協生農法とは?
協生農法の研究に出資しているソニーグループの説明によると、「協生農法とは、有用植物が育つ生態系を人為的につくり、食料を収穫しながら生物の多様性を豊かにしていく取り組み」(一部引用:ソニーグループポータル)としています。
具体的には「無耕起、無施肥、無農薬、種と苗以外一切持ち込まないという制約条件の中で、植物の特性を活かして生態系を構築・制御し、生態学的最適化状態の有用植物を生産する露地作物栽培法」と、協生農法実践マニュアルの中で定義づけられています。ここでいう生態学的最適化状態というのは、ある土地の気候や地形、土の性質などにおいて、複数の種が生存を争ったり助け合ったりしながらそれぞれが最大限に成長できるような状態のことを指しています。
かなり複雑な説明になってしまいましたが、平たく言うと「ほとんど手を加えないのに、おいしい野菜や果物がたくさん取れる、一見すると野生のような畑を一からデザインしてしまおう」という農法と解釈していただくとよいでしょう。
協生農法のマニュアルについて
協生農法についての理論と具体的実践方法についての詳細は、この農法の生みの親である大塚隆(おおつか・たかし)氏監修、そして協生農法の名付け親でありデータサイエンスを基礎にこの農法を研究実践している舩橋真俊(ふなばし・まさとし)氏の編集による『協生農法実践マニュアル』が公開されています。
総論、各論、評価方法、応用などの構成からなる、50ページほどの充実したマニュアルが無料でダウンロードできますので、より詳しく知りたいという方はこちらもぜひ参考にしてください。
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協生農法と自然農法の違い
前章では協生農法とは何かを説明しましたが、似たような農法に自然農法があります。どちらも環境に優しい農法というイメージですが、何が違うのでしょうか。
まず、自然農法と協生農法の共通点として挙げられるのは「無農薬・無肥料・不耕起」に従っていて、外から持ち込む資材を最小限にして自然の力を利用するという点です。どちらも化学肥料や化学農薬の使用を基本とする栽培(慣行栽培)に代わる農法として生み出されました。
二つの農法の異なる点は「人為」に対する捉え方です。
自然農法では「自然に従い、なるべく人為的な介入は避ける」ということが重要視されるのに対し、協生農法は「自然から学び、それを模倣する形で人為的にデザインしていく」という考え方です。
協生農法の基礎になるのは、ビッグデータとAIを活用したデータサイエンスです。科学的に自然の働きを分析し、その中で開発される技術と知識を用いて農業に応用していくことを目指します。
これまで非科学的とされてきた自然農法が、データサイエンスにより生態系の複雑な働きを解析・評価できるようになってきたことで、科学的に行われるようになったものが協生農法ともいえます。
また、自然農法の生みの親である福岡氏が50年前にアフリカで行ったように、舩橋氏もブルキナファソでの砂漠の緑化事業等に取り組んでおり、これまでの環境破壊的な農法から環境を豊かにする農法への大転換を目指すという強い意思が共通しています。
協生農法のメリット
協生農法のメリットは四つ挙げられます。
環境を豊かにすることができる 資材費を節約できる 総収量が安定しやすい 消費者から信頼を得られる
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環境を豊かにすることができる
協生農法では混植を基本とし、生物多様性を高めることを目指します。そして生物多様性が高まると、そこから得られる生態系サービス(※)も大きくなるという考え方を基本としています。ですから協生農法に従うと、有用植物を含む多様な生物種が生息する豊かな環境を創り出すことができるというメリットがあります。
※生物や生態系から人が得ているさまざまな恩恵のこと。森が浄化する水や植物が出す空気、食べ物や木材などの資材といった、多様な機能が含まれます
資材費を節約できる
協生農法では基本的に外から農薬や肥料を含む資材を入れません。入れずとも、生態系が豊かになると安定して収穫が得られるようになりますので、通常の栽培(慣行栽培)に比べると資材代を圧倒的に節約できるというメリットがあります。
総収量が安定しやすい
