1月10日、サッポロビールの2024年事業方針説明会が開催された。コロナの5類移行、2度目の酒税法改正、物価上昇と大きな変化があった2023年だが、同社の販売実績は非常に好調だ。2024年にも「サッポロ生ビール黒ラベル」と「ヱビスビール」を中心にさまざまな施策が予定されている。
ビール類の販売実績が伸張した2023年
サッポロビールの代表取締役社長を務める野瀬裕之氏は、はじめに1月1日の能登半島地震、1月2日の羽田空港衝突事故の被災者にお見舞いの意を表明したのち、2023年の事業を振り返る。
「昨年は新型コロナウイルスが5類に移行し、長いトンネルをやっと抜けることができました。また、2度目の酒税法改正を受け、ビール、RTD(READY TO DRINK、栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料)のウェイトが増えました。さらに物価上昇により、お客さまの消費行動も変化しています。これらを肌で実感しながら、多様性を強みとした当社ならではの事業戦略をこれからも進めていこうと思います」(野瀬氏)
2023年の販売実績を見ると、ビール類(ビール、発泡酒、新ジャンル)の販売実績は前年比102%、とくにビールは109%の伸びを達成した。またRTDも前年比116%と大きく伸張。ともに業界平均を上回る売り上げボリュームだ。
2015年ごろから、独自性の強いビールブランディングへの取り組みを進めてきたサッポロビール。その成果は確実に現れており、同社の看板商品のひとつ「サッポロ生ビール黒ラベル」は、2014年比で約1.8倍の販売実績を実現しているという。これは同社が持つ多様なビールブランド戦略、歴史や物語から紡ぎ出される独自の顧客接点、個性を磨くマーケティングが奏功した結果だろう。
ビールへの憧れを創り出すマーケティング
続いてマーケティング本部長の武内亮人氏が登壇し、2024年の事業戦略とマーケティング戦略について述べる。武内氏は、生活者動向のキーワードとして「メリハリ」「定番回帰」「自己表現・共感、パーソナル、心と身体の健康」の3つを挙げる。
「メリハリ」は、コロナ禍が収束し消費意欲が高まる中で物価上昇の影響があり、消費者の支出先選びがより厳しくなることを想定したもの。消費者が価値を感じるハードルはこれまでよりも高くなるだろう。
「定番回帰」は、定番の安心感、信頼感は引き続き重視されるものの、そのうえで常に進化することが顧客獲得のポイントになると考えられている。
「自己表現・共感、パーソナル、心と身体の健康」は、価値観の多様化に伴う「お酒」の楽しみ方の変化。新しい商品の提供により、「お酒」との新たな関係を作ることが不可欠とする。
そのうえで挙げられる2024年の事業方針は、「個性と物語を強みとしたビールへの憧れを創り出す独自のビールマーケティングの推進」。具体的には、お酒を飲む人口のうち、ビールに関心を持つ層を拡大させることで市場活性化を図るという。
ザ・パーフェクト黒ラベルのリアル体験イベントを開催
ビールマーケティングの柱となるのは、同社の誇る「サッポロ生ビール黒ラベル」と「ヱビスビール」だ。
「サッポロ生ビール黒ラベル」は、これまでも熱狂的なファンを作ってきた。2024年は若年層を中心としたビール無関心層の開拓をより強化し、ブランド姿勢を表す「丸くなるな、星になれ」というメッセージの露出も強めるという。
そのための目玉が、3~6月にかけて開催を予定している体験イベント「THE PERFECT 黒ラベル EXPERIENCE 2024」。全国11カ所で品質にこだわった「ザ・パーフェクト黒ラベル」を提供する。9月以降には、「ザ・パーフェクト黒ラベル店」認定店舗の中からとくに優秀な50店を表彰する「THE PERFECT 黒ラベル AWARD 2024」も実施予定だ。
また2月には黒ラベルのクオリティアップを予定。製造工程をブラッシュアップし、味や香りを新鮮に保つクリーミーな泡を実現する。そして3月5日には、爽快な後味を追求した特別な黒ラベル「サッポロ生ビール黒ラベル エクストラブリュー」の限定発売が予定されている。
恵比寿の地でビール醸造を再開、新CMには俳優の山田裕貴さん
「ヱビスビール」の目玉は、なんと言っても4月3日に開業する「YEBISU BREWERY TOKYO」。35年ぶりにヱビスビール誕生の地、恵比寿でビール醸造が再開される。同社はこれを「ヱビスブランドの伝統と革新の象徴」と位置づけている。
野瀬氏は「恵比寿という地名はヱビスビールから生まれました。130年以上続いてきた、革新から生まれた伝統。エリア自体が物語になります。ビールを起点としてお客さまに来ていただく仕組みを作り、恵比寿の街をヱビスビールの街にしていきたいと考えています」と意気込みを語る。
また、2月20日に「ヱビス CREATIVE BREW」からホップとレモングラスによるこれまでにない清涼感溢れる「ヱビス シトラスブラン」を限定発売。ビールの可能性を広げる先駆的な姿勢を打ち出す。そして4月にはヱビスビールのバリューアップとして、8年ぶりのリニューアルを予定している。
あわせて、1月13日からヱビスブランドの新CMが公開される。新ブランドテーマは「たのしんでるから、世界は変えられる」。俳優の山田裕貴さんを起用し、仕事に向き合う姿勢とビール造りに向き合う姿勢をリンクさせることで新しい価値を示したいとする。
若い人たちとともにブランドを作っていく
サッポロビールは近年、とくに20~30代のファン増加が顕著だという。同社もこの青年層を成長ドライバーと捉えているという。新しくビールに魅力を感じて、手に取っていただく商品が『黒ラベル』であるという点を、大きなポイントとして武内氏は挙げる。
「昨今“ビール離れ”みたいなことが言われていますけれども、私たちはまだまだビールの魅力が若いお客さまに伝わる可能性があると思ってますし、どちらかというとまだまだメーカーのアクションが足りないんだと自省もしています。ブランドも歳を取っていきますから、常に若い方々とブランドを作っていくことがロングセラーであり続けるポイントだと思っています」(武内氏)
「だからこそ、ビールを体験する場が必要だと思ったんですよね。その試作のひとつが『THE PERFECT 黒ラベル EXPERIENCE 2024』です。これまで、若い方にビールに触れていただく場を作ってこなかった気がしているんですよ。若い方にもイベントの参加していただき、その空気をみんなで味わっていただきたいと思っています」(野瀬氏)
個性的で多様なビールブランドを抱えるだけでなく、体験と姿勢を打ち出すことで熱いファンを増やしてきたサッポロビール。2024年も日本のビール市場の活性化に大きな影響を与えそうだ。