ホンダは2022年に販売を終了した「オデッセイ」を日本で復活させた。ミニバン市場は日産自動車「セレナ」、トヨタ自動車「ノア/ヴォクシー」「アルファード/ヴェルファイア」、同じくホンダの「ステップワゴン」など、モデルチェンジしたばかりの新型車がひしめく激戦区だ。ここへきて再登場するオデッセイは何で戦うのか。試乗して魅力を探った。
滑らかな走り出しはストレスフリー
ホンダは1994年、ワンボックスカーの使い勝手とセダン並みの走行性能を両立させた初代「オデッセイ」を発表し、大ヒットさせた。独自のスタイリングには賛否が分かれたが、オデッセイが新たなジャンルを確立させたことは間違いない。
2013年には5代目オデッセイが誕生。両側スライドドアを採用したり、車内の質感を向上させたりして高級志向を強めた。2020年には、フルモデルチェンジではないかと思うほどの大胆なマイナーチェンジを実施。フロントフェイスの印象が大きく変わり、ファミリーカーとは思えない上質なミニバンへと進化した。しかし、ホンダの狭山工場閉鎖や生産体制の見直しなどにより、日本では2022年に販売が終了していた。
今回試乗したのは、根強い要望があり、中国からの逆輸入という形で2023年12月に販売を再開した新型オデッセイ。新型とはいっても、2022年まで販売していた5代目オデッセイと基本構造は変わらないようだ。
全くの新型車ではないものの、オデッセイには後席の多彩なシートアレンジ、立体駐車場で出し入れしやすい低床設計など、他のミニバンにはない魅力がある。
まず運転席に乗り込むと、シートの座り心地がよく、柔らかく体をホールドしてくれる。エンジンを始動して走り出すと、2トン近い車体が無振動のまま滑らかに動き出す。ドライバーにストレスを与えずに進むこの滑らかな動きは、発進・停止の多い都市部でこそありがたい。
新型オデッセイのパワートレインはシンプルに2.0Lの「e:HEV」(ハイブリッド車)のみとなるが、「EV」「ハイブリッド」「エンジン」の3つの走行モードを選択できる。特にハイブリッドとエンジンモードのときにアクセルを踏み込むと、ミニバンとは思えないほどいい音を奏でてくれる。機会があれば聞いてほしいが、クルマ好きにはたまらない音に聞こえるはずだ。
路面の段差は意外と拾う
走り出すと、路面の段差を越えたときに衝撃を感じた。首都高を時速60キロで巡航していると、思った以上の突き上げ感があった。何度かシートポジションを変更してみたが変わらなかった。ただし、一般道に降りて時速40キロかそれ以下の速度だと、あまり突き上げ感は感じられなかった。
運転していて気になったことがもうひとつ。ホンダのクルマにしては視界が若干、よくないと感じた。特にダッシュボードの左前方が大きく張り出しているように見えてしまい、前方が見にくい感じがした。同時に、大型のナビゲーションシステムは操作性抜群なのだが、ここまで大きくする必要があるのだろうかとも思った。
シフトレバーが廃止され、直感的なシフト操作が可能な「エレクトリックギアセレクター」(ボタン式)になったことで、運転席周りはスッキリとした。ただ、全体を俯瞰すると一世代前の設計だと思えてしまうのも確かだ。
「新型」として日本で再デビューさせるにあたっては、このあたりを改良してくれれば、なおよかったかもしれない。
2列目シートの広さとアレンジ力は抜群!
ここまで気になる点を挙げてきたが、オデッセイにしかない魅力ももちろんある。最大の魅力は、2列目シートの多彩なアレンジだ。
3列目シートを床下に収納すると、2列目シートはかなり後方までスライドすることが可能。こうすると、2列目シートの足元は圧倒的な広さとなる。身長179cmの筆者が目一杯足を伸ばしても、前席シートに足が届かないくらい広い。
シートを後ろにスライドさせると3列目シート用のドリンクホルダーも使えるようになるため、ユーティリティも問題ない。後席からエアコンの温度や風量調節も行えるので、非常に快適に過ごせる。むしろ、広すぎて落ち着かないと思ってしまうほどだ。企業の重役などVIPの送り迎えといえば車格の大きなセダンが主役かもしれないが、あえてオデッセイを選んでみるのはどうだろう。2列目の快適性と広さから考えると、VIP送迎に最適なポテンシャルを備えたクルマだと断言できる。
2列目シートを後方までスライドしても荷室はしっかりと確保できるため、キャリーケースなど、すぐに使わない荷物はラゲッジスペースに積んでしまえばいい。なんなら、機内持ち込みサイズのキャリーケース2~3個であれば、ラゲッジスペースに積まなくても足元に置けてしまう。
2列目シートの空間の広さを最優先したいのであれば、ミニバンは数あれどオデッセイ一択だ。急に乗員が増えても、収納していた3列目シートを展開すればあっという間に7人乗りに早変わり。この自由度の高さは、オデッセイならではの強みだといえる。
ただ、運転席同様、2~3列目のシートも高速走行中の段差による突き上げ感があったことは付け加えておきたい。
新型オデッセイに何を求める?
オデッセイの購入を検討するのであれば、立体駐車場に入れやすいとか、セダン並みの走行性能があるとか、2列目の快適性などが決め手になるのかもしれない。例えばトヨタ「アルファード」や日産「セレナ」に比べると、オデッセイは車高が200mm近く低い。車高制限のある場所で重宝するサイズ感だ。
オデッセイの最上級グレードは約516万円で、アルファードの最上級グレードである「Executive Lounge E-Four」と比べると300万円近くも安い。オデッセイは「高級ミニバン」をうたっているが、むしろセレナ(e-Power LUXIONで約480万円)やトヨタ「ヴォクシー」(HYBRID S-Z E-Fourで396万円)あたりが強力なライバルになりそうだ。
結局は、何を重視するのかということに尽きるのはいうまでもない。
いずれにせよ、車高が低めとはいえ、乗り込んだときに低くて狭いと感じることは一切なかったし、立体駐車場にとめやすいとか、強風でも風に煽られにくいとか、上記で挙げたミニバンの中で2列目の快適性が最も優れているとか、そのあたりを重視するのならオデッセイは最高の選択肢になる。
オデッセイ=ショーファードリブン?
新型オデッセイに試乗し、あらためてホンダのパッケージングのうまさに感心した。ただ、それだけでは、魅力的なライバル車が多すぎていずれ太刀打ちできなくなってしまう。
個人的な希望をいえば、内装面ではインパネまわりを刷新し、より直感的な操作性とさらなる高級感を付与したうえで、これまで以上に良好な視界確保を実現してほしい。走行性能では、路面から受ける衝撃をもう少し和らげられるよう、さらなる改善を求めたい。
単なるミニバンではなく「高級ミニバン」として突き進んでいくのなら、高級セダン並みの作り込みがほしい。かつて日産「ティアナ」(車種はまったく違うが)のCMで「おもてなしの空間を、クルマに。」というキャッチコピーが使われていて、豊川悦司氏が「おもてなし」というセリフを繰り返していたのを思い出した。極端かもしれないが、オデッセイも「おもてなし」を全面に出し、ショーファードリブンとして振り切るくらいのことをしたほうが、ユーザーに刺さる1台になるのかもしれない。