ヤマハは2月1日、音楽ライブなどさまざまなエンタメシーンに活用できるという新しい記録・再生システム「GPAP」(ジーパップ)を開発したと発表。音声や映像、照明といった多様なフォーマットデータをWAV形式のひとつのオーディオデータに織り込めるというもので、世界初の技術とアピールしている。

  • ヤマハが、音楽ライブなどの裏方を支える新しい記録・再生システム「GPAP」を開発したと発表。WAVデータに映像や照明といった多様なフォーマットデータを統一できるのが特徴

  • 都内で報道陣向けに公開された、GPAPのデモの様子

GPAP(General Purpose Audio Protocol)を活用することで、臨場感を従来よりも高めたライブビューイングの実現を可能にする。また、AVアンプなどのホームオーディオに市販のスマートLEDなどの照明を組み合わせることで、家庭でも新しいエンタメ体験を提供することをめざす。VR空間でのライブ体験において3Dで照明を再現したり、ライブ体験をデジタルデータとしてアーカイブしたりといった活用も見込む。

  • GPAPの活用イメージ

さらに、音楽ライブなどの映像を投写するためのパネル型スクリーンも新たに独自開発したと発表。折り畳み式のフレームに、パネル型のスクリーンを取り付ける方式を採用したもので、サイズを柔軟に変更できるため拡張性が高く、設営や撤収も短時間で簡単に行えるようにしたのが特徴。省スペースで収納・運搬しやすく、これまで大型のスクリーンの搬入や設置が難しかった場所にも導入できるとしており、東京・銀座の「ヤマハ銀座スタジオ」に先行して導入している。

  • ヤマハが独自に新開発したパネル型スクリーン

ヤマハは2020年、コロナ禍で打撃を受けるライブハウスの再興につながるコンテンツを提案するための高臨場感ライブビューイングシステム「Distance Viewing」を開発。映像や音響だけでなく、照明や舞台演出などライブの体験すべてを記録してステージ上に再現するもので、これを用いた音楽ユニット「ORESAMA」(オレサマ)によるワンマンライブを、都内で同年10月に開催している

ヤマハでは、従来は実現できなかった新たなライブの体験や価値を手軽に提供できるよう、技術の改良・汎用化と実証実験を重ねるなかで、「記録フォーマットの異なる多様なデータの同期・再生の複雑な処理」や、「スペースが限られたライブ会場への大きなスクリーンの導入の難しさ」という課題に直面。その解決のためにGPAPとパネル型スクリーンの開発に至った。

GPAPの最大の特徴は、WAV形式のオーディオデータのなかに、照明や舞台装置の制御信号などさまざまなデジタルデータをすべて統一して保存し、再生できること。従来は複数台の機材間で複雑な同期処理を行う必要があったが、GPAPではそれを行うことなく容易なシンクロ再生を可能にし、すべてのデータをまとめてオンライン配信することもできるようにした。

一般的に、音声や映像のデータ、照明や舞台装置などの制御信号は、それぞれ独自のフォーマットで記録し、異なる記録ハードウェアに保存される。これらのデータをシンクロさせて同時に再生する場合には、独立して記録されている各データを同期させるための複雑な処理が必要になる。

GPAPでは、これらすべてのデータをWAV形式に統一化し、ひとつのオーディオタイムライン上で記録可能。時間情報をベースにした同期処理を行うことなく、すべてのデータを簡単にシンクロ再生させられるとする。

PAミキサーや照明コントローラーなどの機材を、GPAP専用のインタフェースにケーブルでつなぐことで、各フォーマットをWAV形式に変換し、オーディオデータとして収録。さらにマルチトラックレコーダーやPCなど、WAVファイルの再生機能を備えたさまざまなデバイスをGPAPの再生装置として利用できるという。

記録したデータは「Cubase」などの市販DAW(ダウ/Digital Audio Workstation)ソフトで編集可能。ソフト上で音声と照明やレーザーなどの制御信号を並べ、編集時もコピー/ペースト/カットといった簡単な作業で配置できるとする。

コルグが開発した、ハイレゾ対応の高音質インターネット動画配信システム「Live Extreme」と組み合わせることもでき、GPAPで記録したマルチメディアコンテンツを配信可能。高臨場感ライブビューイングシステム「Distance Viewing」でのリアルタイム配信も可能にした。

GPAPの技術は、家庭や個人向けに展開することも想定。具体的には、音声や映像とともに、スマート照明器具を制御するデータを配信し、照明が同期するイマーシブなライブコンテンツを自宅などで楽しめるといったことが可能になるという。

ほかにも、テーマパークやイルミネーションショーといったエンターテインメント領域のほか、商業施設などマルチメディアコンテンツを扱う幅広い領域で活用可能とする。データ保存・再生のオペレーションを簡略化できるほか、コンテンツをライブラリー化したり、VR空間での体験コンテンツを創造したりといったさまざまな活用を見込む。

ヤマハは、GPAPとパネル型スクリーンの開発を進めることで、今後も拡大が見込めるライブ、コンサート市場に付加価値を創出するとともに、今後の事業展開を見据えてそれぞれの技術を段階的に市場投入。さまざまな領域でのニーズの開拓と新たな価値創造に取り組むとしている。