ハードロックの固定概念を覆す、シャインダウンの「信念」をフロントマンが語る

バンド結成から20年、胸にしみるピアノバラード「A Symptom of Being Human」のヒットによって、米ハードロック・バンドのシャインダウンはポップとアダルトコンテンポラリー界隈でファンベースを急速に拡大している。

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昨年9月に出演したBlue Ridge Rock Festivalの会場で、ブレント・スミスはバギーとゴルフカートの渋滞に巻き込まれていた。シャインダウンのリードシンガーである彼と、パパ・ローチのメンバー、そして今飛ぶ鳥を落とす勢いを誇るカントリーシンガーのオリヴァー・アンソニーを乗せた車がステージに向かって進むなか、スミスは自分のことに気づいた何千人というファンが波のように押し寄せてくるのを目にした。

当日の早朝、ヴァージニア州アルトンの郊外にある競走場で行われた同フェスティバルの主催者は、悪天候を理由に開催中止を発表した。シャインダウンは当日にヘッドライナーとして出演する予定だった。全身にタトゥーを入れたノマドライフの信奉者(彼は家を買おうとせず、ツアーバスやホテルを転々とする暮らしを続けている)であるスミスは、会場に残っているファンの想いに応える方法について考えていた。

「『フィールド・オブ・ドリームス』(映画)のストーリーみたいだった。会場の状況をチェックしながらオーディエンスが集まれる場所を探していたツアーマネージャーが、積み上げられた大量のタイヤのそばに木製の小さな見晴し台があるのを見つけたんだ。完璧だと思った」。本誌とのビデオ取材に応じたスミスはそう語った。「オリヴァーと彼のクルー、それにパパ・ローチのメンバー全員を乗せた俺たちのゴルフカートはぎゅうぎゅうで、まるで護衛艦だった。俺たちはその見晴し台に上がって、そこに集まってた7000人くらいの人々に向かってこう言った。『PAはないけど、俺たちには楽器とこの声がある。君らさえ良ければ、いくつか曲をやるつもりだ』」

即席のスーパーグループを率いるスミスが、今にも崩れそうなステージ上でレイナード・スキナードの「Simple Man」を歌う動画のひとつはネット上で拡散され、オーディエンスの期待に応えようとする姿勢が賞賛を集めた。ある人物は同ビデオにこうコメントしている。「マイクもオートチューンも巨大なスピーカーもない。ここにあるのは生のピュアな最高の音楽だけだ」

去年のBlue Ridge Rock Festivalでの即興のパフォーマンス後に、ファンと言葉を交わすシャインダウンのブレント・スミス(Photo by Sanjay Parikh)

ニューメタルの先駆者のひとり、そして「Rich Men North of Richmond」のソングライターと共に、サザンロックの名曲を歌うという状況を、スミスは滑稽だとは感じなかった。テネシー州ノックスビル出身の彼は、2度にわたって行われたビデオインタビューで繰り返し2つのことを主張していた。ひとつは大衆の心を掴むこと、もうひとつはシャインダウンを特定のジャンルにカテゴライズさせないことだ。

「このバンドが特定の枠に押し込められるのは我慢できないんだ」と彼は話す。「俺はジャンルなんて気にかけない。ロック、ポップ、ラップ、カントリー、メタル、俺にとってはどれも同じ音楽だ」

多くのアーティストが口にする台詞ではあるが、スミスの言葉からは断固たる決意が感じられ、それはシャインダウンのファンに対する姿勢にも表れている。「どこの誰であろうとも常に歓迎さ」。バンドという形態にこだわるが様々な音楽に興味を持ち、ハードロックを聴くのは若い白人男性だけという固定観念を覆そうとしているシャインダウンのファン層について、彼はそう語っている。

少し前に、シャインダウンのコンサートの最前列でエキサイトしている白髪の女性の動画がTikTokで話題となった。バンドが15年前の曲「Sound of Madness」をプレイするなか、その女性は拳を掲げてシンガロングし、オレンジ色の耳栓が外れそうになるほど豪快にヘッドバンギングをしている。

