【対決試乗】日産「スカイラインNISMO vsフェアレディZ NISMO」ストイックな速さか、走る楽しさか(萩原文博レポート)

日産のレース活動を行っているワークスブランド「NISMO」(ニスモ)が手掛けた2台のコンプリートカーが2023年に相次いで登場しました。内外装のみならずエンジンや足回りにも大幅に手が加わったスカイラインNISMOとフェアレディZ NISMO、その走りは同じなのか違うのか。自動車評論家の萩原文博さんの試乗レポートをお届けします。

メーカー直系ワークスのNISMOが送り出したコンプリートカー

クルマ好きにとって初詣にあたる年始最大のイベント「東京オートサロン2024」が1月12~14の3日間幕張メッセで開催され、合計で約23万人が来場しました。かつて、カスタマイズやチューニングというと違法というイメージが強かったのですが、1990年代に入ると自動車メーカーの東京オートサロン出展が始まります。これによりメーカー直系の「ワークスブランド」による「合法的なカスタマイズ」が主流となりました。現在では東京オートサロンにおいて自動車メーカー各社は大きなブースを構えて、発売済の市販車のカスタマイズだけでなく、市販前のプロトタイプの公開を行うなど力を入れています。

今回試乗した2台は、日産のレース活動を行っているワークスブランドであるNISMO(ニスモ)が手掛けたコンプリートカーです。コンプリートカーは、外観や内装だけでなく、エンジンといった機関部品にも手を加えてトータルコーディネイトしたクルマのことで、パーツ単品を後付けできないものが主流です。今回はスポーツセダンのスカイラインNISMOとスポーツカーのフェアレディZ NISMOの2台を比較試乗して、それぞれの特徴を紹介します。

究極のGTカーを目指して開発されたスカイラインNISMO

まずは、2023年8月に発表されたスカイラインNISMOから紹介します。現行型スカイラインは2013年から販売されていますが、1,000台限定の特別仕様車として登場したスカイラインNISMOは2019年のマイナーチェンジで追加された3L V6ツインターボエンジンを搭載する「400R」をベースとしています。スカイラインNISMOは、GTカーであるスカイライン400RにNISMOならではのレーシングテクノロジーを活かした空力とシャシー技術を融合させ、より速く、気持ちよく、安心して走ることのできる究極のGTカーを目指して開発されました。

スカイラインNISMOの外観で目立つのは、前後のバンパーとサイドシルカバーに装着された専用パーツ。空気抵抗を低減しながらダウンフォースを大幅に向上させ、高速時の安定性向上に貢献します。また、グリル開口部の断面と内部のエアガイドの形状を変更することでラジエターやオイルクーラーの流れを最適化し、空気抵抗を抑えつつスポーツ走行時も安心して走りつづけることができる冷却性能を実現しています。

これら機能性を考えたデザインを採用したNISMOのパーツには細く鮮やかなレッドアクセントが施され、新世代NISMOロードカーの共通要素をまとうことで、一目でNISMOとわかるデザインとなっています。また、前後ウィンドウシールドガラスの接着材には「GT-R NISMO」にも採用されている高剛性接着材を採用し、車両重量を増すことなく車体剛性を向上させています。

インテリアは、ベース車の400Rの高い質感はそのままに全体を黒基調で統一しています。コックピット周りには、レッドセンターマーク付の専用本革巻きステアリングや280km/hスケールのスピードメーターなどを採用し、ドライバーは視覚からもその卓越した走行性能を感じとることができます。

フロントシートにはNISMO専用チューニングを施したレカロ製スポーツシートを装着。急旋回時でもシート中心部に体圧が残る高いホールド性が特徴ですが、着座時の体圧分散を最適化する座面構造の採用によりグランドツーリングに求められる快適性も両立しています。

エンジンもサスペンションも専用品ばかり

 

スカイラインNISMOに搭載されている3L V型6気筒ツインターボエンジンは、国内最高峰のスーパーGTに参戦しているレーシングカー「GT500」用のレースエンジンに携わった開発者が、同じ開発設備を使ってチューニングを施しています。その結果、ベース車の400Rの最高出力405ps、最大トルク475Nmから最高出力420ps、最大トルク550Nmまでパワーアップし、力強く伸びのある加速を実現。また専用にチューニングされたエンジンに伴い、ドライビングモードも変更。スタンダードモードは日常域においても力強さと気持ちの良い加速の伸びを実現。さらに、スポーツ&スポーツ+モードでは、NISMO専用のAT変速スケジュールを施すことで、エンジンの回転を高回転でキープし、スポーツ走行時のレスポンスを鋭くしています。

高出力化したエンジンに合わせて、サスペンションとタイヤも専用チューニングを施しました。強化されたサスペンションとスタビライザーは旋回時のロールを抑えつつ、起伏のある路面でも追従性を保つことで、高い四輪接地性を実現。その結果、限界域まで安心できる車両安定性を提供しています。タイヤは高いトルクをしっかりと後輪で路面に伝えるため、リアタイヤの幅を20mm拡大し、前後のタイヤのグリップ力を高次元でバランスをとった専用開発の高性能タイヤを採用しています。さらにブレーキには高熱下に効果のある耐フェード性に優れる摩擦材を採用。専用タイヤとブレーキパッドの変更に合わせて、アンチロックシステムの制御を見直し、制動距離を短縮しています。そして、車両制御を行うVDC(ビークルスタビリティコントロール)も、限界走行時でも性能を発揮できるよう最適化し、ワインディングロード走行などにおいても優れたコントロール性を達成しています。

