米AMDは2024年のCESで3種類の新製品を発表した。具体的にはSocket AM5のRyzen 8000Gシリーズと、AM4向けのRadeon 5000シリーズ新製品、それとRadeon RX 7600シリーズである。まずは事前説明を元にこれらの製品をご紹介したい。

Ryzen 8000Gシリーズ

昨年12月6日にAMDはRyzen 8040シリーズを発表した訳だが、これを搭載したDesktop向けのAM5プラットフォーム対応のRyzen 8000Gシリーズが今回発表された(Photo01)。SKUはRyzen 3~Ryzen 7までの4製品(Photo02)。いずれも65W TDPという使いやすい枠での提供となる。コアそのものはHawk PointなのでZen 4ベースであり、差別化要因は当然GPUということになる。なおRyzen 7 8700G及びRyzen 5 8600Gは全コアがZen 4であるが、Ryzen 5 8500G及びRyzen 3 8300GはZen 4+Zen 4cのハイブリッド構成になっている。

  • Photo01: 確かに競合はRaptor Lake Refreshベースの14th CoreとかRyzen 8000シリーズだから間違いではない。

    Photo01: 確かに競合はRaptor Lake Refreshベースの14th CoreとかRyzen 8000シリーズだから間違いではない。

  • Photo02: ベースがHawk Pointだから8コアが最大になる関係でRyzen 9がラインナップされないのはこれまでの通り。

    Photo02: ベースがHawk Pointだから8コアが最大になる関係でRyzen 9がラインナップされないのはこれまでの通り。

一方のGPUであるがこちらはRDNA 3ベースのRadeon 780M(最大12CU)が搭載されており、勿論既存のRyzen 7000シリーズ(RDNA 2ベースで最大2CU)とは比較にならないほど高速である。で、具体的には例えばHYPR-RXとFluid Motionを使うとそこそこの重さのゲームが60fps超えで動く(Photo03)とか、HYPR-RXを使わなくても1080pなら内蔵GPUだけでそこそこ動作する(Photo04)とする。勿論Discrete GPUを組み合わせると当然高速である(Photo05)訳だが、多分Discrete GPU組み合わせるならRyzen 7000系の方が良い様に思う。

  • Photo03: HYPR-RXが"HYPER-RX"と表記されているのはまぁご愛敬。

  • Photo04: F1 2023ではなくF1 2022を使ってるあたりは、やっぱりRay Tracingが入ると厳しいのだと想像される。

  • Photo05: これは要するにCPUがボトルネックになりにくい事を示したものと思うが、ちょっとこれは別のCPUと組み合わせてみないと何とも言えない。あとRadeon RX 7900 XTXは反則で、せめてRadeon RX 7800XT位にすべきでは? とは思う。

競合製品と比較すると、アプリケーション次第ではあるが最大4倍高速としている(Photo06)が、これはまぁ比較するのが間違っている気がする。というか、Far Cry 6が1.1倍というのはどういう事なのか(Ray Tracing周りの可能性もある)。面白い比較としては、Core i7-14700KにGeForce GTX 1650を組み合わせた場合の比較も同等以上の性能(Photo07)という数字も出ているが、柔軟性考えたらGeForce GTX 1650を積んだ方が色々便利な気もしなくはない。同様にOffice Productivityを比較したのがこちら(Photo08)である。

  • Photo06: 比較対象はCore i7-14700K。内蔵GPU同士だったら当然こんなもんであろう。IntelはArrow Lake世代まで内蔵GPUに期待はできなそうだ。

  • Photo07: 肝心のRyzen 7 8700Gの値段が公開されていないので何とも言えない部分もあるのだが。ちなみにGeForce GTX 1650 Superも値段的にはGeForce GTX 1650とほぼ同等まで落ちてるので、1650 Superを使ったらどういう結果になったのか見てみたいものだ。

  • Photo08: POV-Rayとか7-zipがちょっと解せないが、HandbrakeはGeForceはバージョンによってはHEVCのBフレームを内蔵エンコーダで扱えない関係でCPUでのエンコードになってるとか、なんかそういう感じもする。CPU性能で言えばPCMark 10とかPassMarkの結果が順当な気がする。

