カシオの電子ピアノ「CELVIANO(セルビアーノ)」は、高いピアノクオリティを追求したシリーズ。そのCELVIANO、新モデルが2月9日から発売となります。

上位機種のAP-750は、カシオと「C.BECHSTEIN(ベヒシュタイン)」の共同開発によって誕生した「ベルリン・グランド」という音色が楽しめます。グランドピアノと同じスプルース材を使った鍵盤のほか、繊細なペダリングを叶える本格的なペダルも備えました。

  • AP-750。今回発表された上位機種です。ピアノを弾くスキルが高く、演奏経験を多く積んできた人がターゲットです

さらに電子ピアノらしく、自動で録音する機能や、演奏中のタッチや音量を光で可視化する機能も。ピアノという古くから愛されている楽器が、「本格的な鍵盤楽器が令和のライフスタイルに寄り添って進化した!」といえる電子ピアノです。弦の響きや本体の鳴りまで感じるサウンドは、アコースティックピアノに慣れ親しんだ人にも満足できそうです。詳しく紹介しましょう。

独自の音作り。上位機種にはベヒシュタインのプレートが輝く

新型は3モデル。上から順に、AP-750、AP-550、AP-S450です。発売日はAP-750とAP-550が2月9日、AP-S450が2月22日。価格はオープン、推定市場価格はAP-750が220,000円、AP-550が180,000円、AP-S450が150,000円となっています。

  • AP-550は高い技術を身につけたい初心者から中級者を想定したモデル。カラーはブラック、ブラウン、ホワイトの3色

  • AP-S450はコンパクトなボディが特徴。幅広いジャンルの曲を本格的なピアノで手軽に演奏したい人にオススメ。カラーはホワイトとブラウンの2色

関係者向けの説明会では、AP-750を中心に紹介されました。新製品は新しい音響システム「グランドフォニックサウンドシステム」を採用。4チャンネル8スピーカーシステムを備えたほか、チャンネルごとに音の成分を調整し、スピーカーが奏でる音の流れを緻密に設計することで、グランドピアノの共鳴を実現しました。

簡単にいうと、グランドピアノは広い面積に弦を長く張っていることもあり、弦の響きだけでなく楽器全体も振動して音が鳴ります。ポンと鍵盤を押したとき、その鍵盤の音(ドとかミとか)だけでなく、響いた弦や楽器の振動が音となって鳴るため複雑で奥行きが出るのです。そうした楽器全体の鳴りや響きを追求した技術・機能が、「グランドフォニックサウンドシステム」というわけ。

実際に新製品の前に座って弾いてみると、深い響きと広がりを感じます。和音を鳴らすと時間の経過とともに響きが変化していき、弦のない電子ピアノを弾いているのに不思議な感覚でした。

  • 8スピーカーシステムで立体的な音を作り出します

  • グランドピアノの、楽器そのものの響きも再現していきます

電子ピアノらしく、音色数は39種類を内蔵。グランドピアノの音色は世界的に有名なものの音を追求した9種類から選べます。中でも「ベルリン・グランド」の音色は、ドイツのC.ベヒシュタインと共同開発した特別な音色です。

  • 世界的に有名なグランドピアノの音を簡単な操作で切り替えられます。演奏する曲が作曲された時代や、作曲家によって音色を変えるのも楽しそう

  • 「C.ベヒシュタイン」のプレートが輝きます

音色の選択は鍵盤やタッチボタンで選択します。電源などの操作ボタンは端にまとまっているため、ピアノらしいデザインを損なっていません。多彩な音色を収録している電子ピアノは音色の選択が面倒なこともあるのですが、これなら直感的に操作できそうです。

  • 電源のオンオフや後述する録音機能などは、本体の横に集約されたキーで操作します

  • 音色は鍵盤で選択。選べる音が記載されているので分かりやすいですね

ピアノの前面パネルにはデジタル表示の「ビジュアルインフォメーションバー」を配置。打鍵の強度やペダルの踏み込み量を表示するほか、メトロノームやオーディオイルミネーションとしての役割も果たします。

【動画】優しく光る「ビジュアルインフォメーションバー」。音量などが視覚的に分かります(音声が流れます。ご注意ください)

「インスタントリプレイヤー」も新たに備えた機能。打鍵やペダル操作で録音を開始する機能です。最大270秒録音できます。10秒以前から5秒単位で秒数を指定してリプレイできるので、自分の演奏(直前)をすぐに聴き返して練習がはかどりますね。

ワイヤレスMIDI&AUDIOアダプターも付属し、スマホアプリ「CASIO MUSIC SPACE」などを使って楽しみ方が広がります。Bluetoothスピーカーとしても機能するため、好きな音楽を流せます。

  • ワイヤレスMIDI&AUDIOアダプターが付属。買ってすぐにアプリなどと連携できます

プロのコンサートや、マスタークラス会場でも使われている電子ピアノ

会場にはピアニストの赤松林太郎さんと鐵(てつ)百合奈さんが登場。プロの楽器奏者として、AP-750を弾いた感想を紹介しました。

  • ピアニストの鐵百合奈さん(左)と赤松林太郎さん(右)。AP-750を弾いた感想、楽器として魅力、音大生やプロの電子楽器事情について語りました

「耳元で響く音が豊か。スピーカーから出ているのではなく、ホールで弾いているかのような音の響きを感じます。指先に託した想いやイメージを耳で感じられます。タッチについても違和感なく、演奏家に寄り添って開発するという(カシオの開発者の)愛を感じます」(赤松さん)

