「清宮不在」のキャンプ。熾烈な生存競争、野村佑希の本格化につながるか…

レギュラー確約は万波のみ

 好天に恵まれ、2024シーズンの春季キャンプがスタートした。本稿執筆現在、第1クール1日目、2日目が終了したばかりでファーストインプレッション以上のことは言えないが、新人・新加入選手が目につき、また国頭では稲葉篤紀・新2軍監督がユニフォーム姿を見せる等、フレッシュなイメージが伝わってくる。名護で真っ先に目が行く新顔といったらレイエスだろう。196センチ、120キロの巨躯。1塁守備でノックを受けていたが、マルティネスよりひと回りデカい。とんでもない存在感だ。まだフリーバッティングは試運転というところだが、「メジャー108発の大砲」に期待が高まる。

 

 左投左打の外野手、スティーブンソンも見た。レイエスが28歳ならスティーブンソンは29歳、いちばん脂の乗る時期だ。こちらは大砲というより斬り込み隊長タイプだという。五十幡亮汰と一緒にセンターでノックを受けていた。ファイターズの外野は新人・宮崎一樹(いい肩してました!)も加わってかなりレベルが高い。ぜひ割って入ってもらいたいと思う。

 

 それから名護の新顔ではドラ2の捕手、進藤勇也が光っていた。「世代NO.1捕手」と鳴り物入りで入団した逸材だ。内野ノックで2塁送球を見たけれど、とてつもない強肩だった。いや、田宮裕涼の肩もハンパないと思うのだが、互角かその上を行く。

 

 が、新人・新加入を離れると、2024年の名護キャンプは断然、万波中正だ。存在感が違う。万波が動くとみんながそっちへ目を向ける。面白いなぁと思った。昨シーズン、結果を出して自信がついて、周囲の見る目が変わるとこんな風になるのか。新庄剛志監督から現時点で唯一、レギュラーが確約されている選手。球団期待の新スター。公約「ホームラン40本」の男。

 

 たぶん去年のキャンプでは松本剛がこんな感じだったと思うのだ。首位打者のタイトルを獲り、マスコミの注目を一身に集めた。近藤健介がFA移籍した分もチームの主軸であることを期待された。まぁ、俗にいう「ブレイク」ってやつだろう。輝きとかオーラというのは怖ろしいもので、本当にその選手が通ると空気がキラキラして見えるのだ。僕はこれまで何人ものスター選手の(しかも旬のタイミングの)オーラってやつを生身で体感した。そんなあいまいなもの実際にあるわけないと思っていたが、実際にキラキラ見えるのだ。びっくりした。万波は今、そんな感じだろう。

 

 野球人、万波中正のストーリーが今季、どう転がるのかは誰にもわからない。去年活躍した分、徹底マークされて苦しむことになるのか、更に一段ステップアップしてリーグの顔になるのか、どちらのパターンだってあり得る。ただ2月キャンプインの時期、沢山の視線を集める万波の姿はファイターズの希望そのものだ。この男がチームの真ん中にいるのだからきっとシーズンは楽しいぞと思える。

 

 一方、万波の存在感に対して、まったく逆の「不在感」を際立たせてしまったのが清宮幸太郎だ。キャンプ直前、左足首を負傷(左足関節捻挫、全治約5週間)し、国頭に松葉杖をついて現れた。当面、リハビリである。全治5週間ということは実質、春季キャンプは棒に振る。何というか運のない選手で、プロ入り後、脇腹を痛めたり骨折したり、春先に戦列離脱を繰り返している。万波の活躍を見て、今年こそは自分もと意気込んでいただろうに運命は残酷なものだ。まぁ、出遅れ確実だが、この時期でよかったとも言える。焦らず治して、万全の状態で帰ってきてほしい、チームには幸太郎の力が必要だ。

 

 但し、新庄監督が「(清宮は)置いていく」と評した通りのことがチームに出来(しゅったい)する。「清宮不在」は確実にチームバランスに跳ね返るだろう。本稿はここを論じたいのだ。

すべてのポジションが競合

 今季のチーム編成は大したもので、すべてのポジションが競合になっている。それだけお金を使ったのだ。逆に言えばレギュラーでおかしくない選手が各ポジションであぶれる。上川畑と奈良間と細川と石井一と加藤豪将のうち、3人は二遊間であぶれる。松本剛、淺間、江越、宮崎、五十幡、今川、スティーブンソンのうち5人は外野であぶれる。もしかすると郡司も捕・内・外のすべてであぶれる。生存競争が熾烈だ。そこに「清宮不在」というファクターが加わる。これは何をもたらすか?

 

 清宮は昨シーズンの起用を考えると「3番サード」という感じではないか。.244、10本の数字は迫力不足だが、選球眼がよく、大事なところで四球を取れる。返すバッターでなく、返ってくる走者として働きがあった。本人は今季、万波の上を行く「41本」を目標に掲げている。万波に続き、清宮が待望のブレイクを果たせばロマン満点だ。

 

 が、これで「3番サード」が空いたことになるのだ。サードでなければファーストと考えてもいい。オープン戦からシーズン序盤の時期、「3番サード」できっちり仕事をしてしまえば清宮の居場所が奪える。キャンプ初日の内野ノック、サードは野村佑希、ファーストには(外野登録の)レイエスが入った。

 

 僕にはどうとも言えない。たぶんファーストとDHはレイエスとマルティネスが分け合う感じかなぁと思うが、意外と郡司が割って入るかもしれない。サードは奈良間、石井一が入ることも考えられるが、球団の期待は断然、野村佑希の本格化だろう。守備力を不安視され、昨シーズン1塁に回り、ときに外野手をやらされたりしたことは(本人は口にはしないだろうが)屈辱だったろう。ノビノビやってる万波、マイペースの清宮と比べて、野村佑希はいつも苦しく、窮屈そうだった。

 

 キャンプイン時の「清宮不在」はもちろん決してチームにとって良いことではないけれど、もし、野村の本格化につながるきっかけになればすごいことだ。キャンプ1日目、2日目の野村はまだ慎重に打球の感触を確かめていた。

 

 ストーリーは既に始まり、次のストーリーを呼び込んでくる。チームの中心でオーラを放つ万波、リハビリを開始し「強くなって帰ってくる。絶対負けない」とSNSで発信した清宮、そして、千載一遇のチャンスを得て、ついに花開くときを迎える野村。僕は今、注目すべきはジェームス野村佑希だと考える。今年こそ満開の花を咲かせてくれ、サード野村!