2023年を代表するドラマとして国内外で注目を集めたNetflixの大ヒットドラマ『サンクチュアリ-聖域-』が、昨年12月、アジア圏最大級のコンペティション「Asian Academy Creative Awards」のBEST SCREENPLAY(脚本賞)にて最優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げた。今回は脚本家の金沢知樹氏が所属する映像制作集団「株式会社g」共同代表取締役の蓮見智威氏に、喜びのコメントや今後の展望を聞いた。

  • 蓮見智威、金沢知樹

    左から株式会社g・共同代表取締役の蓮見智威氏、脚本家の金沢知樹氏

■『サンクチュアリ』評価の理由を考察

――このたびは『サンクチュアリ』Asian Academy Creative Awards脚本賞の最優秀賞受賞おめでとうございます! 受賞が決定した瞬間の心境を教えてください。

実は受賞できるんじゃないかと思っていました。監督部門で最優秀賞を受賞した『ブラッシュアップライフ』もそうですが、『サンクチュアリ』は切り口の新しさが魅力的な作品だと自負しています。その新鮮さが、脚本の評価に直結したと思います。

――切り口の新しさとは、やはり相撲をテーマにした作品という点でしょうか。

そうですね。『サンクチュアリ』は、構想段階から金沢に相談を受けていましたが、相撲をテーマにしたドラマと聞いても、あまり想像がつかなかったというのが本音です。でも実際に完成した映像を見ると、相撲という題材でここまで面白いドラマを作り込めるのかと感動しました。ひとえに金沢の才能だなと。

――想像がつかなかったのは、特にどんなところですか。

いわゆる“スポ根もの”といえば、野球やサッカー、子どもたちが身近に感じるような人気のあるスポーツを描く作品が多いですよね。相撲は競技人口も空手や柔道よりはるかに少ないですし、大衆に受け入れられるかどうか、特に若い層にリーチできるかどうかが心配でした。でも魅力的な作品になったことで、若い方たちも見てくれましたし、男女問わず楽しんでくれました。テーマの難しさを飛び越えて、たくさんの方に届く作品になったと感じています。

――相撲というテーマの難しさを飛び越えられたと感じる点は。

相撲には日本の“神事” のような側面もありますが、『サンクチュアリ』ではスポーツの要素を高めて、プロレスのような見せ方をしたことで、いい塩梅のスポ根ドラマに仕上がったなと。加えて、相撲業界の裏側をのぞくような、ダークサイドを描いたのは正にチャレンジャー。地上波では放送できないような挑戦的な作品になってますよね。

■日本のクリエイターを世界にアピールすべき

――金沢さんの脚本で魅力的に感じた点を教えてください。

金沢は元お笑い芸人ということもあって、クスッとさせるようなシーンは金沢らしいなと思うんです。でも僕は、実はコメディよりもシリアスな部分にこそ金沢の魅力が光っていると思っていて。特にライバル役・静内のバックボーンには驚かされました。猿桜は、不良が更生して頑張っていく王道のストーリーですが、静内には想像をひっくり返すような意外な過去があって、そこに泣かされる。僕は静内という深みのあるキャラクターの存在こそ、『サンクチュアリ』が大きな反響を呼ぶ鍵だったと考えています。

――そんな反響の中で、驚いたことはありますか。

国内では話題になるんじゃないかと期待していましたが、Netflixの世界ランキング上位にもランクインして。海外の方が見ても面白いと感じてくれるんだと驚きました。

――海外の方にとっては『サンクチュアリ』が、日本のエンタメ作品への入口になったり、「日本の作品って面白いんだ」と感じていただけるきっかけになったかもしれません。日本を代表する作品を生み出せたことへの喜びはありますか。

すごくあります。是枝(裕和)監督のように世界で活躍されている方もいますが、日本のクリエイターに対して、もう少し海外に目を向けたほうがいいんじゃないかと感じることもあって。韓国の映像コンテンツが評価を受けている一方、日本はどんどんランクが下がっています。日本も負けずに、海外に配信できるNetflixのようなプラットフォームで、世界的に話題になるような作品をリリースして、日本にもいいクリエイターがいるよとたくさんアピールしていかないといけない。今の日本の人口は1億2,000万人ぐらいですが、これからどんどん減っていきますよね。世界を視野にたくさんの人数を対象にしないと、日本のクリエイターは食べていけなくなってしまいます。

■映像制作集団・gが狙いを定めるエリアは

――蓮見さんは2023年に、カンテレを退社したプロデューサーの重松圭一さんたちと映像制作集団「株式会社g」を設立されました。その裏側には、今話してくださったような日本を取り巻く環境を変えたいという思いがあったのでしょうか。

はい。「g」はまだできて間もない会社なのですが、金沢をはじめとする脚本家たちと、魅力的な作品を世に送り出す“クリエイターファースト”な会社にしたいと思っています。テーマの1つが“海外”で、クリエイターが海外にコンテンツを発信する足がかりをサポートできればと。海外進出は簡単な話ではありませんが、今回の受賞もまた大きな一歩となったので、本当に良かったです。

――海外の中でも特に狙いを定めているエリアはありますか。

まずはアジアですが、いずれはヨーロッパを目指したいです。日本の映画はヨーロッパでも数々の賞を受賞しています。アメリカのハリウッドだと、製作費をかけてアクションに注力して……と日本の得意分野とは方向性が違うので戦うのは難しい。一方ヨーロッパでは、登場人物の心の動きを掘り下げるような作品が好まれるので、日本の作品も受け入れられやすいんです。夢は世界三大映画祭。世界を目指すプロデューサーやクリエイターたちと提携していければと思っています。あとは、2カ国で撮影する映画にも挑戦したいですね。台湾と日本とか、韓国と日本とか。撮影費は上がりますが、2カ国で上映できることでマーケットサイズが大きくなります。

――他国のキャストやクリエイターと一緒にものづくりをすることで、新たなノウハウやつながりが生まれそうですね。

日本は韓国に抜かれてしまいましたが、追い抜けというより「一緒に何か作っていこう、アジアを盛り上げていこう」と手を組むほうがいいんじゃないかなと。特に韓国、台湾、日本は距離も文化も近いので。

――蓮見さんは昔から映画がお好きだということですが、日本が韓国に抜かれてしまったことを寂しくも感じますか。

アジアで、映画といえば日本だという時代があったので、本音を言えばすごく寂しいです。韓国のコンテンツがここまで伸びた理由には、国の投資が大きい。フランスも、フランス映画を文化的に守ろうと国が予算を投じています。日本も、国がクリエイターやコンテンツに力を注いでくれたらなと、個人的には感じるんですけどね。

――では最後に、金沢さんへのメッセージをお願いします。

これまで金沢はこういった賞に恵まれてこなかったので、受賞の瞬間はジーンと来るものがありましたね。作品が話題になる、たくさんの方に見ていただけるということも大事ですが、賞をいただけるのは特別な喜びがあります。ただ、目標は世界三大映画祭での最優秀賞作品賞。これからももっと上を目指して頑張ってほしいです。

■蓮見智威
1968年12月8日生まれ、東京都出身。電通退社後、制作会社「モードツー」やコンサルティング会社「ロータス・ワイズ・パートナーズ」を設立し、2023年8月に「株式会社g」共同代表取締役に就任。プロデューサーを務めた作品は、映画『藍に響け』、『シノノメ色の週末』、『LOVE LIFE』、『窓辺にて』など。