慣行栽培で行われるような単一栽培の場合、例えばある病気がまん延した時にはその年の収量はゼロになる、というようなケースもあります。しかし、多様な有用作物が混植されている協生農法では、ある作物が病気でやられても、他の作物が取れる、というように、全体で見た時には安定的に作物を収穫できるというメリットがあります。
消費者から信頼を得られる
実は協生農法は有機JASマークの対象です。一般的に有機栽培以外、例えば自然農法などの環境に配慮した農業では対象になりませんが、有機JASマークを取得すると消費者からの信頼が得られるというメリットがあります。
協生農法のデメリット
一方で協生農法にはデメリットも三つあります。
単作に向かない 人的な手間がかかる 混植のタイミングが難しい
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単作に向かない
協生農法は、あくまでも自然のサイクルに従って栽培していきます。生態系のバランスというのは自然界でもそうですが、絶えず変化しながら安定を保っています。
ある年にはたくさんできる野菜が次の年にはほとんどできないということもあり得ます。ですから特定の作物について毎年同じ量の収穫をするのが難しいというデメリットがあります。
人的な手間がかかる
除草剤をまかないため、雑草の管理が必要になるほか、混植を基本とするため、種まきや定植、収穫も単一栽培に比べると作業負担が大きくなります。そのため大規模に収益化したい場合や人手が少ない場合にはデメリットになります。
混植のタイミングが難しい
協生農法は、多角的に検証された理論を基に原則やその他の方法が規定されています。しかし、それらを実際の圃場に応用する際には、どの時期にどういった作物を混植するか、どの雑草を残してどれを生かすか、などその場所ごとでの判断とデザインをしていくことになります。
筆者もダイコンとジャガイモの混植のタイミングがうまくいかず、ジャガイモが発芽した時にダイコンの葉で日が遮られ生育阻害を起こしてしまったことがあります。
このように、それぞれの植物の発芽のタイミングや葉の広がる大きさなど、植物への知識が重要になってきますので、実際には一人一人の力量によるところも大きいのが協生農法です。
協生農法の事例
協生農法はこれまで国内外で実践されてきました。いくつか事例を紹介していきます。
ソニー
現在SONY CSLと協生農法を研究・普及する一般社団法人「シネコカルチャー」の協業で、六本木ヒルズの屋上庭園や大磯の実験圃場で協生農法の理論が検証されています。
ゴーリキマリンビレッジ(三重県伊勢市)
協生農法の総本山、株式会社桜自然塾が運営するゴーリキマリンビレッジでは、前述した、農法考案者の大塚隆氏が協生農法を実践されています。
あくまで観光農場といった趣なので、圃場規模も1反弱と小さいですが果樹や野菜が混植されています。
現在は沿道の工事の影響で残念ながら伊勢農場は閉鎖され、移転準備中ですので、見学を希望される方はお気を付けください。
食べられる森(三重県名張市)
上述のゴーリキマリンビレッジの伊勢農場に衝撃を受けて始めたという森哲也(もり・てつや)氏が2017年から取り組んでいるのが「麦わら協生農園」です。
地元の耕作放棄地を新たに協生農法の実践農場へと生まれ変わらせ、さまざまなワークショップや食べられる森プロジェクトなど、協生農法の情報発信、普及活動をされています。
ブルキナファソでの緑化事業
協生農法が真価を発揮するのは、先進国や日本のように水資源が豊富な国ではなく、深刻な砂漠化が起きているアフリカの国々です。
2015年に舩橋氏がブルキナファソで行った緑化事業は、砂漠化し続けている圃場に100種類近い植物を混植するというものでした。
結果、月の売上金額はブルキナファソの平均国民所得のおよそ20倍、さらに生産性に関しては慣行農法の40~150倍にも上ったといいます。おそるべき結果です。
協生農法のやり方
ここからは、実際に協生農法を始める手順を解説していきます。
畝づくり
まずは幅1~1.5mほどの畝を作ります。土は耕さずに、盛るだけで大丈夫です。高さや幅は作りたい作物に応じて変えて問題なく、畝の両側から真ん中まで手が届くくらいの方が作業はしやすいです。
畝をつくる目的は、水はけの向上や、通路と畝との区別をつけるためなどです。
植樹
