【スズキスイフト】欧州と日本での「走り込み」でレベルアップ〜開発者インタビュー・運転支援&音振対策編

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第69回は前回に続き2023年12月に発表されたスズキ「スイフト」です。4代目となる新型モデルのADAS(先進運転支援システム)とNVH(音・振動・衝撃)対策について、スズキ株式会社 四輪車両運動設計部 車両システム制御設計Gの山根 龍一(やまね・りゅういち)さんと四輪車両技術本部 四輪車両実験部 NVH性能実験グループの栗原 崇(くりはら・たかし)さんににお話を伺いました。

機能の追加ではなくレベルアップ、ブラッシュアップの段階

島崎:実はこの“開発者インタビュー”では領域ごとのご担当の方にお話を伺うのは珍しいのですが、この機会にぜひいろいろお聞かせいただきたいと思いますので、よろしくお願いします。まず山根さんはどういった領域のご担当ですか?

山根さん:先進安全予防技術の領域で、私はアダプティブクルーズコントロールを担当しています。

島崎:さらに機能ごとに細分化されているのですね。

山根さん:はい。予防安全全体でいいますと、衝突被害軽減ブレーキが進化しており、今回新たに交差点での事故を抑制するために、交差点でのシーンでも衝突被害軽減ブレーキがかかるように変わっておりますし、ACCでいうと、よりお客様の運転に近い形でスムースな作動にし、車間距離も4段階で設定可能にするといった細かいところを進化させております。

島崎:今や機能のレベルアップ、ブラッシュアップの段階なんですね。

山根さん:そのほかのすべての予防安全機能もレベルアップしておりまして、もう語り尽くせないくらいかな、と。

島崎:本当にそうですね。さらに今回は新機能も盛り込まれましたね。全体の話になりますけれど。

山根さん:はい。AHSと呼ばれるアダプティブハイビームシステムはスズキ初搭載になります。これは走行時にヘッドライトをコントロールして、対向車を照らさないようロービームにして、そのほかをハイビームにして夜間の走行をよりしやすくしたものです。

欧州の速度域だからこそ感じられることを日本仕様にも

島崎:ちなみにこうした機能はサプライヤーさんがいて、そこからスイフト用に仕上げたりもするのですか?

山根さん:そうですね。まず生産メーカーさんとの関係性から、それをスイフトのキャラクターに合うように作り込むことをやっております。たとえばACCでいうと、欧州でも走り込んでスイフトに合わせた適合を進め、欧州の走行結果を踏まえて機能を作り上げるといった方法をとります。

島崎:同じスイフトでも、仕向け地ごとにこうした機能の専用開発になるのですね。

山根さん:双方向で走行結果を還元しながらといったイメージですね。欧州は速度域が高いですが、日本はそれより低い。ですが、欧州の速度域だからこそ感じられるところがありますので、そういう観点を日本仕様にも引っ張ってくる。逆に日本で感じたよいところを欧州にも還元する。もちろんスイフトのキャラクターに合ったキビキビ動いたほうがいいよね、といったところも入れながら開発を進めています。

島崎:なるほど、としますと仕向け地ごとというより、基本的にスイフトとしてはグローバルで共通ということなんですね。


山根さん:設定の速度域など、仕向け地ごとに若干変えているところはあります。ACCでいうと日本国内では設定できるのは130km/hまでですが、海外ですとアウトバーンを走ったりするので、より高い設定が可能にしてあるなどはその一例です。

島崎:ハードウェア、モノではなく、ひたすらチューニングのレベルなんですね。

山根さん:パワートレインは共通で、ソフトウェアのチューニングのところで適合させていく進め方になります。

島崎:山根さんを始め、スイフトの開発エンジニアの皆さんのセンス次第ということになりますね。

山根さん:1番忘れてはいけないのはハードウェアのよいところを最大限に引き出す。そのこともソフトウェアでやっていくことになります。

島崎:今回はひと枠の時間が決まった試乗会なので、走り過ぎて遅刻しないようあまり足を伸ばさなかったのですが、一般道で走っている限り、いろいろな機能が自然に効いてくれ、安心して走らせていられるなぁと思いました。

山根さん:ありがとうございます。まさに今回のスイフトは操舵性もかなり向上しているので、ドライブを楽しむお客様にあまり介入し過ぎると、先進安全技術なのに使っていただけないということもあります。そこで最低限アシストする……そんな考えかたで狙ってチューニングをやっております。

島崎:なにしろ今はドライバーの年齢層がどんどん上がっていますから、ペダルの踏み間違いや車線逸脱とか、切実な問題になってきましたよね。

山根さん:事故を起こさないのが最優先です。それに対して、たとえば車線を逸脱した時にそれを抑制する機能でいうと、警告音を鳴らすのは車線を跨いだ時では意味がないだろうと、手前で抑制して衝突にならないように……と考えながら。また戻したあとも戻しっ放しでは今度は反対車線に行ってしまうので、実は逸脱を戻したあとに車線の中央を走れるようにサポートもする……そんなチューニングも入っています。

緊急性の高くないブザー音はドキッとしないように

島崎:そのほかの新機能はありますか?

