スズキの新型「スイフト」は想定ターゲットユーザーに「Z世代」を挙げる野心作だ。若者に受けるには先進的でありつつも「エモい」要素も盛り込んでおく必要がありそうだが、新型スイフトにはどんな工夫があるのか。インテリアの担当者に話を聞いた。

  • スズキの新型「スイフト」

    スズキの新型「スイフト」はエモいクルマ?

スポーティー路線を少し修正?

スズキによれば、新型スイフトのインテリアは「ドライバーとクルマの一体感を表現した強く印象に残るスタイリング」に仕上げたとのこと。インパネとドアトリムをつなげることで、ドライバーとクルマの一体感を表現したという。フロントドアトリムクロスとインパネの一部に使用している3Dテクスチャーを施した「オーナメント」が目を引く内装だ。

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    新型「スイフト」は1.2Lガソリンエンジン搭載の「XG」とマイルドハイブリッド車(1.2L)の「HYBRID MX」「HYBRID MZ」の3グレード展開。各グレードで2WDと4WDが選択できる。価格は172.7~233.2万円。5MT車は「HYBRID MX」に設定。写真は「HYBRID MZ」

スイフトは「走り」を打ち出すスポーティーなデザインが特徴のクルマだが、新型ではコンセプトを「エネルギッシュ&軽やか」とし、少しイメージチェンジを図っている。以下、スズキ商品企画本部 四輪デザイン部 インテリアグループの江口裕司さんの解説だ。

「先代スイフトは内装色が黒ベースで、各部品のモチーフには丸形を用いて、比較的にスポーツに対してストレートな、スポーツの記号性にのっとったようなデザインでした。それはそれで明確なテーマがあっていいんですが、今回は開発コンセプトがエネルギッシュ&軽やかということで、軽やかさに着目しました。これが、新しい世代に響くテイストなのかなと考えたんです」(以下、カッコ内は江口さんのコメント)

軽やかさはどのあたりで表現したのか。

「押しつけがましさがなく、運転していて心地よい空間。このあたりを訴求したいと考えました。具体的にはグレーの部分を多用し、明るく開放的な印象とし、ドアとインパネをつなげて包まれ感のある空間としました。中央の島は背景のグレーに対し黒にして、浮いているようなフローティング感を狙っています。若い世代の方は比較的、質量を感じさせない、重力から解放されたような表現を好む傾向にあると考えてのことです」

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  • 新型「スイフト」の車内は明るい印象。シートの色は「MZ」「MX」がメランジグレー&ブラック、「XG」がブラックとなる

若年層は「デジタルネイティブ」なので、センターディスプレイ(ナビを見る中央の画面)は先代スイフトより140mmも上に移動させ(位置を上げて)、「一等地に鎮座するような形で」存在感を強調。操作性を向上させた。

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  • 試乗車は「全方位モニター付メモリーナビゲーション・スズキコネクト対応通信機」(9インチ)を装着。シフトを「R」に入れて駐車する際には周辺と上からの映像が見られるし、スマホをつなげば「Apple CarPlay」などが使える

タコメーカーがエモい?

ナビ画面を強調してデジタル感を打ち出す一方、アナログ的な表現も残しているのが新型スイフトの特徴だ。

「例えばメーターパネルです。最近はフル液晶の一枚板が増えていますが、新型スイフトはタコメーターの付いたアナログメーターです。今どき珍しいかもしれませんが、若いデザイナーに話を聞くと、こういうのが『エモい』というんですね。若い世代の方には、あえてレコードで音楽を聴くなど、合理性だけでは測れない、エモーショナルな部分を好む部分があると思います。アナログ的な表現も、もしかしたら刺さるのかなと考えました」

いわれてみると、空調などを調節する物理スイッチがしっかりと残っていたり、シフト操作は増えつつあるボタン式ではなく昔ながらのレバー式だったり、よく見れば新車では見なくなりつつあるCDの挿入口が付いていたりもする。こういう部分も、だんだん「エモい」の範疇に入ってきているのかもしれない。

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  • メーターパネルではシルバーリングで囲ってタコメーターを強調したそうだ

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  • レバーもだんだんエモくなっていくのか? 電動パーキングブレーキ(EPB)はスズキの小型車で初採用とのこと

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    CDの挿入口を発見! 「現実的に要望もあるので、そこは切り捨てず、ユーザーさんに寄り添った部分でもあります」と江口さん。エアコンの操作系は、けっきょく物理スイッチが操作しやすい

こだわりのオーナメントは手間がかかっている!

新型スイフトの内装で特徴的なのはグレーのオーナメントだ。どんな狙いで、どういう風にデザインしていったのか。CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)担当によれば、最初に提案したデザイン案は役員から却下を食らい、どんな色柄がいいのか、改めて考えて作っていったそうだ。

「色は、もともとのスケッチではもっとハイコントラストなものだったんですが、そのあたりも考え直しました。オーナメントは樹脂素材なんですが、いくつか色を作ってみて、青すぎても『ネズミ色』っぽくて質感がよくないし、明るすぎるとスイフトの車格では『安っぽく』見えてしまう懸念があるということで、明度と彩度をかなり吟味しました」(以下、カッコ内は新型スイフトのCMF担当者)

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  • オーナメントがあるのとないのとでは車内の印象が全く変わりそう

樹脂であればどんな色にでも簡単に変えられそうなものだが、クルマに使う場合はスペックの要求が厳しいので、使える色と使えない色が明確に決まっているらしい。新型スイフトに使っている「ポリプロピレン」(PP)という樹脂はもともと高彩度な色が出しにくい素材でもあるそうだ。

オーナメント表面の3Dテクスチャーにも手がかかっている。サイズの違う三角形が連続するような柄なのだが、単純に同じ三角形の縮尺を変えて敷き詰めた(いわゆるコピペのような作業を繰り返した)わけではなく、前から後ろにかけて小さくなっていく三角形をひとつずつ作りこんでいったので、「データ作成には相当な工数が」かかったそうだ。そのおかげかグラデーションがしっかりと出ているし、単色の素材でありながら角度や光の状況によって見え方が変わる独特の表現になっている。

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    3Dテクスチャーの柄はいくつも試作したそう

オーナメントの3Dテクスチャーはシートの柄との親和性も考えて作ったとのこと。完全な相似形ではないものの、シートにも三角形のモチーフが使われていて、車内に統一感がある。

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  • シートとオーナメントはどちらも三角形をモチーフとする柄が入っていて車内に統一感がある

全体的にグレーと黒のグラデーションが効いていて、まとまりのある新型スイフトのインテリア。デジタルとアナログが同居した車内にZ世代がどんな反応を示すのかが楽しみだ。