マネスキンが日本で語るバンドの現在地 「駆け抜けた」一年と新たな始まり

マネスキン(MÅNESKIN)の最新ロングインタビュー。初のジャパン・ツアーで再び旋風を巻き起こした4人が怒涛の一年を振り返る。日本で撮り下ろした美麗フォトも必見。

彼らが2021年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストで優勝した時、2年半後には日本で4夜のアリーナ公演を軽々と売り切るまでに成長するなどと想像だにしなかったが、未だとどまるところを知らない勢いで、単身ロックンロールとミュージシャンシップの復権を推し進めているマネスキン。2023年に入ってからの4人は、年明けに発表した3rdアルバム『RUSH!』を携えてキャリア最大規模のワールド・ツアーに旅立ち、各地で大舞台を踏んでひとつひとつの体験を学びの機会にして、アルバムのデラックス盤『RUSH!(ARE U COMING?)』の発表をもってこのチャプターに終わりを告げようとしている。ジャパン・ツアー初日を前にしてインタビューに応じてくれたダミアーノ、トーマス、ヴィクトリア、イーサンとそんな1年間の歩みを辿り、バンドの現在地を確かめた。

※2024年2月21日追記:マネスキンがSUMMER SONIC 2024に出演決定。詳細は記事末尾にて

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Photo by Haruki Horikawa

ツアーで深まった4人の絆

ーマネスキンの2023年は『RUSH!』のリリースで始まりました。3rdアルバムではありましたが、世界的な注目を浴びてから最初の作品とあって、デビュー作を改めて送り出したような意識はあったのでしょうか?

ダミアーノ:そういう部分もあるね。自分たちが新人アーティストだと見做されるだろうことは分かっていたから。でも僕らは特に気にしていなかった。むしろここにきて、新しいオーディエンスに対して自己紹介をするチャンスを得たことを楽しんだよ。

ー今回は全員が納得する曲を作ろうとするのではなく、敢えて各メンバーの異なる音楽嗜好を強調するようにして、多様なサウンドを包含するアルバムに仕上げたと発言していました。そういうアルバムを作ったことで、バンドのケミストリーにも影響はありましたか?

ヴィクトリア:特にそういうことはなかったかな。もちろん当初は、これまでとはやり方が少し違って、こういうやり方に慣れないといけないんだという意識はあった。最初に聞いた時はあまり好きになれなかったり、違和感を覚える曲でも、相手を信用して受け入れなくちゃならなかったから。でも長い目で見ると、自分たちがすごく成長できた気がした。若かった頃はもっとバンド内で喧嘩もして、「黙れ~! 私がやりたいことをやってやる!」みたいな感じだったんだけど(笑)、そういうやり方をしていたら、バンドは続かない。みんなが我を通そうとすると無理が生じるわけだし。本当に今回は学ぶことが多くて、以前にも増していい関係を築けたんじゃないかな。音楽的にもっと深く理解し合うことで、個々の人間としてもより分かり合えたというか、嗜好が異なることは対立を意味するのではなく、違いが私たちをひとつに束ねているんだってこと。

Photo by Haruki Horikawa

ー以来2023年はツアーに明け暮れて、『RUSH!』の収録曲を繰り返しプレイしてきました。その間にあれらの曲について新たに発見したこと、あるいは、改めてグっと心に響いた歌詞など、何か気付きはありましたか?

