JR東日本千葉支社が京葉線の春のダイヤ改正を一部修正した。朝夕ラッシュ時に廃止予定だった快速と通勤快速のうち、早朝の上り2本を快速として存続する。それでも千葉県内の沿線自治体は反発している。これを「千葉県とJR東日本が揉めてるなあ」で済ませたら大間違い。快速廃止は他の鉄道路線でもありうる。対岸の火事ではない。

  • 快速廃止は京葉線だけの問題ではない

撤回以外では納得できないが無理な話

2023年12月31日付の本誌記事「JR京葉線、通勤快速など各駅停車化で不満続出 - 本当に『改悪』か」で紹介したように、JR東日本千葉支社は2024年春のダイヤ改正で、「日中帯(10~15時台)を除き、東京~蘇我駅間はすべての通勤快速および快速を各駅停車に変更します」と発表した。

これに対し、千葉市長と千葉県知事は「容認できない」などと反発した。快速と通勤快速が直通する外房線・内房線の沿線自治体も同調した。「沿線住民の利便性を大きく損ない、生活形態を崩壊させ、今後の沿線地域の発展機会も消失させる暴挙」と抗議している。快速がなくなり、所要時間が10分程度増えるだけで生活が崩壊し、発展機会が消失するとは、もともと東京圏の通勤には向いていないと思わせる。

所要時間が20分も増えるという報道もあったが、それは現行の通勤快速とその待避を行う各駅停車の比較で、待避なしで運行する各駅停車はもっと速い。実質10分の増加である。許容範囲のような気がする。

それでも、JR東日本千葉支社長は「考えが至らなかったと反省している」とし、再検討を約束した。その結果が「早朝の上り2本だけ存続」だった。ほぼ現行通り、上総一ノ宮駅6時3分発・新木場駅7時17分着・東京駅7時25分着の快速と、君津駅6時12分発・新木場駅7時27分着・東京駅7時35分着の快速が存続する。よくやったと思う。

  • JR東日本が存続を決めた快速のダイヤ(緑)、前後にゆとりがあり、各駅停車でも快速でも設定可能な列車だった

JR各社のダイヤは全国規模の調整が必要になる。京葉線のダイヤは単体で自由に設定できない。房総方面の特急列車や、直通運転を行う武蔵野線の電車、その武蔵野線を走る貨物列車にも影響する。貨物列車は全国の都道府県(一部の県を除く)を走る。今回のダイヤ改正も、長期にわたる調整の結果としてでき上がった。「早朝の上り2本だけ存続」で精一杯だっただろう。

それでも千葉市や外房線・内房線の沿線自治体は納得しない。前出の本誌記事でも指摘したように、改正の本丸は「通勤快速の復活」であり、その上でダイヤ改正の全面撤回を求める姿勢は変わらない。しかし、「全面撤回ダイヤ」はもうできるタイミングではない。実施するとすれば、JRグループで影響する路線すべてのダイヤ改正を撤回するレベルの話になりかねない。

この問題については、ひとまず「上り快速2本存続ダイヤ」を実施するしかない。過去には10月などに小規模の改正を実施した例もあるので、そこに合わせるか、来年3月のダイヤ改正で反映させるしかないだろう。今回のダイヤ改正に対する評価も必要だろう。本当は新ダイヤのほうが便利で、このままにしてほしいという声だってあるかもしれない。

東京のベッドタウンとして成長中の千葉県

千葉県と沿線自治体が必死になる背景として、どの地方自治体も抱えている少子高齢化がある。人口減少、とくに労働力人口の減少が問題になっている中、重要なポイントは「全国まんべんなく人口が減るわけではない」ということ。魅力ある自治体は人口減少の速度が遅い。むしろ人口が増える傾向もある。つまり、魅力ある生活環境があれば、他の自治体から転入してもらえる。人口の奪い合い現象が起きている。

東京都における2023年の新築マンション平均価格は初めて1億円の大台を突破し、1億1,483万円となった。神奈川県は約6,475万円、埼玉県は約4,784万円、千葉県は約4,930万円。東京で働く就労者の多くは東京都内の住宅価格の上昇を嫌い、神奈川県、埼玉県、千葉県に新居を求める人が増えていると思われる。

東京都が2023年3月27日に発表した「東京都の昼間人口の概要」によると、千葉県から日中に東京都へ流入する人口は84万2,450人。千葉県の労働力人口の16%にあたる。神奈川県から東京都へ流入する人口は127万7,111人で、神奈川県の労働力人口の約24%。埼玉県から東京都へ流入する人口は108万3,262人で、埼玉県の労働力人口の約26%である。

千葉県から東京都へ通勤する人は、神奈川県や埼玉県より少ない。それだけに伸び代がある。平均公示地価は3県の中で最も低く、神奈川県の半分以下となり、「一戸建て住宅に手が届きやすい」ともいえる。千葉県や沿線自治体は、現在の住民が困ることはもちろんだが、将来的に東京へ通勤する人々に選んでもらえないことを恐れている。

