CSA(地域支援型農業)とは?
CSAとは、Community Supported Agriculture(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)の略で、日本では「地域支援型農業」とも呼ばれます。消費者が前もって代金を農家に支払い、定期的に作物を受け取る契約を結ぶ農業のことを指します。具体的な例として、農家と1年の前払い契約をした消費者が月2回、季節の野菜セットを受け取ることができる、といったものなどがあります。
農家にとっては売り先をあらかじめ確保できるほか、代金前払いによって計画的な経営が可能になり、消費者にとっても、なじみの農家から鮮度のよい農産物が入手できるなど、双方にとってメリットがあります。
CSAの歴史は、1980年代にアメリカで始まったのがきっかけとする説や、1970年代に日本で広まった有機農業運動「産消提携」が起源と考える人もいるなど諸説ありますが、現在では欧米を中心に世界の都市で広がりを見せています。
アメリカやヨーロッパでCSAが普及している背景
欧米でCSAが普及している背景としては、CSAに関する支援組織の存在が大きいと考えられます。
欧米各国にはいずれもCSAに関する支援や連携のための組織が存在しており、例えば、アメリカの代表的なCSA支援組織である「Just Food」は情報提供や仲介、CSA認証などの役割を果たしています。こうした、実務的な支援が行われていることによって、生産者がCSAに取り組みやすい環境があるといえます。
この支援組織の有無が、日本の現状と大きく異なる点です。
CSAの運営形態
CSAの運営形態には特別な決まりはなく、世界中で多様なCSAが存在しています。
国内での導入事例を見ても、一人の生産者が多くの消費者(地域住民)を巻き込んで運営するところもあれば、消費者が運営し生産者に依頼するケースもあります。また、地元の企業関係者などが参画して地域ぐるみの運営団体を設立してCSAを実践するケースなど、取り組みの様相はさまざまです。
国内でのCSA事例については後ほど、詳しく紹介していきます。
国内では実践している農家が多くない
一方で、日本国内でCSAに取り組んでいる生産者や団体はまだ少数にとどまるのが現状です。この理由としては欧米諸国のようにCSAに関する支援機関がないことから実践のハードルが高いことに加え、前払いに対する生産者、消費者双方の心理的ハードルもおもな原因と考えられます。
また、CSAは会員となる消費者が参加することで初めて成立しますが、そうした集客の難しさも要因の一つといえるでしょう。
CSA(地域支援型農業)のメリット
前述したように、CSAは生産者、消費者双方にとってメリットがある取り組みです。それぞれの視点で、詳しく見ていきましょう。
生産者におけるメリット
生産者にとっては、安定的に収入を得ることができる点が最大のメリットといえるでしょう。例えば、農業では悪天候などによる収量減や卸売価格の下落などのリスクが付きまといますが、代金前払いの仕組みによって、これらのリスクを織り込んだ形での運営が可能です。
また、前払いによって、それを元手に種や苗を買ったり、設備投資に充てたりする生産者も多いよう。若い新規就農者の暮らしを安定させ、離農を防ぐという意味でも、CSAは優れた仕組みであるといえそうです。
消費者におけるメリット
一方、消費者にとっても、収穫されたばかりの新鮮な野菜を手に入れることができ、作り手の顔も見えて安心できるなどのメリットがあります。
また、運営形態として農業体験ができるプログラムを用意している生産者もいるため、子どもの学習や食育にもつながることが期待できるでしょう。
CSA(地域支援型農業)のデメリットおよび課題
生産者、消費者双方にさまざまなメリットがある一方、課題やデメリットも存在します。それぞれの視点で見ていきましょう。
生産者におけるデメリット
事務作業が煩雑になるという点がデメリットとして挙げられます。たとえば、顧客を獲得するための広報作業や、顧客の管理、提供分にあわせて作物ごとに収穫量を管理する必要があるなど、平素の作業が多くなりがち。コミュニティ形成の一環としてイベント運営などをする場合は、さらに労力がかかってきます。
消費者におけるデメリット
前章で「天候不良など予期せぬ事態でも安定した収益が得られる」という点を生産者のメリットとして紹介しましたが、裏を返せばこれは消費者側にとってはデメリットといえます。
そのため消費者は“不作時には届く作物の量が減ってしまうかもしれない”というリスクを生産者と共有し、理解することが必要になります。
国内におけるCSA(地域支援型農業)の事例
