【プロフィール(五十音順)】
■河合秋人さんプロフィール
株式会社日本農業 取締役COO 慶應義塾大学卒業後、スローガン株式会社で法人営業に従事。2017年、株式会社日本農業に創業メンバーの1人として参画。「日本の農業で、世界を驚かす」をミッションにりんごやぶどう、キウイなどの国内生産や海外輸出、イチゴの海外生産をリードする。 |
■久保田陽太郎さんプロフィール
株式会社浅井農園 経営企画ユニット マネージャー モナッシュ大学卒業後、農林中央金庫で法人営業や農業融資の推進業務に従事。その後IT関連企業の立ち上げに携わり、2021年7月に株式会社浅井農園に入社。経営企画ユニットにて各ユニットの伴奏支援や新規事業開発業務を行っている。 |
■友部栄紀さんプロフィール
株式会社BRAVE 専務取締役 やさと農業協同組合で約10年間、営農指導に従事。事業を立ち上げ、その後同じ農協職員と地域の農業を盛り上げるため株式会社BRAVEを立ち上げる。長ねぎ10haの栽培に加え、経理、作業計画、基準作り等の事務、圃場生産管理を担う。2024年には20haへ拡大させ、ねぎムキ収穫等を外部委託することでより生産力を上げる予定。地域の農業振興にも奔走している。 |
■中村大介さんプロフィール
株式会社イカリファーム 生産部 部長 滋賀県出身、地元農業大学校在学中にイカリファームと出会う。その後JAに約1年在籍し、2009年イカリファームに入社。初期メンバーとして生産作業に携わり、現在生産部8名を束ねる役割を担っている。社是の「Exiting Agriculture」を体現するべく皆で「ワクワクし続けられる農業の実践」に取り組んでいる。 |
■矢澤竜星さんプロフィール
のらくら農場 群馬県邑楽郡出身。13歳の時にロックンロールに出会い、栃木を拠点にバンド活動を本格的に開始。全国を駆けまわる。その後、雑貨屋運営を経てたまたま農業界入り。2023年圃場長、現在はのらくら農場1番バッターとしてクワをフルスイング。 |
■吉川和亨さんプロフィール
株式会社RED APPLE 取締役 埼玉県出身。弘前大学農学部を卒業後、産直店や飲食店を運営している会社へ入社し、店舗管理等に携わる。その後、RED APPLE代表の赤石氏と出会い、同社に入社。「りんご産業のリーディングカンパニー」を目指しさまざまな挑戦を行う。 |
■渡辺健一さんプロフィール
アグベル株式会社取締役 山梨県出身。國學院大學を卒業後に株式会社リクルートに入社し、不動産領域の営業職を5年間務める。その後にアグベル株式会社に入社。仕入販売の営業責任者と選果場の運営責任者など業務の幅を広げていき、現在執行役としての役割を担う。 |
異なる右腕の役割
河合:「右腕」の定義って会社ごとに違うと思います。日本農業の場合は、会社がどういう方向を目指していくかを社長が定義した時に、社長が苦手なことを率先してやる存在だと思っています。だから現時点では僕が社長の右腕となっていますが、会社がもう少し大きくなったら僕より適切な人が出てくるかもしれません。
中村:イカリファームは社長が人材教育の方向性を決め、それを実際に進めていくのが右腕としての僕の役割だと思っています。社長も具体的な進め方は現場に任せてくれていますし、僕も現場に出ています。
渡辺:会社って社長がいて、各グループに管理職がいるじゃないですか。右腕は管理職とはまた少し違うと思います。僕の場合は、社長が経営の相談ができるかどうかが右腕の一つの定義になると考えています。
久保田:浅井農園は代表が各地を飛び回っていて、なかなか本社にいません。私の役割は、円滑に会社が進んでいくように社員と社長の橋渡しをすることです。あとは、基本的に社長の願いは叶えるんですが、「ここは……」という時は反対意見を言って止めるのも右腕の役割かなと思います。
吉川:確かにストップをかける人がいないと組織って大変ですよね。社長のトップダウンで全部決まっていく組織と、右腕がいるのとでは全然違う。
友部:BRAVEはまだ創業したばかりで今は事業拡大が目標。社長にはビジネスチャンスがあればそっちに時間を割いてほしいので、現場は全部自分が担当しています。
矢澤:のらくら農場は年間60品目を点在するほ場で栽培していて農作業が複雑なので、代表も現場にずっと出ています。「右腕」は現場のリーダーを意味しています。
右腕のミッションは与えられるもの? 見つけるもの?
