エースの去就にやきもき
1月はプロ野球のカレンダーでは自主トレ期間だ。2月1日のキャンプインに向け、各自調整を重ねる。球団行事ではないので、ユニフォームはもちろんチームウエアも厳禁だ。「新人合同自主トレ」であっても球団公式サプライヤーのものでなく、思い思い自前のトレーニングウエア姿だ。また「秋山翔吾組」の下田キャンプに参加している五十幡亮汰のように所属チームの垣根は取っ払われることになる。僕は寒いなか、ニット帽をかぶった選手が走り込みをしているような光景が好きだ。そんな写真を見ると、いかにも「始動!」とか「球春間近」という感じがする。
ところがファイターズの場合、この1月は単に自主トレに目を細めていればいい期間ではなかった。チーム編成上の重大事が決する(もしくは決さない)、ファンからしたらドキドキの期間だった。日本時間12日の午前7時を期限に上沢直之のポスティング移籍の可否が決まるのだ。これが12月中にでも早々合意が発表されてたのなら、僕らも諦めがついただろう。球団のポスティング移籍容認が公になった段階で、「上沢がんばって来い!」という気持ちだったのだ。が、もし万が一、話がまとまらなかったら…。そのときはファイターズでガンガン投げてくれと思っていた。そして、期限ぎりぎりまで「レイズ、オリオールズが興味を持っている」程度の報道で、行き先が確定しなかったのだ。
これはローテをどう組むかの大問題だ。上沢がもしチームに残るなら事実上、「最大の補強」だ。エースローテで24試合170イニング投げてくれるピッチャーなんてそう簡単に見つからない。FAで山﨑福也を獲得したが、もし残ってくれたらすごい投手陣だ。上沢直之、山﨑福也、加藤貴之、伊藤大海、上原健太と5枚が十分計算でき、残り1枠を鈴木健矢、根本悠楓、金村尚真、細野晴希の成長、もしくはマーフィー、ザバラ、ロドリゲスのうち適性のある者で埋める感じだろうか。
というわけで、12日朝は「上沢決まってくれ」「上沢決まらないでくれ」という全く相反する感情が交錯するへんてこりんな朝だった。刻限の7時を迎えてもネット上に「オリオールズ確定!」みたいなニュースが出ない。しばらく宙ぶらりんな状態が続き、「レイズとマイナー契約」という情報が出た。すると「決まらないでくれ」と半ば思ってたくせに、うちのエースをマイナー契約とはどういうことだ、そんな低評価はけしからんとカッとなっていた。
※実際は本人がレイズの投手育成を信頼して、敢えてマイナー契約を選んだということだった。
攻めの補強でチームに刺激と活気
というわけで1月中旬になって、2024シーズン上沢直之がファイターズで投げることはなくなった。(わかっていたとはいえ)先発ローテにぽっかり穴が空いたのだ。で、よく考えたら「上沢の穴」の他に「ポンセの穴」も空いていた。ポンセは昨シーズン稼働率が悪かったけれど、本来ならエース格で回せるような投手だ。実力派だ。名護の海で泳いでいた。喪失感がでかいのだ。まさか楽天へ行っちゃうとは。ファイターズは強力な先発を2枚欠いて、新しいシーズンを迎える。そう、誰もが覚悟したのだった。ところが同じ12日、思いも寄らぬ一報がもたらされる。
バーヘイゲンのチーム復帰だ。ドリュー・バーヘイゲンが3年ぶりにハムのユニフォームを着る。懐かしかった。あの頃、僕はバーヘイゲンが登板する度、十勝川温泉のホテル「大平原」や、六花亭の銘菓「大平原」の写真を上げてウヒョウヒョしていた。「仕事のできる投手」という印象だった。後に股関節の不調を抱えていたと知って驚いたものだ。2020年東京オリンピックの中断などを利用して休ませたら復調してくれた。好印象がある。チームでは「バギー」と呼ばれていたはず。
バーヘイゲン再獲得は「2年最大11億」とも噂される攻めの補強だ。山﨑福也やレイエスにもお金を使ったし、このオフのファイターズは近年例がないほど意欲的に思える。これは「上沢の穴=山崎福也」「ポンセの穴=バーヘイゲン」が戦力的に釣り合うかというだけの話じゃない。チームに刺激と活気がもたらされる。選手はフロントの「本気」を感じるだろう。特にバーヘイゲン再獲得はインパクトがあった。
伊藤大海、加藤貴之、山﨑福也、バーヘイゲン、上原健太にプラスアルファ。去年のアジチャン(アジアプロ野球チャンピオンシップ2023)で評価が高まった根本悠楓が筆頭になるかと思うが、1月に入って急速に陣容が見えてきた。できるならこの先、想像を超える上積み(細野が新人王級の大活躍、新外国人マーフィーがブレイクetc)が出てくると嬉しい。
が、忘れてはならないのは杉浦稔大、北山亘基など実力派の再ブレイクだ。ルーキーや新外国人の目新しさはないけれど、彼らがローテに食い込めば信頼感ハンパない。何しろ僕らは彼らの良いところをよく知っている。もしかするとバーヘイゲンの加入で「再ブレイク」がキーワードになるんじゃないか。