畝の中央に、落葉果樹や小型の植物を植えましょう。畑に木を植えるの?と驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、以下のいくつかのメリットがありますので、ぜひトライしてみてください。
(1)野菜の半日陰づくり:実は夏場の強い日光を好む野菜はあまりありません。
(2)虫や鳥を呼び寄せる:受粉の役割を担うだけでなく、それらのふんや死骸が栄養になります。
(3)落ち葉が出る:落ち葉が腐葉土をつくってくれます。
(4)果実の収穫:畑で果樹が収穫できて一石二鳥です。
年間計画を立てる
特に農業を生業にされている方が挑戦する時には、年間を通してどのように野菜や果樹を作付けするかしっかり計画を立てる必要があります。
先のデメリットの項目でも書きましたが、協生農法では時期やタイミング、成長の速度などの設計が狂ってしまうと、うまく育たないということも起こります。ですので、まずは年間を通していつ何を栽培していくか、計画を立てましょう。
とはいえ、計画がうまくいかないこともあれば、逆に意図してなかったけれどうまくいった、なんてこともありますので、そこは楽しんでやれると良いですね。
家庭菜園の方であれば、その都度の思いつきでいろいろな植物を混植して試していただくとよいでしょう。
種まき
計画づくりが終われば、次は種まきです。複数種を混生し、高い密度で種をまきます。草が生えるより先に野菜で地表を覆ってしまえば、雑草が成長する余地がなくなるので、年間を通して野菜を途切れさせないように種や苗を植えていくという方法もあります。
また、同じ野菜でも何度か時期をずらしてまくことも重要です。自然状態では全ての種が同時に落ちて同時に発芽するということはありませんので、協生農法でもこれに倣って何度かずらして種まきしていきます。
草管理
各野菜と草の特性に応じて草の管理を行っていきます。野菜が負けない限り1年草は刈り取らず、群生してしまう場合や大きくなりすぎるような雑草のみ刈ります。
除草のために耕すのは生態系を著しくかく乱することになりますのでNGです。あくまでも地上部に出ている部分を刈り、徐々に根が弱っていくようにします。
収穫
収穫は、できた野菜や果樹から順番にとるようにしましょう。前述したように、時期をずらしてまいた種は、収穫の時期もずれます。ですので、一般的な農業で行われるような全収穫はなるべく避け、その都度収穫していくようにしましょう。
協生農法はプランターでも実践できる
ここまでは畑や家庭菜園での実践方法について書いてきましたが、実は協生農法をプランターで実践することもできます。
SONY CSLと一般社団法人シネコカルチャーが共同で発行している拡張生態系入門キット「シネコポータル」がプランターでの栽培についても詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
ここではその中から要点を絞っていくつか紹介していきます。
土の準備
まずは土の準備ですが、これはホームセンターで買ってきたり、家の庭から少し土を取ってきたりします。
プランターの底には鉢底石を入れて、できれば下半分には赤土を、上には黒土を入れます。赤土や黒土が手に入らなければ、なんでも大丈夫です。最後に真ん中を盛り上げて完成です。
植物を用意
プランターにどんな果樹を植えようか、どんな野菜を育てようか、イメージを膨らませていきます。その際、果樹、苗、種の他にシダ植物やコケ植物、地衣類なども加えると自然の生態系に近づけることができるので良いです。
植物を植える
野菜や豆など、いろいろな種類の植物を混ぜて植えてあげるのがポイントです。全部で10〜20種類以上混ぜても問題ありません。上から見てほとんど土が見えないくらい植物が植わっている状態が理想です。初めは見慣れない姿に驚くかもしれませんが、トライしてみてください。
まとめ
この記事では協生農法について解説してきましたが、科学的に研究されている農法のため、聞き慣れない用語がたくさん出てきて難しく感じてしまった方も少なくないかもしれません。
ですが実際には、トラクターなどの農業機械も要らず、農薬や肥料の出費もなく、種と苗さえあれば誰でも簡単に始められる農法ということがわかっていただけたかと思います。
誰でもチャレンジしやすく、地球にも優しい協生農法ですが、まだまだ発展途中。これという正解がある訳ではありません。ぜひみなさんにトライしていただけるとうれしいです。