エアロパーツやエンジンの高出力化だけでなく、ブレーキ、タイヤそして制御系にまで手を加え、走行性能をトータルでスケールアップできるのはワークスブランドならではの仕事と言えるでしょう。

Z NISMOにも見た目だけでなく機能性も両立したパーツが盛りだくさん

一方、フェアレディZ NISMOは、2023年8月の2024年モデルの発表時と同時に追加されました。フェアレディZ NISMOの外観は、フロントグリルをはじめ、フロント&リアバンパー、フェンダーモール、サイドシルプロテクター、リアスポイラー、そしてリアLEDフォグランプもNISMO専用パーツを装着。

低重心かつ長く伸びやかなスピード感を演出するだけでなく、ダウンフォースを強化し空力性能を向上させています。新設定の19インチ鍛造アルミホイールは、剛性と軽量化を両立したスポークデザインで、リム幅を広げているにもかかわらず軽量化も達成しています。

インテリアは、フェアレディZのシンプルでスポーティなインテリアをベースに、ドライバーが運転への集中を高め、スポーツ走行を盛り上げるカラーと素材を組み合わせています。

NISMO専用チューニングのレカロ製スポーツシートは、ブラックのパーフォレーション付きアルカンターラとレザーを組み合わせることでノンスリップ機能と高い質感を両立しています。

Zのエンジンもスカイラインと同一スペック

フェアレディZ NISMOに搭載されているエンジンは、3LのV6ツインターボにNISMO専用チューニングを施すことで、最高出力420ps(+15ps)、最大トルク520Nm(+45Nm)にアップ、それに合わせてトランスミッションの9速ATは変速レスポンスと耐久性を向上させています。

Z NISMOは狙い通りのラインをトレースできるように、ステアリングとボディのねじり剛性も向上。シャシーに施されたチューニングと新設定された「トラクションモード」により正確なステアリング操作をサポートしてくれます。

ドライブモードにはNISMO専用のスポーツ+モードを含む3種類のモードからシーンに応じたチューニングが加わり、ブレーキもNISMO専用のブレーキシステムを採用することで、クルマの基本性能である走る・止まる・曲がる。を高めるだけでなく、本格的なスポーツ走行にも対応してくれます。そんな盛りだくさんな内容の2台ですが、その走りはNISMOの主張通りなのでしょうか。

ストイックに速さを追求したスカイライン、走る楽しさを追求したフェアレディZ

今回試乗したのは、車両本体価格847万円のスカイラインNISMO(レカロシート+カーボン製フィニッシャー装着車)と920万400円のフェアレディZ NISMOです。スカイラインNISMOはベース車である400Rの589万9300円の約257万円高。対してフェアレディZ NISMOは最上級グレードバージョンSTの665万7200円の約254万円高となっています。この価格差は高いのか、安いのか。筆者は正直安いと思います。エアロパーツだけでなく、走行性能まで向上し、ここが大事なのですがメーカー保証まで付くと考えるとむしろ安いと言えるでしょう。わかる人にわかるのでしょう。スカイラインNISMOは1,000台限定の特別仕様車。そしてフェアレディZは現在受注ストップするほどの人気で、すでにオーダーしている人が優先ということなので、どちらのモデルも手に入れるのは相当困難です。

試乗した結論を端的に書くと、スカイラインNISMOはストイックに速さを追求したモデル、対してフェアレディZ NISMOは走る楽しさを追求したモデル、と、同じNISMOがチューニングしているモデルでもキャラクターの違いを明確に感じました。

スカイラインNISMOはしなやかさのあるサスペンションでありながらロールが抑えられ、剛性の上がったボディのおかげもあってドライバーの意のままに操ることができます。路面からのインフォメーション量も多く、ドライバーはスカイラインNISMOを通じて路面と対話しながら走ることができます。とはいえ究極のGTカーを目指したというだけにスカイラインNISMOは無駄な動きが少ないので疲れにくい一台に仕上がっているのはさすがです。

一方のフェアレディZ NISMOは絶対的な速さではなく、街乗りや高速道路など、どんな速度域においてもクルマを操る楽しさを感じることができるクルマです。チューニングされたサスペンションは、ドライバーの思いどおりのライントレースが可能で、ワインディング走行した時は5cm単位のライントレースが簡単にできるように仕立てられていました。

より速く走れるように仕立てられているのはスカイラインNISMO

一般道や高速道路などの走行時は2台の差はないですが、ワインディングやサーキットを走行した時には、ストイックに速さを追求しているスカイラインNISMOのほうが、より速く走れるようにクルマ作りがなされていると感じました。

今回試乗した2台は新車価格も標準車と比べると高くなっていますが、価値としてはさらに高くなり、中古車として市場に出回っても新車価格を下回ることはほぼないでしょう。それほどの価値のあるモデルです。

 

※2024年1月の情報で制作しています。