直近のWindows 11 Insider Previewは、7-Zip/tarという圧縮形式のオプションをサポートした。歴史をさかのぼると、広く使われてきたZIP形式をWindows 95がサポートし、パソコン通信時代から定番だったLHA(LZH)形式もWindows XPで加わった。ただしLHAは圧縮ファイルの展開のみで圧縮機能は提供されず、LHA作者の本業多忙とセキュリティホールの未対応から、Windows 10 バージョン1703を最後にサポートを終えている。
筆者はOSが圧縮形式を積極的にサポートするのは好ましくないと思案してきた。なぜならOS自身の保守負担が高まるからだ。有償・無償の圧縮/展開ツールを導入してユーザー側で対応することが最良だと思う。
とはいえ、PCやWindowsにそれほど詳しくない企業の担当者にとって、取引先から届いた圧縮ファイルをすばやく展開できる利点は大きい。ツール群の導入をできるだけ避けたい企業としても有用だろう。このような背景もあってか、MicrosoftはCanaryチャネルのWindows 11 Insider Previewにて7-Zip/tar形式のサポートを追加した。
7-Zipは高い圧縮形式を特徴とするフリーソフトウェア。tarはUNIX(Linux/BSD)で長く使われてきたファイルをひとまとめにするアーカイブ形式で、圧縮には別のツールを用いている。tarはWSL(Windows Subsystem for Linux)との連携から対応してもおかしくないが、前者の7-Zip形式は登場から約35年を数え、国際標準化で進化が停滞したzip形式を置き換える意図もあるのだろう。
厳密には以前からコマンドラインで対応していたが、GUIベースの7-Zip/tar形式サポートはビルド25992から始まり、ビルド26040でオプション形式を追加した。エクスプローラーのコンテキストメニューにあった「ZIPファイルに圧縮する」を「圧縮先」に置き換え、ZIP、7z(7-Zip9)、TAR(tar)を選択できる。
「追加オプション」からは、圧縮形式の選択と合わせて圧縮方式や圧縮レベルを選ぶダイアログを呼び出せる。たとえば7-Zip形式は、無圧縮のStore、LZ77ベースのDeflate、BWTアルゴリズムのbzip(2)、LZ77アルゴリズムを最適化したLZMA(Lempel-Ziv-Markov chain-Algorithm)1およびLZMA2、PPM(Prediction by Partial Matching)をベースにしたPPMdが選択可能。
tarは歴史の長さから実装形式が多岐におよび、bzip2のほかにGNUのgzip、LZMA/LZMA2アルゴリズムのxz、可逆圧縮アルゴリズムのZstandardから圧縮形式を選択できる。また、シンボリックリンクやハードリンクもサポート済みだ。
今回の追加オプションダイアログでは設定項目を用意していないが、Windows 11 Insider Preview ビルド22631からRAR形式もサポートしている。7-Zip/tar形式と比べるとマイナーな圧縮形式だが、リカバリレコードを備えることなどから愛用者が多い。WinRARやコマンドラインのrar.exeでファイル/フォルダーを圧縮するとき、格納ファイルを修復するデータを付加し、再ダウンロードが煩わしい巨大ファイルや、使用頻度は低くても残しておきたいファイルの修復に役立つ。筆者もコンテキストメニューからワンステップで圧縮ファイルを展開できるWinRARを長く愛用している。
さて、「圧縮先」が現れるのは新しいコンテキストメニューのみ。現時点でレジストリ編集によるカスタマイズや、「その他のオプションを確認」で呼び出す旧コンテキストメニューからは、呼び出す術は見当たらない。旧コンテキストメニューはいずれ廃止するだろうから未サポートでもおかしくないのだが、キーボードからの操作性に難が残る新コンテキストメニューのみでは、Windowsを使い続ける利点を見失いそうになる。
これらはあくまでもCanaryチャネル段階の実装なので、重箱の隅をつつく必要はないとは思いつつも、エクスプローラーに関わる操作性はWindowsの出来不出来を左右するポイントだ。今回紹介した圧縮ファイルのサポート機能がDevチャネルに展開されたタイミングなどで、注視してみてほしい。