4月施行の労働条件明示ルールの変更は労使関係にどのような影響を及ぼすか?

■労働条件明示のルール変更とは?

現在、使用者は労働契約を締結する際・更新する際に、一定の労働条件を労働者に明示しなければならないことになっています。その労働条件を明示する際のルールについて、今年の4月1日から、重要な改正が施行されます。その内容をご存じでしょうか?

内容を読むと労働契約の締結時や更新時の明示事項が増え、説明義務が強化されただけにみえるかもしれませんが、労使双方にとって重要な改正です。

改正の内容は、有期労働者にのみ適用される変更と、全ての労働者に適用される変更の2つに分類されますが、今回は、有期労働者に適用される変更について解説します。

■条件を満たした有期労働者は無期労働契約へ転換の申込ができる!?

意外と知られていないことですが、実は、現在でも、同一の使用者との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、労働者が申し込めば、有期労働契約が期間の定めのない労働契約に転換されます。労働者が申し込んだ場合、使用者は拒否することができません。いわゆる無期転換ルールと呼ばれるものです。

条件等はあるものの、既に、有期労働者にとって雇用の安定につながる制度があるのです。しかし、残念ながら、十分に活用されているとはいえない現状があります。

その理由はいくつか考えられます。無期労働契約に転換されることを希望しない有期労働者がいらっしゃるようです。無期労働契約に転換されると、業務内容の拡大や責任の増加等の懸念があるからという理由のようです。そして、無期転換ルールの存在自体をご存じない方が多くいらっしゃることが調査でわかっています。また、無期転換ルールはご存じでも、ご自身に無期転換申込権が発生しているかわからない方もいらっしゃいます。

そこで、これらの問題点を解消するための改正がなされたのです。以下で、改正の概要についてご解説します。

■労働条件明示の新ルールの具体的な内容

A 無期転換ルールの認知度向上のための改正

前述の通り、無期転換ルールをご存じでない有期労働者が多いことが調査でわかっていますので、無期転換の申込権が発生する契約の更新のタイミングごとに、使用者が有期労働者に対して、「無期転換の申込をできること」を書面で明示することが必要になりました。

B 有期労働者が無期転換の申込権を行使するかどうかを検討しやすくするための改正

無期労働契約に転換された後の労働条件がわからないと、無期転換を申込むかどうかを有期労働者が検討しがたいため、使用者は有期労働者に対して、無期転換後の労働条件を書面で明示することが必要になりました。なお、無期転換の申込権が発生する契約の更新のタイミングごとに必要です。

なお、就業規則や個々の労働契約等で特別の定めを設けなければ、契約期間以外は、無期転換する前と同じ労働条件となります。

C 労使の認識の違いから起こるトラブル防止のための改正

更新の上限を設けること自体は問題ありませんが、もし、更新の上限がある場合には、例えば、「契約期間は通算3年を上限とする」などと内容を明示しなければならなくなります。有期労働契約の締結時・及び更新のタイミングごとに明示が必要ですので、更新の上限がある会社では働きたくないという場合、入社しないという選択を有期労働者はすることができるようになります。

他にも、いくつか改正事項があります。詳細な内容は厚生労働省のWEBサイトでご確認ください。

■労働条件明示ルールの改正の意味するところ

冒頭で述べた通り、今年4月施行の改正は、表面上は労働契約の締結時や更新時の明示事項が増えたり、説明義務が強化されたりしただけに見えるかもしれませんが、労使双方にとって大きな影響がある改正ではないでしょうか?

有期労働契約で働いている労働者の間で、無期転換ルールの認知度は向上するはずです。また、無期労働契約への転換を申込むかどうか検討しやすくもなります。したがって、今後は、無期転換を申し込む有期労働者が増えていくことになると思われるからです。

(小嶋 裕司:社会保険労務士)