山根さん:先行車発信お知らせ機能ですが、今回、信号も認識するようになりました。交差点の先頭で信号を待っている際に、赤から青に変わるとメーターでお知らせするようにし利便性を向上させました。皆さんはご試乗中に試すのは難しいかもしれませんが……。

島崎:いえ、ププッと低い電子音で青信号になったのを教えてもらいました、試しました。別に夕飯は何にしようか考えていた訳ではないですけど。

山根さん:ははぁ、そうですか。そのブザー音は、過敏な方がドキッとしないようマイルドな音にしてあります。今回は先進安全技術のすべての音色も、強い音は緊急性の高いところに留めて、そのほかはよりよいものに設計し直しています。

島崎:信号が青に変わったよと、やんわりとスイフトに教えて貰えて助かりました。いいと思いました。そういえば試乗車のタイヤの空気圧はフロントが250kPa、リアが220kPaですが、これはたとえば空気圧を変えても各種機能への影響はどうなのですか?

山根さん:急に抜けた場合は別ですが、走行劣化分は見て、補正して、同様の振るまいになるよう、ワーストケース、経年劣化も含めて評価はしております。車重の変化もソフトウェアが学習しています。

3気筒エンジンは4気筒に対して振動は悪化し音も大きくなる

島崎:栗原さんは、NVHご担当ですね。新型スイフトのご担当上の思いの丈というと、どういうことがありますか?

栗原さん:今回初めて新しい3気筒エンジンが搭載されるということで、いわゆる4気筒に対して振動は悪化しますし、音も大きくなるし……とイメージどおりでした。そのことがコンセプト段階からわかっていたので、まずその対策をしなければいけないね、と。それから商品企画からは室内の快適性というテーマもあったので、加速中以外でもロードノイズや風の音をよくすることで、室内の会話明瞭度も指標に対してよくするように開発を進めました。

島崎:なるほど。先ほどエンジンルームの撮影をしていたのですが、エンジンをかけた状態でボンネットを開けて、サラサラと軽やかな音だなぁと感じました。

栗原さん:ありがとうございます。3気筒エンジンはとにかくバランスのせいで振動が出てしまい、音の質も悪くなってしまいます。そのためにエンジン本体の対策でよくしようとしたほか、車体側も悪い入力があっても音が下げられる対策も施しました。

市内は30knm/h、アウトバーンは無制限

島崎:どんなことをやったのですか?

栗原さん:いっぱいあるのですが、プラットフォームは従来と共通ながらダッシュパネルの板厚を上げたり、各パネルに音と振動の減衰性を持たせた構造用接着剤を塗ったりし、入ってくる振動を接着剤で吸収させてそこから先の音を小さくするといったこともしました。さらにカーペットのスペックを上げて静粛性を高めたりする対策もしています。

島崎:クルマのいろいろなところへ目配りをされたのですね。ところでエンジンにバランサーシャフトは使わなかったのですね。

栗原さん:それは今回はやっていません。確かにそれをやれば3気筒の振動はすごくよくなりますが、その分、価格の上乗せになってしまいます。あとフリクションのところでバランスシャフトが抵抗になってしまい燃費も悪くなってしまいますし……。

島崎:鈴木社長が首を縦に振ってくださらなかった……。

栗原さん:なので今回はエンジン本体ではなく、エンジンマウントで追加対策を行なうことにしました。通常は片側だけに液封マウントを使いもう片側はゴムマウントを組み合わせてエンジンを吊るのですが、それではエンジン振動が軽減できないことがわかっていたので、スズキ初の試みとして左右のエンジンマウントの両方を液封とし、振動のバランスをとる方法を行ないました。

島崎:スズキ社長もバランサーシャフトはNGだけど液封マウントならOKだ、と。

栗原さん:今までやったことがない対策方法だったので、エンジンマウントのバネ特性、液体を入れることによる減衰特性のチューニングなどは、なかなか苦労したところではありました。

島崎:走らせていると、エンジン回転を上げてもスムースな感じがしますね。ガラスの厚みなども変わっているのですか?

栗原さん:いえ、そこは先代と同じです。

島崎:栗原さんもやはり欧州で走って確認されたのですか?

栗原さん:はい。日本との走り方の違いが実感できますし。ヨーロッパだと町と町が80km/hくらいのカントリーロードで繋がれていて、市内に入ると40km/h、30km/h規制になり、アウトバーンへ行けば車速が無制限だったり。日本の感覚とは違い幅広い車速で見ていかなければいけないので、走ってみるととても参考になります。

島崎:日本よりメリハリがあるクルマの使われかたですよね。これからもスイフト、楽しませてください。どうもありがとうございました。

 

(写真:島崎七生人)

※記事の内容は2024年1月時点の情報で制作しています。