吉川:入社時に社長からミッションを与えられた人と、自分で発見してきた人、それぞれいると思いますが、みなさんどうですか。
友部:もともと自分は数字が好きで、損益分岐点の分析や経理は自分がやっています。立ち上げからそういう話はしていたので、最初からミッションは明確でしたね。
渡辺:僕は自分で見つけに行った方に近いです。農業界全体的にそうかもしれませんが、数値化がおろそかになりがち。社長が経営判断したいと思った時にすぐデータを提供できるよう、とにかく情報収集をしています。
矢澤:僕らは実は職位が全くなくて、毎年ほ場のリーダーを変える仕組みをとっています。僕自身まだ3年目で先輩もたくさんいますが、成長のために今年リーダーに立候補しました。代表には「矢澤が入ればなんとかなる」と思ってもらい、安心して外に出てもらうことが僕の役割だと考えています。
中村:僕もあまり具体的に言われてこなかったかもしれません。でも関係が古いから「社長こんなことしたいんやろな」「僕がやった方がいいのかな」と考えながらやっています。
吉川:実際、社長が「ここが課題だ」と言葉に出していることと、「実際手をつけなきゃいけないこと」は違うこともありますよね。例えば品質を落とさず生産規模を広げていきたいとき、「どう効率を上げればいいか」と言っているけど、実際はコミュニケーションの方法や雰囲気の方が重要なこともあります。
河合:社長はそこまで現場のことをわかってないからこそ、「ここが原因だと思う」という直感は当たりがち。ただその解決方法が違うんですよね。「それじゃないんだよな」と思いつつも、社長の視点は重要だなと思います。
右腕の役割の一つ「橋渡し役」
久保田:ここ数年、浅井農園に入社する層が少し変わってきました。例えば博士号を取得して大手の自動車メーカーで働いていた方とか、貿易会社でバリバリ営業をしていた方とか。それによって会社の成長スピードがすごく速くなっています。
吉川:いろんなジャンルの人が集まる中で橋渡しをしなければならないんですね。摩擦は起きないんですか。
久保田:僕が入社して最初にやったことは、ほぼ全員とサシ飲み、もしくは少人数で飲むこと。まずはお互いの性格やコミュニケーションのとり方を理解するようにしました。
吉川:私の場合は正面衝突でしたね(笑)。入社した当時、会社は、これまでの仕事に対する考え方ではもう大きくできないというフェーズにいました。だから最初にやった仕事はただただケンカに近くて。こちらが「会社はどこを目指すのか」「こういうビジョンを目指せるんじゃないか」というのに対して従業員からは「それをやることの意味は?」「俺らだって頑張ってきたんだよ」という反応がありましたね。3年くらいたって、やっと落ち着いてきました。
中村:僕はそこまで橋渡し役を担っているわけではありませんが、社長が思っていることを解釈して社員に伝えています。
渡辺:その翻訳、めちゃくちゃ大事ですよね。新規就農者のうち、3割は5年で離農するといわれていますが、うちの会社も入社して3年もつかどうかは打率50%です。社員のモチベーションを維持するのは基本的に経営理念だと思うので、経営理念を翻訳する役割は重要ですね。
吉川:長期的には、社長のやりたいことが社員にしっかり伝わって、橋渡しがいらなくなるのが理想ですよね。
「右腕の右腕」を育成する方法
友部:BRAVEは各部門にリーダーがいて、彼らと話し合いながら日々やっています。彼らを「右腕の右腕」として育てていきたいのですが、みなさん人材育成にはどう取り組んでいますか。
河合:僕らの会社では、まず任せる機会を提供しています。ただ、上の立場の人間がフォローできる範囲に限ります。「ここを過ぎたらまずい」というラインの見極めと、そのラインの手前で止めることは絶対に逃してはいけないポイントですから。それができない状態で任せてしまうのは、うまくマネジメントできていない状態だと思います。逆にいえば、自分が事業を伸ばせるかどうかが、任せる機会を提供できるかどうかにも関わってきます。
中村:部下の方は、次に自分が上になるためには何をしなければいけないかまで把握しているんですか。
河合:そこまで形式ばってやっているわけではありません。例えば管理する範囲が1ヘクタールと、3ヘクタールと、5ヘクタールでは、そこで働く人数も違いますし、マネージャーとして求められる能力が変わりますよね。まずは小さい規模から任せて、しっかりと結果を出したら次に行くというステップアップの連続です。
中村:確実にモノにしてもらうということですね。
右腕の悩み「人材育成」
久保田:みなさんの中で、企業間の交換留学に取り組んでいるところはありますか。浅井農園では一時期、別の法人から1人社員が来てくれたことがあるんですが、企業間の交換留学はいい制度だなと思います。同じ業界同士でもいいですし、関連している企業さんから来ていただくのもおもしろそうですよね。
吉川:RED APPLEはアグベルさんとやる予定ですよ。アグベルさんもうちも、いろんな仕組みやフレームワークを使って組織運営や人材育成に取り組んできたものの、「よくわからない」という壁にぶち当たったんです。そこで社員を交換して、いろいろ吸収してみようということになりました。もしかしたら、しょうもない理由かもしれないんです。例えば笑顔が多いとか、ミーティング前の会話が重要だとか。お互い何かヒントが得られるのではないかと思っています。
渡辺:RED APPLEさんもアグベルも、きっと似てる部分があるんですよね。
中村:会社の当たり前をどれだけ外の目で気づけるか、気づかせてもらえるかで今後変わってきますよね。絶対にやった方がいいと思います。イカリファームも社員から「交換留学したい」と言われることがありますが、まだ実現していません。扱う機械の種類も違いますし、どの時期に行くのがベストか、相手が何を求めているかなど、精査が必要です。でもうちもいつかは実現させたいと思っています。
座談会はへ続く
「社長の右腕」といっても、その役割は会社ごとにさまざま。一方で「橋渡し役」など共通する役割があることもわかりました。また会社の変化に合わせた「人材育成」も右腕が抱えやすい課題。企業間交換留学や仕事を任せる機会を提供するなど、さまざまな方法で解決に取り組んでいるようです。
座談会の後半は、右腕としてのモチベーションの保ち方や「右腕がいない」という会社に向けたアドバイスを聞きます。
(編集協力:三坂輝プロダクション)