警察庁が2023年の交通事故死者数を発表した。2022年より68人増えて2678人になりましたと。じつはこれ、すごく重大なことなのだ。
先に申し上げておく。警察庁の発表は基本的に24時間以内の死者数だ。1分でも超えればカウントされない。また、死亡に至らなくても大変な後遺障害を負うことがある。外見ではわからないものに「高次脳機能障害」がある。交通事故で脳に損傷を受け人格が一変、ふとしたことで爆発的に暴れたり、万引きをくり返したり、そんな裁判も私は傍聴してきた。しかし今回は死者数のみを取り上げる。お許しいただきたい。
戦後、交通事故の死者数は2度ピークがあった。1度目は1970年で1万6765人。「交通戦争」と呼ばれた。2度目は1992年で1万1452人。「第二次交通戦争」と呼ばれた。その後どんどん減少。政府は2021年3月発表の「第11次交通安全基本計画」で、2025年までに死者数を2000人以下にすると目標を掲げた。
いくらなんでも無茶な目標? いや、当時の死者数の減少ぶりはこうだった。
2017年 3694人(前年比-210人)
2018年 3532人(-162人)
2019年 3215人(-317人)
2020年 2839人(-386人)
2021年 2636人(-203人)
2020年の大幅減は新型コロナの影響かと思われるが、コロナ前の2019年は-317人だ。2022年、2023年、2024年、2025年、平均150人ずつ減れば2000人に届く。十分に実現可能と思えた。実現すれば大変な快挙、壮挙だ。
■目標の「2000人」が達成困難?
ところが2022年、たった26人の減少にとどまった。そして2023年、68人の増加に転じたのである。都道府県別に見ると、上位はこうなっている。
1位 大阪 148人(前年比+7人)
2位 愛知 145人(+8人)
3位 東京 146人(+4人)
4位 北海道 131人(+16人)
5位 千葉 127人(+3人)
大阪は3年連続1位だ。大阪といえば、横断歩道や通行帯の区画線などの道路ペイントが、かすれて消えかかっているどころか、ほぼぜんぶ消えている! そんな画像をSNSでよく見かける。「まさかでしょ。フェイク画像?」と私は首をかしげていたが…。
とにかく、このままでは「2025年までに2000人以下」は達成困難だ。どうする。いちばん手っ取り早いのは、取り締まりの強化だろう。
可搬式オービス(ネットでは「移動式オービス」とよく呼ばれる)による速度取り締まりや、飲酒運転の検問など、テレビが“絵にしやすい”取り締まりを増やす。テレビで全国報道されることの広告効果は何億円ぶんにも相当とするという。そうした報道に啓発されて安全運転になる者もいるはず。なにより「警察は事故抑止のため本気で頑張っている」とアピールできる。
■2024年は一時不停止の取り締まりが増加か
2024年、具体的にどの違反の取り締まりが特に増えるか。やっぱり、近年めきめき増加中の一時不停止(指定場所一時不停止、一時停止違反)かと思われる。
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信号機がなく、一時停止の標識があるだけの交差点は多い。ちらっと観察すればわかるとおり、停止線の手前できちんと一時停止するクルマは少数派といえる。隠れて待ち伏せ取り締まりをおこなえば“入れ食い”だ。「取り締まりを増やせ」と尻を叩かれた警察官は、一時不停止を狙うことになりやすいだろう。
■「交差点違反」の取り締まりを強化
交通事故は交差点および交差点付近で起こりやすい。人車が交差するのだから、当然だ。
多くの信号交差点は、同一方向の車道の信号と、横断歩道の歩行者信号が、同時に青色になる。青信号で発進して右左折するクルマは、青信号の横断歩道を横切る。ついうっかり歩行者を見落としての事故があとを絶たない。直進バイクと右折四輪との「右直事故」は、バイクのライダーが死亡する典型的事故だ。
信号無視、横断歩行者妨害など「交差点違反」の取り締まりを警察は近年強化している。一時不停止も「交差点違反」に含まれる。
■スキャンレーザー式の誤測定に注意
あと、詳しい説明は省くけども、東京航空計器(TKK)のスキャンレーザー式の可搬式オービス、あれの実績を警察は上げようとするはず。だが、スキャンレーザー式にはどうも問題があるようだ。実績を上げるため、現場警察官が無理なことをやりかねない。北海道では大変なことがあった。
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もしもの誤測定に備えて、ドライブレコーダーを装備しよう。
■加害者にも被害者にもならないために
飲酒運転、無免許運転、速度違反、これが「交通三悪」といわれるが、「三悪」が引き起こす事故は、じつは少数派。いちばん多い事故原因は、要するにちょっとした不注意だ。特に交差点を右左折するとき、路外施設へ出入りするときは、一瞬も気を抜いてはならない。
ところが、気を抜いて不注意な状態で右左折などをするクルマは、これはかならずいる。そんなクルマにハネられないよう、歩くときも注意しよう。私なんか、交差点の歩道で信号待ちをするとき、事故って進路をそれたクルマが歩道へ突っ込んでくる可能性を考え、頑丈な構造物の陰に立つ。青信号の横断歩道を渡るとき、不注意なクルマが突っ込んでこないか、きょろきょろ見回しながら渡る。そんなことをして疲れないか? いやあ、慣れですよ。慣れれば普通になります。
待ち伏せ取り締まりの“獲物”にならず、事故の加害者にならず、被害者にもならない、2024年はこれでいきましょう! もちろん、その先もずっとね。
文=今井亮一
肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。