【スズキスイフト】新しいものには違和感がつきまとう〜開発者インタビュー・デザイン編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第68回は2023年12月に発表されたスズキ「スイフト」です。走りの良いコンパクトカーとして世界中で愛されているスイフト、その4代目となる新型モデルのデザインについて、スズキ株式会社 商品企画本部 四輪デザイン部 エクステリアグループ係長の髙橋 秀典(たかはし・ひでのり)さんにお話を伺いました。

コンセプトは踏襲したがスタイルは大きく舵を切った

島崎:改めてですが、髙橋さんは、これまでどのようなお仕事をされてこられたのですか?

髙橋さん:1989年入社なのでだいぶ古株なのですが……。

島崎:大ベテランですね。

髙橋さん:今はCMFと言いまして、ひととおりの車種のエクステリアのカラー、マテリアル、フィニッシュを見ています。スイフトについては歴代の1型からずっと携わっていまして、今回の新型ではまとめ役として、ひととおり見ています。

島崎:すると今のスズキの市販車のデザインは、すべて髙橋さんの腕にかかっているということですね。

髙橋さん:今はどちらのメーカーさんもそうだと思うのですが、デザイナーもベテランと若手で間が抜けている……そういう組織になっていまして……。

島崎:初代ワゴンRの中川さんなどよく覚えていますが、そういえばこのクルマのデザインはこの方といった認識のしかたは出来ていないような気がします。先代アルトもニオイは一生懸命嗅いだのですが……。

髙橋さん:ああ、そうでしたか……。

島崎:で、スイフトですが、2004年のモデルから数えると今回で4世代目になりますが、デザインは一貫させていると受け止めていいのですか?

髙橋さん:スポーティコンパクトハッチのコンセプトは今回も踏襲しています。

島崎:お訊きするまでもなく、日本車でここまで一貫しているクルマは稀じゃないですか?

髙橋さん:そうですね。ただ今回はデザインとしては大きく舵を切った考え方で、とはいえレイアウトが先代と変わらないことから、佇まいはほぼ変わらないと思います。ちょっと離れて見ると「あ、スイフトだな」と思っていただける。反対に近寄ってディテールを見ていただくと、ここは新しいね、といった発見がいくつもあるのかなあと思っています。

最初のデザインはNGでやり直しに

島崎:先代ともかなりニュアンスが変わりましたね。

髙橋さん:デザインテーマから変えていますので、それまでは下半身モリモリの筋肉質な形で前から後ろに抜ける造形でしたが、今回はベルトラインからフードまで回した、上から見ると8角形なのですが、そこで下半身とキャビンを分断させて軽やかな印象にしています。

島崎:先代もDピラーの中間に黒を入れたフローティングルーフでしたが、その進化形ということ?

髙橋さん:先代はCピラーを名残程度に残していましたが、今回はスパッと切っています。リヤの居住性を感じさせるようなルーミーな印象にした点が特徴です。先代はリヤドアのハンドルがピラーにありましたが、新型はドアパネル部分に移しています。

島崎:ところでこの新型スイフトの元のデザインは日本のデザイナーの方ですか?

髙橋さん:そうです。年齢的には40歳前後でしょうか、まあ1人の人間がやるものでもないので、彼をリーダーに若手もいますし、そんな感じです。

島崎:デザイン開発はすんなりと決まったのですか?

髙橋さん:実はこのデザインになる前に1度、第一次開発がありまして……。

島崎:あ、そうだったんですか。

髙橋さん:はい。その時にNGになりまして、デザインは良かったのですが、2024年にスズキが出す商品としてスイフトとしてキープコンセプト過ぎるんじゃないのか、そんな判断があり、スケッチからもう1回やり直した経緯がありました。結果的にはそれでよかったと思っています。

デジタルデバイスやスマートスピーカーのデザインを掛け合わせた

島崎:今回もショルダーを回していることで、フロントクォーターで見るとリアに小さくノッチが出来て、成人式3周目を過ぎた僕など、つい往年の軽自動車でしたがスズライトフロンテを思い出したりするのですけれど、そういったモチーフ、DNAが盛り込まれていたりするのですか?

髙橋さん:うーん、今回に限ってはモチーフ的なものはあまりなかったですね。むしろ最近のデジタルデバイスであるとか、スマートスピーカーのデザインであるとか、そのあたりをスタイリングデザイナーは感度高くリサーチしています。走りのデザインではありませんが、デジタル家電とか、新しい世代のデバイスのデザインと今までのスイフトを掛け合わせて、新型の形状が出てきました。

島崎:アレクサ、ビリー・ジョエルをかけて……のああいったスマートスピーカー。

髙橋さん:顔まわりのデザインなど、今まで見た事のないバランス感覚なのは、そのためかと。

島崎:なるほど、そんな風に見えてきました。最初に見た瞬間、何か不思議な形だなぁと思ったのは、そういうことなんですね。

髙橋さん:何にも似ていなくて、でもスイフトだとわかる、なかなか面白いデザインだと思っています。


島崎:正直なところ、実車を見るまではボンネットのパーティングラインもユニークですし、グリルの位置、バランスも個性的だなぁと思いましたが、だんだん合点が行くようになってきました。決して新型を否定する訳ではありませんが、同じシンプル指向だとしても、初代の頃とは手法が違うということですね。

