一般向けのデジタルカメラでは初めて、全画素のデータを一気に読み出すグローバルシャッター方式のCMOSセンサーを搭載したソニーのフルサイズミラーレス「α9 III」がついに発売になりました。落合カメラマンも、シリーズで定評のあるAF性能や速写性能を継承しつつ、一切の歪みのない撮影やフラッシュの全速同調が可能なα9 IIIに、まず大きなインパクトを感じていました。

  • ソニーが1月26日に発売したフルサイズミラーレス「α9 III」(ILCE-9M3)。実売価格は88万円前後で、在庫は比較的潤沢だ。装着しているのは、2月2日に販売が始まる超望遠レンズ「FE 300mm F2.8 GM OSS」(SEL300F28GM)。こちらの実売価格は93万円前後

ついに現れたグローバルシャッター機に感じたインパクト

天下のソニーさんも、そろそろいい加減に息切れしてくるんじゃないのぉ? なんてイジワル半分、イジり半分で思っていたこの頃だったのだけど、ととととんでもなーいっ!! ってな実感が、そのまま「α9 III」に対する率直な第一印象になってしまった。こりゃ、ヤバいっすよ。ナニがって、ワタシのフトコロが、そして他メーカーの苦虫を噛みつぶしたような顔が見えそうでヤバいかも~ってハナシです。

α9 IIIの世間一般が認識するところの目玉は、やはりグローバルシャッター方式の採用ということになるのだろう。レンズ交換式デジタルカメラとしては世界初となる(2023年11月時点)この偉業は、「いつか出る、そのうち出る、もうすぐ出るに違いない!」と思い続けてきたギョーカイ関係者、およびコアなユーザー層には、口角が高角度で吊り上がるのを抑えきれない“思わずニヤリ案件”であることも間違いない。

ただ、「グローバルシャッターは歪まないのがいいんだよね」と言われても、実感としてピンと来る人は、実際には少ないのかも? ローリングシャッターによる像の歪みは、たしかに一度、気になり出すと、とことん気になり続けてしまうものだけど、そこまで気にするのは日常から動体に対峙している人、あるいはアクティブに動きながらシャッターを切る人に限られるのが現実。しかも、最近のミラーレス機、とりわけ各メーカーのハイエンドモデルは、その多くがすでに「ローリングシャッターでありながらローリングシャッター歪みを“ほぼ”解決している」のも、もうひとつの現実ではある。

とはいえ、ここでネガティブな宿命と完全に手が切れたのは、撮影に関わる大きな制約が解消されたという意味において大変に喜ばしいことであるのは確か。また、同様の意味において、私はフラッシュの全速同調に、より大きなインパクトと可能性を感じており、今回さっそく試してみようと、個人所有のソニー製フラッシュ「HVL-F45RM」を持ち出してみたら・・・おおっと、コイツはグローバルシャッター方式には未対応だぁぁ!(泣) α9 IIIの発売に合わせ、グローバルシャッター方式に対応するアップデーターが提供されたフラッシュは、「HLV-F60RM2」と「HVL-F46RM」の2機種。なんでボクの「HVL-F45RM」は対象外なの?(涙)

  • これまで個人的にローリングシャッター歪みが一番、気になっていたのは、流し撮りをしているときの背景だった。このように、実態のある背景が主要な被写体の向こうにある場合、そこが斜めに歪むと写真が台無しになってしまうからだ。気にしていない(気づいていない?)人も多そうだけど、そのあたりは動画を撮る人の方がシビアに捉えているのかも? 動画だと、流し撮りではなく素早いパンニング(やっていることは一緒だが)で画が斜めっちゃったりもするからね(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO2000、1/4000秒、F6.3)

  • 縦線、横線、斜め線。これでもかってぐらいにいろんな要素をブッ込んで流し撮りしてもへっちゃらなα9 III。他社のミラーレス機でも、ハイエンドモデルなら電子シャッターでも「ほぼ歪まない」仕上がりを得られるようになってきていることが多いこのごろではあったけれど、いわば宿命でもあったローリングシャッター歪みとの完全決別には、やはり大きな価値がある。とても素晴らしい「新たな一歩」だ(FE 300mm F2.8 GM OSS使用、300mm、ISO250、1/125秒、F22)

  • 臨時停車中ではなく疾走中。マジです。そんな新幹線を真横からそのまま撮っても歪まな~い。コリャすごいね。一方、窓際にある缶コーヒーの銘柄までもが読み取れそうな完璧なる凍結描写は、連写時の上限シャッタースピード1/16000秒のなせるワザ。単写時には、涼しい顔して1/80000秒(!)のシャッター速度まで使えるとのことで、ニコンのフィルム一眼レフ「F-801」が初めて搭載した、1桁違いの1/8000秒にときめいていたあの頃が懐かしいっす~(FE 300mm F2.8 GM OSS使用、300mm、ISO1600、1/16000秒、F2.8、+0.7補正)

  • プログラムAEで雲に半隠れの太陽を撮る。太陽活動が活発な時期なので黒点がいっぱいだ。ここは、連写の1/16000秒ではなく単写で1/80000秒を試してみるべきだったと、ちょっと後悔(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO250、1/16000秒、F10)

