俳句には、詠む時期に応じた季語を入れるのが基本的なルールです。また、ただ何となく暖かいから春の季語を使う、ということではなく、使える期間が決まっているため注意が必要です。実は立春(りっしゅん)、つまり2月4日頃から、もう春の扱いになります。
本記事では、俳句で使える春の季語の一覧を、時期別、さらに花などの植物、鳥に猫などの動物、食べ物、自然、行事といったジャンル(種類)に分けて紹介します。春の季語を使った俳句の例や、季語の意味もまとめました。
【春の季語の一覧】「三春(2月4日~5月4日頃)」の季語と俳句例
季語において、春全体を通じた時期は「三春(さんしゅん/みはる)」と呼ばれます。年によって正確な期間は異なるものの、二十四節気の立春(りっしゅん)、つまり2月4日頃から、立夏(りっか)の前日、つまり5月4日頃までが該当します。
この三春の期間に使える俳句の季語一覧と、俳句例を紹介します。
「三春」の季語一覧表
ジャンル | 季語の例 |
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時候・行事 | 暖か/伊勢参/麗か/開帳/木の芽時/春暁(しゅんぎょう)/春昼/遅日(ちじつ)/長閑(のどか)/花時/春祭(はるまつり)/春の朝/春の暮/春の日/春の夕/春の宵/春の夜/春祭/日永(ひなが)/遍路 |
自然 | 淡雪/朧月/朧月夜/霞/風光る/佐保姫(さおひめ・さほひめ)/春園/春光/春塵(しゅんじん)/春潮(しゅんちょう)/春泥(しゅんでい)/春霖(しゅんりん)/霾(つちふる)/東風/春風/春北風(はるきた)/春雨/春時雨/春疾風(はるはやて)/春田(はるた)/春の雨/春の海/春の園/春の霞/春の風/春の雷/春の川/春の雲/春の霜/春の空/春の月/春の土/春の波/春の野/春の星/春の水/春の霙(はるのみぞれ)/春の山/春の闇/春の雪/春日和/春三日月/斑雪/山笑う・山笑ふ/ようず |
生活・食べ物 | 青饅(あおぬた)/胡葱膾(あさつきなます)/朝寝/貝合/雁瘡癒ゆ(がんがさいゆ)/雉笛/木の芽田楽/木の芽味噌/木の芽和/駒鳥笛(こまぶえ)/蜆汁(しじみじる)/春意/春興(しゅんきょう)/春愁/春闘/春燈/春眠/白子干(しらすぼし)/石鹸玉/耕(たがやし)/凧/田螺和(たにしあえ)/摘草(つみくさ)/野老掘る(ところほる)/麻疹/畑打/春袷(はるあわせ)/春外套/春炬燵/春障子/春ショール/春セーター/春暖炉/春手袋/春の風邪/春の夢/春の炉/春火鉢/春服/春帽子/雲雀笛(ひばりぶえ)/風車/風船/鮒膾(ふななます)/ぶらんこ/目刺/若布和(わかめあえ)/若布刈る(わかめかる) |
動物 | 赤貝/海豹(あざらし)/浅蜊・浅利(あさり)/虻(あぶ)/貽貝(いがい)/板屋貝/鶯/馬蛤貝(まてがい)/落とし角/蛙/花鳥/亀鳴く/河烏(かわがらす)/河原鶸(かわらひわ)/雉(きじ)/狐の子/囀(さえずり)/栄螺(さざえ)/さより/雀の巣/簾貝(すだれがい)/巣箱/蝶/月日貝/燕の巣/鳥の巣/蜂/蜂の巣/鳩の巣/蛤/春鰯(はるいわし)/春の鹿/春の鳥/春の蠅/雲雀/雲雀の巣/望潮(しおまねき)/眼張(めばる)/百千鳥(ももちどり)/山鳥 |
植物 | 青海苔/青麦/いぬふぐり/伊予柑/木の芽/クレソン/黒布(くろめ)/桜海苔/三宝柑(さんぽうかん)/シクラメン/春菊/春林/白藻(しらも)/沈丁花/菫/芹(せり)/種芋/萵苣(ちしゃ)/角叉(つのまた)/椿/薺の花(なずなのはな)/香菫(においすみれ)/ネーブル/八朔柑(はっさくかん)/花/春椎茸/春菜/春の草/鹿尾菜(ひじき)/雛菊/古草/へご/防風(ぼうふう)/松海苔/海松(みる)/海雲(もずく)/蓬/若布(わかめ) |