ヴィクトリア:それはすごくあって、ツアーを始めてから曲の聞こえ方がすごく変わって、夜な夜なプレイしているうちに新しい意味を帯びてきた。例えば「DON'T WANNA SLEEP」はライブのオープニング曲に選んだから、今ではあの曲を耳にするたびに、ステージを覆っていた赤いスクリーンがさっと落ちてきてショウが始まる時の気分を思い出して、アドレナリン値がぐっと上がる。それから「KOOL KIDS」はアンコール前のラスト・ソングで毎回オーディエンスをステージに招いてプレイするから、あの情景が思い浮かぶし、「TIMEZONE」はアコースティック・コーナーで披露するだけに、より親密な曲として認識するようになった。アルバムとして聴いた時はそこまで目立たなくても、ライブだと「これ、最高!」って思ったりする曲もあるし、逆にライブには向いていないと悟った曲もあるし(笑)。例えば、私にとって「GASOLINE」はライブでものすごくスペシャルな瞬間を作り出す曲で、オーディエンスのリアクションも尋常じゃない。

トーマス:うん、「GASOLINE」をプレイしてたら、いきなり目の前にモッシュピットが出来上がったこともあった。ライブだとその場でオーディエンスからフィードバックが得られるし、インストゥルメンタルのパートになると僕らも自由に遊べるし。オーディエンスのクレイジーな反応を受けて相乗効果が生まれるよね。

「KOOL KIDS」披露時のステージ、2023年12月2日・有明アリーナにて(Photo by Fabio Germinario)

ー現在進行中の『RUSH! World Tour』はキャリア最大規模のアリーナ・ツアーですよね。あなたたちはあっという間にアリーナやスタジアムでプレイするようになりましたが、会場の大きさに動じることなく、自然体で大きな舞台を踏んでいるように見えます。ローマのストリートでライブ経験を重ねたことが、ブレない土台を築いたと言えますか?

ダミアーノ:それは間違いないね。バンドを結成した当時の僕らはストリートで、なんとかして人々の目を引きたいという一心でライブをやっていた。みんな僕らのパフォーマンスが見たくてそこにいるわけじゃなくて、たまたま道を歩いているわけだから。そういう意味で、僕らは今でも同じような意識でライブ・パフォーマンスに臨んでいるとも言える。つまり会場が大きくなってスペースが広がったら、その分だけ自分も動いてやるぞ、最大限に利用してやるぞっていうのが基本方針。これは僕らの場合、あらゆることに該当するんじゃないかな。環境の変化に無意識のうちに適応するっていうか。だから今の僕らのライブを形作っているもののうち、75%くらいはローマのストリートでのバスキングで培ったと言えるね。

トーマス:とはいえ、もちろんアリーナやスタジアムは小さなクラブとは全然違って、それぞれに違うエネルギーが生まれる。例えばクラブだとアンプのパワーが生々しく伝わってくるし、ヴェニューによってシナリオが変わってくるというだけなんだよ。

2023年12月2日・有明アリーナにて(Photo by Fabio Germinario)

日本の熱狂ぶりは「クレイジーだと思う」

ーこの間、初のグラストンベリー・フェスティバル出演、イタリア3都市でのスタジアム公演、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでのソールドアウト公演と、マイルストーン的なライブを多々経験しました。あなたたちにとって一番学びが大きかった公演はどれですか?

ヴィクトリア:個人的にはグラストンベリーかな。もしくは、フェス全般って言うべきなのかも。やっぱりフェスだと、自分たちのファンだけで構成されているとは限らないオーディエンスとコミュニケートしなくちゃならない。もちろんマネスキンのファンはものすごく盛り上がってくれるわけだけど、中には古典ロックにこだわる年配の人たちもいたりして、「お前らバカじゃないの?」とか「どうせポップ・バンドでしょ」って見下されているかもしれないし、となるとこっちも、そういう人たちを一生懸命説き伏せなくちゃいけない。だからハードルが上がるわけだけど、そういう時にこそ最高のパフォーマンスができる。ハードルを上げられると奮起しちゃうタイプだし(笑)。

イーサン:フェスティバルで僕らのパフォーマンスを見て、最初は疑問に思っていた人でも、最終的にはみんな味方になってくれたんじゃないかと思うよ。

トーマス:特定の公演の話ではないけど、例えばステージで機材の不調だとか何かトラブルが起きると、僕はそういう時こそ何かを学ぶチャンスだと捉えている。ミュージシャンとして、その時々にトラブルをスピーディーに解決できるとすごく気分がいいし、次のショウでまた何かが起きた時に戸惑わないで済むから、絶好の成長の機会になるんだよね。

ーアーティストの中には、ハードなツアーのスケジュールや環境の急激な変化が理由で、メンタルヘルスを悪化させる人も少なくないですよね。あなたたちはどんな風にメンタル面のケアをしていますか?

