東洋製罐グループホールディングス(HD)、おいしい健康、シャープの3社が手を組み、調味料IoTデバイス「ソルとも」を開発しました。アプリを使って食塩の使用量を可視化し、減塩調理を実現するサービスを提供します。

  • 東洋製罐(かん)グループHD、おいしい健康、シャープの3社が手を組み、調味料IoTデバイス「ソルとも」を共同開発。左から「トレイタイプ」、「プッシュタイプ」のデバイスと、専用のスマートフォンアプリ

塩分を計量して摂取量にユーザーの意識を向けさせるだけでなく、減塩レシピを提案し、おいしく減塩できるようにする点がポイントです。食品メーカーでの開発現場、医療現場の栄養指導、外食産業など幅広い業界での使用を想定しており、まずは2024年度中に実習実験を進め、2025年度中の実用化を目指します。

0.3gの塩をワンプッシュで。使用前後の重さから計測するタイプも

今回発表されたデバイスはふたつ。ひとつは「プッシュタイプ」で、ボタンを押すと一回に0.3gの調味料(顆粒タイプ)が出てきます。ボタンを押すたびに計量します。もうひとつは「トレイタイプ」。液体の調味料を容器ごとのせると、その液体の重さの変化から使った量を計算する仕組みです。

どちらのデバイスも使った量は自動で記録され、アプリで食塩使用量(日付/種類/使用量など)を確認できるほか、本体のLEDでも使った回数を直感的に把握できます。

本体サイズは、プッシュタイプが55×138mm(直径×高さ)、トレイタイプが98×98×43mm(幅×奥行き×高さ)。どちらも単3形の乾電池で動作します。通信方法はBluetooth対応ですが、将来的には無線LANへの対応も検討しています。

  • 四角いボタンを押すとパッと塩が飛び出します

  • 容器を製造したのは、総合容器メーカーの東洋製罐グループ。押しやすい形状、量産しやすい口径、調味料入れとしてテーブルなどにも出しやすい見た目など調整を施しました

  • プッシュするごとにLEDが光ります。6回押した後、7回目からはLEDの色が変わります

  • 使うたびに塩分量を記録します

  • トレイタイプは、調味料の容器をのせるだけなので計測は簡単です

  • 使用前後でトレイにのせて計測します

  • こちらも自動的に使用量を記録します

  • 使った調味料の種類や使用量、日付をアプリでチェックできます

使用にあたっては、最初にクラウド上のデータベースに使いたい調味料を登録します。そのため、薄口醤油、だし醤油など、同じ醤油でも種類によって塩分量が異なるときも、正確に把握できるというわけ。

現在のところ計測できる調味料は、塩と醤油のみ。今後は登録できる調味料を広げていく予定で、例えばプッシュタイプなら、顆粒タイプのコンソメやグラニュー糖などが考えられます。調味料を入れる容器部分を付け替えられるので、ひとつのデバイスで複数の調味料の管理が可能が可能です。

  • 顆粒タイプの調味料の詰め替えが可能

  • 調味料を入れる容器部分を付け替えられるので、ひとつのデバイスで複数の調味料の管理が可能です

  • 顆粒タイプの調味料として、だし、コンソメ、グラニュー糖、コショウなどへの対応が今後考えられます

トレイタイプの場合は、調味料の入った容器の重さの差で計測します。そのため、味噌などのペーストタイプのものや、ケチャップなどの粘性が高い物の計測が期待できそうです。

アプリで管理できる調味料は現在のところ同時に7つまで。トレイタイプで計測できる重さは1,500g程度。冷蔵庫内にトレイタイプを置いた場合でも計測する実験も進めているそうで、高さの調節やドア側に置いたときの振動の影響などを検討しています。

ちなみに、シャープでは冷蔵庫内にセットして、上にのせた食品などの有無をセンサーで検知する「ストックアシスト」というオプション品を用意しています。ストックアシストが食品のあり・なしを検知して食品の在庫管理に使うのに対し、今回の「ソルとも」は、より正確に計測して使った量を把握するというため、目的が異なります。

