日本テレビ系ドラマ『となりのナースエイド』(10日スタート、毎週水曜22:00~)の脚本・オークラ氏と監督・内田秀実氏が対談した。

オークラ氏は、“3人目のバナナマン”と呼ばれるコントの名手で、数々のヒットバラエティ番組やコントを生み出し、『ドラゴン桜』の脚本も担当。内田氏は、『踊る!さんま御殿!!』『世界の果てまでイッテQ!』『ヒルナンデス!』のディレクターや『1周回って知らない話』の企画・演出など、数多くのバラエティ番組を手がけながら、『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』『ファーストペンギン!』など連続ドラマも撮り続けている異色の経歴の持ち主だ。

  • オークラ氏(左)と内田秀実氏

――おふたりともバラエティ番組の世界での活躍をされてきましたが、今回のドラマ「となりのナースエイド」で脚本の方向性はどのように詰めていったのでしょうか。

オークラ:なんとなくで“コメディドラマ”って言ってしまうと、「まあだいたいこんな話なのかな」って色付けされてしまって、同じような時間に同じようなコメディやって、あんまり視聴者を裏切らないおなじみのドラマって感じになってしまうので、いかに違和感を残せるかというところを最初にみんなで話をしました。その違和感が「なんか引っかかる感じ」だとバランスが悪くなる可能性もありますが、それが「すごく楽しくて不思議な感じ」になってくれればいいなって思っています。

 これだけたくさんのドラマが作られているので“こうすりゃ当たる”“こうすりゃミステリーっぽくなる”“こうすりゃコメディっぽくなる”って、なんとなくの法則はあるような気がするんですけど、それに当てはめすぎてしまうと、やはり“おなじみのもの”を見ている感じになってしまうし、起承転結で「だいたいこの辺で事件が起きて…」という流れもできれば無視したほうがいいのかなと思っていて。「こういう流れだったのに急にこうなった」とか、どちらかというと、これまでの流れを破壊する方向で考えたりしてるんですよね。かといってあんまりやりすぎると気持ち悪いんですけどね。

内田:初期の頃からオークラさんとお話させていただいていたのは、「コメディかと思って見ていたらいきなりサスペンス、サスペンスかと思っていたらやっぱりコメディ」みたいな、コメディとサスペンスが共存する世界観というか、すべてひっくるめてそれが楽しくなるように、あえて振り幅を思いっきり振り切った感じ、ですかね。どうしたらそれが実現できるかというところも含めて色々みんなで考えました。

 僕は東京03さんのライブなども見に行かせてもらって感じたんですが、オークラさんの笑いって、その登場人物だからこそ言える・できるおもしろいことだったり、その人の本質に基づいた笑いだったりして、言葉を選ばずに言うと、とにかくわかりやすくて楽しいんですよね。それをなるべくそのままこのドラマでも伝えられればいいなと。

――このインタビューの前に、特別に台本を楽しく読ませていただきました。オークラさん、進行の状況はいかがですか?(※インタビューは2023年末)

オークラ:僕は今ちょうど8話の脚本を書いているところですね。撮影現場については「どうですか」って聞くくらいで、お任せしています。

内田:逆に現場から脚本にリクエストというのも特になく、「おもしろいですよー」って伝えるくらいです。

オークラ:ウソかホントか、そういう情報だけは来ます(笑)

内田:最初はどうしても探り探りだったりするんですが、オークラさんに書いていただいているセリフのやりとりがすごくおもしろいので、皆さん楽しく演じながら、カットがかかったら笑い合ってたり、すごくいい雰囲気の中で進んでいます。

――キャラクターについてはどのように進めていったのでしょうか。

オークラ:原作のキャラクターを生かしつつ原作にいないキャラクターも考えるんですが、まだキャストがすべて決まる前は、「こんなキャストの人がいたらいいなあ」って架空の想像の中で書いていました。役者さんが決まると、その役者さんっぽさを意識しながらセリフを書いていきますね。

 結果、すごく芸達者な方々が集まったなと。そうなると、この方はもうちょっとグイグイいってもいいかなとか、この方は控えめなほうがいいのかなとか、そういう感じが出てきますね。特に第1話に登場する梶原善さんは、昔からよく一緒にお仕事させていただいてるんですが、善さんに決まったと聞いて、「善さんだったらもう1回登場させたいなぁ」とか考えたりしますね。

――バラエティ番組のプロフェッショナルである内田さんが演出を務めることについてどう感じていますか。

オークラ:柔軟だなと思いますね。もちろん人にもよるんですが、ドラマにはどうしてもルールがありますし、「ここはやっぱりこうだろう」っていう定型みたいなものもあるんですけど、バラエティ番組を経験されてる方、特にこのドラマのチームの方々はそのあたりの感覚がとても自由な気がしますね。楽しいものを作ろうという空気を感じています。あと、「どうすれば伝わるのか」という点もすごく意識されていて、バラエティの方ってその場その場で伝えることにすごくたけていて、すごいなと。