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代表的な「三春」の季語の意味と、俳句例
三春の季語のうち「麗か(うららか)」とは、晴れた日の明るくのどかな様子や、春の光によって物事か輝いてみえる様子を表しています。
【俳句の例】
- うららかや猫にものいふ妻のこゑ(日野草城)
「山笑う(山笑ふ)」は、春の明るい陽射しに照らされて、生気に溢れた山の様子を表しています。
【俳句の例】
- 故郷(ふるさと)やどちらを見ても山笑う(正岡子規)
「春雨(はるさめ)」や「春の雨」は、春にしとしとと降る雨のこと。草木や花の成長を促します。
【俳句の例】
- 春雨や蜂(はち)の巣つたふ屋ねの漏(もり)(松尾芭蕉)
【春の季語の一覧】「初春(2月4日~3月4日頃)」の季語と俳句例
三春の中でも、春の始まりの時期を「初春(しょしゅん/はつはる)」と言います。初春が該当するのは、二十四節気の立春を迎えた2月4日頃から、啓蟄(けいちつ)が始まる前日である3月4日頃までです。
冬のイメージが強い「氷」や「雪」が含まれる「薄氷」「堅雪(かたゆき)」なども、春の季語となります。
この初春の期間に使える俳句の季語一覧と、俳句例を紹介します。
「初春」の季語一覧表
ジャンル | 季語の例 |
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時候・行事 | 安吾忌(あんごき)/魚氷に上る(うおひにのぼる)/雨水/うりずん/御灯祭(おとうまつり)/かの子忌/獺魚を祭る(かわうそうおをまつる)/寒明(かんあけ)/祈念祭/旧正月/句仏忌(くぶつき)/建国記念日/冴返る/謝肉祭/春寒/初春/霽月忌(せいげつき)/早春/多喜二忌/遅春/二月/二月尽(にがつじん)/二の午(にのうま)/初午(はつうま)/針供養/春浅し/春まけて/春めく/バレンタインの日/余寒/立春 |
自然 | 薄氷/荻の焼け原/堅雪(かたゆき)/焼野(やけの) |
生活・食べ物 | 藍蒔く/鶯笛(うぐいすぶえ)/鶯餅/梅見/魞挿す(えりさす)/甘蔗植う/桑植う/芝焼く/白魚飯/剪定/野焼/海苔掻き/畑焼く/花菜漬/春スキー/味噌豆煮る/麦踏/山焼 |
動植物 | 飯蛸(いいだこ)/岩海苔/鷽/梅/黄梅/片栗の花/桔梗の芽/菊苦菜(きくにがな)/クロッカス/紅梅/桜島大根/白魚/猫の恋/猫の目草/猫柳/海苔/はこべ/春の蕗(はるのふき)/蕗の薹(ふきのとう)/菠薐草(ほうれんそう)/松雪草/金縷梅(まんさく)/壬生菜/ミモザ/雪虫/公魚(わかさぎ) |
代表的な「初春」の季語の意味と、俳句例
「春浅し」は、立春を過ぎて暦の上では春となったものの、まだ寒さが残り、春めいていない様子を表します。
【俳句の例】
- 春浅し梅様まゐる雪をんな(泉鏡花)
「早春」も同様に、立春後に感じられる、冬と春の狭間を表した言葉です。
【俳句の例】
- 早春の庭をめぐりて門を出(い)でず(高浜虚子)
「猫の恋」は、猫がこの季節に相手を求め、変わった鳴き声を上げることが多いことなどを表現しています。
【俳句の例】
- うらやまし思ひ切る時猫の恋(越智越人)
【春の季語の一覧】「仲春(3月5日~4月4日頃)」の季語と俳句例
三春の中でも、春の半ばの時期を「仲春(ちゅうしゅん)」と言います。仲春が該当するのは、二十四節気の啓蟄(けいちつ)を迎えた3月5日頃から、春分(しゅんぶん)を経て、清明(せいめい)が始まる前日である4月4日頃までです。