ちなみにRyzen 8000Gでは無いが、Ryzen 8040シリーズの発表の際には示されていなかったMeteor LakeベースのCore Ultraとの性能比較が今回追加されたので一緒に示しておく(Photo09~13)。このうち、Photo09のAI Processing Leadershipに関して言えば、Ryzen 8000Gにも16TOPSの処理性能を持つNPUが搭載されているので、Desktopでもこの性能を享受できるのはRyzen 7000シリーズとの大きな違いの一つでもある。

  • Photo09: Meteor LakeのNPUは公称11TOPS、Hawk Pointは16TOPSだから、まぁきちんとソフトウェアが対応していればこのくらいの性能差が出るのは不思議ではない。問題はソフトの対応具合という話になる。

  • Photo10: 生成AI系。でもProcyonのAI Benchはあんまりあてにならない気が。StableDiffusion 1.5の結果が一番実情に近い気もする。Davinci Resolveの超解像は、GeForce RTXではちゃんと性能が出たと記憶しているので、これは意図的に性能差を作り出している様な。

  • Photo11: ゲーム性能比較。2Kで画質は最低のプリセットでの比較。流石にXe-HPGはそれなりに性能が向上している。

  • Photo12: Productivity。これはCPU性能差なのか、GPU性能差なのか、ちょっと俄に判断しづらい。

  • Photo13: これはPerformance per Watt。

Ryzen 5000シリーズ

Ryzen 8000Gシリーズに加え、Socket AM4のRyzen 5000シリーズにも新製品が投入される。既存のAM4ユーザー向けのUpgrade Pathといった感じだ。コアそのものは全てZen 3ベースなのはまぁ致し方ない。まずはRyzen 5700X3D(Photo14)。動作周波数がBase 3.4GHz/Boost 4.3GHz→Base 3.0GHz/Boost 4.1GHzとやや低めに抑えられた代わりに、価格も$249まで下がっている。Ryzen 7 5800X3Dの当初の価格が$449だったことを考えると、かなりのバーゲンプライスである。Core i5-13600Kと比較してもそれなりにゲーム性能が高い(Photo15)というのはメリットになる。既存のAM4ベースのシステムをもう少し延命させたいというユーザー向けに、手頃な価格で提供という感じだろう。ただし3D V-Cache搭載ということはあまり動作周波数を引き上げられないという意味でもある。その辺をもう少し汎用向けに振ったのがRyzen 7 5700(Photo16)である。Xが付かないことから判るように倍率ロックは掛かっているが、Ryzen 7 5800X(Base 3.8GHz/Boost 4.7GHz)から100MHz下がっているだけで、TDPは65W枠に抑えられている。何ならOEM専用の扱いのRyzen 7 5800を上回るスペックである。それでいて価格は$175だから、既存のRyzen 7 5700XとかRyzen 7 5700Gよりは安めに設定されている。競合として出て来てるのはCore i5-12400Fで、これと大体同等の性能とされる(Photo17)。

  • Photo14: TDPは105Wのまま。なのでCPUクーラーは付属しない模様。

  • Photo15: 同じ$249対決。ただGamingは兎も角ProductivityとかContents Creationは動作周波数が低い分、Core i5-13600Kの方が性能は良さそうであるが。

  • Photo16: ただしL3が16MBに抑えられているので、ここに起因する性能低下はありそうだ。というか、L3に欠陥箇所があって出荷出来なかったダイの救済製品だろうか? こちらはCPUクーラーが付属。

  • Photo17: なんでCore i5-12400Fなのか? は謎。US Amazonだと$148.99という値段になっている。

最後がRyzen 5 5600GTとRyzen 5 5500GT(Photo18)である。実はこちら、詳細が不明であるが説明によれば「既存のRyzen 5 5600Gより求めやすい価格で提供する」とだけある。ちなみにRyzen 5 5600Gの発表時の価格は$259だったが、今回Ryzen 5 5600GTは$140、Ryzen 5 5500GTは$125まで価格が下がっている。それでいながらゲーム性能(Photo19,20)が向上しているあたりは、GPUがRyzen 5 5600Gの7CU構成から8CU構成になったか、もしくは7CU構成のままでGPUの動作周波数が上がった(Ryzen 5 5600Gは最大1.9GHzだった)かのどちらかと思われる。

  • Photo18: Ryzen 5 5600GTはBase 3.6GHz/Boost 4.6GHz、5500GTはBase 3.6GHz/Boost 4.4GHzであり、Ryzen 5 5600GのBase 3.9GHz/Boost 4.4GHzと微妙にスペックが異なっているが、まぁここでの性能差はあまりない。

