:」が登場するし、トヨタ自動車、スズキ、ダイハツ工業も車両を開発中だ。ミニキャブEVや海外から入ってくる車両も含めライバルは増え続けるが、佐川急便のドライバーから聞き取った生の声を参考に作ったという点はASF2.0の強みとなるだろう。価格は260.7万円で各種補助金が使える。基本はリースで使う形だ。ちなみに、「コスモMyカーリース」のHPを見ると、事業用車の「国+東京都の補助金込みリース料」として「月々2万2,990円」との表示があった。かなり安いのではないだろうか。

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