ステージ上のスミスの目に何度も留まったその女性はシャインダウンの長年のファンだ。彼女はバンドについて、「何よりも効果のある薬」と語っていたという。

「このバンドのファンの年齢層はすごく広いけど、それは俺たちが人間の魂について歌ってるからだ」と彼は話す。「テーマは人間の在り方についてなんだよ。それが何を意味しているかというと、人間は根源的に善良な存在であって、今のような混沌とした時代においても互いに助け合うことができるっていう、俺たちの信念なんだ」

アダルトコンテンポラリーやカントリーのリスナーを開拓

シャインダウンの最新シングル「A Symptom of Being Human」は、そのコンセプトを体現している。パンデミックの最中にスミスがバンドのベーシストのエリック・ベースと共同で書き上げたこのピアノ・バラードは、自身喪失や不安など、人間のメンタルヘルスを脅かすものについての曲だ。”時々、俺は居場所のない部屋に閉じこもってる/その家は炎に包まれているけれど、警報は鳴らない/壁も溶けてきてる”とスミスは歌う。”君はどうだ?”

ロック系とオルタナティブ系のチャートで既にヒットを記録している「A Symptom of Being Human」は、よりシニア層のリスナーが多いビルボードのAdult Pop Airplayチャートでも躍進している。Spotifyは最近、ケリー・クラークソンやデュア・リパ、そしてスミスの友人であるジェリー・ロール(2人は2022年にナッシュヴィルで行われたショーのステージで、スキナードと一緒に「Simple Man」を歌っている)等の楽曲と共に、「A Symptom of Being Human」を人気プレイリストJust Good Musicに加えた。

しかし、スミスが同曲をアダルトコンテンポラリーの分野でもっと宣伝すべきだと提案したところ、シャインダウンが長年所属しているレーベルAtlanticは困惑した様子だったという。「あの曲はそういう層にアピールすべきだって主張したんだ。でも周りの反応は『一体なぜ?』という感じだった。そういうオーディエンスを俺たちはまだ獲得できていないし、Hot ACは制するのが最も難しいチャートだからだ」

その戦略は見事に功を奏し、同曲はAdult Pop Airplayチャートで15位にランクインした。シャインダウンがHot ACチャートで存在感を発揮できるのであれば、異なるフィールドのアーティストがロックのリスナーから支持を得ることも可能なはずだとスミスは主張する。彼はオリヴィア・ロドリゴを例に挙げる。

「彼女がグラミーのロックのカテゴリーでノミネートされたことに文句を言う奴らもいる」と彼は話す(「Ballad of a Homeschooled Girl」は2024年2月に行われるグラミー賞の最優秀ロックソング部門でノミネートされている)。「俺もあのレコードを聴いたけど、すごくイカした曲もある」。そう話した上で、彼はこう続けた。「北米のロック系ラジオ局のどれが彼女の曲を最初にかけ始めるのか、すごく気になるね。双方にとってウィンウィンになるはずさ」

シャインダウンはカントリーのリスナーからも支持され始めている。彼らは7月にアイオワで開催されるカントリーロック系フェスのTailgates N Tallboysに、ジェリー・ローリーやベイリー・ジマーマン、ネイト・スミス、キャデラック・スリーらと並んでヘッドライナーとして出演する。「ハーディの躍進をはじめ、去年のカントリーのシーンは本当にエキサイテイングだった。俺たちの盟友、ジェリー・ロールのクロスオーバーもね」とスミスは話す。「今は音楽の消費の仕方が大きく変わろうとしている。俺はそれを大いに歓迎しているんだ」

「A Symptom of Being Human」は、シャインダウンを縛り付けていたハードロックバンドというイメージを永遠に葬るのかもしれない。スミスは同曲について、音楽の趣味だけでなく、政治や文化の価値観の違いを超えて人々を結びつける力があると信じている。彼は最近、同曲をステージで披露する前にガザの惨状について言及し、戦禍で罪のない人々の命が失われ続けていることを忘れるべきではないと主張した。

Photo by Sanjay Parikh

「今は人々の考え方や倫理観の二極化が進みつつある」と彼は話す。「対話が次第に熱を帯びて、怒号や罵声が飛び交い始める。相手の言い分が気に入らないという理由でね。そんな風潮の中で、どうすれば敵対や分断を回避できるのか、誰もが頭を悩ませていると思う」

そのヒントは、シャインダウンの思いがけないヒット曲のタイトルの一部「Just be human」(人間らしくあること)に隠されているのかもしれない。

from Rolling Stone US

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