  • Photo19: Ryzen 5 5600Gと比較してCPU/GPU共に10%程の伸びなので、GPUは動作周波数を2.1GHz程度に引き上げた感じだろうか? CPUは動作プロファイルを変更して、実効動作周波数をやや引き上げたというあたりか。

  • Photo20: こちらはGPUの動作周波数を2GHzまで上げたというあたりか。CPUの方はやはり動作プロファイルを変更した格好だろうか。

このRyzen 8000Gシリーズ、及びRyzen 5000シリーズの追加製品は何れも1月31日に発売開始とされる。ちなみに現時点ではまだRyzen 8000Gシリーズの価格は公開されていない。

Radeon RX 7600 XT

Radeon RX 7600は昨年のCESで発表され、5月に出荷開始となったが、今回はこのRadeon RX 7600のメモリを16GBに増強したRadeon RX 7600 XTが発表になった(Photo21)。性能そのものは若干の底上げといった程度だが、メモリ量が16GBになったことでStable Diffusionを始めとする生成AI系のアプリケーションが無理なく動作可能になったことが大きい(Photo22)。

  • Photo21: まぁ直近では8GB Memoryでは十分ではないアプリケーションが増えて来たのも事実である。

  • Photo22: ただしTBPが190Wまで上がった事に対応し、補助電源は8pin×1から8pin×2になったのはまぁ致し方ないところ。

性能という意味ではこんな数字(Photo23)が示されており、基本はメモリが増えたことで、これまでメモリ量がボトルネックになっていたタイトルでは性能が上がるが、そうでないと微増といったところ。ただまぁこのクラスの製品にそこまで性能を求めるのも酷であろう。ただこのRadeon RX 7600 XTの発表に合わせてFluid Motion Frameが正式にHYPR-RXに統合される形でリリースされ(Photo24)、これにより大幅に性能が上がる事が示された(Photo25)。このクラスのGPUの場合、こうした補完技術を使ってプレイするのが現実的だとは思う(ベンチマークを取る側としてはテストケースが無駄に増えるので嬉しくないが)。これにより、2Kだけでなく2.5Kでも現実的にプレイできるというのがAMDの主張である(Photo26)。

  • Photo23: 競合製品がGeForce RTX 2060というのは正直微妙な気はするのだが。

  • Photo25: こちらはGeForce RTX 4060との比較。これが妥当な比較相手だと思う。

  • Photo26: 普段テストに使っているタイトルが一つもないので判断に苦しむところではあるが、それなりに性能が増す(しかもその増し方がGeForce RTX 4060より大きい)のは判る。ところでLike a Dragon Gaidenの棒グラフ、色が間違ってないだろうか?

その他の話としては、エンコードのRC(Rate Control)の最適化や、Video Upscaling(要するに超解像)技術の搭載(Photo27)などが行われたとするが、これはソフトウェア側の話であって、なので既存のRadeon RX 7600でも効果が期待できる。また先にちょっと触れたメモリ量増加による生成AI周りの話がこちら(Photo28)。パラメータ数が多いモデルでも動作する様になったほか、Adobe Premierなどでも効果があるとする。

  • Photo27: これは主に動画配信などで効果的だろう。

  • Photo28: 流石に8K動画の編集をこのクラスのGPUカードでやるとは思いにくいのだが...

このRadeon RX 7600 XTは1月24日から発売開始(Photo29)で、Acer/ASRock/ASUS/Gigabyte/PowerColoer/Sapphire/XFXの7社からまず搭載製品がリリース予定とされる(Photo30~36)。

  • Photo29: 競合は恐らくGeForce RTX 4060 Superだと思ったら、無いらしい。ということは$299のGeForce RTX 4060との闘いという訳で、なかなか絶妙な価格付けである。

  • Photo30: Acer Nitro Radeon RX 7600XT OC 16G

  • Photo31: ASRock Radeon RX 7600XT Steel Legend 16GB OC

  • Photo32: ASUS TUF Gaming Radeon RX 7600XT OC Edition

  • Photo33: Gigabyte Radeon RX 7600XT GAMING OC 16G

  • Photo34: PowerColor HELLHOUND Radeon RX 7600XT

  • Photo35: SAPPHIRE PULSE AMD Radeon RX 7600XT 16GB

  • Photo36: XFX SPEEDSTER QICK RADEON RX 7600XT BLACK