◆ 白球つれづれ2024・第6回
「笑うアベには福来たる」。宮崎キャンプをスタートした阿部慎之助新監督の動向に注目が集まっている。球団でも新キャッチフレーズを印刷した特製ステッカーまで用意。明るさを全面に押し出して新生・巨人をアピールする狙いだ。
内実は厳しく、苦しい練習でも笑って乗り越えようと言う新首脳陣の指針はチームにとっても当てはまる。原辰徳前監督の晩年は3年連続のV逸に、2年連続のBクラス転落。名門球団もまた、新しく生まれ変わらなければならない。
笑ってばかりはいられない現実を前に今季の巨人には大きな変革が見て取れる。
大手術の第一弾は、粛清と言うべき、ベテラン陣の放出である。
昨年はクリーンアップも任された中田翔選手の中日移籍をはじめ、中島宏之選手の自由契約(後に中日入り)、松田宣浩選手の引退。外国人選手ではアダム・ウォーカーのソフトバンク移籍や、先発要員と期待したタイラー・ビーディーらの解雇などベテランや期待外れに終わった助っ人らを整理して血の入れ替えを図っている。
一方の補強では、なりふり構わぬ戦略がうかがえる。
昨オフのドラフト会議では、1位の西舘勇陽投手(中大)から5位の又木鉄平投手(日本生命)まで、全てが大学、社会人選手を指名。通常のドラフトでは各球団とも即戦力と目される大学、社会人組と将来性を期待する高校生をバランスよく補強するのが通例だが、巨人は常識破りのドラフト戦略に打って出た。それだけチーム改革を急ぐ必要に迫られている訳だ。
今キャンプでは、ドラ1・西舘の評価が高いだけでなく、3位指名の佐々木俊輔外野手(日立製作所)が初日から打球速度170キロの豪打を披露。
これは4番の岡本和真やヤクルトの村上宗隆選手らに匹敵する数値だと言われる。阿部監督は「5番候補の一人」と惚れこむほど。同2位指名の森田駿哉投手(Honda鈴鹿)も高評価を得ている。
さらに“掟破り”の補強はライバル球団・阪神から選手獲得に乗り出したことだ。現役ドラフトで馬場皐輔投手を、新外国人に昨年途中まで阪神に在籍したカイル・ケラー投手を獲得。いずれも虎のマウンドを守った実力派だけに戦力アップは間違いない。これまで宿敵関係にある阪神とのトレードは少なかっただけに異例の策と言えるだろう。
◆ 最大の弱点である投手陣をどう立て直すか
昨年の戦いを振り返ると最大の敗因は投手陣の弱さ、中でも救援投手陣の防御率3.81はリーグ最下位で「勝利の方程式」も確立できなかった。そこに重点を置いた補強策として、他にもソフトバンクから高橋礼、泉圭輔両投手をトレードで獲得している。チームの大きな指針である若返りを図る一方で、ウィークポイントを埋めるための大補強が阿部巨人の浮上のカギを握る。
既存戦力の中からも明るい材料は見て取れる。この数年、不振の続く大エース・菅野智之投手がキャンプ初日からブルペン入りして好調をアピールすれば、昨年は故障に泣いた守護神の大勢も復調気配。現段階では「白紙」とされる外野争いに丸佳浩選手のカムバックや新外国人としてメジャー178発のルーグネッド・オドーア(前パドレス)らが額面通りの働きを見せれば、強力な布陣が出来上がる。
昨年は阪神に6勝18敗(1分け)と大敗。この差が優勝チームから15.5ゲーム差離される大敗の因になった。
強力投手陣を前面に出して、守備や走塁でもそつのない阪神と、一発の破壊力はあっても、脆さの同居する巨人との差は見た目以上に大きい。
昨年の反省をもとに戦える戦力は整いつつある。次は捕手出身監督らしい緻密さをチームにどう植え付けるかが、新監督の腕の見せ所だ。
過去にもチーム弱体の危機を、なりふり構わぬ補強で補ってきた巨人が再び黄金の時代を取り戻せるか。
3.29。開幕カードで「伝統の一戦」が蓋を開ける。「アレ」と「アベ」の戦いはもう始まっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)