朝日新聞の2024年1月19日付「『東京駅まで電車44分』京葉線のダイヤ改定、不動産業にはや影響」によると、蘇我駅周辺で新築マンション建設が急増しており、外房線・内房線では注文住宅が売れていたという。不動産業者にとって、「東京まで最短44分」は大きな売り文句だっただろう。もっとも、売買契約の重要事項説明書では担保されない。信用ならない宣伝文句でもある。

記事では幕張メッセで開催されるイベントの影響にも触れているが、イベントで集客する時間帯は快速が存続しているので大きな影響はない。イベント帰りの時間帯に快速がなくなるものの、それはむしろ混雑平準化の利点が大きいと筆者は考える。

いろいろ事情はあるだろうが、民間企業のJR東日本がそこまで配慮すべきかどうかはまた別問題だ。千葉県の言うことを聞くなら、「埼玉県の言うことも聞いてくれ」「川口駅に宇都宮線を停めてほしい」など、他県からも言いたい放題できりがない。

快速列車の停車駅が設定される理由は

そもそも快速列車とは何か。歴史を紐解くと長くなるから割愛するが、ひとつの考え方として、駅ごとの乗客数の偏りを補正するため、そして安全のために走る列車といえる。

たとえば、ある通勤路線で「A」「B」「C」「D」「E」「F」「G」という駅があるとしよう。都心部に「G」駅があり、通勤路線だから降りる駅は「G」駅に固定される。残りの「A」「B」「C」「D」「E」「F」は乗車駅で、とくに「C」駅と「E」駅は他の駅より乗客が3倍くらいの比率で増えていくとする。この場合、「C」駅と「E」駅に乗客がどんどん溜まってしまう。放置すれば、乗客がホームに溜まり続け、危険な状態になるおそれがある。都心に近い「F」駅の利用者は、各駅停車が来ても満員で乗れない事態になる。「F」駅は都心に近いから、乗客は鉄道利用をやめてしまうかもしれない。

そこで快速列車を設定し、乗客の多い「C」駅と「E」駅に停車して、増えていく乗客をさらってしまう。その後で各駅停車を走らせ、残った駅の乗客を拾っていく。数字の上では定量な変化で、これでも終点に近くなると満員で乗れなくなるが、人の考え方は多様で、「少しでも早く行きたいから快速にしよう」「到着が遅くても空いている電車にしよう」などという心理が働き、まんべんなく乗客を「G」駅に届けられる。

つまり、快速列車の停車駅が設定される理由は駅の需給調整であって、「他の路線との乗換駅だから快速が停車する」「大型施設が近いから停車する」「バスからの乗換えが多いから停車する」は直接的な理由にならない。あくまでも乗客数の実績にもとづく。しかも交通系ICカードのデータ分析によって、乗客の移動分析が正確にできるようになった。

京葉線の上り快速が外房線・内房線からやってきて、蘇我駅の時点で満員だった場合、京葉線内で停車しても乗れない。通過駅を増やし、降車の多い駅だけ停車する。しかし、コロナ禍を経て乗客数全体が減ると、乗車機会を増やすために停車駅を増やそうとする。ホームで次の電車を待つ時間が短いことはサービスアップになる。その結果、すべての駅に停車したほうが良いとなる。これが京葉線のダイヤ改正に結びつく。快速を廃止する理由は、乗客の偏りが減ったからではないか。

ただし、これは乗客数のみ重視するJR側の考え方でもある。大手私鉄になると、ここに「関連会社の施設」「不動産物件」が加わる。自社グループが開発した不動産を高く売るために優等列車が停車し、「都心まで●分」というキャッチフレーズを付ける。デパートやレジャー施設にも列車が停車し、集客する。これはグループ全体の利益を上げるためでもある。

JR各社は国鉄時代に不動産など鉄道以外の事業が規制されたため、民営化されても線路付近は民間企業が開発済みで参入しにくかった。国鉄は日本の鉄道黎明期から、増加する輸送需要に追いつくために必死だった。「運ぶ責任」を何よりも優先した。だから新幹線や特急列車という都市間の速達サービスに注力し、快速などの都市内速達サービスは後手に回った。

民営化によってJR各社も不動産開発をできるようになったが、鉄道との連携は不得手のようだ。京葉線で2013年に通勤時間帯の快速を取りやめたときは、快速通過駅の越中島駅や潮見駅などでマンション開発を始めるかと思ったら違った。連携すれば儲かったはずなのに。

JR線を便利にするために、沿線自治体がJR各社と共同で住宅開発を手がけてみると良いかもしれない。もしJR東日本が外房線・内房線沿線で住宅開発事業を手がけていれば、もっと快速の設定を重視しただろう。

快速の設定の考え方、不動産との連携はセオリーであり、快速運転にふさわしいまちづくりを行わないと快速は消える。これは京葉線沿線だけでなく、どの路線でも起きることだ。