昨年12月26日にマーロン・タパレス(フィリピン)を10ラウンドKOで下し2階級(バンタム&スーパーバンタム級)で「4団体世界王座統一」を果たした井上尚弥(大橋)は翌日、こう口にしていた。「来年(2024年)は3試合したい」─。

  • 昨年、スーパーバンタム級でも4本のベルトを集めた井上尚弥。2024年は統一王座の防衛戦に挑む(写真:藤村ノゾミ)

その1つ目の試合が、5月6日、東京ドームで行われることが濃厚に。対戦相手は日本でもネームバリューが高い“悪童”ルイス・ネリ(メキシコ)だ。井上は、これまで以上の大舞台で「最強」にして「最凶」の挑戦者と拳を交えることになる。

■井上尚弥に新たな勲章

先週末、喜ばしいニュースが飛び込んできた。
2023年『シュガー・レイ・ロビンソン賞(世界プロボクシング最優秀選手賞)』に井上尚弥が選出されたのである。
同賞は1938年に創設され、初代受賞者は元世界ヘビー級王者のジャック・デンプシー(米国)。その後、モハメド・アリ(米国)、マイク・タイソン(米国)、フリオ・セサール・チャベス(メキシコ)、イベンダー・ホリフィールド(米国)、フロイド・メイウェザー(米国)、マニー・パッキャオ(フィリピン)ら錚々たるメンバーに授与されている。
その権威ある賞に井上尚弥が選ばれた。これは日本人初の快挙。
昨年に闘ったスーパーバンタム級での2試合で一気に4団体のベルトを統一したことが高く評価されたのだろう。

「昨年は日本での2試合でしたが、こうして世界中の記者の方々からの評価をいただけて光栄に思います」
井上は、受賞の知らせを受けた後に、そうコメントしている。
だがこれもモンスターにとっては通過点に過ぎない。
その先にフェザー級に上げての「世界5階級制覇」を見据えながら、今年は4本のベルト(WBA、WBC、IBF、WBOスーパーバンタム級王座)を守り抜く闘いに挑む。

  • 2023年12月26日、東京・有明アリーナでマーロン・タパレスを終始圧倒し10ラウンドKO勝ち。これで井上尚弥の戦績は26勝(23KO)、無敵ロードを驀進中(写真:藤村ノゾミ)

さて井上尚弥の初防衛戦だが、まだ正式なアナウンスはない。
しかし、米国の放送局『ESPN』ほかでは次のように伝えられている。
「5月に東京でルイス・ネリと対戦する」
井上陣営と契約を交わしているトップランク社のボブ・アラム氏も「そうなると確信している」と話しており、これはすでに決定事項のようだ。

■『RIZIN.47』開催日時が変更に

そうなると、気になることが2つある。
まず、ネリは日本のリングに立てるのか?
2017年8月、当時王者だった山中慎介(帝拳)にKO勝利しWBC世界バンタム級王座を獲得したネリだったが、その後に薬物検査で陽性反応。翌18年3月、王者として山中の挑戦を受ける際には大幅な計量オーバーで王座を剝奪された。そのためネリは、JBC(日本ボクシングコミッション)から無期限の日本国内活動停止処分を受けているのだ。

だが、この件に関してJBCの安河内 剛本部事務局長が言う。
「昨年のJBC規定改定で、処分開始日から無期限(活動停止)は3年、(資格)取り消しは5年が経過すれば再申請が可能になりました。だから、永遠に活動停止ということではない。申請があれば資格審査委員会で検討します。ネリ選手は米国などで試合しており、ずっと日本で試合ができないというのは常識的ではない」
すでにネリ本人、またはプロモーター側から出場申請は行われているのだろう。活動停止処分は解かれることになりそうだ。

気になる2つ目は、イベント日時。
こちらは「5月6日、東京ドーム」が濃厚である。
同日にプロ野球・読売ジャイアンツの試合は組まれておらず、音楽関係ではないイベント団体が会場を確保している。東京ドーム側からはイベント団体名は明かされていないが、井上尚弥の試合のために押さえられていることは、ほぼ間違いない。

さらに、それを裏付ける出来事もあった。
先週、総合格闘技『RIZIN』の記者会見が都内ホテルで開かれた。主題は2・24 SAGAアリーナ『RIZIN LANDMARK 8』の追加カード発表だったのだが、その席で次のようなアナウンスもされている。
「有明アリーナ『RIZIN.47』の開催日時を5月6日から4月29日に変更します」 変更理由を、RIZIN榊原信行CEOは、こう話した。
「世間で噂されているビッグイベントとかぶりそうなので。敢えて同じ日にイベントを開催する必要はないから」
具体名こそ挙げなかったが、そのビッグイベントが「井上尚弥の東京ドーム初防衛戦」なのは明らかだ。

  • 一昨年6月、那須川天心vs.武尊のキックボクシングファイト『THE MATCH 2022』には 5万6399人(主催者発表)の大観衆が東京ドームに詰めかけた。今年5月には井上尚弥が熱狂を巻き起こす(写真:SLAM JAM)

東京ドームでのボクシングイベント開催は、1990年2月の「マイク・タイソンvs.ジェームス・バスター・ダグラス」以来、実に34年ぶり。そして日本人ボクサーがメインを務めるのは初めて。井上尚弥にとってネリは「最強」にして「最凶」の相手であり、これまでにない緊張感が醸されよう。
一昨年6月の『THE MATCH 2022』で那須川天心と武尊がキックボクシングファイトを行い東京ドームに溢れんばかりのファンが詰めかけたが、あの時と同様の熱狂が期待できる。
スーパーイベントの正式発表を楽しみに待ちたい。

文/近藤隆夫