髙橋さん:まったく新しいデザイン言語になっています。

島崎:サンダルのクロックスも今はみんなキャンプ場で履いていますが、最初見たときは何だコレは!?と思いましたし。

髙橋さん:何でも新しいものは最初は違和感がつきまといますが、それがだんだん消化されて皆さんに喜んでいただけるということになるんですね。

スズキのクルマとしてのデザインの統一性は考えていない

島崎:軽自動車も含めてなのですが、スズキのクルマとしてのデザインの統一性みたいなことはお考えなのですか? アルトのLCとかワゴンRスマイルとかありますが。

髙橋さん:えーとですね、弊社は今の時点ではそういうことはあまりやっていません。というのも、とくに軽自動車はディメンションが一緒なので、そこにデザインの統一化を持っていくと同じものが並んでしまう。なのでそこはあえて機種のコンセプトに沿ったデザインとすることに重きを置いています。機種それぞれのキャラクターを大事にしていく戦略です。僕は今はCMFデザインをまとめさせていただいていますので……。

島崎:あ、そうでしたね。

髙橋さん:新型スイフトで言いますと、新色のフロンティアブルーパールメタリックとクールイエローメタリックがありまして

若い世代向けに設定された新色のクールイエローメタリック(上)と3コート化されたフロンティアブルー。ツートーンのルーフの基本はブラックだがイエローのみガンメタを少し混ぜてコントラストを弱めているという凝りよう(写真:スズキ)

島崎:試乗車はクールイエローメタリックでした。写真に撮るのが難しいですが、淡くそこはかとないキレイな色ですね。

髙橋さん:このイエローは若い人に向けて作った色で、新素材のスポーツウェアだとかシリコン素材のグッズとか、先進化、デジタルテイストをクルマに置き換えて作った色です。まさにZ世代の若いデザイナーが主担当で作ってくれました。

島崎:Z世代×3以上の僕でもいい色だなと思いました。

中央が新型の新色フロンティアブルー、右の少し薄いブルーが旧型のスピーディブルー

髙橋さん:それとフロンティアブルーは、スイフトは歴代こだわりのブルーを設定してきましたが、新型は先代に対しても質感、鮮やかさをレベルアップさせた。3コートでエクストラチャージを戴いていますが、今までのスイフトの究極の進化形として提案させていただいています。3コートとしては先代の赤に続くものです。それと今回の2トーンですが、ブルーと赤のルーフはブラックですが、イエローに関してはガンメタを合わせてややコントラストを弱めイエローをキレイに見せながらファッショナブルな印象にしています。

あまり目立ちたくないけれど、自分のこだわったものは主張したいZ世代向けの新色

島崎:話を戻してしまいますが、イエロー、写真で上手く撮れているかなぁ……。

髙橋さん:対象物を置くといいかもしれませんね。夕方や夜でも面白い見え方するんですね。若干、発光しているように見えるときがあるんです。

島崎:Z世代の人たちのお好みですね。

髙橋さん:そうですね。あまり目立ちたくないけれど、自分のこだわったものは主張したい。インスタなどで発信したい。でも全体の中で目立つのは嫌だ、と。

島崎:なるほど。オジサン世代はいっそ赤やオレンジへ行っちゃえ!ですもんね。

髙橋さん:そうなんです。なのでまったく違うお客様に向けてそれぞれの色を作っています。

島崎:TV-CMではブルーが登場していますね。

髙橋さん:はい、まずスイフト出たぜ!というアピールです。デザイナーとしては早くイエローもやってくれないかなぁと思っているところですが……。

島崎:第2弾はイエロー、ですね。

髙橋さん:どうでしょう、営業の計画がありますので。

島崎:あのCMそのものも、なんか、面白いですね。

髙橋さん:ちょっと意味不明なところもある気がしますが、印象に残るCMではあるかな、と(笑)。

日常を楽しく気持ちよく乗っていただく、そういうクルマ

新型スイフトはダッシュボード中央部のモニターやスイッチ類がドライバーへと向けられている(写真:スズキ)

島崎:そういえばインテリアですが、記事ではお見せできないかも知れませんが、僕らがいただいた広報資料にインパネを俯瞰で捉えた珍しいアングルの写真がありました。

髙橋さん:それはドライバーに角度をつけて計器類を寄せて操作しやすくしているところを強調した写真です。先代は5度振っていましたが、新型は8度にしました。よりパーソナル感が強調されているかなあ、と。

島崎:インパネのデザインそのものも“F”で始まる世代のBMW的というか。

髙橋さん:昔からある手法ではありますが。

島崎:スイフトというと、最初は角度がつかない、まっさらでシンプルなインパネが特徴でしたよね。オーディオのパネル部分は同じ面をピアノブラックのパネルで入れ替えたりして、僕は好きなデザインでした。

髙橋さん:2代目までは水平で、実はあのあたりは僕が担当していました。

島崎:時代が流れて、今はプレミアムな雰囲気もプンプンとさせているのですね。そういえばプラットフォームはキャリーオーバーですか?

髙橋さん:ほぼそうです。ホイールベース、全高、全幅も変わりません。全長だけADASなどの関係で15mm伸ばしています。Cピラーまわりに空力処理が入ってきましたが、キャビンまわりもほとんど変わりません。

島崎:ステアリングコラムの位置や角度も変わらないのですか? 久しぶりに乗って、ステアリングがやや上を向いた感じで、こんな風だったかな?と思ったのですが。

髙橋さん:ええ、ちょっと腰高な感じのアップライトなポジションは昔からのスイフトのこだわりのひとつです。

島崎:きょう試乗させていただいて、相変わらず、気持ちのいい実用車だなあ、と思いました。

髙橋さん:実用車と仰っていただきましたが、まさに特別なクルマというより、日常を楽しく気持ちよく乗っていただく、そういうクルマです。

島崎:機会をいただいて、日常でも試乗したいと思います。個人的には初代のRSのしなやかな足が好きでしたが、今後も楽しみにしています。いろいろなお話をどうもありがとうございました。

 

(特記以外の写真:島崎七生人)

※記事の内容は2024年1月時点の情報で制作しています。