ダミアーノ:僕らの場合はツアーをやればやるほど、ツアー生活のストレスを軽減する方法が身に付いてきた気がする。メンバーそれぞれアプローチは違うけど、世界中どこにいても地元にいるような気持ちになれるというか。最初の頃は本当に辛かった(笑)。でもその後どんどん慣れてきて、みんな成長してたし、今回のツアーはキャリア最長でありながらもこれまでで一番楽だよ。

ヴィクトリア:うまくオフの日を入れたり、日程に余裕がある時は4~5日だけでもイタリアに帰ったりして、パターンを打破すれば消耗しない。オフを挿んでツアーを再開した時はめちゃくちゃエキサイティングなショウができるし。1カ月間連日プレイしたりすると、そういうドキドキ感が薄れてしまうことは否定できないから、バランスが重要かな。

イーサン:ヴィクトリアに賛成。あとひとつ、僕がすごく重要だと思う点を加えるとしたら、僕らは基本的にバンドとして成功することを一番の目標に掲げているわけだけど、同時に、僕ら自身がハッピーかどうかっていうことも同じくらい大切にしていて、そこは常に気を付けているんだよ。

2023年12月2日・有明アリーナにて(Photo by Fabio Germinario)

ーちなみに日本では4公演があっという間にソールドアウトになりました。

ヴィクトリア:とにかくクレイジーだと思う。昨日みんなで街に出かけたんだけど、ローマの街を歩いている時より頻繁に呼び止められて、「明日ライブに行きます!」って言われたりしてビックリした。でも振り返ってみると、初めて来た時から日本のファンとはスペシャルなコネクションを感じて、あの時のライブの想い出は私たちの心に永遠に刻まれている。本当に美しいエネルギーに溢れていたし、日本のオーディエンスは私たちをすごく深いレベルで理解してくれている気がしていて、そういうコネクションがこうして私たちを再会させてくれたんだと思う。だからこうしてそのコネクションがさらに強くなっているのが、ものすごくうれしい。

ー今回日本に到着して、空港に姿を見せた時のダミアーノのファッションが話題になりました。『チェンソーマン』のポチタのかぶりもの姿でしたが、大のアニメ・ファンなんですよね。

ダミアーノ:うん。僕が日本のアニメが好きな理由は、作品に描かれているエモーションがすごくヒューマンなところ。でもアニメだから全てが誇張されていて、だからこそ、より深く響くんだ。自分自身のエモーションを実感する上でも助けになるし、激しいアップダウンや予想外の展開があって、すごく複雑なだけに、物事に集中するためのトレーニングになる。ケータイをいじりながらアニメを観ることはできないよ。脳にもすごくいい刺激を与えると思うけど、あまりに混沌としていて、たまに休憩を挟む必要があるかな(笑)。

ーちなみに、日本の音楽は聴いたりしますか?

イーサン:僕はカシオペアを聴いているよ。70年代のプログレッシブなフュージョンというか、まるでマシーンみたいな驚異的なバンドだね。

ーシンコペーション満載ですよね。

イーサン:そうそう!

ヴィクトリア:シンコペーションはイーサンの大好物だから(笑)。

『RUSH!』の一年に学んだこと

ー次に、先頃登場した『RUSH!』のデラックス・エディション『RUSH!(ARE U COMING?)』について伺います。ジャケットのビジュアルはオリジナル盤と違って、あなたたちが女の子の上を飛び越えています。これが意味するところは?