「日本人は塩を摂りすぎている」

過剰な食塩摂取が健康リスクを引き起こすことはよく知られています。日本人の1日あたりの平均的な塩分摂取量の目標は、男性7.5g・女性6.5g未満とされているものの、実際の平均的な食塩摂取量は男性10.9g・女性9.3gと、塩を摂りすぎているのだそう。

ヘルスケアスタートアップ「おいしい健康」の野尻哲也代表取締役CEOによると、減塩が難しい理由として、さまざまな調味料や加工食品などがあるため「見た目から塩分の量がわかりにくい」、塩を減らすと「おいしさが犠牲になる」、適量使うための「計量がわずらわしい」の3つが挙げられるとのこと。

そうした問題を解決するために誕生したのが「ソルとも」です。調味料IoTデバイスの容器の開発を担うのが東洋製罐グループHD、調味料IoTデバイスの開発・提供、アプリの開発を担うのがシャープ、そして専用スマホアプリの開発、減塩レシピの提供をおいしい健康が担っています。

食品量を自動で記録し、専用アプリで見える化するため、摂取量をリアルタイムで把握可能。これなら「今日は昼間塩分を摂りすぎたから、夜はちょっと控えようかな」などと行動変化のきっかけにもなりそうです。

また、通常厳密に計測するのは手間がかかりますが、「ソルとも」ならワンプッシュや重さの差から自動で塩分量を計測できるので、一般家庭でも取り組みやすいといえます。

「管理栄養士が塩分管理を想定してレシピをつくると、1番多いものでも0.3g。小さじ1(5g)でも多いんです。0.3gのほどよい微量の塩分を簡単に測れないかということで、今回調味料IoTデバイスとアプリの開発を致しました」(野尻氏)

アプリでは減塩レシピの紹介も行っており、そこには「3プッシュ」「2プッシュ」など、塩分量が分かりやすく表示されています。

  • 減塩レシピをアプリでチェックできます

  • 減塩レシピのチャーハンを試食しました。ねぎの香りが食欲をそそります

会場で減塩レシピで作ったチャーハンを試食しました。塩分が控えめだと物足りないことがありますが、このレシピで作ったチャーハンは大きめに切った具材やねぎなどの香りで満足度が高く、おいしかったです。健康と美味しさのバランスを大切にしたレシピによって、持続可能な食事管理にもつながります。

医療現場などでの食事療法のサポートとしての活用のほか、決まった量の調味料が出るため料理初心者にもうれしいデバイスです。プッシュタイプの場合なら、「塩ひとつまみ」「塩少々」といったあいまいな量ではなく、自動で計量排出するので、飲食店などで経験が浅いスタッフが調理する場合や、家庭で普段あまり料理しない人やヘルパーさんに調理をお願いする場合でも、ねらった味付けが簡単にできますね。

使った量を計測するということは、買い物のタイミングなども分かるため買い忘れなども防げそうです。

  • 医療現場や飲食店などの利用、家庭で使う場合は計量のほか、ひとり暮らしの家族の見守り機能としても活用できます

「ソルとも」実証実験を2024年度中に、2025年度中の実用化めざす

塩分管理を簡単に行いたいというニーズにこたえる「ソルとも」ですが、一般販売はまだ未定。調味料メーカーなどのマーケティングツールとしての活用、医療現場やレストランなどでの使用、減塩の健康指導を行う現場のサポートツールとしての利用を想定しており、2024年度中に実証実験を行う考えです。実証実験でニーズなどのフィードバックを受け、2025年度中の実用化を目指します。

  • 調味料の利用状況がリアルタイムで把握できるので、調理からライフスタイルに関するデータを取得できます

  • 実証実験企業の募集を1月11日に開始しました

塩分を管理するデバイスや、健康的なレシピ提案をするアプリなどは他社なども取り組んでいますが、「ソルとも」はデバイスと連携してレシピ提案するところが違います。

トレイタイプで管理する際は、現在のところ複数の調味料を使うには複数のトレイタイプを用意しなくてはならないため、スペースなどが気になるところですが、このあたりは今後の実証実験を踏まえて検討するとのこと。シャープは調理家電も作っているので、将来的に調理家電と連携するなど、使い方も広がりそう。食品メーカーや外食産業、医療・健康サービスなどと協力するなどして、減塩への多角的なアプローチのきっかけになりそうですね。