「違法とは知らなかった」中国人の白タク…「違法ライドシェア」裁判を傍聴した

「中国人観光客が『白タク』に乗りたがる理由 中国の高所得者層は渋滞でも『自動車通勤』」と2023年12月24日、東洋経済新聞が報じた。その10日ほど前、中国籍の男が白タク行為で逮捕されたと多くのメディアが一斉に報じた。

正規のタクシーはナンバーの地が緑色だ。白色ナンバーの車両で非正規のタクシーをやる、それを「白タク」という。白タクの刑事裁判を私はいくつか傍聴したことがある。コロナ禍の前、中国人の観光客がぐんぐん増えていたころの、中国人男性のケースをレポートしよう。

■白タクは「3年以下の懲役か300万円以下の罰金、またはその両方」

東京地裁、傍聴席52席の法廷で「道路運送法」の新件(第1回公判)を傍聴した。被告人は保釈されており、ペンシルストライプの濃紺スーツでノーネクタイ。目がぱっちりして可愛い系の、ちょっとメタボな43歳男性だ。人定質問によれば中国籍だという。

法廷中央、証言台のところに被告人を立たせ、検察官が起訴状を朗読した。メモしきれなかった部分を「…」でつなぐ。

検察官「被告人は、国土交通省大臣…地方運輸局長…許可を受けないで…別表のとおり…(約2カ月の間に)7回にわたり、不特定の旅客で×××(カタカナ氏名)らを…有償で…被告人が管理する普通乗用自動車を使用して…運送するなどし、もって、一般旅客運送事業を経営したものである。罪名および罰条…」

第何条、第何条と検察官は早口で述べた。私は必死にメモ。あとで道路運送法を調べた。タクシーは貸し切りバスなどと同じく「一般旅客自動車運送事業」に当たる。国交省大臣またはその委任を受けた地方運輸局長の許可を受けなければならない。受けずに「経営」すると3年以下の懲役か300万円以下の罰金、またはその両方に処される(併科という)。けっこう重い。

■2カ月間で少なくとも200万円。その手口とは

被告人は1996年に留学生として「本邦に上陸」。2007年に永住者の資格を取得した。広告代理店に勤務後、実の姉が経営する社交飲食店(銀座のクラブか)の店長として長らく稼働した。

日本の景気が冷えたか、姉の店のお客が減ってきた。一方、中国からの観光客がぐんぐん増えた。在留中国人の間で白タクが流行した。被告人は自分名義でハイエースを購入し、白タクを始めた。

当初は、スマホのウィーチャット(WeChat、微信)の何かグループに登録し、下請けをしていた。2年ほどして、ある大きな業者と継続的な業務委託契約を結び、そこから報酬を受け取るようになった。外国人に人気のある車両としてアルファードを、知人から借り受けて使用するようになった。自分でこなしきれないときは、ウィーチャットで知り合った多数のドライバーに請け負わせ、仲介手数料を得た。

情報を得て警察が内偵捜査を開始。羽田の東京国際空港やホテルの監視カメラの記録から犯行を特定したという。特定の作業が大変だったか、本件の公訴事実は、約2カ月間にわたる7件のみだ。そういうことはよくある。本件で警察が特別に手抜きしたってことはないと私は思う。

その約2カ月間で被告人は、上記業者に対し合計約345万円余りを請求し、自らの分として少なくとも約170万円を受け取った。業者を介さずに白タクをやった分もあり、それも併せると少なくとも200万円になるそうだ。儲かるんだねえ。

乙4号証は被告人の調書だ。検察官が読み上げた。

乙4号「×××(業者)から受注業務…他のドライバーにあっせん…手数料を得ていた…英語を話せるか否か…リストをつくり…キャンセルになる場合でも、ドライバーにはキャンセル料を…ひとつひとつの行為で損をしても全体の収入が伸びるよう、営業努力をした…」

おお、そういえば以前、違法な売春デリヘルの女性経営者は、終日客がつかなくても売春婦には5千円を渡したと言っていた。良心的な犯罪者、という表現は変ですか。

乙6号証も被告人の調書。

乙6号「×××は欧米のお客さんが多く…(ウィーチャットでのお客は)南方訛りのある北京系の…1回350元から400元、日本円で6千円から7千円…電子マネーで受け取るのです」

情状証人として被告人の実姉が証言台のところに座った。ちなみに検察官は実姉を「じっし」と呼んだ。姉妹は「しまい」だからか。私は一瞬「実子」かと混乱したよう。

実姉いわく、新宿、六本木、銀座界隈で白タクは普通にあり、違法とは思っていなかったそうだ。しかし「今年の初めに中国人が白タクで逮捕され」てから違法と認識。被告人に対し、営業許可を取るか許可のある会社で働くとかするようアドバイスしたという。何ヶ月か前に夕刊フジが「白タク行為の中国人を逮捕 中国語配車アプリが拍車、3600人が登録」と報じていた。

保釈保証金や弁護人の費用も全部、姉が出していた。なぜ? 実姉は、弟よりもだいぶ拙い日本語で答えた。

実姉 「弟はいつも思いやりのある人…親孝行だし…こういうときこそ助けてあげなくちゃと…」

弁護人「クラブにいたときの働きぶりはどうでしたか?」

証人 「とても評判がよくて…本当はパートナーとして仕事してほしい…とても真面目で従業員に対して思いやりがあり、お客さんとのコミュニケーションとか全般…マネージャーとしてよく働いてくれました」

■ライドシェアはどうなっていくのか

続いて被告人質問だ。上述のように中国人の白タクの逮捕が大きく報道されるまで、違法とは知らず、知ってから「友人のハイヤー会社」でドライバーになってインバウンド相手の仕事をしようと思い、いずれそっちへ入る予定だったという。

被告人「(違法と知って)ドキドキしながら、ちょっとやりました…ハイヤーのため(二種免許の取得もあり)あと3カ月、4カ月…ちょっと認識甘かったです」

求刑は懲役1年および罰金50万円。翌週の判決は、懲役1年、罰金50万円、懲役刑につき執行猶予3年だった。

この事件、ライドシェアの違法な先取りともいえる。料金が少々高くても、英語や中国語を話す運転手は、外国人観光客からすれば重宝だったはず。これから始まるという合法なライドシェアはどうなっていくのだろう。

文=今井亮一

肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。