ヴィクトリア:オリジナル盤では、私たちの上を女の子がジャンプしていて、彼女は音楽業界だとかミュージシャンとしてのライフスタイルだとか、それまで数年間の私たちを取り巻いていた環境を象徴していた。私たちは圧倒されていて、抗う術もなく巻き込まれるしかなかったというか。でもここにきて立場は逆転して、この1年間の私たちはミュージシャンという仕事について、そして業界の仕組みについて、オーディエンスとのコミュニケーションについて本当に多くを学んだから、主導権を奪還したように感じていて、それがジャケットに表れているわけ。

ーでは、新たに加わった5つの曲はどういう性質の曲なんでしょう? 近況を知らせる手紙みたいなもの? 次のアルバムへの布石?

ダミアーノ:これらの曲は、文末に打つピリオドみたいなものだと思う(笑)。「ここで終わり!」ってね。僕らが今まで伝えようとしていたことを理解してもらうのに必要な、最後のディテールを聴き手に教えてあげて、隙間を埋めているような。そして自分たち自身にも、今の時点で伝えておきたいことを全部伝えておこうと言い聞かせるようにして作った曲でもある。『RUSH!』にまつわるひとつの時代を、ここで終結させているんだよ。

ーなるほどね。と同時にこれらの曲には、あなたたち生来のメランコリーがより強く表れていますよね。

ダミアーノ:その理由をうまく言葉にできたらと思うんだけど……僕らは今もまだまだ成長過程にあって、中でもこの1年半くらいの間すごく速いペースで成長し、今ようやく自分たち自身にも、オーディエンスに対しても、100%正直になれる準備が整った気がしているんだ。つまり、僕らの脆い部分もさらけ出すことができるようになった。ほら、僕らみたいな見た目で、こういうアティチュードで、こういう音楽をプレイしていると、何にも動じない、痛みを感じない人間だと思われかねないよね。でも僕らはいたってノーマルな生活を送っていて、ノーマルな感情を持っていて、ほかの人たちと同じようにアップもダウンも経験する。だからこういうメランコリックな面も曲で表現するのが当然なんじゃないかなって、思ったんだよね。

Photo by Haruki Horikawa

Photo by Haruki Horikawa

ー一足早くリリースされた「HONEY (ARE U COMING?)」も、アップビートでありながらメランコリーが付きまとう曲です。

ヴィクトリア:あの曲はツアーがひと段落した時点で書いたから、ライブのエネルギーをキープしたかった反面、ダミアーノの話に通じるんだけど、エモ―ショナルなコネクションを持たせたかった。すごく高揚感があってダンサブルなサウンドだから、メランコリックなこと、ディープなことに関係している曲だとはすぐには気付かないかもしれない。でも歌詞を読んでもらえば、より深い意味があると分かるはず。

ーアコースティック・バラードの「TRASTEVERE」は、ローマの一地区の名前をタイトルに掲げていますね。‟お前に才能を与えよう/代わりにお前の命を頂く”という箇所は、ロバート・ジョンソンのクロスロード伝説を想起させます。

ダミアーノ:これもさっきの話と関係していて、僕はネガティブな感情も曲に描きたいと思っていた。「​​TRASTEVERE」がまさにそういう曲だよ。今の生活はものすごく慌ただしくて、いつ何が起きるか分からないところもあるから、一時は結構しんどくて。自分を切り売りし過ぎているんじゃないかと葛藤を抱いたし、自分の全てを差し出してしまって、手元には何も残らないような状態にあった。成功を手にするために、まさに悪魔と取引をした気分だったよ(笑)。究極的に、幸福をもたらしてはくれなかったしね。

音楽シーンの大先輩から教わったこと

ー他方で2023年のマネスキンは、コラボレーションでも話題を提供していて、ドリー・パートンのロック・アルバム『Rockstar』のために名曲「Jolene」を一緒にレコーディングしました。ドリーはイメージ通りの人でしたか?

