これまで非公開だった故ジェフリー・エプスタイン関連の裁判記録のうち、数百ページ分が先日一般公開された。ビル・クリントン米・元大統領からアンドルー王子など、世界有数の大富豪や実力者を友にもち、性的人身売買で起訴された故人について、これまで知らなかった事実が明らかになった。
裁判文書は今月3日まで伏字にされていたが、これ以上非公開にしておくべきではない、と昨年12月に判事が裁定を下したため一般公開された。もともとは、エプスタインを告発したヴァージニア・ジュフリーさんが2015年にギレーヌ・マックスウェルを民事訴訟で訴えた時の文書だ(マックスウェルは2022年に性的人身売買で有罪となり、現在は控訴手続きを進める一方で懲役20年の刑に服している。エプスタインは懲役45年を求刑されていたが、2019年8月に勾留されていたマンハッタン刑務所の独房で首を吊っているのが発見され、自殺と断定された)。
12月の裁定後、公開文書の内容について多くの憶測が飛び交った――大半の人物はすでに報道済みだが、いくつか穏やかならぬ新たな疑惑も明らかになった。以下、公開文書でわかった衝撃の新情報を見ていこう。
エプスタインは10代の少女に、家出して一緒に暮らそうと持ちかけた
4日に公開された資料には、15~17歳ごろにエプスタインから性的暴行を受けたという匿名告発者の宣誓陳述書も含まれていた。ある時エプスタインは、未成年だった告発者に一緒に暮らそうと打診された。「私を家出させたがっていました」。
暴行は――その他大勢の告発女性が同様の証言をしている――マッサージという体で始まった。初めて会った時、エプスタインは「(私の)同意なく、(私の)服を脱がせました」と告発女性は語っている。「ただそこにいただけなのに、突然恐ろしい目に遭いました」。
マックスウェルの弁護士は、ジャーナリストが自叙伝を売りたいがためにジュフリーさんに売春について嘘をつくようそそのかしたと非難
マックスウェルは自分とエプスタインにかけられた容疑を否認し、再三にわたってジュフリーさんを中傷した。宣誓陳述書でもジュフリーさんを「完全な嘘つき」「大げさに誇張する空想家で、正真正銘の悪人」呼ばわりしている。
4日に公開された資料によると、マックスウェルの弁護団はジュフリーさんの記事をデイリー・メイル紙に掲載したジャーナリスト、シャロン・チャーチャー氏の証人喚問を申し立てた。チャーチャー氏は携わっていた自叙伝の売り上げを伸ばすために、ジュフリーさんが暴行疑惑を大げさに騒ぎ立てる、または捏造するのを手伝った、と弁護団は主張した。「チャーチャー氏は疑惑が嘘だと知っていただけでなく、原告に手を貸して話をでっち上げた」と弁護団は主張している。
ジュフリーさんのメールによれば、クリントン氏はエプスタインの記事についてヴァニティフェア誌に「脅しをかけた」らしい(ただし。本当にあったかどうかは不明)
ビル・クリントン氏がエプスタインと長年親交を深めていたのは周知の事実だ。文書に登場する著名人の中に、同氏の名前も記載されているだろうというのがもっぱらの予想だった。
ジュフリーさんは裁判文書にも記載されているチャーチャー氏宛のメールで、クリントン氏が1度ヴァニティフェア誌の編集部にやって来て、「親友のJ.E.に関する売春記事を書かないよう、編集部を脅した」と書いている。
メールには問題の出来事についてこれ以上詳しいことは記載されていない。こうしたことが本当にあったという証拠もない。主張は本気だったのか、それとも冗談まじりに誇張したつもりだったのかも定かではない(弊誌は以前ヴィッキー・ワード記者の記事で、ヴァニティフェア誌の編集者グレイドン・カーター氏が2003年にエプスタインから圧力をかけられ、疑惑についての記事をもみ消したと報道した。この件についてエプスタイン本人は否定していた。クリントン氏の一件についてカーター氏に尋ねたところ、「そんな話は聞いたことがない」とのことだった)。
カーター氏はテレグラフ紙との取材でもこの一件を否定し、「絶対にこんなことは起きていない」と語っている(クリントン氏の広報担当者にコメントを求めたが、すぐに返答は得られなかった)。