内田:僕は日本テレビの中でもわりと色々な番組や様々なクリエイターさんたちとお仕事をさせてもらってきたんですが、『踊る!さんま御殿!!』『世界一受けたい授業』『世界の果てまでイッテQ!』『ヒルナンデス!』とか、同じバラエティでも全部毛並みが違うし、表現方法も違うし、おもしろいと思うことも違うんですよね。ただ、“わかりやすく伝える”という点は共通。それがベースにないといけないというのがバラエティで学んだことで、その感じをドラマをやりながら今も持っているので、わかりやすさが大前提なんです。オークラさんも先ほどおっしゃってましたけど、「そこに引っかかるとか」とか「気になる」とか、そこを僕の中でも大事にしなきゃいけないんだろうなと。テレビドラマでは、“きれいな画を撮ること”や“美しい世界を描くこと”とか、それももちろん大事なんですが、僕はそこがあまり得意ではなくて、どちらかというと“わかりやすく”かつ“気になる”、そこがずっと真ん中にあります。

――ドラマに対する情報や昨今のSNSでの反応についてどう感じていますか。

オークラ:ネットに書いてることも見ますよ。ただ、ネットの反応については、ドラマリテラシーが高すぎるというか、「ドラマはこうじゃなきゃダメ」「こういうものを描かなきゃいけない」とか、ドラマへのこだわりが強い方々が集まってるのかなとは感じます。だからといって、そういうのをやりすぎてもいけないですし、ちゃんとこちらがおもしろいと思ってることを親身に出せればそれはそれでいいのかなと思っていて。多少の分析は必要ですが、10話という短期決戦の中ですから、これがおもしろいんだってものをひとつたたき出せたら。

内田:演出としてはそこまでSNSを意識していないかもしれないですね。ドラマは圧倒的に一人で見ている方が多いのでSNSで共有されているという構図がありつつも、家族で見ている方々にとってはそれが会話になっているだけという感じで。個人的には先ほど言った「気になる」とか「引っかかる」とか、そういうことが一番大事だと思っているので、会話が起こりやすいものにしたいなと。“気になる”という意味では、“いろんなことを思う画”を僕は好みがちかもしれなくて、例えば、ある出演者さんの場合、すごく引いた画よりも寄りを見せたほうが、「この人の目がきれいだね」でも「鼻がきれいだね」でもいいんですけど、ストーリー以外の部分で会話が起こりやすいんじゃないかなって考えますね。

――今回は、現役医師のベストセラー作家・知念実希人氏の小説(昨年11月に発売)が原作。原作があるドラマの脚本を書く上で意識していることは。

オークラ:いろんなタイプがあると思うんですが、例えば漫画が原作だと、キャラクターへの愛が深いファンが多いので、キャラクターを変えるということにネガティブな反応が大きいこともありますよね。でもこのドラマの場合は、小説の発売とほぼ同時進行的に始まっているので、展開やミステリー要素がどうドラマ化されるのか原作ファンの方は気になるかなという点は意識しているんですが、登場人物については少しこちらで作らせてもらうという作業ができたので、漫画原作などの作品と比べるとちょっと違うというか、こういう作り方は初めてかもしれなですね。また、10話分の話なので、小説そのままというよりも、少しスピード感のある展開にするために原作とは違う部分を作っていかないといけないというのもあります。

 先生とも2回ほどお会いしたことがあって。ドラマについて先生からのリクエストもありました。先生なりのこだわりや、病気や医療についても教えてもらったり、僕らが「こういう病気ってあるんですか」って聞いたらすぐ教えてくれたり。さすが、医者でもあり小説家でもある方ってすごいなって思います。

――“ミステリー要素”の特徴的な予告の出し方について、どのような意図がありますか。

内田:それについてはオークラさんとも議論しましたね(笑)。どちらかというと最初はミステリー要素をまったく匂わせないって話で進んでて。「これはコメディです!」って最初からPRして、一切ミステリーの部分に触れず、最後に裏切ろうかって話とかもしましたね。でも最終的にはPRも含めて、「単なる医療コメディではないよ」って部分をちょっとだけ匂わせようかと。

オークラ:最近なんかこう体感的にですが、見る側の“確認作業”があるなと。特にテレビみたいな不特定多数の方がいる場合、いわゆるミスリードしといて裏切るってパターンに対して、「そういうことじゃない」って反応が増えているイメージがどうしてもあるので、みんなで話し合った結果、それならちゃんと「こういうことがありそう」という方向でいこうと。これまでいろんな作品で「そうじゃないんだよ」って言われてコケたりもしましたしね(笑)。もう今や予備知識があったほうがいいのかなって。映画だって「ラスト5分大どんでん返し!!」ってPRして、みんな大どんでん返しを見に行くわけですよ。僕自身、映画『君の名は。』が好きなんですけど、“入れ替わり”って、いわゆる大林宣彦監督作品とか昔からあるテーマで、“でもそれだけじゃ済まないですよ”みたいな触れ込みの宣伝が確かあって、で、見たら、ほんとにそれだけじゃないんだって裏切りが2回くらいあったんですよね。それはすごいなって思いました。「大前提にこういうことがありますけど、果たしてそこで終わるかな」っていうのが今っぽいのかなと。なので、このドラマも予告を見ても「ネタバレ」って思うようなレベルでは終わらないです。

