俳優の水上恒司が絶好調だ。連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、趣里演じるヒロイン・スズ子の最愛の人である愛助役が好評を博し、福原遥とW主演を務めた映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は興行収入34億円超えの大ヒット中である。元高校球児である水上は、鮮烈な俳優デビューを飾ったTBS系ドラマ『中学聖日記』(18)以降、数々の映画やドラマに出演してきた。真摯な姿勢と努力が様々な作品で実を結んでいるが、特に精悍で正統派イケメンである水上の人となりがマッチしたひと昔前の好青年役が当たり役になっている。

  • 『ブギウギ』愛助役の水上恒司

「東京ブギウギ」や「買物ブギー」など数々の名曲や多数の映画に出演した戦後の大スター・笠置シヅ子(かさぎ・しづこ)をモデルにした『ブギウギ』。趣里演じる福来スズ子(芸名)こと花田鈴子が、“ブギの女王”と呼ばれる大スターになるまでの波乱万丈の人生を描いていく。水上が演じているのは、村山興業の御曹司・村山愛助役だ。スズ子より9歳年下の愛助はスズ子の熱狂的なファンであり、出会った直後に愛助から猛アプローチ。いつしか互いに惹かれ合うようになり、様々な試練を乗り越えて今に至るが、ここへ来て愛助の持病である結核が悪化している。

もともと先週の流れから嫌な予感がしていたが、1月29日から放送される第18週「あんたと一緒に生きるで」の予告編では、さらに悪化して顔色が悪い愛助の姿が。SNSでは視聴者から悲痛な叫びが上がった。スズ子のお腹の中には、愛助との子供がいるというのに。

水上は、愛助を演じる上で意識していることについて「愛助自身というよりは“スズ子にとっての愛助”という見方を意識して演じています。スズ子の人生の中で、『愛助がいてくれたから歌いたい』と生きる糧・原動力になっていく愛助は、一体どんな人なんだろうと考えながら台本に向き合っています」と公式コメントで語っていたが、まさにスズ子にとっての愛助は、そういう存在になったのではないかと思う。

常にスズ子の一番のファンであり続け、彼女を心から愛し、どんな時も彼女にエールを贈り続けてきた愛助。彼から注がれる真っ直ぐな愛がスズ子に活力を与え、逆境においても奮い立たたせてきた。その愛助のひたむきさは、水上本人とも通ずるところがある。

水上は「自分が愛助と似ている部分は、ひとりの人間に対して誠実に向き合おうとするところでしょうか。ただ、愛助のように、こんなに人のために生きることはなかなかできることではありませんね」とも語っている。このコメントからは、水上自身の誠実で正直な人となりもにじみ出ている。

高校球児時代の経験を生かして真摯に役作り

2018年、有村架純主演の『中学聖日記』で、オーディションにて主人公の相手役・黒岩晶に大抜てきされた水上。当時の芸名は岡田健史だったが、この“黒岩くん”役で彼は一気に熱い視線を浴び、新人若手俳優の中で頭角を現す。そして翌2019年、彼の地元・福岡県をフィーチャーしたスペシャルドラマ『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』(FBS福岡放送)で、早くもドラマ初主演を果たしている。

芸能界入りする前の水上は、野球一筋できた体育会系の青年だった。その並々ならぬ野球への情熱を、その後は演技に向けていくことに。そして野球で経験したことは、俳優という道を選んだあとでも大いに活かされているようだ。

当時、この初主演ドラマで水上にインタビューをした時、「野球で培われたものが、役者として武器になったと感じたことがあるか?」という質問に対して「武器というか、僕にはそれしかないです。自分が生きていくうえで、使っていくべきものは、野球を通して学んだものばかり。先日、僕は20歳になりましたが、11年間野球をやってきたので、単純計算すると、人生の半分以上を費やしたことになります。野球で学んだことや楽しかった思い出、悔しかったこと、つらかったことが全部、今の自分を作った基盤になっていると信じています」と、野球から多くの学びがあったと語っていた。

また、「高校時代の監督に限らず、小中高と野球の指導者の方々は、野球の技術はもちろんのこと、社会に通用する人間を育てることを第一とされ、そういった人間力を鍛える指導をたくさんしていただいた気がします。今思えば、恵まれた環境の中で、野球ができたなと思います」と、これまでの指導者の教えをしっかりと受け止めつつ、常に感謝を忘れない水上。様々な作品で、共演俳優やスタッフから愛されるゆえんは、そういう謙虚さと人間力によるところが大きいに違いない。

そして、毎回与えられた役をとても丁寧に作り上げていく姿勢が、次の作品を呼び寄せていく。ちなみに公式コメントでも明かしていたが、朝ドラ初出演にしてヒロインの相手役に選ばれたのも、2021年に放送されたNHK大河ドラマ『青天を衝け』での渋沢平九郎としての演技が高く評価されたからだ。

映画『あの花』の特攻隊員役でも昭和の好青年を好演

『ブギウギ』の愛助は、結核の持病のため、兵役を免除されていたが、現在公開中の『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』では、命がけで戦地に飛ぶ特攻隊員の佐久間彰役を演じた水上。共に戦争時代を生きる日本男児役だが、こちらも彫りが深いクラシックな顔立ちの水上にはぴったりの役どころだった。

彼が演じた彰は、福原演じる現代からタイムスリップしてきた加納百合と出会い恋に落ちるが、言うまでもなく2人に待ち受けているのは過酷な運命である。この彰役がこれまた、強くてどこまでも優しいという、誰もが惚れそうな好青年の極みだ。水上が演じることで、好感度も増し増し状態に。多くの観客から涙をしぼりとっている本作は、先週の興行ランキングにて、4位から3位にランクアップ。クチコミでの評価も高く、まだまだロングランヒットしそうだ。

ちなみに、彼は3月に放送される西島秀俊が主演を務めるドラマ『黄金の刻(とき)』(テレビ朝日)に出演予定だ。水上が演じるのは、西島扮する「セイコーグループ」の創業者・服部金太郎の青年期。これまた大正・昭和の高度成長期というひと昔前の時代を懸命に生きた役柄となる。

公式コメントで「青年期の金太郎は、不器用ではあるのですが、真っすぐに、時間というものに魅了されていく男の子です。今回僕は、14歳から21歳までを演じさせていただきますので、その間の金太郎の成長度合いを見せていきたいなと考えています」と意欲を見せていたが、こちらの役も水上にしっくりとハマりそうだ。

(C)NHK