ヴィクトリア:本当にイメージ通りだった(笑)。元を正せば、私たちがナッシュヴィルに行った時にドリーが会いたがっていると言われて、せっかくだから彼女の曲をカバーして聞かせたいねって思い付いたのが発端だった。そうしたら「一緒に歌ってあげてもいい」ってドリーが言い出して、音源を彼女がすごく気に入ってくれて、アルバムに収録することになったわけ。つまり、すごく自然に発展したコラボレーションだから余計にうれしいし、ドリーみたいなアイコンと共演できたなんて、クレイジーでしかない。セッションは午前10時スタートだったんだけど、ボディコンなスーツにハイヒールにフルメイクでばっちりキメて現れて、一緒に歌ってくれた(笑)。半世紀以上活動してきてなお歌うことをやめられない、彼女の音楽への情熱にすごくインスパイアされたな。だってもう引退してビーチでゴロゴロしていても構わない年齢なのに、朝10時からスタジオにいるんだから。最高のエネルギーの持ち主でもあったし、本当に優しくて謙虚で少しも気取ったところがなくて、地に足が着いた人だった。

ーヴィクトリアは、デュラン・デュランの新作『Danse Macabre』にも参加して、トーキング・ヘッズの「Psycho Killer」のカバーでベースを弾いていましたね。ジョン・テイラーはあなたを、”恐らく現在最も重要なエレクトリック・ベーシスト”と評しました。どういう意図で彼はそう評したのか、あなたはどう解釈していますか?

ヴィクトリア:世の中には私より腕の立つ経験豊富なベーシストがいくらでもいるから、技術的にベストだとか、そういうことじゃない。たぶんバンドとしての私たちが、ロックというか、ナマでプレイするバンドの魅力をメインストリームに復活させて、若い世代が接する機会を提供しているという点を評価してくれたんだと思う。実際大勢の若い女の子が私をお手本にしてくれている。今のメインストリームには若い女性のベース・プレイヤーが大勢いるわけじゃないし、ポップ・シンガーにはなりたくない子たちに別の道を提示するという自分の役割はすごく重要だと思う。だから、ポップ・ミュージックの型にはまる必要はない、「これがモダンだ」という世間の意見に従う必要はない、自分らしさを貫けばいいんだって訴える私たちのスタンスだったり、ライブへのこだわりみたいなところをジョンは評価してくれたんじゃないかな。照れちゃうけど(笑)。

ダミアーノ:そうやって君が評価されるのは、バンドにとってもいいことだよ。

トーマス:うん、僕らはみんな一緒に育ったわけだし、バンドの枠外でも自分を表現する機会を得られたならそれは素晴らしいと思う。

イーサン:とにかくヴィクトリアは最強。賞賛されて当然だよ。

ヴィクトリア:ありがと!(笑)

ーそもそも、「トーキング・ヘッズのティナ・ウェイマスにインスパイアされた」とあなたが話していたことをジョンが覚えていて、「Psycho Killer」をカバーするにあたって声をかけてくれたそうですね。

ヴィクトリア:私は彼女のベースプレイが大好きだし、トーキング・ヘッズも大好きだし、ティナには子どもの頃ものすごくインスパイアされた。彼女とソニック・ユースのキム・ゴードンは、ベースを弾くめちゃくちゃイケてるロック・ガールズで、ふたりに憧れずにいられなかった。彼女たちが活躍した時代のロックシーンは今以上に男性に支配されていて、女性がギターやベースを弾いていたら、「ルックスがいいからバンドにいるだけ」とか侮辱的な扱いをされるのが常だったでしょ? 今でもTikTokなんかに投稿されている私の動画にはたいてい「どーせ弾いてないんだろ」とか「ああやって裸になって挑発してるだけだし」とか、男性からのひどいコメントがついていて腹立つんだけど(笑)、ティナたちが勇気をもって道を切り拓いてくれていなかったら、今の私はいなかったと思うな。