ジェフリー・エプスタインいわく、ビル・クリントンが「若いのが好き」
元大統領については他にも、いただけない噂があった。エプスタインを訴えたジョアンナ・シェーベルイさんの宣誓陳述書によると、クリントン氏は「女の子は若いのが好き」だとエプスタインが一度口にしたそうだ。
公開された文書には、クリントン氏の不適切行為は糾弾されていない。2019年にエプスタインが逮捕された後、クリントン氏は声明を発表し、エプスタインとは「ゆうに10年以上」話をしていないとし、元友人が起訴された「恐ろしい犯罪については全く」知らなかったと述べた。エプスタインのプライベートジェット機に4回ほど乗ったことは認めたが、彼が所有する島に行ったことはないと否定した(3日にクリントン氏の広報担当者にコメントを求めたが、すぐに返答は得られなかった)。
アンドルー王子と人形
2022年2月、未成年時にたびたび性的暴行を受けたとジュフリーさんから訴えられたアンドルー王子が和解に応じた。容疑そのものは否定していたが、公判中に王位と陸軍階級を正式に剥奪された。
今回公開された文書には、元英国王室メンバーの暴行疑惑の詳細が記載されている。シェーベルイさんの宣誓陳述書によれば、彼女とジュフリーさんはエプスタイン宅で1度アンドルー王子に会ったことがあるという。マックスウェルが王子そっくりの人形を取り出した。「人形には”アンドルー王子”と書かれた小さなタグがついていたので、それで誰なのかわかりました」とシェーベルイさんは証言している。
その後は撮影タイム。シェーベルイさんの話では、「ヴァージニアの膝に人形が置かれ、私はアンドルー王子の膝に座りました。人形の手がヴァージニアの胸に、アンドルー王子の手が私の胸に置かれ、写真を撮りました」(アンドルー王子の広報担当者にコメントを求めたが、すぐに返答は得られなかった)
ダーショウィッツは常連だった
エプスタインは2008年、弁護士のアラン・ダーショウィッツ氏のおかげで「温情司法取引」を勝ち取り、未成年に対する性犯罪での起訴を免れた。ダーショウィッツ氏も公開文書の中で大きく取り上げられている。
エプスタイン宅の身の回りの世話をしていた元スタッフの証言によると、ダーショウィッツ氏はフロリダにあるエプスタイン宅に「足しげく」通い、単独で訪問しては「若い女の子たちをはべらせて」過ごしていたそうだ。またそこでマッサージも受けていたという――エプスタインが性的暴行におよぶ際にたびたび使った手口だ。
ドーシュウィッツ氏はローリングストーン誌に宛てたメールで、妻と一緒に「1990年代に1度だけプロの施術師からマッサージを受けた」ことは認めたが、「エプスタインといる時に女の子の姿を見たことは一度もない」と述べた。5日にはライブストリームで、「免責をいいことに、訴えられる心配がないので虚偽の嫌疑をかける人々がいる」と愚痴を垂れていた。
盗まれたパスポートと「キスゲーム」
裁判文書に記載されている内容から、エプスタインとマックスウェルが周りの女性たちをコントロールするために度を超えた行動に出ていたことが伺える。エプスタインの富豪仲間、グレンとエヴァ・デュビン夫妻の元プライベートマネージャー、リナルド・リッツォ氏の証言によれば、エプスタインが所有する島に向かう道中、マックスウェルは「怯えた」15歳の少女を脅し、「エプスタインとセックスさせるためにパスポートを取り上げた」という。
またリッツォ氏によれば、マックスウェルは弱冠14歳の少女11人を集め、エプスタインのために「一緒にキスゲームをやるよう」指示したそうだ。
ジュフリーさんいわく、レス・ウェクスナー氏との性行為は「3回以上」
ヴィクトリアズ・シークレットやリミテッドなどのCEOを務めたLブランズの創業者は、エプスタインとは旧知の仲で、友人であり、唯一の公認クライアントでもあった。だが9日に公開された無修正版の宣誓陳述書で、ジュフリーさんは2人の間柄がそれ以上だったと述べ、3回以上、おそらくは5回以上ウェクスナー氏とセックスしたと主張している。同氏のためにランジェリーに着替えるようマックスウェルから言われたと述べているが、ブランド名までは覚えていないという。