一口にCSAといっても、その運営形態は生産者や地域によってさまざまです。
国内ではどのような形態でCSAを実践するケースがあるのでしょうか。いくつか事例を紹介します。
神奈川県大和市「なないろ畑」
神奈川県大和市と座間市、長野県辰野町で合わせて3ヘクタール強の農場を運営している「なないろ畑」。栽培品目はさまざまな野菜やコメ、ブルーベリーなど。農薬や化学肥料を使わない有機栽培で育てており、2006 年からCSA を開始しました。同農園の収入の柱は、憩いや学びの場として農場に集う「サポート会員」の年会費1万円と、「野菜会員」が毎月払う農産物の購入代金。大和市の畑の傍らで直売所を運営しているほか、横浜市で開かれるマルシェにも出店するなど、一般消費者への販売も行っています。
宮城県大崎市「鳴子の米プロジェクト」
農家のコメ作りを支えるため、2006年に立ち上がった「鳴子の米プロジェクト」。コメの価格を、「作り手」が安心して生産活動を行える価格に据え、購入者である「支え手」が その価格で予約購入するという仕組みを敷いています。
ここでは、地元企業などが参加するNPO法人が「支え手」である消費者から前払い金を受け取り、そこから事務経費や若手就農者の支援などに必要な資金を引いた額を、「作り手」である農家に定額支給しています。消費者が地元産のコメを高く買うことで、地元のコメの生産を支え、地域活性化に結び付いています。
こうした取り組みが評価され、2015年の豊かなむらづくり全国表彰事業で農林水産大臣賞を獲得しました。
兵庫県神戸市「BIO CREATORS」
神戸市西区の「BIO CREATORS(ビオ・クリエイターズ)」は、農薬、化学肥料を使用せずにコメや野菜を栽培する有機農家のグループです。旬の作物を野菜セットとして代金前払いで提供しており、毎週1回決められた曜日に、配分場所である「ピックアップステーション」まで会員自身に取りに来てもらう独自のCSAシステムを敷いています。野菜セットの中身は会員が種類を選ぶことはできないため、調理法を考えるのが難しいという面もありそうですが、同グループでは料理研究家と一緒に「置き換えレシピ」を発信するなどして、旬の野菜をおいしく食べてもらうための工夫を凝らしています。
CSAを始める上でのポイント
収穫した農産物を消費者会員に配分(シェア)するCSAですが、ビジネスとして成立させていくには、留意すべき点が多々あります。ここでは、CSAを経営に取り入れていく上でのポイントを紹介していきます。
配分方法を決める
まず、手掛けた野菜をどのような形で、どのように消費者会員に届けていくかを決める必要があります。例えば、野菜セットには何品目を用意し、サイズはS〜Lサイズのうちどこまで用意するかなどです。ここでの構想に応じて、栽培計画を立てる必要があります。
消費者会員への届け方や頻度も考えなくてはいけません。
CSAでは、消費者会員が作物を自分で引き取りに行くという特徴があるため、「ピックアップ・ポイント」と呼ばれる受け渡し場所を設ける生産者も多くいます。その場合は取りに来る消費者会員の負担を考慮した立地が求められます。
なお、前述した「なないろ畑」では、野菜の出荷場が受け渡し場所を兼ねています。このように、手掛ける作物や地理的条件に応じて、適した配分方法を探る必要があるでしょう。
作付計画を立てる
多品目野菜を会員に提供するCSAでは、通年で作物が一定量収穫できるよう、作付計画を立てる必要があります。CSAは不作のリスクも考慮した上での販売ではあるものの、季節ごとに必要とされる量を極力確保したいところ。CSAを実践する生産者の中には、必要な収穫量より多めに作付けを行うことで、不作に備える方もいます。仮に余剰分が発生した場合も、直売所やマルシェなどで販売できれば、貴重な収入源となるでしょう。
消費者会員を募る
CSAは、消費者である会員なしでは成り立ちません。まずは、取引実績がある顧客や友人、知人などの人脈から最初の会員を集めるとよいでしょう。
例えば、前章で紹介したビオ・クリエイターズでは、口コミやファーマーズマーケットなどでの告知で、徐々に会員数を増やしていったそう。PR用の動画やWEBサイトなどの制作費用はクラウドファンディングで募りました。
このように、さまざまな工夫を凝らして消費者に知ってもらう、興味を持ってもらう機会を増やす取り組みが不可欠です。
まとめ
CSAは、生産者が取り組む農業に賛同してくれる消費者の存在なしには成り立たないシステムです。どのような農業を目指すか、会員となってくれる消費者とどのように信頼関係を構築していくか、しっかりと構想を練ることが、CSAの実践に当たっては最も重要なのかもしれません。
参考