【試乗・岡崎五朗】スズキスペーシア「コンパクトカーの居場所がなくなってしまうかもしれない」

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ホンダN-BOXやダイハツタントなど強敵ひしめく軽自動車スーパーハイトワゴンの中でも、先代スズキスペーシアはユニークなデザインと抜群の低燃費で独自の存在感と好調なセールスを示してきました。3代目となる新型スペーシアは先代のような人々の心を掴む何かを持っているのでしょうか。岡崎五朗さんの試乗レポートをお届けしましょう。

立体感とガッチリ感を与える「コンテナ」

2003年に登場したタントが先鞭を付けたスーパーハイトワゴンは、いまや軽自動車販売の主力となっている。大半が乗り出し200万円を超えるが、圧倒的なスペース効率と圧倒的な使い勝手を生みだすスライドドアの黄金コンビは、多くの人にとって価格の高さを補ってなお魅力的なのだ。

このジャンルの圧倒的ベストセラーはホンダN-BOX。完成度の高さに加え、従来フィットを買っていたユーザーからの乗り換え需要がヒットの理由だろう。そんな強力なライバルに挑むべく登場したスペーシアは今回で3代目。デザイン上の特徴はボディサイドに走る複数のプレスラインで、スズキはコンテナをイメージしたと言っている。

ビード状のアクセントは平板になりがちな箱形形状のボディに立体感とガッチリ感を与えると同時にライバルとの差別性にもつながっている。どれも似たような箱形フォルムのスーパーハイト系。スペース効率を最大限確保するためには仕方のないところだが、デザイン代がほとんどないなかスズキのデザイナーはなかなか面白いアイディアを見つけてきたなと感じた。

飛び道具の代わりに「日常の使い勝手向上に徹底的にこだわる」というアプローチ

デザインだけでなく、スーパーハイト系の開発に携わる人たちが常に頭を悩ませているのが他車との差別性だ。5ナンバー車や3ナンバー車だったらボディサイズ拡大という安易な方法を使えるが、軽自動車ではそうはいかない。実際、全長と全幅は全モデルとも規制値ギリギリいっぱいの全長3395㎜、全幅1475㎜。余裕があるのは全高(規制値2000㎜)だが、高くしすぎると重くなるしハンドリングも不安定になるのでどれも1800㎜弱に落ち着いている。

そこでダイハツはタントにミラクルオープンドアを、ホンダはN-BOXにセンタータンクレイアウトを採用し使い勝手のよさをアピールしているのだが、スズキにはミラクルオープンドアやセンタータンクレイアウトといった飛び道具はない。そこで開発陣は「日常の使い勝手向上に徹底的にこだわる」というアプローチをとってきた。具体的には、先代ユーザーの声を丁寧に聞いて不満点を洗い出したり、開発者が実際にレジャーに出かけて様々なアイディアをリストアップしたりしたという。

使い勝手へのこだわりの主役は「マルチユースフラップ」

その成果の多くは室内に見て取れる。助手席側のトレーはコンビニ弁当が楽に載せられる大きさへと拡大。前席ドア上部にもペンやリップスティックを置けるポケットを付けた。その他、ありとあらゆる場所にポケットやトレーやボックスやドリンクホルダーがあり、ざっと数えたところ合計18ヶ所!執念すら感じるこだわりだ。

しかし、使い勝手へのこだわりの主役はマルチユースフラップだ。後席座面の可動式フラップの引き出し角度を調整することで、停車中にはオットマン、走行中にはレッグサポート(走行中は足を床に付けた状態での乗車を推奨)になる。実際に試してみたが、体重を分散させることで快適性は確実に向上する。さらに、人が乗っていないときは上方に引き起こすと荷物ストッパーになり、後席に置いた荷物がブレーキをかけたときにずり落ちるのを防ぐ。後席を荷物置きとして使っている人が多い、という調査結果から出てきたアイディアだという。

このように、ユーザーの使い方を徹底的に調査し、声を丁寧に聞くことで、飛び道具がなくても最高に使いやすいクルマにしてきたのが新型スペーシアである。

100km/hで巡航していても、後席の人と普通の音量で会話できる

エンジンは全車マイルドハイブリッドになり、軽量設計と相まってクラストップの25.1km/Lという燃費をマークする。カスタムのみに用意するターボはたしかによく走るが、ノンターボでも日常的にはまったく問題ない。山道や高速道路を頻繁に走る人でなければ、ノンターボで十分だ。そんな印象を生みだしているのが向上した静粛性。ボディ各所に静粛性対策を施すことで、アクセルを深めに踏み込んでエンジン回転数を上げ気味にしても車内がエンジンノイズで満たされることはないし、荒れた路面でのゴーッというタイヤノイズも小さくなった。高速道路を100km/hで巡航していても、助手席の人はもちろん、後席に乗っている人と普通の音量で会話できる、と言えばその静かさがなんとなくイメージできると思う。

国民車である軽自動車の素敵っぷりにも改めて驚かされた

荒れた路面ではゴツゴツ感が少し気になったが、直進安定性やカーブでの安定感はきちんと仕上がっている。ユーザーに寄り添い、日常の使い勝手をとことん高めたクルマ作りはとても素敵だ。と同時に、日本の国民車である軽自動車の素敵っぷりにも改めて驚かされた。軽自動車がここまでよくなったら、コンパクトカーはよほど頑張らないと居場所がなくなってしまうかもしれない。

※記事の内容は2024年1月時点の情報で制作しています。