グローバルシャッターの採用で損なわれたものはないのか

グローバルシャッター方式採用とはいっても、基本「フルサイズの2400万画素」なので、画質的なバランスはバッチリだ。おおよそどんな場面においても、きわめて精細な仕上がりが得られると思って間違いない。

ただし、常用感度域はISO250~25600(拡張ISO51200)と、α9IIのISO100~51200(拡張ISO102400、電子シャッター時ISO100-25600 拡張下限ISO50)との比較では若干、狭域化。なかでも、ほかのαが軒並みISO100(一部モデルはISO80)を確保している最低感度には、ナニやら先祖返りのような感覚も生じることになった。まぁ、でも、そこは初モノ、まだまだ伸びしろを携えての登場であると受け止めるべきなのだろう。なお、ISOマニュアル設定の拡張領域でISO125、160、200の設定は可能だ。

高感度側は、α9 II比で1段ほど弱いと告白しているかのような常用感度域ではある。でも、そこはやはりバランスに優れるフルサイズの2400万画素機だし、前掲の通り電子シャッターでの比較ではISO25600並びのスペック。重箱の隅をつつかなければ、大きな不満を抱くことはないハズだ。

  • リアルで精細、かつ余裕をも感じさせる描写再現は、フルサイズの2400万画素ならでは。イメージセンサーの読み出し方式は初モノでも“写り”はすでにお馴染みのテイストというわけで、使用するにあたり違和感や特別な緊張感を抱くことは皆無だ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、400mm、ISO400、1/2500秒、F6.3、-2補正)

  • EVFは、まずは仕上がりイメージを正確に伝えてくる(意図した仕上がりを得るための露出補正がイッパツで決まる)ところに高い信頼性を感じられたのだが、動体撮影時にはさらなる別の魅力にガツンとやられることになっている。ともあれ、素晴らしい使い心地のEVFであることは間違いない(FE 20-70mm F4 G使用、23mm、ISO250、1/4000秒、F11、-1.7補正)

  • ISO2000の仕上がり。明るい仕上がりであることからノイズ感が気になることもなく、羽毛の再現もとことん丁寧であるとの印象(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO2000、1/8000秒、F6.3)

  • ISO10000ではこんな感じ。細かい部分のエッジの崩れには好みが分かれるかもしれない。でも、個人的には許容範囲。そのあたりの小さな不満を容認しても余りある「ならでは」な魅力が、α9 IIIには備わっているとの判断があるからだ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、397mm、ISO10000、1/4000秒、F6.3)

α9 IIIを試用して、これは欲しい!と感じた

さて、残りは後編で・・・ということになるのだけれど、出し惜しみするほどのこともないので、ここで早くも結論めいたことを独り言のように呟いておきたいと思う。

今回、限られた期間ではあるもののα9 IIIを使ってみた結果、実は私の中でひとつ大きな変化が生じることになっている。これまで、α9シリーズにはまったく惹かれてこなかったのに、α9 IIIのことはナゼかすんなり素直に欲しい!と思ってしまったのだ。つまり、ワタクシゴトに限った話をすれば、新たに登場したα9 IIIは、α9シリーズで初めて欲しくなったα9だったということ。これ、私にとっては、けっこう大きな事件だったりするのです。いやはや、なんとも、困ったもんですなぁ。。。

  • 記録データ上の測距点位置は、測距とレリーズのわずかなタイムラグで胸のあたりに来ているけれど、撮影時には瞳AFが発動しており、記録されている測距枠のサイズもそれに応じたものになっている。おかげでしっかりバチピンだ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、496mm、ISO2500、1/8000秒、F6.3、+0.7補正)

  • 上の作例のAFポイント

  • この程度の距離感なら、余裕で瞳を認識するのみならず、これよりもっと遠くでも、難なく瞳を認識することが普通にあるなど、αの瞳認識AFは人間以外の対象に対しても相当に磨かれてきている印象だ。ただ、こういったスッキリした絵柄ではなく、例えば前後の枝葉が煩雑な前ボケ、後ボケを生んでいる場合などは、同程度の距離感でも認識率がガクッと落ちるように感じることも。AI君が混乱しちゃうのかな?(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO2000、1/4000秒、F6.3)

  • 上の作例のAFポイント

  • 動体に食いついたAFの粘りは、とりわけ「横切り」系の外乱に対し強みを発揮するように感じた。ただし、これはAF関連の各種設定を初期設定のまま使用しての印象なので、セッティングを追い込めば、もっといろいろ違った手応えが得られるようになるかも? α9 IIIの包容力には、底知れぬモノがありそうな予感・・・(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、600mm、ISO800、1/4000秒、F6.3、+1補正)

  • これまでのα9シリーズには食指が動かなかった落合カメラマンも、α9 IIIにはメロメロの様子。グローバルシャッターがもたらすローリングシャッター歪みのない撮影以上に、落合カメラマンに響いたポイントが実は存在していた。詳細は後編で!