制作プロダクションThe iconと小学館のプロデュースチームが手掛ける若手発掘・育成プロジェクト「私の卒業プロジェクト」。その発起人・プロデューサーでこれまで多くの作品を手掛けてきた高石明彦氏は、同プロジェクトのオーディションでは “俳優としての素養” を注視するという。今回のインタビューでは、そのこだわりを明かしたほか、プロジェクト卒業生の当時の印象についても話してくれた。

  • 高石明彦氏 撮影:島本絵梨佳

事務所所属の有無に関係なく挑戦できるオーディション

――「私の卒業プロジェクト」のオーディションは、応募条件も事務所の所属の有無も問わないなど、かなり幅が広いように感じます。全くの未経験者と事務所に所属して仕事をしている人を一緒にオーディションする難しさはありますか?

難しさはないです。映像の世界で活躍する役者の教育ということで言うと、事務所に所属していても、本格的に作り手の発想を持って取り組んでいくことを教えてくれるところがないみたいなんです。海外ではそういった事を勉強した上で、俳優の仕事をするというのは一般的なんですが、日本は演技論ばかりで、そういったことを知っている方は本当に稀。なので所属だろうが無所属だろうが関係ないんです。

逆に、無所属の方は初めてつかんだチャンスということで、すごく熱意を持って取り組んでくれる方がたくさんいる。事務所に所属している方の刺激にもなってくれていますね。切磋琢磨し合う環境になるので、すごくいい効果を生んでいると思います。

――前回の4期のときにも3名が研修生として参加していましたが、やはりいい影響があったんですね。

あえてそうしたという部分もあって、とにかく3人の熱意がすごかった。選ばれたメンバーがもっとがんばらなきゃと思ってくれるんじゃないかなと。結果的にも、やはり3人がすごくがんばり屋だったんで、よかったなと。

オーディションで目を引くのは「人間味があふれている方」

――なるほど。オーディションでは、どういったところを見て判断しているのでしょうか?

俳優は、誰か別の人になる仕事なので、いちばんは「何色にでもなれる人か」という部分。他人の考えや意見を尊重できる人かというのは、集団面接をしているとわかるんですよ。過去の実績とか、演技が上手下手とかはどうでもよくて、それよりも俳優としての素養といいますか、人間味があふれている方を探しています。

映像の仕事はやっぱりチームプレイ。そこを理解してもらうことがすごく大事で、自分が目立とう! とか、私は! 俺は! っていう事ではないんです。周りに対してどういう風な目配り・気配りをしているのか、を見ています。

――オーディションという形式上、目立たなきゃ! と思ってしまう心理もあると思いますし、そこからチームプレイという意識を持つのは難しいように感じるのですが、ワークショップを経て徐々に変化していくものでしょうか?

同世代くらいの方々が集まって、役に向かって進んでいくので、最初はやっぱり競争という考えなんです。もちろん、競争させている部分もあって、ワークショップのときには、僕が書いてる脚本がある程度できていて、「どの役でも良いから、好きな役をやってごらん」と言って、各々好きな役をやってもらう。そうすると、同じ役同士でライバル心が芽生えてきたりするんです。

でも、お互いに役に対して、どうアプローチしたか、ということをディスカッションさせるんです。そうすると、それぞれの良さを取り入れて芝居がより立体的になっていく。だから、あくまでもチームプレイなんだと。1人でやっているわけではなくて、必ずいろんな人の力が関わって成立しているんだということを勉強してもらいたいんです。それは切磋琢磨している俳優仲間だけでなく、撮影スタッフ・技術スタッフに対しても同じだということは伝え続けています。

「私の卒業」プロジェクト卒業生の印象

――長期間のオーディションを経て、徐々にそういった意識が芽生えていくんですね。最近では、これまでプロジェクトに参加された星乃夢奈さん、小林虎之介さんなど、地上波ドラマなどで活躍する方も増えてきました。

最初はみんなそれぞれ尖っていたけど、周りを大事にするようになっていきました。撮影現場でカメラレールを運んだり、カチンコを打ったり、そういうことまで率先してやるようになるなんて、本人たちも思っていなかったんじゃないかな(笑)。

――星乃さんはどういった印象でしたか?

天真爛漫でうるさい子(笑)。現場でもよくうるさいと言われていて(笑)。ただ、彼女はとても頭のいい子だなという風に感じていました。ずっとインフルエンサーとしてやってきていたので、自分をストレートに表現することは得意。ただ役にどうやって入っていくか、どうやって作っていくかということを全くやったことがなかったんです。そのアプロ―チというのを、他の子たちと一緒に考えて、話し合いながらやっていましたね。彼女も切磋琢磨していく中で、チームの中に入った時にちゃんと役割を全うするというところに行き着いていました。

――小林さんの印象は覚えていますか?

彼は最初、僕にすごい怒られたんですよ。結構、自分が! という意識が強くて。最年長だったので、年齢的な焦りもあったと思うんです。ただ、怒られた後にメンバーのみんなと色々話して変化していった。僕が手を差し伸べるということはしていないので、メンバーと対話をして、彼の中で「自分が出過ぎるんじゃなくて、周りのためにどうするべきか」というところに行きつけた気がします。

――やはり、皆さん最終的にはチームプレイというところに行きつくんですね。

そこに行き着いてもらうことが、俳優として現場で参加するというプロ意識の第一歩。それを学んで持ち帰ってもらうことこそが、このプロジェクトで僕がやりたいことなんです。

――なるほど。確かに歴の長いベテランの方ほど、周りへの気配りや目配りが行き届いている印象があります。

本当にそうで、長く仕事をされている方は、自分のことだけじゃなくて、周りに気を配ってらっしゃる。大変な撮影の日に差し入れを入れてくださったり、スタッフ含めてチームを大事にされて、誰一人欠けちゃダメというスタンスで臨んでくださるので、そういった姿勢に僕らも助かることがあります。そういう方々から、僕もたくさん勉強させていただいてるし、そこで学んだことを若い俳優に伝えていきたいと思っています。

■高石明彦
1975年生まれ。The icon 代表取締役社長。プロデューサーとして、フジテレビ系ドラマ『教場』(20)、『君が落とした青空』(22)などを手掛ける。映画『新聞記者』(19)の脚本を担当し、詩森ろば氏、藤井道人氏と共に第43回日本アカデミー賞の優秀脚本賞を受賞した。