TSMCの2023年第3四半期決算説明会では、大手機関投資家(証券会社、投資銀行、調査会社)からの質問に、主にC.C.Wei CEOとMark Liu会長が答えた(海外工場展開については、その責任者であるMark Liu会長が答えた)。

IntelとTSMCの技術格差はどの程度か?

投資家からの質問としては、TSMCのライバルでもあり顧客でもあるIntelの最新デバイスがTSMCの2nmプロセスよりも低コストかつPPA(消費電力・パフォーマンス・エリア)で優位にあると言われていることに対する見解を問うもの。

Wei CEOは、Intelの最新テクノロジーについては、TSMCのN3Pと同程度であると社内では確認したと説明。TSMCは2nmプロセスを2025年に量産開始する予定だが、3年にわたる準備期間があり、技術の成熟度において他社と比べて先んじているとし、TSMCはこれからもテクノロジーリーダーシップとして、幅広い顧客基盤を所有していくことを強調していた。

また、Liu会長は、TSMCのN3Pの性能はIntel 18Aと同程度との見方を示しているほか、その性能も自社製品向けに最適化した場合であるとし、TSMCはファウンドリとして複数の顧客の製品に合わせてテクノロジーを最適化を図っており、その点が大きな違いとなると補足している。

AI半導体にTSMCが注力する理由

また、投資家からは、生成AIを競合が活用した場合、TSMCと技術的に差を詰めることができるのではないか? という意見も出たが、これに対し、Wei CEOは、AIを活用している競合も居るとの認識を示しつつも、そうしたAIは初期の段階にあると指摘。TSMCでもAIを活用することでイノベーションの加速を目指す取り組みをすでに何年にもわたって行ってきており、今後も競合と公正に技術競争を繰り広げていくとしている。

さらに、AI半導体関連の売り上げがスマホやHPC向け半導体に比べるて少ないのかどうか、ならびに利益はフロントエンドとバックエンドのどちらから得るのか? という質問に対し同氏は、フロントエンドおよびバックエンドの両方から収益を得ることを目指していると説明したほか、AIデータセンタのシステム全体に占める半導体の価値は現状では小さいものの、AIは毎年、年平均成長率50%で成長していくことが見込まれており、2027年までにTSMCの総売上高の10%が非常に狭い定義のAIから得られるようになることが見込まれていると指摘。すでにPCやスマホを含む多くのエッジデバイスにAIアプリケーションの組み込みが始まっており、そうした関連アプリまで含めると、実際の売り上げ規模は相当なものになるとの見方を示した。

TSMCは何を技術選択の基準にしているのか

加えてTSMCが新たに技術を選択する際の基準について問われたWei CEOは、「顧客に役立つかどうかで決めている」と回答。同社の顧客には、最高のトランジスタ技術と最高の電力効率の高い技術を妥当なコストで提供する必要があるとし、大量生産においてはテクノロジーの成熟度が最も重要であり、例えば高NA EUVの場合、注意深く技術レベルを検討し、ツールの成熟度、ツールのコスト、そしてそのスケジュールを含めどのように達成するかを検討し、個客にサービスを提供するために適切なタイミングで適切な決定を下すことを意識しているとする。

成熟プロセスは供給過剰となるのか?

このほか、成熟プロセスの生産能力が世界規模で過剰になる可能性についての質問に対しては、構築が進められている生産能力が需要を大きく上回る可能性について触れ、そうした懸念を払しょくするためにTSMCとしては、他社との差別化を図り、汎用プロセスではなく特殊プロセスの生産能力を増加させる取り組みにシフトしており、その収益性についても問題の無いレベルとなっているとした。

2.5Dパッケージング技術「CoWoS」の今後

また、同社の2.5次元(2.5D)パッケージング技術「CoWoS」に対する需要ならびに、その先を見据えた3D ICに対する質問に対して同氏は、「CoWoSの需要は強い状況で、現在、個客のサポートできるだけの十分な生産能力が提供できておらず、その状況は少なくとも2025年までは続く」との見通しを示し、その解消に向けて生産能力の拡充に向けた取り組みを進めており、すでに2倍に増やしているものの、まだ不足しており、2025年に向けて今後も生産能力の増強を継続していくことを強調。ただし、2025年の投資計画については、現状、まだ話せる段階にないとしている。

また、技術革新として、主流の「CoWoS-S(シリコンインターポーザー使用)」に加えて、「CoWoS-R (有機インターポーザー使用)」や「CoWoS-L(ローカルシリコンブリッジ使用)」などの計画があるのかどうかについては、顧客と協力して適切なサポートの提供を行っていく計画で、そうした技術を開発していることも示唆した。

TSMCは日本に2棟目以降の工場を建設するのか?

海外投資に関する質問として、日本のおける第2工場ならびに第3工場の建設の可能性が出たが、Liu会長は、第2工場の建設については評価段階にあるものの、まだ発表できる段階にはないとしているほか、日本政府と協議を重ねている状態であると述べるに留めた。

第2工場が実現されれば、採用されるプロセスとしては、7nmまたは16/12nmプロセスのどちらかになると見られているが、同社は高雄工場について最初の計画として28nmプロセスか7nmプロセスとしていたが、後になって2nmプロセスへと変更しており、最終的にはどのプロセスになるのかについては、まだ何も決まっていない段階であり、語ることができない点を強調した。

同じく海外投資として、米国で建設が進む第2工場についての質問に対しても、どのようなプロセスが採用されるのかについては議論をしている段階であり、米国政府の補助金などのインセンティブがどの程度のものになるのかがポイントとなることを強調。現在の計画では2027年もしくは2028年の稼働を計画しているとするに留めた。

Liu会長は、海外工場の多くについて、採用されるプロセスは顧客の意向が重視されるとし、顧客にサービスを提供することを目的に、適切なタイミングで適切な決定を下すことになるため、現時点では何も決まっていないともしている。アリゾナ州に建設されているそうした新工場の顧客については、基本的には世界のどこの企業でも利用可能だともしているが、実際のところ、その大半は米国企業となる見込みだともしている。