「進級」「卒業」「入学試験」のように、学校行事に関わる言葉も多いです。
この仲春の期間に使える俳句の季語一覧と、俳句例を紹介します。
「仲春」の季語一覧表
ジャンル | 季語の例 |
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時候・行事 | 赤彦忌/浦佐の堂押/大石忌/お水取り/春日祭/鑑三忌/妓王忌/啓蟄/月斗忌/兼好忌/元政忌/光悦忌/事始/西行忌/犀星忌/三月/四旬節/春社/春分/春分の日/丈草忌/鷹化して鳩と為る/竹冷忌/仲春/灰の水曜日/春場所/彼岸/彼岸会/雛納め/雛流し/雛祭/緑の週間/利休忌/龍天に登る/若狭のお水送り |
自然 | 貝寄風(かいよせ)/酒星/残雪/雪崩/涅槃西風(ねはんにし)/春一番/春出水(はるでみず)/彼岸潮/彼岸西風(ひがんにし)/水温む(みずぬるむ)/雪解雫(ゆきげしずく)/雪しろ/雪解/雪の果/雪間(ゆきま)/流氷 |
生活・食べ物 | 麻蒔く/植木市/五加飯(うこぎめし)/厩出し/外套脱ぐ/南瓜蒔く/観潮/雁風呂/菊根分/北窓開く/木流し/木の実植う/木の芽漬/枸杞茶/枸杞飯(くこめし)/草餅/車組む/挿木/四月馬鹿/菖蒲の根分/治聾酒(じろうしゅ)/白酒(しろざけ)/進級/卒業/大試験/種井(たない)/種池浚い(たないけさらい)/種選(たねえらび)/種物/胴着脱ぐ/苗木市/苗床/苗札/入学試験/根分/農具市/萩根分/春休/雛あられ/干鰈/蒸鰈(むしがれい)/屋根替/雪割/落第/山葵漬(わさびづけ)/蕨狩/蕨餅 |
動植物 | 鳥雲に入る/蒜/野蒜(のびる)/白鳥帰る/初蝶/初花/春大根/蟻穴を出づ/虎杖/海猫渡る/雁帰る/帰雁(きがん)/菊の苗/黄水仙/草青む/熊穴を出づ/子持鯊(こもちはぜ)/山椒の芽/地虫穴を出づ/春蘭/酸葉(すいば)/薇(ぜんまい)/楤の芽(たらのめ)/蒲公英(たんぽぽ)/土筆(つくし)/蔦の芽/茅花(つばな)/燕/鳥帰る/韮/彼岸桜/彼岸河豚(ひがんふぐ)/蟇穴を出づ(ひきあなをいず)/引鴨/引鶴(ひきづる)/双葉/水草生ふ/雪代山女(ゆきしろやまめ)/喇叭水仙(らっぱすいせん)/若紫/蕨 |
代表的な「仲春」の季語の意味と、俳句例
「彼岸」「お彼岸」というのは、二十四節気の一つである「春分」「秋分」を中日として、その前後3日ずつの計7日間のこと。俳句で「彼岸」と言った場合は、基本的に春の彼岸のことを指します。
【俳句の例】
- 毎年よ彼岸の入(い)りに寒いのは(正岡子規)
「雪解(ゆきどけ)」は、積もっていた雪国の雪が、春になって解け始めることを指しています。
【俳句の例】
- ひとつ家の灯の漏れてゐる雪解(ゆきげ)かな(日野草城)
「雁帰る(かりかえる)」「帰雁(きがん)」は、秋にやってきた雁が、春になって北方に帰って行く様子を意味する言葉です。
【俳句の例】
- 帰る雁田ごとの月の曇る夜に(与謝蕪村)
【春の季語の一覧】「晩春(4月5日~5月4日頃)」の季語と俳句例
三春の中でも、春の終盤の時期を「晩春(ばんしゅん)」と言います。晩春が該当するのは、二十四節気の清明(せいめい)を迎えた4月5日頃から、立夏(りっか)が始まる前日である5月4日頃までです。
春の暖かさや美しさを表す言葉の他に、「磯遊び」「八十八夜」など、少しずつ夏の訪れを予感させる言葉もあります。
この晩春の期間に使える俳句の季語一覧と、俳句例を紹介します。
「晩春」の季語一覧表
ジャンル | 季語の例 |