ティナ・ウェイマス

〈史上最高のベーシスト50選〉より(Photo by Richard E. Aaron/Redferns/Getty Images)

ー2023年の大きなニュースと言えば、大先輩のザ・ローリング・ストーンズが18年ぶりの新作『Hackney Diamonds』を発表したことが挙げられます。80代までバンド活動を続ける自分たちを想像できますか? ダミアーノは「勘弁して」という顔をしていますが(笑)。

ヴィクトリア:それができたらすごくうれしいし、たぶん私なら大丈夫。きっとロックンロール・グランマになるから(笑)。

トーマス:僕もやっていけると思うよ。

ヴィクトリア:アルバムもすごく良かった。何しろ自分たち独自のジャンルを確立している人たちだし、どれだけ年月が経ってもそのスタイルをキープしていて。

トーマス:彼らのオープニング・アクトを務めた時にも、ステージ脇でパフォーマンスを観ることができて、ビックリするようなエネルギーを感じたしね。ライブでのストーンズは最高だよ。

ヴィクトリア:ミック・ジャガーは私たちよりも激しく動いてた(笑)。

ードリー・パートンも然り、ストーンズも然り、大物たちと対面して、「なるほど、だから彼らは息の長いキャリアを築くことができたんだな」と納得させられる瞬間はありましたか?

ヴィクトリア:うん。実際に会ってみると、すごく些細なことからも分かる。例えばミックとキース・リチャーズはわざわざ時間を割いて私たちと話しに来て、マネスキンを聴いてると言ってくれたりしたし、ドリーもトム・モレロもそうだった。その一方で最近のビッグ・アーティストは、年齢的には私たちとそんなに変わらなかったりするけど、スノッブで、楽屋に閉じこもって誰とも会いたくないってゴネたりして、「いったい何なの?」って思う(笑)。実際に歴史に名前を刻んだ本物のアイコンたちはものすごく謙虚で、私たちとお喋りして、色んなことを教えてくれたのに。

トーマス:あと、ニューヨークでグローバル・シチズン・フェスティバルに出演した時にメタリカのジェイムズ・へットフィールドに会ったんだけど、何に驚いたかって、彼もふらっと僕らの楽屋にやってきたんだ。もう、言うこと全部がクールだったしね。

ダミアーノ:本当にビックなアーティストは偉そうにしない。ものすごくヒューマンだしね。偉そうな人たちは結局、自分に自信がないんだろうね。

音楽は社会を写し取るポートレイト

ー2023年はまた、ザ・ビートルズがAI技術を用いて仕上げた新曲「Now and Then」も話題を集めました。AIテクノロジーが音楽シーンに与える影響については、曲作りに使うべきか否かとか、色んな議論が成されていますよね。4人で鳴らす音だけで勝負しているあなたたちはどんな風に感じていますか?

ダミアーノ:僕が思うにAIは人工の知能で、究極的には人間が作っているわけで、人間の知性を超えるというのは考えにくい。そもそも名前自体が間違っていて、要するにデータベースでしかないんだよね。情報の集積であって、通常のコンピュータより処理能力は高いとはいえ、人間の脳は未だ解明されていない部分がたくさんある。僕らはそのほんの一部分しか使っていない。人間は歴史を通じて、脳を使って様々な発明をしたりしてきたわけで、これからもそこは変わらないと思うよ。

トーマス:それにAIに曲を書かせると言っても、いい曲を作るには、単にクールなメロディを見つければ済むってものじゃない。その曲が生まれた文脈こそが重要で、なぜその曲を書いたのか、なぜこのインストゥルメンタル・パートをこういう形で配置したのか、どうしてこのメロディとこの歌詞をマッチさせたのか、曲を聞けばそういったことが分かる。だからこそ心に残ると思うんだよね。

ダミアーノ:結局は、単に使い捨ての音楽が増えるだけだろうな(笑)。

Photo by Haruki Horikawa

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ー2023年の政情に目を転じると、イタリアでは昨年末に発足した右派のメローニ政権が、LGBTQの権利を抑制しようと動き始めていますよね。ほかにも各地でリベラルな価値観を否定する右派勢力が台頭しています。自由に自分を表現することにこだわるバンドとして、どんなふうに昨今の動きを見ていますか?