――桜庭澪役を演じる川栄李奈さんの印象は。

オークラ:とにかくすごいんですよ。初めての本読みのとき、彼女だったらこう仕上げるんだろうなと思っていたイメージにすごく近い形に作りあげてきてくれて。すごく才能のある人だなと思いました。行間を読む力もありますし、なかなかいそうでいない女優さんですね。

 元々、川栄さんが出ているドラマを見て「上手な人だな」とは思っていたんですが、バラエティで川栄さんと絡んだ僕の知り合いたちからの評判も非常によかったですし、芝居も上手だという噂もあって、コメディもきっと上手なんだろうな、1回やっていただきたいなと思って、舞台「東京03 FROLIC A HOLIC 『何が格好いいのか、まだ分からない。』」(2018年)の出演をお願いしたんです。そのとき川栄さんすごく忙しくて、稽古に1日しか来られないと。さすがにみんな、大丈夫かなって不安な気持ちもあったんですが、来た瞬間、すごいんですよ。台本も覚えてましたし、1回通しただけで、はいもうそれで大丈夫ですっていう芝居をしたんですよ。天性の才能なんですかね。すごく頭のいい人だなって感じます。あまりうかつなことが言えないです(笑)

内田:オークラさんがおっしゃったように、現場でも素晴らしいなって思うことばっかりなんですけど、とにかくセリフを覚えるのがめちゃめちゃ早いんですよね。台本1冊を1日で覚えちゃうみたいな。ほんとにビックリです。1話、2話の撮影中に6話を覚えてましたよ(笑)。このドラマって長いセリフが出てくるんですよ、1話は特に。だけど、何テイクしても1回もかまないんです。恐ろしいですね、すごいなと思います。本番前は、共演者の方と普通に談笑してたりするんです。だけど本番になると、なんの練習もせずに、とんでもないセリフ量を一発で、完璧に。その前に必死に覚えてる感じも全然ないんですよね、どこでこれ覚えてきたのかなっていうくらい。

――竜崎大河役を演じる高杉真宙さんはいかがでしょうか。

内田:オークラさんの書かれている竜崎大河は、医療ドラマとかでよくあるクールなタイプとはまたちょっと違って、いい意味でクセが強かったり、ちょっとおもしろい部分もあったりするので、そこが難しい役だなと僕は感じているんですが、高杉君もすごく飲み込みが早くて、川栄さんと掛け合いをしているうちに自分の中に腑に落ちて、形になって来ている感じなんじゃないかなと思っています。

オークラ:高杉くんとも1回お仕事をご一緒したことがあって、非常に芝居の上手な方だなと。クールな孤高の一匹狼のキャラって、つっけんどんなステレオタイプって想像しがちですけど、大河はそこまで悪い人でもいないし、人の命も助けたいと思ってますし、根は熱いところもあるんですよ。受け入れるところは受け入れるとか、より人間くさい感じにしたいなと。想像できるキャラには納めたくなかったので、かわいらしさや人らしさもあるというのは意識して作ったつもりです。

――ほかの出演者さんについて見どころは。

内田:吉住さんの魅力を伝えたいです。めちゃめちゃおもしろいです。

オークラ:そうですね。吉住はコントや芝居にたけてる魅力的な俳優の一面があるんですよ。ドラマって、よく見る人で固まりすぎてるときもあるじゃないですか。だけど、あんまり見たことない人が出てくると、「誰?」ってなりますよね、例えば最近だと『VIVANT』(TBS)の“ドラム”みたいに。外国のドラマもそうですけど、知らない俳優さんだと感情移入もしやすい。そういう意味ではキャスティングにもおもしろい要素があると思います。

――最後に、1話の見どころをお願いします。

オークラ:“そうなるのかなと思いきやそうならない”という展開を意識して書いたので、いろんな意味での裏切りを楽しんでもらいたいですね。

内田:“コメディかと思ったらミステリーサスペンス”というところを楽しみつつ、翻弄されながら見ていただくととてもおもしろいんじゃないかなと思います。

オークラ:出演者全員演技レベルが高いので、やりとりのテンポ感も楽しいと思いますし、会話劇としても非常に楽しめると思います。大きい笑いというより細かい笑いがいっぱいちりばめてありますね。

内田:ナースエイドのお仕事について、1話はかなりリアルに見せています。病院にお世話になるとき一番近くにいるのが実はナースエイドさんで、大変なお仕事なんですが、なかなかフィーチャーされないので、ナースエイドさんについて皆さんが知りたいこともたくさん詰まっていると思います。

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