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時候・行事 | 行く春/稲荷祭/梅若忌/お国忌/御身拭(おみぬぐい)/荷風忌/蛙の目借時(かわずのめかりどき)/寒食/行基詣/御忌/曲水/虚子忌/暮の春/憲法記念日/光太郎忌/穀雨/小町忌/嵯峨大念仏/三鬼忌/四月/十三詣/俊寛忌/上巳/須磨の御禊/清明/善導忌/宗因忌/啄木忌/田鼠化して鶉と為る(でんそかしてうずらとなる)/苗代時/日光強飯式(にっこうごうはんしき)/花時/春暑し/春惜しむ/春深し/晩春/人丸忌/仏生会(ぶっしょうえ)/放哉忌/壬生念仏/メーデー/康成忌/達治忌/闘牛/夏近し/八十八夜 |
自然 | 油まじ/凍返る/桜まじ/潮干潟/蜃気楼/鳥曇(とりぐもり)/菜種梅雨/苗代/逃水/鰊曇(にしんぐもり)/花曇/花の雨/春驟雨/春驟雨(はるしゅうう)/春の露/春の虹/風炎/忘れ霜 |
生活・食べ物 | 藍植う/朝顔蒔く/畦塗/海女/磯遊び/磯開/遠足/果樹植う/桑の花/ゴールデンウイーク/蚕飼/牛蒡蒔く/蒟蒻植う/桜狩/桜漬/桜餅/汐干狩り/春窮/新社員/鯛網/茶摘/入学/野遊/花疲/花見/花筵(はなむしろ)/羊の毛刈る/山吹衣/夜桜 |
動植物 | 梓の花/アスパラガス/アネモネ/荒布(あらめ)/杏の花/苺の花/岩燕/魚島/浮鯛/鶯神楽/雲丹/馬の仔/遅桜/お玉杓子/蚕/楓の花/蝌蚪/ぎんぽ/銀蘭/子持鮒/桜/桜鰔(さくらうぐい)/桜蝦(さくらえび)/桜鯛/鰆(さわら)/芝桜/十二単/スイートピー/雀隠れ/雀の子/雀の鉄砲/スノーフレーク/竹の秋/種漬花(たねつけばな)/チューリップ/躑躅(つつじ)/菜種河豚(なたねふぐ)/菜の花/鰊(にしん)/二輪草/蠅生る(はえうまる)/初鮒/花烏賊(はないか)/花水木/春蝉/春の蚊/春の雁/春の筍/蛙の傘(ひきのかさ)/フリージア/蛍烏賊(ほたるいか)/鱒/鯥五郎(むつごろう)/群雀(むれすずめ)/柳/山桜/呼子鳥(よぶこどり)/ライラック/林檎の花/ロベリア/若鮎/若草/若芝/山葵(わさび)/猫の子/木苺の花/金鳳花/さんざしの花/八重桜/勿忘草 |
代表的な「晩春」の季語の意味と、俳句例
晩春の季語で有名なものと言えば、日本の花の代表とも言える「桜」でしょう。「夜桜」「桜狩」など、関連した季語も多くあります。
昔は「花」と言うと「梅」を指すことが多かったのですが、『古今和歌集』辺りから、徐々に「花」が「桜」を意味することが多くなりました。
【俳句の例】
- さまざまの事思ひ出す桜かな(松尾芭蕉)
- 見かへればうしろを覆(おほ)ふ桜かな(三浦樗良)
「行く春」は、過ぎ去ろうとする春を惜しむ気持ちを表しています。
【俳句の例】
- 行く春や白き花見ゆ垣のひま(与謝蕪村)
俳句で春の季語を使うのは、基本的に立春から立夏前日まで
先ほども少し触れましたが、春の季語を使うのは二十四節気の立春から立夏前日まで、具体的には2月4日頃から5月4日頃までです。
2月と言うとまだまだ寒いイメージですが、暦の上では立春からは春になるため、俳句では冬の季語ではなく春の季語を使います。この時期に俳句を詠む場合は注意が必要です。
ただ最近では季語にこだわらない、自由なスタイルの俳句も広がっています。
俳句の季語は美しい・かっこいいかよりも、心情に即したものを選ぼう
俳句を作る際には、無理になじみのない季語を使う必要はありません。自分の心情や伝えたいことを、最も適切に表現できる言葉を選ぶことが大切です。
伝統行事、天気などにまつわることはもちろん、植物や食べ物など身近なものの季語もたくさんあります。
また季語は実際の人々の生活と共に成熟したり、増えたりしています。今後も新しい文化の定着とともに、春の季語は増えていくでしょう。