「楽器が鳴っているような響き。部屋の中で弾いているというよりは、ホールのステージ上で弾いているような感覚があります。タッチも、思った音をひきだしてくれるような感覚で、すばらしい弾き心地。とてもいい気分でした」(鐵さん)。

音大で教鞭をとる赤松さんは、ピアノ本来の魅力として弾いた後に音が段々消えていく音の減衰を挙げます。さらに、「プロのピアニストは、鍵盤を押すタッチでなく、指を鍵盤から離すときにもテクニックを駆使して音の減衰を工夫しています」と紹介。AP-750は、そうした工夫をしっかり受けとめて音を表現するため、思い描いた音が出てくると評価。

赤松さんは、タッチによる音色の違い、和音の響き、トリルや装飾音符といった表現が分かりやすいよう、シューマンの「トロイメライ」と、ファリャの「火祭りの踊り」などの曲を演奏しながら、AP-750の魅力を説明してくれました。

【動画】赤松さんによる演奏。シューマン「“子供の情景”より トロイメライ Op.15-7 ヘ長調」と、ファリャ「組曲“恋は魔術師”より 火祭りの踊り」(音声が流れます。ご注意ください)

鐵さんは、鍵盤だけでなくペダルについても高評価。「これまで電子ピアノはペダルが軽かったり響きの表現が限られたりしていましたが、AP-750はハーフペダルや4分の3だけ踏むなど、細かい表現ができます」としました。

  • AP-750のペダルはグランドピアノのペダルをもとにしたサイズ、間隔、踏み込みを研究して開発されました

会場では鐵さんによる、ショパンの練習曲Op.10-12 ハ短調「革命」の演奏が披露されました。

指の速い動きや表現に対する鍵盤の反応性がよく分かります。一般的に「革命」の演奏では、音が濁らないように細かく繊細にペダルを踏みかえるため、ペダリングの技術がいります。そうした鐵さんの高い技術を受けとめられる楽器といえるのではないでしょうか。

【動画】ショパンの練習曲 Op.10-12 ハ短調「革命」。演奏は鐵百合奈さん(音声が流れます。ご注意ください)

プロからも好評のAP-750。2人によると、音大生であっても住宅事情で自宅にグランドピアノが置けず、電子ピアノを所有している学生は多いそう。さらに、コンサート会場やマスタークラス(音楽大学・音楽院の教授陣による少人数の短期間講習会のこと)の会場などにも電子ピアノが置いてあることも少なくないとのこと。

「楽器の違いを知って、良いデジタルピアノを選ぶ必要性を感じています」と鐵さんは話していました。

一方、赤松さんは「世の中が変わってきて場所も限られているなか、音楽を心から楽しむには、こうした電子楽器という領域が求められているのでは。品質にこだわった楽器と出会って自分のやりたいこと(音楽を)実現できるのであれば、すばらしいこと」としています。

3モデルを用意。上級者には上位機種、スペース重視ならスリムタイプ

以降、個人的な感想と3機種の違いを紹介しましょう。比べてみると、音の響きは上位機種のAP-750がもっとも豊か。曲を練習するだけでなく、音色、響き、姿勢、腕の使い方、ペダリングの研究など、音楽とじっくり向き合いたい人にはAP-750をオススメします。

子どものころにピアノを習っていて、再び始めて趣味でピアノを弾きたいという人には、AP-550も良いと思います。AP-750とAP-550は音源が違うため、比較すると響きの印象が違います。例えば、打鍵のタッチによって発音を変える「ハンマーレスポンス」は、AP-750が10段階なのに対して、AP-550は4段階です。収録している音色数も、AP-750のほうが多彩です。

  • AP-550でも豊かな演奏表現は可能。AP-750と比較すると、深みと響きの違いを感じます

  • フタにゴールドのライン。ちなみにAP-750とAP-550には高低自在椅子が付属します

ペダルはどちらもダンパー、ソフト、ソステヌートの3本式。ソフトペダルに関しては、AP-750はより繊細で踏んだ深さによる余韻の変化を楽しめる「連続可変式」を採用しています。

  • ペダルの表現力は機種によって異なります

これからピアノを始める子ども用としては、悩ましいところです。自分なら、まずはAP-550を選んで様子を見ると思います。AP-750ほどではないにしても響きは豊かで、手の形や打鍵の強弱でも音色が変わります。ペダルの長さと間隔も十分に確保されており、しっかり練習できるでしょう。

電子ピアノを家電としてとらえると、一般的な家電は8年〜10年が買い替えの目安。いま使っている電子ピアノの買い替えランクアップにも良さそう。

省スペース性を重視するならAP-S450。音源、音色数、ハンマーレスポンスの段階などはAP-550と同じです。

本体サイズ・重さは、AP-750が幅1,401×奥行き440×高さ929mm・53.6kg、AP-550が幅1,401×奥行き440×高さ929mm・53.6kg。対して、AP-S450は幅1,393×奥行き299×高さ866mm・37.6kgとコンパクト。AP-S450の背面板はほかの2機種と比べて小さく、クリアなデザインの譜面立てなので抜け感があります。

本体カラーはAP-750がブラックのみ、AP-550はブラック、ブラウン、ホワイトの3色、AP-S450はホワイトとブラウンの2色。ブラック以外のピアノが欲しい場合はAP-550かAP-S450になります。

鍵盤でもペダルでも高度な演奏表現ができて、デジタル楽器らしく音選びの楽しさや録音なども楽しめる新しいCELVIANO――。弾きたい曲、好みの表現やジャンルなどを踏まえながら、ぜひ楽器の前に座って弾き比べてみてください。