ダミアーノ:かなり不安は抱いているよ。

ヴィクトリア:うん、すごく悲しい。だいたい右とか左とか政治的にどういう立場であろうと、他人を差別することが許されてはいけないし、LGBTQに限らずマイノリティを差別する法律を作る権利を与えていいわけがないでしょ? ただ若い世代はもっともっとオープンマインドで、例えば著名人がカムアウトしても広く受け入れられている。みんな自分が何者であるか誇りを持って自由に語っている。たった10年前と比較してみても、本当に大きな変化が起きたと思うから、若い人たちが主導権を握って正しいことを実行してくれたらって、願うしかないかな。

ダミアーノ:ほら、前回イタリアで極右政党が政権に就いた時のことを思い出してくれれば、知っての通り、僕らの国にとってあんまりいい結果にならなかったよね(笑)。歴史からちゃんと学んで、同じあやまちは犯さないようにするべきなんだよ。

ーこういう不穏な時代に、音楽に何ができると思いますか?

ダミアーノ:音楽はその時々の社会の、最もリアルでクリアなポートレイトのひとつだと思うんだ。誰が政権にあってもカルチャーや音楽が右側に傾くことはまずないし、政府が流布しようとしていることと、実際の社会のあり様の違いを、常に正確に写し取っていくことが重要なんじゃないかな。そうすればこれらふたつがいかに背反していて、権力側が押し付けようとしていることは現実には絶対に成立しないと、はっきり示すことができるから。

Photo by Haruki Horikawa

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ーでは、2023年を振り返ってみて、一番インパクトが大きかった出来事を教えて下さい。

ダミアーノ:それはやっぱり『RUSH!』を作って、リリースしたことだね。

ー2023年を振り返ってみて、『RUSH!』以外で一番聴いたアルバムは?

トーマス:僕はクイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジの『In Times New Roman…』。

ダミアーノ:ナッシング・バット・シーヴスの『Dead Club City』とスティーブン・サンチェスの『Angel Face』だね。

ヴィクトリア:私はロックじゃないんだけど、DBBD×ミス・バッシュフルの『Hot European Summer』。

イーサン:ロイヤル・ブラッドの『Back To The Water Below』。でも次のデュア・リパのアルバムもすごく楽しみ。何しろテーム・インパラと組んでいるからね。

ー2024年のスケジュールを見ると現時点ではいくつかのフェスティバル出演が決まっているだけですが、バンドとしての予定は?

ヴィクトリア:少しオフを取って、それから夏はフェスに出て、あとはひたすら曲を書くつもり。これまで以上にいい作品を仕上げて戻って来れるように。

ー2024年はどんな年にしたいですか?  ちなみに2023年の初めに同じ質問をした時、トーマスは「グッド・ヴァイブス」、イーサンは「ロックンロール」と答えていました。

ヴィクトリア:私なら「ニュー・ビギニング」かな。

トーマス:じゃあ、ロックンロールとグッド・ヴァイブスとニュー・ビギニングってことで!

Photo by Haruki Horikawa

SUMMER SONIC 2024

日程:2024年8月17日(土)・18(日)

東京会場:ZOZOマリンスタジアム & 幕張メッセ

大阪会場:万博記念公園

https://www.summersonic.com/

マネスキン

『RUSH!(ARE U COMING?)』

発売中

配信・購入:https://maneskinjp.lnk.to/RUSHauc