パリ2024パラリンピックに向けたボッチャ日本代表選手選考会を兼ねた「TOYOTA presents 第25回日本ボッチャ選手権」が1月21日、幕を閉じた。笑顔と涙が入り混じった現場をレポートする。
パリ2024パラリンピックの日本代表に内定した(左から)杉村、遠藤、廣瀬<BC1女子>
“勝ったほうがパリ内定”。BC1女子決勝は、予選12月に行われたアジア・オセアニア選手権(香港)でBC1/BC2チームの日本の出場権を勝ち取った遠藤裕美とリオ・東京パラリンピックのメダリスト藤井友里子の顔合わせとなった。
「自信のある中で試合に入れた」
そう話したのは、前回優勝者の遠藤だ。大会まで一週間、集中してロングボールの強化を図ったと言い、予選でもロングボールを投げて感覚を研ぎ澄ましてきた。
一方、女子の第一人者としてBC1クラスをけん引してきた藤井は、力んでフォームが崩れる原因となっていた“重荷”を捨てたことで調子を上げているという。
独特の緊張感が漂う中で始まった試合は、第2エンドで遠藤が仕掛けたロングボールに藤井が対応できず、遠藤が5得点。ビッグエンドをつくって大きくリードした遠藤に対し、藤井は自身に有利なエンドで複数得点を挙げられなかった。
「でも、道が開いたのでそこにボールを固めることはできた」と藤井は納得の表情。最後まで次の展開を読む自身のボッチャを貫いて「いい試合ができた」と振り返った。
8-2で勝利した遠藤が大会2連覇。「(エンドの移行で)ロングからショート圏内になるときに修正がうまくできない部分があった」と課題を挙げたものの、「練習してきたことが結果につながった」と、報道陣の前で顔をほころばせた。
笑顔を見せる遠藤(左)と藤井さらに遠藤は、自身初のパラリンピックとなるパリ大会の日本代表に内定。大会後の記者会見で抱負を述べた。
「すごくうれしいの一言。このチームでパラリンピックの舞台でいい成績を残せれば最高だと思う。個人戦では決勝に上がって強い選手と戦いたい。自分がどれだけ対応できるか確かめたいです」
ボッチャの個人戦は、パリから男女に分かれて実施される。“日本代表決定戦”に敗れた藤井は言う。
「(男子の中で負けないように頑張ることがモチベーションだったので)私にとっては複雑だったが、女性にもチャンスが来たということ。頑張ってほしい思いです」。女子代表になった遠藤は、女子選手の道しるべを作ることができるか。藤井から遠藤にバトンは渡された。
<BC4男子>
「お前に青春をすべてかけてきてよかった、と言われて。試合前から泣きそうでした」
BC4で3連覇した大阪体育大学の内田峻介は、報道エリアで「アダプテッド・スポーツAPES」の先輩であるコーチとのやり取りを明かすと、涙をこらえることができなかった。
ボッチャ日本代表「火ノ玉ジャパン」のキャプテンでもある内田の感情があふれたのは、アジア・オセアニア選手権のクラス分けでNE(出場資格なし/編集注:ボッチャの場合、1回のNE判定では、次の国際大会出場機会を奪われるわけではない)の判定を受けたことと無縁ではない。
「この1ヵ月すごく苦しかったが、周りの人に気持ちの面でサポートしてもらった。さらに、コーチには対戦する選手の対策をしてもらい、優勝することができたと思うので感謝しかありません」
近年、国内のBC4で圧倒的な力を誇ってきた。予選で東京パラリンピック日本代表の江崎駿に敗れ、追い込まれたかと思いきや、「(3連覇のプレッシャーがあったが)負けたことで気持ちを切り替えられた」と内田。決勝は、予選の反省からリスク管理をして臨み、第1エンドからターンオーバーを奪って7-3で勝利した。
内田はBC4男子で日本一になり、パリへの道をつないだ<BC3>
大会前、日本代表の井上伸監督が「拮抗していて見どころが多い」と語ったBC3男子は、若手が躍動。4つに分けたリーグの各1位が決勝に進む予選では、東京パラリンピック(ペア戦)銀メダルの河本圭亮が髙橋祥太に、同銀メダルの高橋和樹が21歳の鵜川健介に敗れるなどの波乱が起こった。
緻密な戦略と精度の高さでナンバーワンに上り詰めた有田パリへの道を閉ざされたライバルたちを尻目に決勝に進出したのは、世界ランキング13位の有⽥正⾏。観客席の熱気なのだろうか、会場となった墨田区総合体育館の室温が上がり、有田はボールが転がりにくい状況下で距離感を修正していった。2点リードで迎えた最終エンドは、球数を使わずに自球をジャックボールに寄せると、挑戦者の髙橋祥太を退け、2大会ぶりにチャンピオンに返り咲いた。
髙橋祥太(左)が2位、鵜川健介が3位に入った初めてのサーフェスで「難しかった」と有田。「ランプオペレーターとのコンビネーションも含め、細かいことも共有し、しっかり準備して臨めた」と安どの表情で語る姿が印象的だった。
二人三脚でボールの研究をしてきた、妻でランプオペレーターの千穂さんも「今大会に向けて『このボールをこうしよう』と、ふたりで会話を積み重ねてきた。それが決勝で発揮できたかな」と明かして喜んだ。
東京パラリンピック銀メダル(ペア戦)の高橋和樹はパリへの挑戦を終えた女子は伸び盛りの17歳、一戸彩音が連覇を達成した。同クラスはパリの日本代表出場権未獲得。一戸は「3月のポルトガルの大会で有田選手とパリパラリンピックの権利を獲得して、ペア戦、個人戦ともに金メダルを獲りたい」と力強く宣言した。
緊張もあったというが、笑顔で大会を締めくくった一戸<BC2男子>
そして、大会のトリを飾るBC2決勝。男子は日本が誇るダブルエースの対決となり、それぞれの応援団やボッチャファンが固唾をのんで見守った。
廣瀬隆喜の4連覇を阻止したい東京パラリンピック金メダルの杉村英孝だったが、準決勝で佐藤駿に2点リードされて最終エンドを迎え、スーパーショットを連発させて逆転。シビれる展開に本人も「感電しそうでした」と表現するほどだった。
準決勝は最終エンドで杉村が5得点。見事な逆転勝利に会場は盛り上がったその杉村は、決勝でも魅せた。廣瀬にリードを許す中、最後の一球で形勢逆転のチャンスを作り出したが、廣瀬のボールをジャックに寄せてしまい、6-1で敗れた。
一方の廣瀬は、ライバルを意識しすぎず、自身のパフォーマンスに集中したと語りつつも「杉村選手はテクニシャン。ヒットの強弱も変えながら、頭をフル回転させた」と明かし、連覇への強い思いを貫いた。
雄たけびがトレードマークの廣瀬は、パワーが武器だ第3エンドで廣瀬がコート奥のラインぎりぎりに投げたロングのボール、そしてその後、ふたりが見せたせめぎ合いはまさにボッチャの真骨頂だった。
大会後、パリ2024パラリンピックに内定した廣瀬と杉村。今年の夏、ふたりはBC1の遠藤とともにチームとしてパラリンピック3大会連続のメダルを目指し、4年連続で日本一に輝いた廣瀬は個人戦ではまだ手にしていないメダルを獲りに行く。
「自分のボッチャは未完成」と話した杉村【TOYOTA presents 第25回日本ボッチャ選手権 】
BC1男子:中村拓海
BC1女子:遠藤裕美
BC2男子:廣瀬隆喜
BC2女子:蛯沢文子
BC3男子:有田正行
BC3女子:一戸彩音
BC4男子:内田峻介
BC4女子:岩井まゆみ
BC1男子で優勝した中村
text by Asuka Senaga
photo by Takamitsu Mifune,X-1